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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
3章:アカデミー後期

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3:25『四卿貴族』◎


 グローリアの皇女として君臨するヘレン・アーネット。彼女が城の地下室で書物を読み漁っていると、不機嫌な様子を露にしたカミル・ブレインが顔を出す。


「おい」

「……どうしたカミル?」

「どうしたじゃねぇ。この報告書を見ろ」 

 

 カミルが手渡したのは派遣任務の報告書。ヘレンはそれを受け取るとしばらく黙読し、徐々に険しい表情へと変えていく。


「ドレイク家の人間が……?」

「それだけじゃねぇ。T機関の銅の階級が一人、そんで……俺の大事な部下までもがやられた。そいつは優秀な銀の階級だ」

「……」

「ドレイク家の領土が"例の眷属"に支配されていたとも書かれている。派遣任務に参加した生徒の中に、やっぱり"アイツ"もいやがるんだ」


 殉職した者の欄には『T機関 銅の階級 レイモンド・ワーナー』に『B機関 銀の階級 シビル・アストレア』と書かれ、生還した生徒の名の中に『アレクシア・バートリ』と記されていることに対して、カミルはどういうことだと言わんばかりにヘレンを睨みつける。


「俺はコイツを厳重に監視すべきだとてめぇに言った。だがその言葉を聞き入れなかったな? この一件をどう始末するつもりだ?」

「……この件は私の方でなるべく穏便に済ませる。まずは生徒たちが生還したことを幸運に──」


 ヘレンがそう言いかけた瞬間、カミルは彼女の胸倉を左手で勢い任せに掴み上げた。


「これで四度目だ。孤児院・本試験・実習訓練……そんで今回の派遣任務と来た。そのどれもがあの"アレクシア"ってヤツが関与してんだよ」

「……」

「それにな、アイツが生き残れているのも他の連中が命を懸けて守ってきたからだろうが。この組織は吸血鬼と命を懸けて戦うために結成されたわけで、あんな野郎を守るために結成されたわけじゃねぇんだよ」


 胸倉を掴まれたヘレンは口を閉ざしたまま、カミルと視線を交わしつつ、手に持っていた書物を机の上に置く。


「カミル、私は命の重さは人によってその価値は違うと考えているんだ」

「……急に何を言い出しやがる?」

「孤児院で孤児たちが殺され、本試験で受験生が殺され、実習訓練で生徒たちが殺され、ドレイク家の人間たちと二名の隊員が殺されたとしても……私は彼女の命が救われるのならそれでいい」

「……っ! てめぇ……!」


 その発言に怒りを露にしたカミルが右拳を上げ、ヘレンへ殴り掛かろうとした。だが右拳がヘレンの頬へと到達する前に、

 

「だから私も彼女の為ならばこの命を捨てるだろうな」

「……!」


 ヘレンの言葉を耳にし、カミルは身体を硬直させる。


「あの野郎の命がてめぇよりも価値があるだと? 本気で言ってんのか?」

「あぁ、私は本気でそう考えているさ」


 本気の目でそう答えるヘレンに、カミルは振り上げていた右拳を思わず下げてしまうと、掴んでいた胸倉を突き放した。


「ヘレン」

「何だ?」

「てめぇは何を知って、何が見えてやがる?」

「それは……まだ答えられない」


 ヘレンは僅かに視線を逸らすとすぐにカミルへと視線を戻し、申し訳なさそうにぼそっと呟く。

 

「……俺はお前の世話を両親に任されている。だからお前の意志や考えを出来る限り尊重するつもりだ」

「……」

「だがな、救える命を犠牲にしてまで成し遂げようとする……その考えは尊重できねぇ。すぐにでも考え直さねぇと、誰もお前についてこなくなるぞ」

「あぁ、それは私もよく分かっているさ」

 

 手に持っている報告書を見つめながら、思い詰めた顔で口を動かしているヘレン。彼女は一人で何かを抱え込もうとしている。カミルの目線ではそのように見えていた。


「……もう一つお前に聞きてぇことがある」

「何を聞きたいんだ?」

「その報告書にある『四卿貴族(しけいきぞく)』と『スカーレット卿』についてだ。俺は今までこんな名前を聞いたことがねぇ。お前はこの二つについて何か知ってんのか?」 


 ヘレンは先ほどまで読んでいた書物を手に取り、報告書を机の上に置くと、カミルに対して『四卿貴族(しけいきぞく)』と『スカーレット卿』についてこう説明をする。


「『四卿貴族(しけいきぞく)』は"公爵"に統治されていない四人の吸血鬼たちのことだ。それぞれが"喜怒哀楽"のどれかを象徴し、強大な勢力を所持している」

「そんな連中がいんのか」

「あぁ、公爵は私たちの敵となるが……四卿貴族はどちら側にも立たない。どんな時も中立の立場だ。何千年も前からこの世界で生き続けている。それが故に四卿貴族を知る者は数少ない」

