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第37話 真実とネタバラシ


「ほかの、魔女。まさか……!」


 アルテュール様はそう呟かれると、窓の外を忌々しげに睨みつけていらっしゃった。魔女の、血。そんなもの、伝説上のものではないの? そう思って私はアルベール様を見据えるけれど、アルベール様は「いるんですよ、その末裔が」とおっしゃった。


「いたでしょう、一人だけ。アルテュールの魔法が効かなかった令嬢が」


 そう言われて、私は記憶を引っ張り出した。……まさか、だけれど――。


「……カトレイン、様」


 テーリンゲン公爵家でのパーティーで、アルテュール様に再会したとき。周囲が私とアルテュール様に気が付かない中、たった一人だけ。カトレイン様「だけ」が私を庇えた。それはつまり、カトレイン様が魔女の血を引く末裔ということで、アルベール様を助けることが出来たということ、よね。


「魔女の血は濃ければ濃いほど、様々な魔法が使え、ほかの魔法を無効化できます。簡単に言えば、アルテュールが引く魔女の血よりも、カトレイン嬢の血の方が濃かったということです。……ま、おかげで俺はオフィエルにたっぷり絞られましたけれどね」


 そうおっしゃるアルベール様は、ただまっすぐにアルテュール様を見据えた。すると、アルテュール様は髪の毛を掻きむしり、「あの女ぁ!」と叫ばれていた。……それに、私はカチンと来てしまった。カトレイン様は私の大切なお友達だ。だから、そんな風に侮辱されていいわけがない。


「アルテュール様。私にとって、カトレイン様はとても大切なお友達なのです。……そんな彼女を、今回アルベール様を救ってくださった彼女を悪く言うなんて、私は貴方を心底軽蔑しますわ」


 私はアルベール様の服の袖をぎゅっと掴んで、そう言った。そうすれば、アルテュール様は私の方を強く睨まれる。昔は、確かにこの人が怖かった。忌々しかった。でも、今は怖さよりも怒りの方が勝っている。私の大切な人を傷つけて、大切なお友達を侮辱して。私を傷つけるだけだったら……まだ、許せたのに。なのに、今はまったく彼のことを許せそうにない。


「アルテュール様。こうなった以上、私は貴方のものにはなりません。心も、身体も」


 必死にそう声を張り上げて、私はそう言った。手は震えている。でも、その手をアルベール様が掴んでくださった。……だからきっと、大丈夫。


「リーセロット嬢を唆したのも、アルテュールでしょう? あの女、完全に壊れちゃってますよ。確かにあの女が実行犯ですが、罪が重いのはあんたの方だ」

「……はぁ、上手くいったと思ったのになぁ」


 アルテュール様はそうおっしゃると、勢いよく笑われた。……何が、おかしいのか私には分からない。だけど、たった一つだけ分かることがある。それは、アルテュール様のその緑色の目が赤黒く光っているということ。


「計算外だったのは、あのカトレインとかいう女だな」

「恨んでいるのだとしても、手を出さない方が賢明ですよ。カトレイン嬢には、オフィエルが付いている」

「……だよねぇ。あの男もかなり厄介そうだし。ま、俺は逃げようとは思わないし一旦捕まるとしますか」


 けらけらと笑われながら、アルテュール様はその場に崩れ落ちる。その後、アルベール様が報告しておいてくださったらしく、カイレ子爵家の警備の人たちがアルテュール様を連れていかれた。アルテュール様は何の抵抗もせずにつれていかれたけれど、その目は口元は、楽しそうに歪んでいた。


 ……何が、あんなにも彼を狂わせたのだろうか。そう思うけれど、その原因の一つは私なのかもしれない。私が、執着という感情で彼を狂わせてしまったのだろうから。


「って言いますか、アルベール様! どうして目が覚めたのに連絡してくださらなかったのですか!? わ、私、心配で、心配で……!」


 アルテュール様が連れていかれた後、私はアルベール様にそう抗議をした。アルベール様が眠ったままになるのではないかと、私すごく怖かったのに。


「……すみません。目が覚めたのは昨夜のことで。毒が抜けてからも、なかなか起き上がることが出来なくて。……毒に関しては、オフィエルの伝手でカトレイン嬢に抜いてもらったのでもう元気ですよ」

「うぅ」


 何のよ、それ! そう思ったけれど、それは八つ当たりなのだと思い直す。それに、今はそんなことよりもアルベール様が目覚めたということの方が大切だし、嬉しい。だから、私はアルベール様の手をぎゅっと掴んだ後、その胸の中にダイブしてしまった。……こんなの、私のキャラじゃない。そう思うけれど、今はこうしていたかった。


「しゅ、シュゼット嬢!?」


 アルベール様の、戸惑ったような声が聞こえてくる。だから、私は小さく「バカなのですか?」と言った。どうして、このお方は肝心な時に鈍いのよ。普通、ここまでしたら私の気持ちを、少しくらい理解してくださってもいいじゃない。


「……アルベール様が刺されて、私、自分の気持ちを理解しました」


 だから、私はアルベール様の服を掴んで俯きながら、そう言う。その言葉を聞いてか、アルベール様の息をのむような声が聞こえてきた。……もしかしたら、嫌いとか言われると思っているの? だったら、心外よ。確かに今までの私だったら、この気持ちを素直に口に出すことはなかったと思う。でも、今は言いたいの。次、いつ言えるか分からないもの。


「……アルベール様。私、貴方のことを――」


 ――好き、になっちゃったみたいです。


 私は、アルベール様のお顔を見上げ、はにかんでそう言った。自分の気持ちを、しっかりと言葉にした。

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