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閑話7 おかしな男とアルベールの覚悟

ちょっと多忙と不調でお休みいただいておりました。残り10話程度なので何とか完結に持っていこうと思います(執筆は終わっております)


 ☆★☆


「……ふぅ」


 シュゼット嬢と二人きりのお茶会をした日の夜。俺は一人私室にて前々から頼んでいた調査の報告書を手に取っていた。この報告書を上げてきたのは、ずっと前から父様が懇意にしていたという探偵所。そこで、俺はシュゼット嬢の過去の人間関係について調べてもらっていた。そして、一つだけ気になったことがあった。それが……シュゼット嬢が今日話してくれた「アルテュール・プレスマン」という男についてである。


「得意魔法がおかしいんだよなぁ……」


 確かにこの世には「隠ぺい魔法」なるものはある。あが、人物そのものを隠すことはほとんどできないはずだ。物質や物体を隠すことは出来る。しかし、人間一人を隠すことなどそうやすやす出来ることではない。……シュゼット嬢は、そこまで考えていないみたいだけれど。まぁ、こういうことは魔法に通じている人しか知りようのないことなのですけれど。……俺の場合は、たまたま母方のおじさまが魔法に通じているから知っているだけですし。


「調査に出しましょうかね……。いや、そんな時間はなさそう、か」


 そう思って、俺は魔法の専門書にその報告書を挟む。前々から調べていたけれど、多分もう時間がない。シュゼット嬢の前では冷静を装っていましたが、実際俺の心はかなり焦っている。そして、アルテュールという男も。人間とは焦るとどういう行動に出るかが分からないのだ。どうにも、アルテュールは俺とシュゼット嬢が婚約したことを知って焦っているようですし。……テーリンゲン公爵家でのパーティーで接触してきたのは、大方焦ったからでしょう。


「……仕方がない。ありえないとは思いますが、万が一の時のためのルートも作っておきますか。……オフィエルに頼もう」


 魔法と言えば、思いつくのは二人しかいない。だが、もう片方は少々難がある性格なので、オフィエル側に頼むしかない。……いざとなったら、シュゼット嬢を助けてもらえるように。俺に、もしものことがあったら。そう、付け足すことにする。


「……死なない、傷つかないって、約束したけれど正直俺自身がどうなろうと知ったことじゃないし、命に執着がないんですよね」


 シュゼット嬢と指切りをしたけれど、俺は自分の命に執着がない。そもそも、シュゼット嬢を見て恋に落ちるまで生きがいなどなかったに等しいので。シュゼット嬢に恋をして、生きる気力を貰った。ただ、それだけ。だから、シュゼット嬢が居なければこんな風に楽しく生きていなかった。……約束、破ったら怒られるでしょうか。


 そう思いながら、俺はオフィエルに手紙を書く。内容は、先ほどの内容。そして、カトレイン嬢にも協力してほしいということ。彼女は、少々特殊な能力の持ち主。オフィエルが渋るでしょうが、彼女自身はシュゼット嬢の力になりたいと思ってくれている……はず。きっと、大丈夫。


「あの男のことだし、周りの人間を利用することくらいは平気でやりそうだよなぁ。どうにも、そんな危うさがある」


 手に入れたアルテュール・プレスマンの肖像画は、美形だが特徴のない顔立ちの青年だった。なんというか、覚えにくそうな顔立ちですよね。人ごみに紛れたら、見つけにくそうな顔立ち。でも、じっと見ているとその容姿の良さが際立つ。そう言う人物。……こういう奴の方が、いろいろと面倒だったりする。


「シュゼット嬢。俺、貴女に出逢えて幸せだったんですよ。だから、何があっても俺は貴女を守ります。正直、一度死んでも生き返ってきて貴女と一緒に生きたいって、思っています」


 こっそりと有名画家に描いてもらったシュゼット嬢の肖像画に、そう声をかける。笑顔が眩しくて、自分にあまり自信がなくて。自分の容姿が整っていることに気が付いていない。あと、ツッコミスキルが素晴らしい。母様にも負けない。……って、これはほとんど関係ないですか。


「でも、もしも俺がいなくなっても、俺のことを忘れないでくれたら嬉しいです。……お願いしますよ」


 でもまぁ……死ぬときは、アルテュール・プレスマンも道連れにしますが。それくらい、やってもいいですよね? 憎い男と死ぬなんて、きっと反吐が出るくらい嫌でしょう。俺も、そうですし。だけど、シュゼット嬢を傷つけたのですからそれくらい勘弁してくださいね?


「ま、出来る限り生還しますか。シュゼット嬢との婚約続行の後、挙式でウェディングドレスを纏った姿を見るため。あとは……シュゼット嬢と老後まで仲良く過ごせれば、それ以上に望むことはないですね」


 そう言って、口元を少し緩める。シュゼット嬢は艶やかで腰のあたりまである金色の髪を持っている。少し吊り上がっているブルーの目を持っている。そして、あの眩しいばかりの笑顔。それらすべてが俺の心をつかんで離さない。まぁ、内面も外見も全部好きですけれど!


「さて、一旦寝るか。今日はうるさい父様も領地に出向いているし、静かに寝れそうだ」


 時折、夜に喧嘩を始めるのは止めてほしいんですよ。たまに花瓶が割れるような音もしますし。……後片付けをする使用人たちが哀れで仕方がありません。


「シュゼット嬢。出来れば、一緒に生きていきましょうね」


 それだけを呟いて、寝台に入る。そして、目を瞑れば瞬時に眠ることが出来た。


 この後に起きてしまう事件。それが……予想外の方向に転がっていくことになるなんて、想像もしなかった。

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