第1話 釣り合わない婚約者へのお願い
半年以上前に書いて完結していたものをリニューアルしながら掲載します(n*´ω`*n)
第一部は完結まで執筆しておりますので、サクサク更新出来たら……良いですね(願望)!
美しい花々が咲き誇るお庭。本日は二週間に一度のペースで行われる、私と婚約者の二人だけのお茶会。優雅に紅茶を飲みながら私を見つめてくるのは、私の婚約者であるアルベール・クールナン様。このセロー王国でも名門に名を連ねる、クールナン侯爵家のご令息。しかも、一人息子ということもあり跡取りである。
いつものようにところどころ跳ねた濃い青色の髪。鋭い赤色の目は、睨まれたら大人でもひとたまりもないだろうな。……まぁ、私はいつも睨まれているに等しいので、今更何かを思うことはないのだけれど。
「アルベール様。本日は、大切なお話があります」
私は一度だけ深呼吸をして、アルベール様を見据える。その真っ赤な目に見つめられても、ときめきなど感じない。だって、彼は私を「嫌っている」はずだから。さすがに一年半もこんな風に過ごしていればわかる。会話もない。表情さえほとんど動かない。それどころか睨まれるように見つめられる。ここまで来たら……さすがに「鈍い」「鈍感」と称される私でも、分かってしまうのだ。
――アルベール様は、この婚約が不満なのだと。
「あのですね、アルベール様」
――私との婚約を、解消してくださいませ。
私はアルベール様の目をまっすぐに見つめながら、そう言った。その際にアルベール様の真っ赤な目が大きく見開かれる。その驚愕に染まったような表情は……一年と半年、婚約者として過ごしてきて初めて見た表情だった。
☆★☆
さて、ここで一旦私のお話でも挟もうと思います。私の名前はシュゼット・カイレ。セロー王国で末端貴族と呼ばれているカイレ子爵家の長女。ちなみに、兄が一人いるので跡取り娘ではない。その兄もつい先日婚姻し、妻を迎えた。私から見て兄嫁に当たる彼女はとある男爵家の三女であり、明るい性格と世話焼きな性格から瞬く間にカイレ子爵家に馴染んだ。もちろん、私も彼女のことを好意的にみている。あのものぐさな兄の世話を焼いてくれているのだ。どれだけ感謝しても足りないぐらい。
そして、私にも一年と半年前に婚約した婚約者がいます。私が十八歳を迎えれば挙式を行い、相手方の家に向かうという計画まで立ててある。しかし、私はそんな婚約者のことを特に好いてもいなかった。だって、あれだけ睨まれて、無表情で見つめられて、言葉も大して交わさない。挙句外に出れば彼を慕うほかのご令嬢に嫌がらせを受ける始末。そんなことが起きたら、彼のことを好きになるなんて無理でしょう? そう言うこと。
(あー、もう。こっちもいい加減限界なのよね……)
婚約の解消を申し出る一日前。私は寝台に寝転がりながら、そんなことを心の中でぼやいていた。あと半年で、私と彼は婚姻してしまう。でも、婚姻しても彼と私の関係が変わるとは到底思えない。だったらもう、互いの幸せのために私たちは婚約関係を解消した方がいい。そう思うぐらいには、私は追い詰められていた。
「……アルベール様、こんな貧乏娘じゃ嫌なのよね」
そんなことをぼやきながら、私は婚約者であるアルベール様のことを思い浮かべる。名門侯爵家のご令息ということもあり、彼は社交界でとんでもなく人気のあるお方だ。しかし、彼は絶対に誰にも笑いかけない。表情が、基本的に無なのだ。さらには口数も少なく、ぶっきらぼう。陰では「冷血貴公子」などとも呼ばれ、遠巻きにされている。……いや、でも本当に私とは釣り合わない。
だって、アルベール様は見た目がそれはそれは麗しいお方なのだ。その性格が気にならなくなるぐらい、容姿が素晴らしい。まぁ、私はそこまで人様の容姿に執着がないので、あまり好感度は上がらないのだけれど。むしろ、容姿のいい人はあまり好きではない。昔、ちょっといろいろあったから。
それに対して、私は上の中ぐらいの容姿。大きいのは胸だけ。。家柄はアルベール様にかなり劣っているわけだし。私がひっくり返っても、釣り合わない。むしろ、私が十人束になって襲い掛かっても釣り合わない。いや、私が十人もいたらアルベール様にご迷惑か。
「もう、婚約を解消していただこう。そうよ、それしかないわ」
あと半年。あと半年で……私とアルベール様は夫婦になってしまう。だったら、もう、婚約の解消に向けて動き出すしかない。この素晴らしい婚約を取り付けてくれた両親や、アルベール様のご両親には悪いけれど、私とアルベール様の心の平和のためだ。この後、私は修道院にでも行けばいいし。うん、私は元々男性が嫌いだから、仕方がないわよね。
「よし、明日アルベール様に婚約の解消をお願いしましょう」
そう決意して、私はこの日眠りについた。
まさか、私の言葉を聞いたアルベール様があんな行動に出るなんて――この時の私は、想像もしていなかった――……。