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第39話 私と婚約者のその後


 ☆★☆


「シュゼット! シュゼット~!」

「アルベール様。そう何度も名前を呼ばなくても、きちんと聞こえていますよ」


 恒例となった二週間に一度の二人きりのお茶会の場。そこで、私はアルベール様とお茶をしていた。目の前にある湯気の上がる温かい紅茶に口を付けながらも、私はべったりとくっついてこられるアルベール様を手で制す。本日は生憎の雨模様。だから、室内でお茶をしているのだけれど……ソファーの真横に座られていて、鬱陶しいちゃありゃしない。


「いえ、シュゼットって呼べるのが嬉しくて……。なんだか、婚約者みたいじゃないですか」

「私たち、ずっと婚約者だったじゃないですか」

「そうじゃなくて。気持ちが通じ合ったのが、すごく嬉しくて……」


 アルベール様ははにかみながらそうおっしゃる。あれから話し合いを重ねて、私とアルベール様の婚約は続行することが決まった。私の中で確かに苦手意識はあるものの、「好き」という感情が大きくなったためだ。そして、私はアルベール様にお礼をすることにした。私が欲しいものを尋ねれば、アルベール様は静かにこうおっしゃったのだ。


 ――シュゼットって、呼び捨てで呼びたい、と。


 だから、私たちは「アルベール様」「シュゼット」と呼び合う。これじゃあ仲睦まじい婚約者同士じゃない。そう思うけれど、両想いになった時点でそうなのかな、とも思う。


 ちなみに、私に嫌がらせをしていた令嬢たちは一人残らず謹慎処分を受けた。それは、アルベール様が行ったことらしい。……正直、やりすぎな気もするけれど、クールナン侯爵に「敵は徹底的につぶす」と教えられたとかなんとか。……物騒な親子だ。


「……シュゼットとずっと一緒に居られるって思ったら、嬉しくて嬉しくて仕方がないです!」

「そうですか。私も嬉しいと言えば嬉しいですが、暑苦しいので少し離れてください」


 私はそう言ってアルベール様の胸を押す。あ、あとリーセロット様とアルテュール様のその後について、か。


 リーセロット様は実行犯だったけれど、魔法で操られていたということで実家を勘当されて修道院に送られる刑となった。つまり、罪は修道院での奉仕で償えということだ。マーセン伯爵は最後まで娘を修道院に送ることを渋っていたものの、クールナン侯爵家の圧力に負けたらしい。……さすがは、名家。


 そして、肝心のアルテュール様。アルテュール様は黒幕であり、犯罪の首謀者と認定され幽閉の刑に処された。幽閉の刑とは、四方を湖に囲まれた塔に閉じ込められ、一生出られないという刑だ。正直、アルテュール様はそう簡単に諦めてくれないと思うのだけれど、そこばかりは祈るしかない。彼が、諦めてくれることを。


「……これで、よかったのでしょうか。リーセロット様のことも」


 私はふと、そう呟いてしまう。はっきりと言って、アルテュール様は自業自得だと思う。けど、リーセロット様はそうじゃない部分がある。弱いところに付け込まれて、罪を犯してしまった。そりゃあ、私だって許せない。……でも、そう思ってしまうのだ。


「リーセロット嬢の一番の罪は、付け入る隙を与えたことです。魔女の血を引く輩は、人の弱い心の隙間に入り込んだりする。……正直、カトレイン嬢のような人が珍しい」

「……そうなのですか」


 私はアルベール様のお言葉にそう返事をして、クッキーに手を伸ばす。魔女の血を引く人間は、どうにも狂いやすい部分があるらしい。強大な力を体内に秘めているため、精神が安定しないとかなんとか。


「魔女の血を引く証拠は三つ。一つ、強大な魔力を持つこと。二つ、魔法を無効化出来、強力な魔法が使えること。三つ、発育が遅いこと」

「……そう、でしたね」


 アルベール様のお言葉に、私は静かに頷いてそう返事をした。魔女の血を引く人間の成長はゆっくりな場合が多いらしい。特に顔立ちと体型に現れるらしく、カトレイン様が童顔であまり大人っぽく見えないのはそう言うことだそうだ。本人は、かなり気にしていらっしゃるのだけれど。


「ま、カトレイン嬢は大丈夫でしょうね。あの令嬢はきっちりと自分の力をコントロールできていますし」


 そうおっしゃるアルベール様のお言葉に、私は安心するけれど少し複雑な気持ちにもなってしまう。そりゃあ、大切なお友達であるカトレイン様のことを褒められるのは、嬉しい。だけど……私がいるのにほかの女性を褒められるなんて。あぁ、これじゃあただの嫉妬深い女だわ。


「シュゼット?」

「なんでも、ありません」


 私がそう言って不貞腐れていると、アルベール様は「俺が好きなのは、シュゼットだけですよ」なんておっしゃってくださった。


「それに、カトレイン嬢に手を出したらオフィエルに殺されます。オフィエルは、カトレイン嬢のことを何よりも誰よりも大切に思っていますから」

「……だったら、良いのですけれど」


 私は小さくそう零す。すると、アルベール様は笑いながら「あの男の独占欲は、常軌を逸していますからね」なんておっしゃった。


「それを言うのならば、アルベール様の執着心も常軌を逸していますよね。アルベール様は執着心の塊ですか?」

「そうですね、そうかもしれません」


 そんな風にいつものように軽口を言い合って、私たちはどちらともなく笑い合う。……ようやく、私たちは気持ちが通じ合った。だから、少しくらい甘えてもいいですよね? そう思って、私はアルベール様に笑いかける。


 私はどうやら――この、事故物件にも思える男性に、恋をしてしまったようだから。

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