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1 生まれた

 やあやあ、わが友よ。久しぶりになるのだろうか。

 私の時間感覚ではわりと時間が流れているのだが、君の方ではどうなっているのかわからないね。

 こうして話しかけても意味はないとわかっているが、心を落ち着かせる手段としてわりとよいのだ。伝わっていなくても受け入れてくれたまえ。

 たぶんそちらでは私は死んでいるのだろう。でも私は私の自我がまだあるのだよ。なにを言っているのかわからないだろうが、まあ聞いてくれ。

 私もようやく庶民の流行とやらに参加できたのだ。

 流行といってもいくつもあるからわからないだろう。だがこう言ったらすぐに理解してくれるのではないかね? なにせ君が言っていたことなのだから。

 どうやら転生とやらをしたらしい。うん、君が言っていた生まれ変わりだね。

 今は転生がトレンドだと言っていたのを覚えている。本を読みながらだったから聞き流していた部分もあるが、そこは私の優れた記憶力をなめてもらっては困る。半々くらいは覚えていたさ。

 よく聞いているかと疑っていたが、友人の話だ、すべて聞き流すわけもなかろう。

 転生に関連した話に小説投稿サイトという単語も混ざっていたが、それは聞き間違いだな? 転生という宗教的単語に趣味娯楽場の単語が関わるのはおかしいものな?

 そんなわけで私は流行にのったのだ。どうだい、いつも流行の音楽や化粧や服に無頓着と言われ続けていたが、私もこうやって庶民と同じ立ち位置に立てるのだよ。

 いやまあ、証明するために一度死んでしまうのは我ながらやりすぎだとは思うが、私のすごいところだと感心してほしい。

 私も死にたくて死んだわけではないしね。記憶があいまいだがたしか酒を飲んで寝て起きたら暗く動きづらいところにいて、意識がとんだと思ったら自身の意思に関係なく泣いて、また意識がとんでベッドの上にいたのだ。私の優れた頭脳をもってしてもなにがなにやらだよ。君のすっとんきょうな頭脳ならわかるのかな? 返事を聞きたいものだ。ときに騒がしいと思った君の声だが、懐かしく思えるということはたしかに友情があったということなのだろうか。君も同じように思ってくれたなら嬉しく思う。


 さてそろそろ今日の話を終えたいと思うが、最後に伝えたいことがある。

 それは我が名だ。前世では藤静花ふじしずかだった私だが、今生ではシルベローナという名をいただいた。愛称はジーナらしい。こちらの言葉は聞いたことのないものなので、おそらくとつくが。

 こちらに声をかけるときに何度もシルベローナやジーナと呼んでくることから間違いないと思われる。

 名前の響きからわかるかもしれないが、今生も女だ。男でなくてよかったよ。異性として生きていくのはさすがに慣れないだろうしね。

 伝えることは伝えたし、眠気に耐えきれなくなってきたのでここらで話を終えたい。

 赤ん坊とはこうもたくさん眠るものなのだな。ではおやすみ。


 やあ、数日振り。シルベローナだ。

 これまで日本で生きて来た者としてはこのような洒落た名は慣れないな。だがせっかくいただいた名だ。ありがたく思い、慣れなくてはな。

 きっと君のことだ。この名のことを知れば、腹を抱え、テーブルを叩いて似合わないと大笑いするのだろう。常々思っていたのだが、その笑い方は手が痛くなかったのだろうか。わりと大きな音を立てていただろう? 私の繊細な手では、同じことをしてもすぐに真っ赤にはれてしまったことだろう。

 まあそんなことはおいといて、今日は二つのニュースがある。一つは君の関心を買えることだろうさ。

 まずは私信から。このたび私は目が見えるようになった。これまでのようなぼんやりとした視界ではなく、かなりはっきりと見えるようになった。といっても近場だけで、遠くはまだまだなのだがね。視界がはっきりしたことは嬉しいが、動けなければどうしようもない。手足をばたつかせることは可能だが、それだけで寝返りすら難しい。成長を実感できることは得難い経験なのだが、自由に動けないのはもどかしい。

 自由にならないといえば排泄行為もだな。精神的にはとっくに成人である私がそれらを自制できないことを最初は恥じたが、何度も繰り返されることで諦めたよ。諦めは一種の自己防衛ということが実感できた。

 そんな屈辱的経験報告が二つ目の報告などではない。さすがの君もそんな報告を喜べないだろう。いやいろいろと特殊な趣味をしていた君ならばもしかして?

