14.身体強化とな?
「おい。月起きろ。大賢者様のところに行く時間ではないのか?」
「……!!今何時!?」
「6時半だ。行ってこい。」
6時半だと!?まずい!!サーちゃんのところのとこに早くいかなければ!!いつも6時にサーちゃんのとこに行ってるんだが、遅れると怒られる!!以前30秒遅れただけでめちゃくちゃ怒られたのだ。
というか、教えてもらう立場で遅刻とか失礼すぎる!!
とりあえず起こしてくれた剛にお礼を言って部屋を飛び出る。フローラさんの姿はない。大体俺が起きた時にはもういなくてベッドに寝かしてくれていることが多いが、今日は寝すぎた!!
部屋を出ると、一目散に寮の一番奥の部屋に向けて突っ走る。
ここは元々物置だったが、サーちゃんが転送用の魔法陣を置いてくれたのだ。
魔法陣の真ん中にサーちゃんからもらった指輪を置く。
すると、指輪を基準として魔法陣の上に光が這いはじめ、だんだんと魔法陣全体に広がっていく。そして、全体を覆うと光は上がっていき、俺の体を包み込む。
十秒ぐらいでワープが完了する。不思議なものである。でも、超高等技術であるとサーちゃんは自慢していた。少なくとも俺はどんなに訓練したところで自力ワープなんかできないらしい。魔法は才能がすべてなのだ。
ちなみにワープする瞬間は超明るい。この世界に来た時みたいな光に包まれる。
で、いつものうす暗い部屋に到着する。今日はカーテンを開けているようで、月明かりが入ってくるのでいつもより明るい。
……でも今日に限っては真っ暗な部屋なほうが良かった
「……」
無言でたたずむサーちゃん。すんごいジト目で俺のことを見ている。
……うわぁ。すんごい不機嫌だぁ……
俺より頭二つ分ぐらい小さいのに目を離せない。圧倒されてしまうような存在感がある。気づいたら両ひざをついて頭を手に付けていた。
Japanese DO☆GE☆ZA☆!!……はい。土下座です。このおロリ様も魔力でプレッシャーをかけられるようです。体が震えます。
多分俺の目の前に立ってジト目で見ているのだろう。めちゃくちゃ視線を感じる。許してください!!
……何秒経っただろうか。一分くらいたったし、許してくれてたり……?
そう思い少しだけ顔を上げてご尊顔を拝見させていただく。
「…………」
やばい。なにも変わってない!!
ごめんなさい。プレッシャーを強くしないでください。土下座に戻りますので!!
というかもしかしたら土下座がお気に召さなかったのかもしれない。そしたらどうしよう。靴でもなめればいいのだろうか。
ああ、いやでも靴はいてないな。このおロリ様のきれいな生足が出ている。まあ、俺も靴はいてないし。俺ら異世界人に合わせてくれたのかもしれない。寮でも土足は禁止である。
でも困った。靴はいてないとなるとどうすればいいのだろうか。生足をなめるわけにはいかないしな。
「どこをみておるんじゃ……?」
「……!!ごめんなさいごめんなさい!!お足お舐め致します!!」
「はあ!?なにをいっておるんじゃ!?……はあ、もう全く仕方ないのう。ほら、許してやるから立て。今日の訓練を始めるぞ。」
ほっ!!なんか変態みたいなこと言ってしまったが、許してくれたようでよかった。
プレッシャーも消えて体の震えも止まった。よかったよかった。
これからは遅刻しないようにしないとな!!フローラさんにも頼んでもうちょっと早い時間にしてもらおうかな!!
「……それにしてもお主の性癖は心配じゃのう……わしのようないたいけな幼女の足をなめたいとは!!」
にやにやしながらからかうように言ってくるサーちゃん。
はは~ん。これはツッコミ待ちだな?よし、空気が読めると評判のこの月君がちゃんとツッコんであげよう!
「いやいや御冗談を!!大賢者様はご幼女なんてお歳ではないでしょうに!!」
「……は?」
即座に土下座に戻る。仲直りのからかい合いじゃなかったのか!お足お舐め致します!!
というわけで、二度目の許しを得た後、『固有スキル』の訓練に励んでいた。サーちゃんはまだちょっとほっぺを膨らませてぶすっとしているが、ちゃんと見てくれている。
「……そう。魔力を外に出さないように……体内で循環させるイメージじゃ」
「……難しい、な。」
「じゃが、できてきておる。お主は魔法の才能はあまりないが、魔力の扱いに関しては天才に近いのう!!」
俺がここに来てやることは『固有スキル』の練習である。
……え?そうは見えないって?はっはっは。よく聞け。俺の『固有スキル』は扱いが難しすぎてまだ使えないのだ!!
フローラさんじゃなくてこの国の重鎮であるサーちゃんに教わっているのもこの理由である。単に扱いが難しすぎるのだ。なんだったら暴走の可能性も秘めている。
まあ、暴走に関しては俺の『固有スキル』の難しさだけではなく、俺ら異世界人全体の問題と言える。
実は俺らの体にある魔力の量は年齢並みである。つまり、この世界の16歳と大体同じ魔力量なのだ。もちろん。人によって差はあるけど。
でも、この世界に来たばっかりの俺ら異世界人は魔力の扱いが赤ちゃんレベルなのだ。
この世界の人間は、生まれた時から魔力に囲まれて育つ。なので、年齢とともに大きくなる魔力を適切に扱えるのだ。
でも、俺らは魔力の扱いなんて知らない。だから、魔法の練習を一人ですることは許されていない。専任の人が絶対に見ている必要がある。
特に魔法関係の『固有スキル』を持つ優と神童は、日々練習に励んでいる。もちろん、俺も例外ではない。だから今、こうやってサーちゃんに見てもらっているのだ。
そんなサーちゃんに教えてもらったことを考えていたら、本人から声がかかる。
「うむうむ。指輪をつけて良いぞ……。だいぶ魔力の扱いが上手くなったのう!!うむ!!伽の段階に進もうではないか!!」
「次って……何をやるんだ?」
「それは……」
無駄に勿体ぶっていうサーちゃん。なんか突拍子もないものが来るのか……!?
