第13話 パーティー当日がやってきました
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そして、テーリンゲン公爵家でのパーティー当日。パーティーは昼前からだというのに、私は朝からクールナン侯爵家のお屋敷に呼ばれていた。そして、やたら豪華なドレスに着替えさせられ、高価なアクセサリーを付けられた。正直、落としたらどうしようかとビビっているところもある。さらには、髪の毛も綺麗にセットされており、崩れるのが恐ろしくて身震いしてしまった。
そんな変身させられた自分を姿見で見つめたとき、私は思ったものだ。
――私じゃ、ねぇ……! と。
「シュゼット嬢、とても綺麗ですね! あぁ、このままここに居てくれればいいのに……!」
「いえ、本日はパーティーですよ。そのためにおめかしをしたのですから、ここに居ることはありません」
そうでも言っておかないと、アルベール様のことだから「自分のため」という明後日の方向に解釈されるだろう。それっは、違う。このパーティーはパートナー同伴であり、そのために私は付き合っているだけなのだ。それから、私がめかしこむのはパートナーであるアルベール様に恥をかかせないため。そう言うことだと、自分にも言い聞かせた。
ちなみにだけれど、アルベール様もそれはそれはお美しい。いや、普段からとてもお美しいのだけれど、本日はその数倍輝いて見える。衣装が、普段よりもいいものだからだろうか? あと、ところどころにあしらわれているアクアブルーは、多分私のドレスとおそろいになるようにされているのだろうな。私のドレス、アクアブルーだから。
「アルベール様。一つだけ訊きますが、私のドレスとその衣装はおそろいをイメージされていますか?」
「もちろん。俺、シュゼット嬢とこうするのが夢で……!」
「そうですか。夢が叶ってよかったですね」
なんだかお話が長くなりそうだったので、私は適当にあしらって自分のドレスを見つめた。このドレスは布が何重にも重なっており、歩くのがとても大変だ。いつも着ているドレスとは違いすぎて、少々引いてしまう。あと、ヒールが少し高め。今回はダンスがないからいいものの、ダンスがあったら悲惨だっただろうな。そう、思った。
「では、シュゼット嬢。そろそろテーリンゲン公爵家に向かいましょうか」
「……えぇ」
私は差し出されたアルベール様の手に、自分の手を重ねる。正直に言って、今この状況でこの手はとてもありがたい。救いの手にも、見えてしまう。……ヒールが高すぎて、歩きにくいのだ。多分、しばらくはおぼつかない。
何でも、今回のパーティーはテーリンゲン公爵家の長男が主催らしい。目的は婚約者のお披露目だとかなんとか。正直、テーリンゲン公爵家の方々は遠目からしか見たことがない。しかし、遠目から見ただけでもそのお顔の良さが分かるので、美貌の一族と呼ばれているのも間違いではないだろうな。
「そう言えば、シュゼット嬢はオフィエルの婚約者であるカトレイン嬢と、親しいのですよね?」
「えぇ、そうですね。カトレイン様とは、個人的に親しくさせていただいております」
カトレイン様とは、私の友人であるカトレイン・メレマ様のこと。彼女はテーリンゲン公爵家の次男であるオフィエル様の婚約者である。お二人は幼馴染らしく、その延長で婚約したらしい。でも、とても仲睦まじいご様子は噂になっており、心の中で「羨ましい」と思ったものだ。……まぁ、カトレイン様にはカトレイン様なりのお悩みがあるらしいのだけれど。そこは、人それぞれ。ちなみに、彼女は伯爵家のご令嬢なのでこのパーティーにも参加していらっしゃるはず。
「ですが、どうして?」
「いえ、カトレイン嬢も参加すると思うので、彼女と一緒にいたら一人にならなくて安心かなぁって……」
「アルベール様は、側にいてくださいませんの?」
そのおっしゃり方だと、まるで離れてしまうみたいじゃない。そう思って私が問いかければ、アルベール様は言葉を詰まらせていらっしゃった。何か、言いにくいことでもあるのだろうか?
「い、いえ、出来れば、ずっと一緒に居たいです……。ですが、オフィエルに個人的に呼び出されておりまして……。それで、ずっと一緒に、と言うのが無理でして……」
「まぁ、そうでしたの。そうでしたら、別に構いませんよ」
オフィエル様関連か。だったら、仕方がないな。私はそう自分にい聞かせて、納得する。うん、アルベール様と離れる時間も大切だと思うし、いいや。いろいろな意味で、冷静になるためにもそれが必要。
「うぅ、シュゼット嬢が変な輩に目を付けられたら……」
「大丈夫ですってば。私に目を付ける物好きは、いませんから」
……まぁ、今私のお隣にいらっしゃるのですけれどね。心の中でそうつぶやいていると、馬車が待機している場所にたどり着く。クールナン侯爵家の家紋が入った馬車は、相変わらず大きい。……カイレ子爵家の馬車とは、大違い。心底悲しい。
「どうぞ、シュゼット嬢」
「失礼いたします」
アルベール様にエスコートされて、馬車に乗り込む。……相変わらず、アルベール様は私にべったりだ。少し暑苦しいので、止めてほしいのだけれど。
「アルベール様、引っ付きすぎですよ」
「嫌です! シュゼット嬢に、もっと引っ付くのです!」
「ドレスが汚れてしまうので、せめてお顔は離してくださいね」
絶対に、涙とか諸々で汚れるので。そんな副音声をつけて、私は小さく「はぁ」とため息をついた。その後、額を押さえる。はぁ、疲れる。