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第31話 婚約者の怒りの理由


「……何ですか、それ」


 私の言葉を聞いたアルベール様は、静かにそうおっしゃった。……その声は、何処か震えていて。何故、アルベール様の声が震えていらっしゃるのか、私には想像も出来なかった。


「あ、あの、アルベール、様?」


 私が声をかけたからか、アルベール様がゆっくりと立ち上がって私の方に近づいてこられる。俯いていらっしゃるから、表情は見えない。……私、どうすればいいの? そう思って呆然としていると、アルベール様は私の真横に立たれると、そのまま私のことを抱きしめてこられた。……は、はぁ!? どうしてそうなるのよ! そう思って私は暴れるけれど、アルベール様はお構いなし。ただ私のことをぎゅうぎゅうと抱きしめてこられる。は、放して! 無理! むりぃ!


「そんなの、俺、理解できないです。俺も確かにシュゼット嬢の脳内も心も全部俺で埋め尽くされたらって、思います」

「……そこは、理解できるのですか……」

「でも、重要なのはそこじゃないです! 嫌われたいとか、俺には全然分からない。しかも、故意にシュゼット嬢を傷つけようとするんなんて、絶対に許せない」


 アルベール様はそうおっしゃって、私と視線を合わせてこられた。その所為で、なんだか私は気まずくて。私はアルベール様から露骨に視線を逸らした。だけど、アルベール様はお構いなし。


「どうせシュゼット嬢の脳内も心も支配できるのだったら、好かれた方が良いに決まっています!」

「……そこは、どう言っていいのか……。っていうか、私の脳内も心もアルベール様で埋め尽くされることは、ないと思うのですけれど……」

「どうして! 俺のことは嫌いなのですか!?」

「そう言う意味じゃないですってば! もういろいろと考えることが多すぎるのです!」


 そう言って私はアルベール様の頭を軽くはたく。そもそも、アルベール様のことで脳内も心もすべて埋め尽くされたら、私は何度も言っているけれど心労で死ぬ。朝昼晩全てアルベール様だなんて、間違いなく心労で死ぬ。それか、うるさすぎて精神的に死ぬ。あと、美形すぎて目が死ぬ。


「心の中にアルベール様がずっといらっしゃったら、美形すぎて目が死にそうです。あと、多分ずっと叫ばれているのでいろいろな意味で精神的に死にます。それから、疲れから心労で死にます」

「シュゼット嬢は俺の声も顔も覚えてくれているのですね! 嬉しいです! あと、美形って言われたの嬉しいです!」

「いや、どうしてそうポジティブに切り取るのですか……」


 いや、私今結構なことを言ったと思うのですけれど? そう思うけれど、アルベール様には通じない。とことんポジティブなお方だ。止めてくれ。もう少し普通の思考回路を持ってください。


「まぁ、とにかく。俺はそのアルテュールとかいう男の気持ちは理解できません。だから、許せません」

「……アルベール様?」

「シュゼット嬢を故意に傷つけるなんて、俺、絶対に許せません。それに……絶対に、シュゼット嬢を渡しませんから!」


 アルベール様はそうおっしゃると、私の手をぎゅっと握ってくださった。……温かい。でも、さりげなくスキンシップを図ってこられるの、止めていただいてもよろしいでしょうか? そう視線で訴えれば、アルベール様はただにっこりと笑われる。多分、私の視線の意味も分かっていらっしゃるだろうし。それでもやめてくださらないのだから、確信犯ね。


「シュゼット嬢。どうか、俺に貴女を守らせてください。どうか、お願いします。……悪意からも、物理的な攻撃からも、守ります。……この身を、使ってでも」

「いや、別にそこまでしていただかなくても……。それに、アルベール様の身体の方が大切じゃないですか。侯爵家の跡取りなのですから」

「……シュゼット嬢のいない世界に、価値なんてありませんから。大丈夫、シュゼット嬢がいる限り俺は殺されても生き返ってきます」

「……何ですか、それ」


 ……あぁ、面白い。そう思ってしまってか、私は「クスッ」と声を上げて笑ってしまった。すると、アルベール様は表情を緩められて、「ようやく、笑ってくれましたね」とおっしゃった。……どうにも、私の表情が強張っていたから私の表情を柔らかくしてくださったらしい。……そこは素直に、感謝する。


「冗談みたいに言いましたが、先ほどの言葉は間違いなく俺の決意です。なので、シュゼット嬢を守らせてください」

「……絶対に、死んだり傷ついたりしませんか?」


 ……何故だろうか。私はアルベール様にそう問いかけてしまった。どうしてそう問いかけたのかは、分からない。もしかしたら、私の所為でアルベール様が傷ついたり死んだりしたら、目覚めが悪いからかもしれない。もしくは、クールナン侯爵家の未来を危惧したからそう言ったのかもしれない。だけど、これだけはどうしても約束してほしかった。……私を放って死なないって。


「……はい!」


 そうおっしゃったアルベール様に、私は小指を差し出した。アルベール様は一瞬なんだろうかと不思議そうな表情をされていたけれど、すぐに意味を理解してくださったのかふんわりと笑ってくださり、私の小指とご自身の小指を絡められる。


「絶対に、傷ついたり死んだりしないでくださいよ」

「もちろん。シュゼット嬢も、俺を置いて死なないでくださいよ」

「分かっていますよ」


 私たちは、そう約束をする。アルテュール様がどんな行動を起こすかは、分からない。でも、負けない。私はそう自分の心に言い聞かせた。だって私は……一人じゃ、ないから。

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