表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/47

第25話 ライバル登場……?


 ☆★☆


「シュゼット嬢、その……」

「何を不安になっていらっしゃるのですか? 私は面白かったですよ」

「……よかった」


 劇を見終え、私とアルベール様は近くのカフェでお茶をしていた。アルベール様が劇に心配を覚えた理由は、私にも一応わかる。だって、ちょっぴり際どいシーンもあったのだもの。でも、あれくらい刺激がある方が貴族には人気が出るのよね。自由に恋愛が出来ない分夢を見たいということで。……まぁ、私はアルテュール様に意地悪ばかりされた所為で、男性が苦手になってしまったのだけれど。その所為で、恋愛もくそもないと思っている。


「男性からすれば、ああいうのはお嫌いですか?」

「嫌いっていうか……その。会場が女性ばかりで、気後れすると言いますか……」

「まぁ、そうですよね……って、アルベール様ずっと私の顔ばかり見ていましたよね? 劇を観ていたのですか?」

「……微妙ですね」


 劇を観ている間、アルベール様は間違いなくずっと私の顔を見ていらっしゃった。だって、アルベール様に視線を向ければ必ずと言っていいほど、視線が交わったのだもの。そして、その後露骨に視線を逸らされるまでがワンパターン。そんなことがあること約十回。さすがに鈍い私でも、気が付く。


「……はぁ、私の顔って、そんなにも面白いですか?」

「はい、見ていて面白いですよ。俺が知らないシュゼット嬢を、知れるような気がして、いつまでも見ていられます」

「……そう、ですか」


 私は目の前のパンケーキに視線を向けながら、少し照れてしまった。って、こんなのキャラじゃないわよね。そう思って、私はブルーベリーのソースがたっぷりとかかったパンケーキを一口大に切り分けて、口に運ぶ。……美味しいけれど、甘いわ。


「アルベール様、私のことがそんなにも好きなのですか?」


 ふと、好奇心からそう訊いてしまった。アルベール様が私に重すぎる愛情を注いでいることは、私にだって分かる。「好き」「大好き」「愛している」なんてお言葉、ここ最近聞いてばかりだ。でも、なんだかふと気になってしまうのだ。それは、本当なのかって。……軽々しく好意を伝えられると、安っぽく感じてしまうということなのだろうか。もしもそうだとしたら……女って、面倒な生き物ね。


「もちろん、好きですよ! シュゼット嬢以上に愛せる人はこの世に居ませんから! シュゼット嬢が俺のすべてです!」

「……大袈裟ですねぇ。でも、ありがとう、ございます」


 何故だろうか、今日に限って私は素直にお礼が言えていた。アルベール様のことを苦手だって思う気持ちは、まだ確かにあるのに。愛情が重すぎて、束縛だって酷そうだし、執着されまくりだけれど……それでも、悪くないって思う気持ちが少しずつ芽生えている。……はぁ、私ってこんな人間だっけ? なんだか、アルテュール様に再会してから弱くなっている気がするわ……。


「シュゼット嬢が俺の好意を受け止めてくれた! 今日はパーティーを開きたいです!」

「止めてください、迷惑です」


 だけど、こんなにもつまらないことでパーティーを開くのは勘弁願いたい。だから、私はアルベール様に心の底からの冷たい視線を向けた。……なのに、何故かアルベール様は楽しそうに笑っていらっしゃった。……どうして? 本当にどうして? マゾなの? そう思ったけれど、口には出さなかった。だって、ここは外だもの。


 ☆★☆


「美味しかったですね~。シュゼット嬢と一緒に食べると、十割増しくらいで美味しく感じます!」

「そうですか。私は普通ですね」


 カフェを出て、二人で並んで歩く。相変わらずアルベール様は私の手首を掴んで離さない。……手、繋ぐことくらい許可した方が良いのだろうか? う~ん、でも……。


(やっぱり、無理だわ……)


 なんというか、私の潜在意識の中にある男性に対する苦手意識が、それを拒否してしまう。最近、マシになっていたのに。やっぱり、アルテュール様の所為……なのよね。


「アルベール様。あのですね――」


 私が、アルベール様のお顔を見上げて声をかけようとしたときだった。アルベール様が、突然前のめりになられる。それは、後ろから誰かがタックルしてきたからで。……って、誰?


「アルベール様! ここで会えるなんて、まさに運命ですわね!」

「……だれ、ですか?」


 そのまま、その誰かはアルベール様の腰に手を回される。よくよく見なくても、その誰かは女性だった。美しい茶色の髪をガンガンに巻いており、その髪型は一部では「縦ロール」と呼ばれているものだ。その身に纏っているワンピースは高価なものであり、後ろには何人もの従者が大きな荷物を持って控えている。……貴族のご令嬢、か。


「……もう一度訊きます、誰ですか?」


 だけど、アルベール様はそのご令嬢を引きはがすと、強くにらみつけてそう尋ねていらっしゃった。でも、そのご令嬢は負けない。ぷくぅと頬を膨らませ、とても可愛らしい表情を浮かべる。その後、私のことを軽く一瞥されると「はっ」と意地悪く笑われた。……感じ悪い。


「アルベール様は、わたくしのことを覚えてくださっていないのね。わたくしはアルベール様の婚約者候補の筆頭だった、リーセロット・マーセンですわ!」


 そうおっしゃったご令嬢――リーセロット様はその縦ロールを手で華麗に払うと、アルベール様に微笑みかけていらっしゃった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