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第24話 波乱の街デートの始まり


「シュゼット嬢は、何が食べたいですか? それとも、何が欲しいですか? あと、何か見たいものはありますか?」

「そうですねぇ……。ここら辺で評判だっていうレストランに、行ってみたい、です」

「分かりました! では、行きましょう! 場所はすでに調べてありますから!」

「ちょ、待ってください!」


 アルベール様に腕を引かれて、私は街中を歩く。ちなみに、さすがに貴族の令息令嬢を放っておくことは出来ないらしく、後ろからこっそりと護衛の人がついて来ているそうだ。ちなみに、その護衛はクールナン侯爵家が雇っている人。……カイレ子爵家には、護衛なんて最低限の日雇いの人しかいないわよ。


「レストランで食事をしたら、次は劇でも見に行きましょうね! シュゼット嬢が前に見たいって言っていたの、席を取ったので!」

「……本当ですか?」

「はい、褒めてくれてもいいですよ! しかも、前の方です!」


 そうおっしゃったアルベール様は、私に溢れんばかりの眩しい笑みを向けてこられて、私の手首を掴む手にぎゅっと力を入れられた。……多分、本当は手をつなぎたいのだと思う。ちなみに、恋人繋ぎという奴。でも、私がいろいろと文句を言ってしまったから、我慢してくださっているのだろう。そう言うところ、ちょっぴり見直したかもしれない。ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけれどね!


「褒めるって……どうするのですか? 偉い偉いって言えばいいのですか?」

「頭を撫でてくれればいいですよ!」

「安上りですねぇ」


 そうおっしゃったアルベール様が、私に頭を差し出してこられるので私はその頭をゆっくりと撫でてみた。アルベール様の髪の毛は、私とは違い硬めで。なんだか、触っていてチクチクとする。だけど、触り心地が悪いわけではない。……って、私もかなり久々の街で浮かれているわね。普通の精神状態だったら、街中でこんなことしなかったわよ。


 街中は、すごくきらきらとしていた。ただの街灯も、ただのレンガの壁も、私からすればきらきらとしたものの一つ。通り過ぎていく笑顔の人々も、何だろうか、すごく新鮮で。……ずっと、引きこもりがちな生活を送ってきたからか、この光景はすごく眩しかった。


「シュゼット嬢は、あまり街に来たことがないそうですね。にぎやかな場所、苦手でしたか?」

「……いえ、単に両親が過保護だっただけですよ。いろいろと、幼い頃にあったので」


 アルベール様から視線を逸らして、私はそう言う。正直、まだアルベール様に過去のことをお話する勇気はない。それでも、いつかは、いつかは放さなくちゃいけないって分かっている。それが、余計に焦りを生んでしまっているのかもしれない。……このままじゃ、ダメだ。


「シュゼット嬢……」

「あ、アルベール様も、なんだか過保護になりそうですよね。特に、娘とかに」


 話を逸らさなくちゃ。そう思って、私はそんなことを言ってしまった。すると、アルベール様は「娘……」なんて微妙なお顔をされていた。言ってはいけないこと、だっただろうか?


「言っては、いけないことでしたか? では、謝りますので――」

「い、いえ、違うのです。ただ……クールナン侯爵家は男家系で、女児が二百年生まれたことがなくて……」

「二百年、ですか?」

「はい。俺はシュゼット嬢に瓜二つな娘が欲しいと思っています。ですが、この血筋が……」


 そうおっしゃったアルベール様は、さらに微妙な表情をされた。……しかし、二百年も女児が生まれていないのはかなりすごいわよね。でも、クールナン侯爵家には男家系という問題以上の問題がありそうな気が……。だって、アルベール様は一人っ子だし、現在のクールナン侯爵も一人っ子だったはず。アルベール様に寄れば、先代も二人兄弟だったというし、なんというか……。まぁ、貴族にしては子供の数が少ないのよね。


「子供の数が、少ないからでは?」

「それも、ありますよ。でも……クールナン侯爵家の男は俺みたいな奴ばかりらしくて……。その、妻を独り占めしたいがために、子供は最低限っていう考えの人が多くて。あ、でも俺はシュゼット嬢が望むのならば、何人でもいいですよ! ただ、出来れば俺のことも構っていただけると……」

「話が飛躍しすぎですね。どれだけ未来のことをおっしゃっているのですか」


 私はそう言って何故かどんどん近づいてこられたアルベール様のお美しいお顔を、手でどける。すると、アルベール様は「うぅ、シュゼット嬢!」なんて悲しそうな声を上げられた。うん、なんだか罪悪感が湧くけれど、絆されはしないわ。これで絆されていたら、この先苦労するのが目に見えて分かるのだもの。


「うぅ、少しは俺への苦手意識、取れましたか?」

「……少しは見直しましたけれど、なんだかいろいろと別の意味で苦手意識が出ていますよ……。面倒な男性って、嫌われるのですよ?」

「わ、分かっています、よ。でも、この気持ちが抑えきれなくて……!」


 うん、抑える努力をしてくださいな、まず。そう思うけれど、その気持ちを抑えようとして変な方向に爆発されても困るので、その言葉は言わなかった。……変に気を遣うのよねぇ。そう思いながら、私はアルベール様について歩くのだった。

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