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第27話 相変わらず重すぎる愛情ですこと


「……あの騒ぎに関しては、俺の責任は少ないかと思っていましたが……」

「そうですね。確かに、リーセロット様の責任の方が大きいとは思います。ですが、根本の原因はアルベール様ではありませんか」

「そう言われたら、返す言葉もありませんね」


 街中を歩きながら、私とアルベール様はそんな会話を交わす。アルベール様は相変わらず私の手首を掴まれている。そんながっちりと掴まなくても、逃げませんよ。そう思うけれど、アルベール様的にはいろいろ不安なのかもしれない。先ほどの出来事を、私がどう思っているか、とか。


「あ、あの、シュゼット嬢? 俺は、本当にシュゼット嬢一筋で……」

「知っていますよ。今更、そんなことをおっしゃらなくてもいいです。それに……」

「それに?」

「少しだけ、微妙な気持ちになってしまいましたし」


 私は前を向いたまま、そう言う。初めは「いかにもな貧乏娘」とか「田舎臭い」とか言われたから、微妙な気持ちになっていたのだと思っていた。だけど、今になって少しだけ思うのだ。……それは、違うのではないかと。もしかしてだけれど私……嫉妬したのではないかって。


「なんだか、嫉妬しちゃったみたいです。何が、って言われたらどう答えたらいいかは分かりませんが――って、どうして抱き着いてこられるのですか!?」

「シュゼット嬢が嫉妬してくれたからです! 俺のこと、少しは好いてくれたのですか!?」

「わ、分かりません! ただ、微妙な気持ちの正体は嫉妬だったのかなぁって思っただけで……」

「それで十分です!」


 あぁ、また周りの視線が痛い。そう思いながら、私はアルベール様の胸を叩いて解放していただこうとする。でも、アルベール様は私の身体をご自身の腕の中に閉じ込められたままだ。すりすりと頬を寄せてこられるのはまるで小動物みたい……って、こんな大きな小動物いてたまるか!


「そ、そもそも! アルベール様を取られたから嫉妬したわけじゃないかもしれませんよ!?」

「いいえ、シュゼット嬢は身分には興味がないですし、それ以外考えられません!」

「それはそうですけれどね……」


 私は、大して身分というものに興味がない。だから、アルベール様のおっしゃっていることは正しい。でも、今は悔しい気がする。だって、アルベール様に上をいかれたのだもの。……まぁ、なんだか悪い気はしないのだけれど。


「アルベール様、放してください。私、このまま注目されすぎて羞恥心で死にます」

「……分かりました。シュゼット嬢を殺したくないので、とりあえずは解放します」

「それでいいです」


 まるで漫才のような会話を交わしながら、私とアルベール様は人だかりから逃げた。いや、アルベール様のお顔が良いから、女性の視線は常に浴びているような感じなのだけれど。だけど、アルベール様の視線は私に向け続けられている。……相変わらず、素晴らしい執着心ですね。


「シュゼット嬢、俺とずっと一緒にいてくださいね? 世界が滅亡しても、死ぬまで俺と一緒にいてくださいね? それこそ、死んでも一緒にいてほしいです。来世でも夫婦になりたいです!」

「いや、私たちまだ夫婦になっていない……」

「来世はどんな形で出逢いましょうか?」

「聞いていますか、私の言葉」


 妄想を始めたアルベール様には、私の言葉さえ届かなくなる。それを分かっていたからこそ、私は小さく「はぁ」とため息をついてアルベール様から視線を逸らした。……相変わらず、愛が重すぎる。来世でも一緒、か。そんなの、出来るわけがないじゃない。そう思う反面、なんだかアルベール様だったら執念で成し遂げてしまいそうだな……と思う気持ちも少なからずある。いや、私はどうしろというのだ。


「あぁ、シュゼット嬢とずっと一緒に居たい……!」


 耳に届いたそんなお言葉に、私はアルベール様の手を振り払うことで抗議した。一瞬アルベール様が悲しそうに私に視線を向けてこられたため、私はアルベール様の手に自分の手を重ねた。……手、繋いでもいいですよって言うこと。そう視線で訴えれば、アルベール様のお顔がぱぁっと明るくなる。その後、私とがっちりと手を繋いでこられる。……少しは、仕返し成功しただろうか? 下げて上げる作戦である。


「……アルベール様、手を繋いでもいいとは意思表示しましたが、握りすぎです。痛いです、とても」

「あぁ、すみません! この手を離したくないなぁって思ってしまいまして……」

「勘弁してください。どうやって生活するのですか?」

「ずっと一緒ですね! まさに運命共同体!」

「やめてください。私はアルベール様とずっと一緒に居たら、心労で死にます」


 口ではそう言うけれど、手には少しだけ力を込めてみる。アルベール様は、リーセロット様にはっきりと私のことが好きだとおっしゃってくださった。もしかしたら、こうやって手を繋いでいるのはそのお礼……なのかもしれない。まぁ、違うかもしれないけれど。


「シュゼット嬢、このまま口づけ……」

「アルベール様って、とんでもなくポジティブですよね。口づけなんて、出来てもまだまだ先ですよ」


 私はアルベール様の手に爪を立てて、そう言う。本日手を繋ぐ許可を出したばかりなのに、口づけの許可が出るわけがないでしょう!? その抗議には、そう言う意味が含まれていた。


(……でも、やっぱり私――)


 そして、それと同時に思ってしまう。私は、アルベール様のことをそこまで嫌っていない。苦手意識も、少しだけ薄れている、と。

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