私を抱き締めながら「お前を愛せない」と、婚姻当日に言われました
一応剣と魔法のファンタジー世界ですので、異世界です。
ですが魔法が出てくる余地はありません。 ご了承下さいませ。
私は令嬢、あの人は次期貴族当主の令息。
同い年。
親の爵位は同じく侯爵。
領地はお隣。
王都にあるタウンハウスもお隣。
双方の両親は交流があり、仲も良好。
所謂家族ぐるみの付き合いで、何かが有れば両家は合流して行動。
その度に私とあの人は顔を合わせて、いっぱいおしゃべりしましたし、笑い合いましたしケンカもしました。
何も無くても定期的にお互いの領地へ訪問しあい、出会えばいつも一緒にいるふたり。
全部とは言いませんが、お互いがお互い大抵の事を知り抜いているふたり。
恥ずかしくて秘密にしている事のほとんどにはふたりで関わっていまして、隠し事にすらなっていない位に知り合っているふたり。
それが私とあの人。
そんな境遇では、ふたりが婚約者になるのはほぼ必然。
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「………………」
「………………」
あの人の領都で結婚披露宴が済み、夜も更けました。
私が嫁入りした形で新婚となって、同じ寝室でテーブルを挟んで椅子に腰掛けています。
お互い微妙な空気を出して、ワインを嗜みながらお互いをチラチラ見ては微妙に視線がぶつかり、さっと視線をふたりで外す。
なんだコイツら? と、もし私達を見ておられる方がおりましたら、そう思われるでしょう。
ですが私達にはとても重要な事なのです。
その……私だってソワソワしますもの。
これからの展開を想像するだけで。
だって貴族家に生まれた者と言えば、貴族家をより良く繁栄させる為に使われる駒。
なので心は二の次三の次。
望まぬ婚姻を押し付けられるモノと相場が決まっております。
なのに、私は幸せ者なのです。
ずっと一緒に生きてきた者と、ずっと一緒に生きていきたい者と、こうして正式に結ばれたのですから。
「そろそろか」
今日までを軽く思い返していたら、緊張した声が飛んできました。
「っ…………そうね」
それを不意に聞かされた私も私で、素っ気ない返事をする姿が自身の事ながら、どうにもぎこちない。
……いえ、当たり前でしょう?
だって新婚で、初めての夜ですもの。
一応は貴族教育としてこの後に何をするのか、どうするかはある程度は学んでますよ?
でも学んだからと言って、緊張しないと思いますか?
それでまずは……とばかりに私達は席から立ちました。
それからなんだか妙な動きで近寄ってきたあの人に、真正面から抱擁されました。
………………ああ。 この抱擁はずるいですね。
完全に包まれています。
触覚も、視覚も、嗅覚も。 この人で一杯になりました。
聴覚がこの人の荒い、緊張した呼吸音で一杯になるのもまた、私の幸福感に繋がって心がいっぱいいっぱいです。
目を閉じると視覚で感じられなくなるのは残念ですが、代わりに他の感覚がより強くこの人を感じられてしまい、もう何がなんだか分からなくなる程に幸せになってしまいます。
これが顔も知らぬ他人にされているとすれば悪夢ですが、そんな未来は来ないでしょう。
これからこの人と手を取り合って生きていくのですから。
そう思っていたのですが、この人から耳許に信じられない言葉が届きました。
「…………今後一生、お前を愛せない」
そんな馬鹿なっ!!?
私の全身から血の気がサァーーーッと引く音が聞こえました。
まさかこの人は私と同じ気持ちでは無かったのかと。
両家の家族達に祝福され、満更でもない様子で照れ笑いしていたアレは演技だったのかと。
大切なこの人を、私では幸せに出来ないのであろうかと。
とにかくこの婚姻は望まぬ婚姻だったのかと。
私は抱擁の腕から全力で抜け出し、真正面にある顔を見上げました。
すると、近くの卓にあったランプの光に照らされた、そのお顔は真っ赤っか。
私を直視せず、抱擁前みたいにしていたソワソワとした挙動を再びしていました。
はい。 格好いいです。
あぁいえ、今はその不審な様子で可愛く見えますが。
クリーム色で、実直そうな真っ直ぐな髪質。
透き通ったエメラルドグリーンの瞳。
すっかり整った顔立ち。
体格も頼り甲斐のあるがっしりしたもの。
初めてお会いした時は丸みがあって、髪もくるくるしていて可愛らしかったのに、いつの間にか綺麗な人になっていました。
対する私は、一般的で平民に多い栗色で、ふわふわな髪質。
その髪質に似合わない切れ長な瞳で、紫色で暗い瞳。
体型だって自信が持てるほど良くないのです。
こんな格好いい人に「一生愛せない」と言われたので本当に本当にショックでしたが、様子をみる限り言葉通りである感じがしません。
私を裏切る負い目や決別をしようとする様な色が、顔に見えないのです。
「いきなりどうしたの? 今日から私達は夫婦なのよ」
なので真意は何なのか、この人の手を私の手で包み込み、踏み込んで訊ねてみたら簡単に話して下さいました。
「付き合いのある令息から、真実の愛は大切な人を傷つける、破滅の言葉だとおそわった。
だから愛せない。 キミに一生恋したい」
これを聞いてしまった後の私は正気を失っていたみたいで、気が付いたら朝になっておりました。
夜。 結局どうなったのかは皆様のご想像にお任せします。
それと、変な話を吹き込まれた夫が心配になったので、ちょっと教育しようかと考えた私さんでした。
今回は投稿する(と言うか作品を書いている)頃によく見かけた「お前を愛することはない」系統で、ただただバカップルなネタを受信しましたのでブッ込んでみたものです。