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第20話 婚約者からのお見舞いの品


「エスメー。この薔薇、お部屋に飾っておいて頂戴」

「承知いたしました、お嬢様。……それにしてもまぁ、綺麗な薔薇ですね」


 エスメーにアルベール様からのお見舞いの薔薇を手渡すと、彼女はそんな感嘆の声を上げる。……そうね、とても綺麗だと私も思うわよ。ただ、病人へのお見舞いには薔薇以外の選択肢があると思うのよ。そう思う気持ちもあるけれど、アルベール様だから仕方がないと思う気持ちもある。もうすっかり、アルベール様のことが分かってしまっているらしい。


「そう言えば、お嬢様。この間からお屋敷中に青薔薇が飾ってありますよね?」

「それについては、振れないで頂戴」

「……はぁ」


 私のその言葉を聞いて、エスメーは渋々納得してくれる。青薔薇は高価なものだし、このカイレ子爵家のお屋敷中にあるのは明らかにおかしい。お母様はすぐに気が付かれて、疑問符を頭上に浮かべられていた。……ちなみに、正直にアルベール様からの贈り物だと私が告げれば、お母様もドン引きだった。そりゃあ、お屋敷中に飾っても有り余るぐらいだものね。普通に引くわ。


「……お手紙」


 そんなことを考えながら、私は手元にある封筒を見つめる。一般的な分厚さの、よく使われるシンプルな封筒だ。ただし、封の部分には家紋の入ったシールのようなもので封がされており、この家紋は間違いなくクールナン侯爵家のもの。差出人の名前にもアルベール・クールナンと書かれている。それだけで、このお手紙がとても恐ろしく感じられてしまった。うん、きっと大丈夫よ。病人にそんな長文を読ませはしない……と思う。それから一般的な分厚さだし、便箋の数もそこまで多くはない……はず!


 そう自分に言い聞かせて、私はペーパーナイフで封筒を開けた。すると、そこには一般的な便箋が三枚。うん、お見舞いにしては多い気もするけれど、許容範囲内ね。よかった、この間十枚分想いを綴るなんて宣言されていたから、恐ろしくて仕方がなかったのよ。


「……えっと」


 一応、お手紙はいただいたら目を通さなくてはいけない。そう思って、私はアルベール様からのお手紙に目を通していく。一枚、二枚、三枚目……を呼んだあと、もうどういう感情になればいいかが分からなくなった。三枚びっちりに埋められたアルベール様のお言葉。それはまぁ、この際よしとする。滅茶苦茶読みにくかったけれど、それはまぁこの際構わない。問題は――……。


「これ、お見舞いのお手紙というよりはラブレターでは……?」


 そう思わせるほど、お手紙にはあま~いお言葉が綴られていたのだ。アルベール様、口は不器用でも甘い文字は綴れたのね……。そう思いながら、私は小さくため息をついていた。でも、婚約の解消をお願いするまでのアルベール様のお手紙って、結構素っ気なかった気がするのだけれど……。便箋二枚、隙間たっぷりで書かれていた気がするのよね……。


「……あっちはあっちで寂しいお手紙だったけれど、こっちはこっちで重すぎるお手紙だわ……」


 私はそんなことを呟いて、便箋を封筒に戻してエスメーにいつもの場所にしまっておくようにと指示を出した。いつもの場所とは、アルベール様からいただいたものを保管している場所である。一応婚約者ということで、いただいたお手紙等はすべて保管するようにしていた。贈り物も一緒に置いてあるけれど、数は少ない。というか、アルベール様は基本的に私への贈り物にお菓子の類を選ばれていたので、保管出来なかったというのも、ある。


「……はぁ、なんだかどっと疲れたなぁ」


 毛布に潜り込みながら、私はそんなことを呟く。でも、少しは成長されている……ようで、見直したかもしれない。この調子で成長してくださればいいのだけれど。……そもそも、愛が重いということはそれだけ一途という捉え方も出来るのだろう。……つまり、浮気の心配がないということ。クールナン侯爵と夫人を見ていると、そんな心配必要ないってわかるし。それに、他所で子供を作られると面倒だっていう話は、よく聞くし。


「あ、お嬢様。一つだけお伝えすることを忘れていました」


 そんなとき、先ほどアルベール様からのお見舞いの品を届けてくれた侍女が、戻ってくる。一体、何だろうか? そう思って私は「どうしたの?」と彼女に問いかけた。すると、彼女はにっこりと笑って「お見舞いに、来てくださるそうですよ」と私に告げた。……お見舞い? 一体、誰が?


「ご、ごめんなさい、上手く呑み込めなくて……もう一度言って頂戴。誰が、誰のお見舞いに来るの……?」

「そんなの決まっているじゃないですか。婚約者のアルベール様が、お嬢様のお見舞いに来てくださるそうですよ。お見舞いの品を持ってきてくれた従者が、そう言っておりました。明日の午後、いらっしゃるそうです」


 侍女はそれだけを告げて、お部屋を出ていく。……アルベール様が、私のお見舞い? 普通だと、きっと喜ぶシチュエーションなのだろうな。でも、私は素直に喜べない。喜べるわけがない。だって――。


(いや、私、心労で殺されるの……?)


 そもそもな話、私が心労で倒れた原因の一部はアルベール様なのだ。その原因が襲撃してくる。……私、殺されるのね。うん。骨は拾って頂戴。そう思って、私は遠いとこを見つめていた。……あぁ、どうか嘘だと言って頂戴! ……無理か。


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