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閑話5 アルベール(なり)の我慢


 ☆★☆


「しゅ、しゅ、シュゼット嬢が高熱!?」

「えぇ、そうらしいのよ。まぁ、大方疲れが溜まったのでしょうね」


 シュゼット嬢がカイレ子爵家の屋敷に戻った翌日。俺は母様からシュゼット嬢が高熱を出したということを聞かされた。……疲れが、溜まった。やはり、この間のテーリンゲン公爵家でのパーティーが原因、なのでしょうね。あぁ、どうして俺はあんな場所に連れて行ってしまったのでしょうか! 倒れてしまうし、その後熱まで出してしまうなんて……。俺がずっと側にいてあげたら……。


「……アルベール、突然立ち上がってどうしたの?」

「決まっているじゃないですか! シュゼット嬢のお見舞いです!」


 勢いよく立ち上がり、俺はそんなことを言う。シュゼット嬢の無事を一刻も早く確かめたい。そう思って、俺は勢いよく部屋を飛び出そうとした。けど……母様に首根っこを掴まれて止められた。いや、どうして邪魔をするのですか!? そう言う意味を込めて母様を睨みつければ、母様は俺の頭を軽くはたいた。……父様にするときよりは手加減してくれているのでしょうが、それでもかなり痛かった。


「あんたみたいなうるさいのが居たら、余計に治らないわ。……お見舞いは明日まで待ちなさい」

「で、でも……!」

「お見舞いの品と手紙を用意して、従者に渡してきてもらいなさい。……今日は、そこまでよ」


 母様はそう言って、従者に便箋を用意するようにと指示を出した。……手紙と、お見舞いの品。たったそれだけというのは、やはり無理です。俺が何としてでも駆けつけないと……!


「悪いけれど、経験上病気で苦しいときにあんたみたいなうるさいのが来たら、追い出したくなるのよ。ね、旦那様?」

「そう言えば、俺もティナが熱を出したって聞いて、屋敷に突撃しましたっけ! 窓から追い出されましたけれど」

「そう言うことよ。窓ガラスを身体で割りたくなかったら、きちんと『ここで』手紙を書くのね」


 ……母様とシュゼット嬢は根本が違うのに……。そう言う意味を込めて視線を母様に向ければ、睨まれてしまったので黙って座ることしか出来なかった。そして、従者に便箋とペンをもらう。……さて、何て書きましょうか。うぅ、書きたい言葉が思い浮かびすぎて何から書けばいいかが、分からない。なのに、便箋は三枚しかない。……追加してもらわないと。


「言っておくけれど、それ以上の便箋はないわよ。病人に十枚以上も重苦しい愛を綴った手紙を、読ませるつもり?」

「……どうして、母様がそれを……!」


 何故、俺がシュゼット嬢を思って一回の手紙で十枚以上の便箋を使っていることを知っているのでしょうか……? 俺がそう言えば、「この人も同じことをするから」と言って自分の腰に巻き付く父様を指さした。いや、普通妻にここまで雑な扱いを受けたら、普通の当主ならば怒るだろう。


 でも、父様は違う。母様に引っ付いて嬉しそうだ。……あれは、世に言う忠犬というのだろう。まぁ、母様以外の女性には基本的に無表情で接しますけれどね。表情金が死んでいますよ、はい。


「遺伝って怖いわぁ。あと、お見舞いの品は花にしなさい。くれぐれも、ケーキなんて送るんじゃないわよ。お菓子を送りたかったら、プリンとかそう言うものにする」

「……はぁ」


 花、か。う~ん、この間シュゼット嬢に大量の薔薇を贈って怒られたばかりですしねぇ……。あぁ、そうだ。赤と青の薔薇を一本ずつ贈りましょう! それだったら、きっとシュゼット嬢も許してくれるはず! 俺って頭良かったんですね!


「じゃあ、手紙を書き終わったら花屋に行ってきます。……あと、明日馬を借りてもいいでしょうか?」

「……何をするつもり?」

「いえ、領地にある行列が出来る洋菓子店に馬を走らせて行ってきます。そこのプリンが絶品だと聞いたので……明日の手土産にします」


 俺がきらきらとした目でそう言えば、母様は「もう、何も言わないわ……」と言いました。どうやら、匙を投げられてしまったよう。比較的いつものことなので気にしたら負けですね。


「あ、アルベール。それだったら、俺とティナの分も買ってきて。その分の金は渡すから」

「……はぁ」


 そんな時、ふと父様が俺に対してそう言います。……父様、プリンなんて食べましたっけ? そもそも、この人は妻と一緒に食べるもの以外は味がしないとか、ふざけたことを言っていましたけれど……。その気持ち、少しは分かるようになりましたね。シュゼット嬢と一緒に食べると、美味しさ十割増しですからね!


「……旦那様、プリンがお好きでしたっけ?」

「ううん、ティナが好きだったでしょ? ティナが口に入れるものは俺も口に入れたいから。……あと、ティナに食べさせてもらいたい……!」

「……旦那様、ご自分の年齢をしっかりと思い出してくださいませ。もう、そんなことをする年齢ではないでしょう?」

「いーやーだー! ティナに食べさせてもらう!」


 そう言って、父様が突然暴れだす。……なんだか、見ていてすごく恥ずかしい光景なのですが……。でも、俺もシュゼット嬢に食べさせてもらえるのならば、あれくらい普通にしてしまいそうですよね。ちょっぴり反省、ですよ。


(いや、ああやって駄々をこねれば、シュゼット嬢は最終的に折れてくれるでしょうし、そもそも冷たい視線が見られるのでは……!?)


 あぁ、でも冷たい視線でシュゼット嬢が俺のことを見つめてくれるのならば、駄々をこねるのもありですね。シュゼット嬢、最近呆れたような視線は多々見せてくれますが、冷たい視線はあまりないですから……。


 そう思ったら、ペンを動かす手が早くなりました。あぁ、早く明日になればいいのに。あと、シュゼット嬢に叶えてほしいお願いリストも作らなくちゃいけませんよね。そんなことを考えながら、俺は想いを綴った便箋を封筒に入れ、花を買いに走るのでした。

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