 君の性癖をここにきて発見しかけるという与太話はまたいつかでいいだろう。現状思考する時間はありあまっているからな。


 二つ目の報告はなんと魔法というものが実在するということだ。

 君が目を輝かせる光景が目に浮かぶようだ。君が好きそうなワードだからな。かくいう私も心躍るものがある。どのようなエネルギーが作用し、どのように変化を起こしているのか? 変化に限界はあるのか、地球では不可能と言われたことでも魔法ならば実現可能なのか? とても知的好奇心が刺激される。

 すぐにでもそれらを研究してみたいのだが、あいにくとこの身は赤子。自由に動くこともできなければ、魔法の行使は無理だった。興味深きものが目の前に転がっているのに、触れれぬことがとても悔しい。早く学べるようになりたいものだ。

 そのためにもまずは言語習得が最優先と考慮する。読み書きができなければ知識を蓄えることは困難でしかないからな。今の私にできることは周囲の音を聞いて学ぶことくらいだ。

 ちなみに魔法をどうやって知ったのかだが、メイドが行使していたのを見たのだ。

 どうやら私の生まれたところはそれなりの家らしい。メイドなど前世ではとんと縁がなかった。君はメイド喫茶なるものに通っていたから見慣れているのかもしれないな。メイドが喫茶店を運営するとは、仕える家が財政難であったのだろうか。

 話を魔法に戻そう。彼女の手のひらから淡い光が生じたかと思うと、天井のシャンデリアのようなものへと飛び、部屋を明るく照らしたのだよ。初めて見たときの私の顔はさぞかしアホ面だったことだろう。君に見られなくてよかったと思っている。それくらい無防備に感情をさらしたよ。

 その感情のまま、どうにか自分でも使えないものか試そうと思ったが、そこはさすが私と言っていいだろう。すぐに落ち着きを取り戻し、赤子の体で未知の行いをやろうとするのは無謀だと自制した。君なら危険など考えずに行ったのだろうな。そこらへんは君は考えなしだったから。

 テレビで見たところに行きたいからと、その日のうちに下調べをせず旅行に行き、旅先で旅費がなくなったと連絡を入れてきたときは馬鹿そのものだと思ったものだ。普通は最低限必要資金の計算はしてから出るだろうに。おかげで迎えに行かなくてはならなくなった。しかし今にして思えば旅先でも銀行からお金を下ろすことはできたような? まさかキャッシュカードを忘れていたのか? そこまで馬鹿ではないと思いたいが。

 あ、そろそろ活動限界らしい。眠るとする。


追伸

 無理は承知で、少しばかり相談に乗ってもらいたい。

 父親と母親がいるのは当然だが、加えて兄もいる。その彼らの反応が微妙なのだ。

 生んでくれたこと育ててくれていることの感謝と赤子の仕事として話しかけられたとき、ほがらかに笑って見せたはずなのだ。しかし彼らはひきつったような笑みを返す。なぜだろう?

 君がそのときの私を見れば、目を疑うくらいに見事な笑みを浮かべたはずなのだがな。



ファッテンベル侯爵家当主ハーベルト


 冬が明けて、暖かな風が頬をなでるようになった頃にあの子は生まれた。

 陣痛が始まり、産婆と一緒に清潔に保った部屋に入っていく妻を不安を持って見送る。

 二度目の出産とはいえ、出産はそのたびに命懸け。治療師を呼んではいたが、それでも心配はしてしまう。

 慣れてるから大丈夫よと妻は言っていたが、万が一はあるものだ。心配しすぎだと父上母上には呆れられもした。

 私が心配しすぎてウェルオンも涙目になっていたのを見たときは、さすがに失敗したと思ったものだ。子供にまで不安を移すようでは父としても当主としても失格だろう。空元気でも平気な姿を見せてウェルオンを安心させてあげなければ、そう思ったことがよかったのか心はいくぶんか軽くなった。

 深呼吸して、ウェルオンに謝り、一緒に赤子が生まれるのを待つ。

 まだかまだかと焦りと不安を心の中だけで膨らませていたとき、小さく泣き声が聞こえていた。思わず一緒に待っていた誰もが立ち上がる。そしてすぐに誰かが駆けてくる音が聞こえて扉が開く。

