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第26話 街中で騒ぐのはおやめください


「……マーセン。あぁ、父様が一時期婚約者にどうだとか言っていた人ですね」

「そうでございます! あぁ、思い出していただけて光栄ですわ! わたくし、婚約の話がなくなったと聞いてすごく悲しかったのでございます……! その後、アルベール様が別のお方と婚約したと聞きましたが……まさか、こんなにも田舎臭いいかにもな貧乏娘だったなんて……!」


 リーセロット様はそうおっしゃって私を一瞥された。その後、アルベール様に微笑みかけている。その頬は何処か赤く、アルベール様に恋焦がれているというのは一目瞭然で。なんだか、少し微妙な気持ちになってしまった。何処が、と問われれば私のことを「いかにもな貧乏娘」とか「田舎臭い」とかおっしゃったことである。


(何よ。私は確かにいかにもな貧乏娘かもしれないけれど、そこまでおっしゃらなくてもいいじゃない。それに、私はこれでも王都に住んでいるわよ!)


 心の中でそう反論するけれど、表情は無のままだ。マーセン家は伯爵家だったはず。つまり、私よりも身分が上なのだ。変な態度を取って喧嘩を売ったと受け取られるのはよろしくない。だから、私は無表情を貫く。


「こんな田舎臭いいかにもな貧乏娘でしたら、わたくしの方がアルベール様に似合いますわ! こんな貧乏娘と共に歩いていると、アルベール様が恥をかいてしまいますもの!」


 ……うん、それは少しわかるのよ。でも、そんな勝ち誇ったような表情を見せつけながらおっしゃらなくても、いいじゃない。そう思ったからだろうか、それとも「貧乏娘」と連呼されて我慢の限界だったからだろうか。私は少しだけ頬を膨らませてしまった。私がしても可愛くないとは分かっている。だけど、私はそんな仕草をしてしまった。


「それに、わたくしの方がずっとアルベール様を好いております! わたくしの方がずっと、ずーっとですわ!」


 何度も「好いている」を強調して繰り返すリーセット様は、ある意味素直で感心してしまう。そりゃあ、私はアルベール様のことをそこまで好いていない。だから、リーセロット様のおっしゃることはごもっともだ。恋をしている時点で、私よりもアルベール様のことを好いているのは真実なのだから。


 その後、しばらくリーセロット様はご自分がいかにアルベール様を慕っているのかを語っていらっしゃった。時々、私のことを露骨にバカにしながら。アルベール様の表情は、いろいろな意味で怖くて見れなかった。そのため、私はリーセロット様が連れている従者の方々に視線を向ける。山の様に箱やら紙袋やらを持っていらっしゃるそのお姿は……その、少々哀れだ。


「……リーセロット嬢」


 そんな時、ふとアルベール様が声を発せられた。そのお声は少し震えているような気がする。でも、それは多分だけれど怒りから。私はここ数週間でアルベール様の些細な変化にも気が付いてしまえるようになってしまった。……喜ぶべきなのか悲しむべきなのかは、分からない。


「悪いですが、俺は貴女のお気持ちには応えられません。そもそも、俺がシュゼット嬢に惚れているのです。彼女が好きで、だから無理やり婚約を取り付けてもらった」

「……で、ですが……」

「それに、貴女ははっきりと言って俺の好みじゃありませんから。人を貶めるようなことしか言わない人は、嫌いです。上の人間に媚びへつらいのは別にいいですよ? ですが、見下した相手を露骨に貶めるのはどうかと」

「し、真実、ですから……!」

「そもそも、はっきりと言いますがシュゼット嬢は俺の婚約者。つまり、クールナン侯爵家が認めた時期夫人です。……そんなシュゼット嬢を貶めるということは、クールナン侯爵家を敵に回すということですよ?」

「……っつ!」


 そんなアルベール様のお言葉で、リーセロット様は口を閉ざされる。その後、アルベール様は私の肩に手を回して私の身体をご自身の方に引き寄せられた。……って、近い近い! どうしてそんなにもお顔が急接近しているのですか!? 先ほどまで、こんな空気じゃなかったですよね!?


「リーセロット嬢は、もう少し自分の言葉が実家に与える影響を知った方が良いと思いますよ。……確かに、シュゼット嬢は子爵家の生まれです。ですが、俺の婚約者になった時点で、クールナン侯爵家の人間に等しいですから」


 いや、それは少々強引な意見では……? 私はそう思ってアルベール様に視線を向けるけれど、アルベール様は視線だけで「黙っていてください」とおっしゃる。……アイコンタクト、出来るようになってしまったわ……。何故私、アルベール様との距離が縮まっているのかしら?


「……で、ですが、わたくしはアルベール様を諦めませんわ! その女との婚約は、絶対に破棄させてみせます! そして、わたくしを愛していると言わせてみせますわ!」

「……絶対にないでしょうが、出来るものならばやってみてくださいよ。シュゼット嬢、行きましょうか」

「あ、はい」


 突然のお話を振られ、私は適当に返事をする。そして、アルベール様に肩を抱かれ連れ出される。……周りの視線が、痛い。そう思ったから、私はただその場で俯くことしか出来ない。多分、あの光景は周囲から痴話喧嘩だと思われたのだろうけれど。でも……。


「アルベール様。街中であんな騒ぎ、起こさないでくださいよ……」


 貴族の愛情のもつれなど、平民からすれば面白いネタでしかない。だから、私はそう言ってアルベール様に軽くパンチを与えた。……もう、慣れてしまったからだろうか。アルベール様を攻撃することに躊躇いがなくなっている。……それは、クールナン侯爵夫人のおっしゃっている通りだった。

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