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第21話 婚約者の襲撃


 ☆★☆


「シュゼット嬢! 生きていますか!?」

「……生きていますよ。というか、病人の部屋に『生きていますか!?』なんて言いながら入ってこられるなんて、不謹慎ですよ」


 午後二時。エスメーに「婚約者のアルベール様がいらっしゃいました」と聞いてから、約五分後。アルベール様が私のお部屋にやってこられたかと思えば、一番にそうおっしゃった。いや、本当に不謹慎ですよ。そもそも、「生きていますか!?」って聞いて、死んでいたら「死んでいます」って答えるのですか? 頭おかしいのではありませんか? まぁ、それは思うだけにとどめておきますけれど。


「あぁ、シュゼット嬢、久々ですねぇ。……しばらく会わないうちに、痩せましたか?」

「……バカなのですか? こんな短期間で痩せるわけないじゃないですか」


 私はそう答えてため息をつく。そんな短期間に痩せる方法があるのならば、私はそれを商売にして一財産築く。そうすれば、カイレ子爵家の持つお金が潤うから。脱・貧乏生活が出来るもの。……はぁ、アルベール様にはそんな貧乏人の思考は分からないか。


「シュゼット嬢に、お見舞いを持ってきました!」

「……待ってくださいな。昨日、お見舞いの品は受け取りました。あと、声が大きいです」


 ただ耳を塞ぎながら、私はそんなことを言う。ちなみに、私の今の格好はラフなワンピースだ。さすがにアルベール様がいらっしゃるのに寝間着なんて来ていられませんよ。そう思いながら、私は寝台から起き上がってお部屋の端にあるソファーに向かう。もちろん、アルベール様も一緒に移動していただいた。


「あぁ、すみません。ついつい興奮してしまって……! シュゼット嬢に久々に会えたと思ったら、胸が高鳴りまして……!」

「それは、一度侍医に見ていただいた方がいいかと思います。多分、病気ですね」

「俺はシュゼット嬢に惚れているので、いつも病気ですね!」


 ……もう嫌だ。あぁいえばこうおっしゃる。そう思いながら、私は小さく「はぁ」とため息をついた後、アルベール様に「それで、お見舞いの品とは?」と問いかける。すると、アルベール様はご自分で持ってこられたのだろう、一つの紙袋を私に手渡してくださった。……これだけ、ですよね? この後、この紙袋が百個とか出てきませんよね?


「……これ、は」

「クールナン侯爵領のとある街にある洋菓子店のプリンです。作ったその日に食べないといけないので、朝買ってきました!」

「……いえ、ちょっと待ってください。クールナン侯爵領って結構遠かったような……」

「えぇ、そこそこ遠いですね。でも、馬を走らせて行ってきました!」


 そんな風に堂々とおっしゃるアルベール様に、呆れてしまう。クールナン侯爵量は多分普通に馬車を走らせれば往復で四時間から五時間程度かかると思う。しかも、横長なので離れているところはかなり離れている。……馬に乗って行ったとしても、限度がある。あぁ、だから午後からのお見舞いだったのね。少しおかしいと思っていたのよ。


「このプリン、行列が出来るほど美味しいらしくて。病人ですし、ケーキとかよりも柔らかいプリンの方がいいと思いまして……」


 アルベール様が、少し照れくさそうな表情を浮かべられてそうおっしゃる。そんな表情を見つめた後、私はプリンが入っているという紙袋の中を覗き込んだ。中には五つのプリンが入っているみたい。……お父様、お母様。お兄様、お義姉様。それから私。ちょうど五つね。


「アルベール様の分は?」

「あぁ、俺の分は別に屋敷に置いてきました。これはカイレ子爵家の分です」

「……ありがとう、ございます」


 そのお言葉を聞いて、私は素直にお礼を言えていた。プリン、かなり美味しそう。そう思いながら、私はエスメーに紙袋に入ったプリンを手渡して、冷やしておくようにと指示を出した。エスメーが出ていくと、別の侍女が入ってくる。そりゃあ、さすがに未婚の男女を婚約者同士とはいえ、二人きりには出来ないわよね。


「シュゼット嬢。あのですね~」


 その後、アルベール様は様々なお話をしてくださった。お話のメインは、クールナン侯爵家の日常だ。曰く、またクールナン侯爵が夫人を怒らせて殴られたらしい。……いや、それを平然と話すアルベール様もアルベール様ですよね……。


「アルベール様、お茶のおかわりをどうぞ」


 アルベール様とお話をしていると、ふとエスメーがお茶のおかわりを持ってきてくれる。それから、テーブルの上に並べられたのは小さなカップケーキ。……料理人、本日アルベール様がいらっしゃると聞いて、作ってくれたのね。


(……アルベール様に、いつか過去のことを話さなくちゃ……)


 私は心の中でそうつぶやきながら、目の前で美味しそうにお茶を飲まれているアルベール様を見つめた。その仕草は、とてもお美しくて。……あぁ、このお方はやっぱり侯爵家の嫡男なのだと、思った。


「シュゼット嬢、聞いていますか?」

「え、えぇ、聞いていますよ」


 私はアルベール様に顔を覗き込まれたので、慌ててそう答える。あぁ、しかし、しつこいなぁ。でも、少しだけ。本当に少しだけだけれど、見直したかも。心の中でそう思い、私は「きちんと、聞いていますよ」と付け足した。まぁ、この「見直した」という気持ちは、今の段階ではご本人に伝えるつもりはないのですけれどね!

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