 手伝っていたメイドが無事に生まれたと言い、妻の体にも異常はないと続けたとき、体から力が抜けて椅子に座り込んでしまった。

 父上に促され、立ち上がり生まれた子の顔を見に行って、小さなあの子が妻の隣にいるのを見て、喜びが体を包む。

 妻を労り、ウェルオンと一緒にあの子を間近で見る。どのような子に育っていくのか楽しみであり、健康に育ってほしいと思ったあと、可愛く賢くと続けて思ってしまったのは親としては当然のことだと思う。

 あの子の短い黒髪をウェルオンが不思議そうに見ていた。私も妻もウェルオンも金髪なので、新たに生まれてくる子もそうだと思っていたのだろうな。たしか妻の祖母が艶やかな黒髪だったらしい。そちらの特徴がでたのだろう。

 義父もその髪を見て、亡き母に似た美人に育つかもしれないと嬉しそうに言っていた。私を含めてあの子に血の繋がりのある者たちは特別おかしな容姿はしていないし、きっと可愛く育っていくと思う。


 あの子の名前はシルベローナに決定した。

 父と義父とで名前の権利を巡ってもめはしたが、なんとか名付けの権利を勝ち取った。

 父上と剣をぶつけあったのは久しぶりだ。たまにはこんな親子交流もよいものだな。勝ったからなおさらだ。どうしても勝ちたいからと砂で目潰ししてきたときは焦ったが、勘でのカウンターが決まったおかげで勝つことができた。 

 そんな私たちを妻たちは呆れた目で見ていた。いいじゃないか、ウェルオンは父上たちに名付けの権利を取られたのだ、あの子の名前は私と妻とでつけたかった。

 名前の由来は妻の好きな花であり、時期的にも今開花するようでちょうどよいと思う。シルベラアナという名であり、花言葉はわが道を行くというものらしい。花言葉そのままに育つと少し困りものだが、自分というものをしっかり持つことを悪いこととは思わない。

 父も義父も自分の考えた名前に執着していたというのに、名前が決まるとあっさりぴったりの名前だと妻に伝えていた。調子がよすぎる。

 ウェルオンもようやく決まった妹の名前を嬉しそうに口にしている。このまま仲の良い兄妹として育っていってほしいものだ。よその家では家族での家督争いが起こるとたまに聞く。そんな関係にはなってほしくはない。

 うちの場合はウェルオンとシルベローナの二人だけなら問題はないが、これ以上子供を作ると少し心配だな。どうするか妻と相談してみるか。


 シルベローナが生まれて早三ヶ月だ。あの子はすくすく育ち、手足をさかんに動かすようになった。運動が好きな、おてんばな子に育つかもしれないな。王族付きの騎士という将来もあったのかもしれないが、将来は決まっているからただの妄想だな。

 元気に育ってくれているのは嬉しいが、気になることもある。なんというか良く言えば常に眠たげ、悪く言えば港町で見たことのある死んだ魚の目。パッと見は綺麗な黄色の瞳なのに、くすんだように見え不気味にさえ感じてしまう。病気を疑ったが、医師が言うには問題はないということだ。

 名前を呼べば明るく笑って反応を返してくれるというのに、あの目が朗らかな雰囲気を打ち消してしまう。

 そのせいでウェルオンはあの子を少し怖がっている。だから会いに行くのはもっぱら眠ったときだ。幸いというのか、シルベローナはよく眠る子だ。おかげで会いに行く回数が減ることはなかった。寝ているあの子を愛おしそうに見ているので、怖がっても嫌ってはいないことがわかってほっとしてる。

 妻はこれも個性とあっさり受け入れている。お腹を痛めて生んだ子なのだから、それくらいは気にならないのだろう。元気に育っているということも気にしていない要因かもしれない。私も彼女のようにどっしりと構えたいものだ。

 しかしこのまま大きくなると変に誤解される可能性もある。それを思うとあの話はシルベローナにとって良いことなのかもしれないな……貴族としては良い話だが、父親としては微妙だが。

 なんにせよ今は元気に育ってくれることを願っているよシルベローナ。

はめふらが面白かったので、自分ならどう書くかと考えて書いてみました

約19万字、書き終えて完結させているので途中で放置はないはずです


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