「中立の立場、どうも信用できねぇ言葉だな」

「いいや、四卿貴族はいかなる時も中立の立場を貫く」

「……自信ありげな回答だな?」

「歴史の中で四卿貴族が『人類の敵』として記されていないだろう? もし人類と敵対するのなら、リンカーネーションの誰もが四卿貴族について知っているはずだ」


 ヘレンは書物をカミルへ手渡すと、四卿貴族の人物について語り始めた。


「一人目は"怒り"のルスヴン卿。"孤独"を愛し、孤独と共に生きる吸血鬼だ。二人目は"喜び"のストーカー卿。"変化"を愛し、変化と共に生きる吸血鬼」

「……」

「そして三人目が報告書にも書かれた"楽しみ"のスカーレット卿。"音"を愛し、音に生きる吸血鬼で──」

「ここに書かれている譜面は何だ?」


 スカーレット卿の名前が記された書物には譜面が載せられていた。音程は『レb・ド・シ#・ド』というもの。


「その譜面はスカーレット卿がこよなく愛する音程だ。私は試したことはないがその音程を一度でも表現すれば、スカーレット卿が目の前に現れるらしい」

「……そんな馬鹿げたことがありえるのか?」

「試してみてはどうだろう?」

「やるわけねぇだろうが」 

「あぁ、下手に試すのはやめた方がいい。スカーレット卿の気分によっては"殺される"場合もある」

「とんだサイコ野郎だな」

「四卿貴族は人類と吸血鬼の争いに興味を示さない。各々が愛するものにこだわり、この時代まで生き続けてきた。もし敵となるときは"気分"か、愛するものを邪魔されたときだろうな」


 カミルは最後の一人について書物を確認する。だがそこから先は破れており、どこを見ても四卿貴族の最後の一人については不明のまま。 


「おい、最後の一人は誰なんだ?」 

「私にも分からない。だからこの地下室まで調べに来たが、無駄足だったみたいだよ」

「……まぁいい。この三人については他の機関に情報共有しておく」

「あぁ、そうしてくれ」


 カミルは書物を懐に仕舞うと、地上へと繋がる階段へと歩き出す。


「今回の件はお前に任せる」

「ありがとう、カミル──」

「だがな、B機関は今後ヤツが関与する件に人員を派遣しねぇ。これだけは絶対だ。俺は部下を無駄死にさせたくねぇからな」

「……分かった」


 階段を一歩ずつ上がっていくカミル。地下室に一人残されたヘレンは、カミルが去っていったことを確認すると、スカートのポケットに入れていたものを取り出した。


「……四人目については、まだ明かされるべきではない」


 破れていた書物の破片。ヘレンは近くの暖炉に火を点け、破片が二度と読めなくなるよう乱雑に投げ入れる。


「四卿貴族に関しての書物があることを知っていた。しかし、どうも数が足りない。一体どこに消えて……?」


 ヘレンは書物の破片が燃えていく様を眺めながら、近くの本棚へと左手を触れ、地下室の天井を見上げた。


「中立の立場から乗り出し、人間の肩を持っていた彼女が消えた今……四卿貴族は三人。その誰もが中立を貫こうとしているはず」


 暖炉の火はあっという間に書物の破片を包み込み、黄ばんだ紙に焦げ跡を巡らせていく。


「けれど公爵も頭が冴えないわけじゃない。四卿貴族と同盟を組む可能性は十分にあり得る。そうなれば公爵側の勢力は測り知れないものになって……手に負えなくなる」


 ヘレンは考慮すべき点に顔をしかめながらも暖炉の火を消して、地上への階段まで足早に移動する。


「ティアが"シメナ海峡"を渡る日に……"クルースニク協会"との和解を求めるしかない。彼らと良好な関係を築くことができればいいが……そう上手くはいかないだろうな」

 

 ヘレンの後方で灰に変わってしまった書物の破片。そこに書かれていた四卿貴族の四人目は──


『"哀しみ"のバートリ卿──"人"を愛し、人と共に生きる吸血鬼』


 ──哀しみのバートリ卿。




────────────────────




 場所は吸血鬼の領土とされる"ロストベア"。偵察と情報収集を行うためにP機関が設立した本拠地は、跡形もなく瓦礫の山へと変わり果て、一人の少女が木製の椅子へと腰を下ろしていた。