「身体強化魔法じゃ〜〜!!」
「え〜〜!!??」
わざとらしい声をあげると、サーちゃんは薄い胸を張って、ドヤ顔で喜んでくれる。とっても可愛らしい。
それにしても身体強化魔法とな!?
期待ぶち上がりなんだが!!もしかして漫画のような超人的な動きができるようになるのでは!?テンションあがってきたな!!
「うむうむ。喜んでもらえて結構結構……して、身体強化魔法のことじゃが……」
「そうそう!!異世界といったら身体強化だろ!!俺にも壁キックとか空中ジャンプとかできるようになんの!!??」
「おお……グイグイ来るのう。」
おっと、興奮しすぎて詰め寄ってしまった。でも、気になるんだから仕方ないだろ!!
「うむ!!結論から言おう!!できる……かどうかは、個人差がある!!」
個人差……は当たり前だろう。
魔法にも、身体能力にすら個人差があるのだから、身体強化魔法に個人差があるのは普通だと思うが……。
そう思ったのが伝わったのか、サーちゃんがやたら重ったるしく話し始める。
「この世界はのう、人を2種類に分ける傾向があるのじゃ。」
「2種類……魔法型の人間と肉体型の人間、ということか?」
「ほう……その通りじゃ。……それでいうとお主は肉体型の人間じゃ。身体強化魔法は必須になってくるじゃろう。」
へー。俺って肉体型の人間なんだ。
そう思ってると、サーちゃんから補足が飛んでくる。なんでも、魔法型の人間は女に多く、肉体型の人間は男に多いそうな。
確かに、フローラさんも魔法得意だし、そんなイメージはある。
「ってことは、俺は男だから肉体型ってこと?……いやでも如月や優はどうみても魔法型の人間だしな……」
「まあ、あくまで一つの基準じゃからのう。どちらにも縛られない人間というのはごまんとおるぞ。……お主も肉体型と言ったが、例外に近い。」
……まあ。そうかもな。
実は俺は、魔力を外に出せないわけでもないし、魔法を使えないわけでもない。
逆だ。内にとどめ続けることができないのだ。サーちゃんがくれた指輪で押さえないと、操作なんてできやしない。
なんでも、この体質には『固有スキル』が関わっているらしいが……サーちゃんは時が来たら教えるとだけ言って、俺の『固有スキル』のことはなんも教えてくれない。
まあ、とりあえず、早く使えるようになりたい!!
そう思ったのが伝わったのか、サーちゃんが声高らかに宣言する。
「とりあえず、始めようではないか!!」
「おお!!」
テンションが高いが仕方ない!!早く使いこなして、マ○オもびっくりな動きをしてやるぜ!!リアルTASさんと呼ばれる日も近いな!!
まあでも、魔力の扱いはマジで難しいので時間はかかるだろうな。
……と思ったのだが、
「ふむ。その状態で魔力を活性化させてみよ。魔力で筋肉を刺激するイメージじゃ。」
「こうか……?」
「そう!!そうじゃ!!やはりお主、体内の魔力の扱いは天才じゃ!!まさか、小一時間でできるようになるとはのう!!」
「え?これでいいの?」
俺も難しいと思ったんだが、結構あっさり出来るようになって困惑している。
正直拍子抜けであった。
「すごいことじゃ!!これからは洗練させていくだけじゃな!!明日の訓練で使ってみたらどうじゃ!?多分驚かれると思うぞ!!」
なんかサーちゃんが鼻息荒くして話しているけど、ピンと来てない。
俺、本当に身体強化できてる?走り回ってみたいけど、部屋が荒れるから動くのは禁止と言われている。
「ていうか、洗練ってなんだ?使えるだけじゃダメなのか?」
「そうじゃな!!肉体に魔力を送る速度や、強弱を使い分けることができるようになればさらにGoodじゃ!!あとは、限界とっ……」
「ん?」
何か言いかけて辞めてしまった。なんだ?
「……いや、なんでもないぞ?とりあえず訓練あるのみじゃ!!さ!!早くやるぞ!!」
「わわ、わかったから押すなって。……まあ、じゃあ見ていてくれよ?」
「うむ!!穴が開くほど見ておる!!本当に穴が開くんじゃないぞ!?まあ、治せるがな!!」
元気だなぁ。でも、ちょっと嬉しいかも。
さてじゃあ……と、その前に。
「サーちゃん。少し頼み事があるんだけど。」
「ん?なんじゃ?」
ゴニョゴニョ……
「……う〜む。そうじゃな……。少し時間をくれ。考えてみる。」
やっぱすぐには難しいか。
仕方ない。とりあえず今日は身体強化魔法の訓練に励むとしよう。
そして、10時。帰ってきて飯食って、体拭いて、少し本を読んで寝る。
これが俺の異世界での一日。全く、過酷ではない。
なんなら向こうの世界より充実した日々。
でも、俺も、こいつらも。外には出さないけど。みんな寂しい。怖い。恐ろしい。
また知らない世界に飛ばされるんじゃないかとビクビクして過ごしている。
また、全部いきなりなくなってしまうのではないか。
突然、牙を向けてくる存在がいるのではないか。そう思っている。
でも、そんな不安を置き去りにして、日常は過ぎていく。
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