一話
「起きてください!!お嬢様!!お嬢様っ!!」
「ん…うう……」
眠気まなこを擦って、唸り声のような声を出す。
「はっ!?……え、ちょっと待って…」
どういう事だろうか。状況が飲み込めない。
ここどこですかっ!?どういう事ですかっ!?誰の家!?やけに豪華だけど…
と、人がいることに気づき、心臓が掴まれるような思いでひっ、という声を上げる。
明らかにメイドの格好をした女が、こちらを心配そうに見つめていた。
「お嬢様、どうなさいました?おはようございます、珍しいですね、こんな時間に起床されるなんて。」
「え…?」
お嬢様?私はお嬢様じゃないし、取り敢えず…
「あの…ここ、何処でしょうか?」
「えっ…あ、あぁ、ここはお嬢様の邸宅でございますよ……?」
心配そうな目でこちらを覗き込んでくるメイドらしき女性。
意味がわからない。どういうこと?
「ちょっと待ってください、私はこんな家に住んでいた覚えはありませんが。」
私がそう言うと、戸惑ったような顔でメイドが返す。
「は、はい…?」
ああ、もう拉致が開かない。ちょっと、どうして私が知らない人の家の、それもわりと金持ちの人のベットで起きるわけ?
昨日はちゃんと自分の家の格安ベットで寝たはずなのに…
「ここの主人は誰ですか?話がしたいです。」
少し怒ったようにそう言うと、さらに腰が引けたようにタジタジしながらメイドらしき女が口を開く。
「こちらの邸宅の主人はお嬢様ですが…?」
「はぁ!?何言ってんのあんた、何か見間違えてるんじゃないの?頭でも打ったの?」
「お、お嬢様こそ変でございます……」
どう言うことよ、だからは私はお嬢様なんかじゃないって___
!?
広い部屋の一角にある鏡に映った自分の姿を見て、思わず絶句する。
「なに…これ……」
私が腕を動かすと、鏡に映ったその女も動く。首を動かせば同じように首が、足を動かせば同じように足が……
つまり鏡に映るこの女は私だというわけで。まずこの部屋にはメイドらしき女と私しかいないのだからメイドらしき女が映っておらず、違う女が映っている時点でそれは私なのだ。
「アリエス…」
そこに映っていたのは、紛れもなく、あのゲームのアリエスだった。
しかし意思は私だ。
アリエスが私?アリエスが私……アリエスが私……
ええええええっっ!?!?
どっ…どうしよう、どういうこと?私がアリエス?アリエスになっちゃったの?
ありきたりな異世界転生小説のように!?
嘘でしょう……
私これから、アリエスとして生きて行かなきゃいけないの!?
それは……嫌、………なのかな……
だって私自身、アリエスに憧れていたのだ。その憧れになれたなら、私自身がその人物通りに変われるのではないか。
変わりたい。変わってみせたい。
あんな弱虫で臆病な私なんかもう嫌だ。
もしかしたら……このままでもいいのでは……?
いやいやいや、でも元のこの身体の主であるアリエスは何処へ……?アリエスは自分の身体を取られて迷惑しているんじゃ……
どうする…私っ!!
「お嬢様……だ、大丈夫ですか?朝食の準備が完了致しました。」
「え、あぁ、えっと…」
どうしよう……
ええい、もうどうにでもなれ、考えてみればここでぐずぐず悩んでいるのも前のままじゃないか。
変わりたいと思ったんだ、変わらなきゃ。
私は出来るだけ、ゲームで見たアリエスの口調を真似て言った。
「ええ、今行くわ。」