「な、なんなんだよお前はぁ……!?!」


 積み重なる死体の山。唯一の生存者である男は、脚を組んで座っている少女の前で手足を縄に縛られ、怯えた表情でそう叫ぶ。


「吸血鬼じゃないんだろ!? お前も人間で、俺たちも人間なのに、どうしてこんなことをして……!?」

「……」

「そ、それに……俺だけを生かしておいて一体何をしようと──ごほッ!?」


 声を荒げている男の口へ、少女は履いているブーツのつま先を強引に突っ込む。艶やかな青色の長髪が僅かに揺れた。


「──うるさい口だね」

「げほッ、ごほッ……?!」


 少女は微笑しながらぐいぐいと男の口の中へとブーツのつま先を押し込み、視線を他所へと逸らす。


「私はね、話を聞くよりも話をする方に趣向を凝らしたい性格なんだ」

「ごほッ……な、何を言って……」

「おっと、君も物分かりが悪いようだね」

「うがッ!?!」 

 

 少女はブーツのつま先を引き抜くと、反対の足で男の顎を蹴り上げた。容姿に似つかない"力"に、男はそのまま後方へと倒れ込む。


「私は"美少女"だ。だから不機嫌にはならないし、如何なる時でも愛想よく振る舞うだろう。例え、君のような脇役の人間にもね」

「……」

「そう、それでいい。思った以上に物分かりが早いじゃないか」


 男は直感で何も口出しをしない方がいいと考え、黙ったまま少女を見上げていた。少女もそれを求めていたかのように、両手の人差し指を男へ向けながら、ポーズを取った。 


「しかし、しかしだよ。私が絶世の美少女だからこそ深淵のような悩みがある。この悩みを君に聞いてもらおうかな」

「……」

「さて、私の悩みというのは至極単純なものだ。乙女なりの恋心とでも言っておこうか。そう、私は片想いをしている。君からすれば『え、こんな美少女が誰に片想いをしているんだ!?』と考えるのが当然だろう」

「……」

「やれやれ、仕方のない脇役さんだ。そんなに知りたいのならサービス精神旺盛な私が、一体誰に片想いをしているのか教えてあげようじゃないか」

「……」


 少女は自身の胸に手を当て、男を見下ろすように視線を送る。 


「それはね、私だよ」

「……?」

「私は私自身に片想いをしているんだ。なに、驚くことはないよ。絶世の美少女が片想いをする相手は絶世の美少女と決まっているからね。私にとって私自身は想いを寄せるに相応しいに過ぎないということだ」

「……」


 呆然としている男の側にしゃがみ込み、少女は自身の顔を鼻先まで近づけた。


「月夜の元で与えられる美少女からのキス。ロマンチックなシチュエーションだ」

「……!」


 そして戸惑うこともなく頬へとキスをすると、少女は微笑みながら男へ背を向ける。


「美少女からのキスは、どんなものにも代えがたい幸福になるだろう?」 

「……」

「君は『殺さないのか』とでも聞きたげな顔をしているね。よし、答えてあげよう。私は聞き手に回った君を殺すつもりはない」

 

 少女は笑みを浮かべた横顔を男へ見せ、瓦礫の山を歩き始めた。男は助かったと安堵していれば、少女は何かを思い出したかのように立ち止まる。


「……しかしだ、私からのキスを欲しがる連中は多い。特に君のような脇役が貰ったとなれば、さぞかし嫉妬するだろうね」

「アハッ、アハハハッ!!」

「ウ、ウゥウゥウゥッ……!!」

「ひぃっ……!?」


 数十匹は優に超えるほどの食屍鬼。死体の山からのそのそと這い出てくると、獲物である男を取り囲んだ。 


「た、助けてくれッ!!」

「君に格言を与えよう。『美少女に助けを求めてはならない。常に美少女を助ける立場であれ』というのはどうだろうか?」

「う、うあぁあぁあぁッ!! い、いやだぁッ!! だ、だれか、だれか助けてくれぇえぇえぇッ!! あぁああぁあぁああぁああッ!!!」

「残念な脇役さんだ。私は話を聞かない者は嫌いだというのに」


 泣き叫ぶ男に興味を失った少女は右目を押さえながら歩き出し、


「さて……遠い未来、もしこの世に生まれることがあれば──」


 瞳の色を蒼から紅へと変化させ、


「──"来世"でまた会おう」


 食屍鬼による殺戮ショーが始まる前に去っていった。




  3:Late Academy_END



前:クライド・パーキンス、アレクシア・バートリ、サラ・トレヴァー、キリサメ・カイト、セバス・アーヴィン

挿絵(By みてみん)

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