3:21『vs ラミアC』
午前五時。時機に朝日が昇る時間帯。ウェンディはミアの元へと訪れていた。
「ミアちゃん」
「あらウェンディ~♪ どうしたの~?」
「あの人たちが逃げ出した」
「逃げ出した?」
キリサメたちが脱走したという報告。ミアはニコニコとさせていた表情を無表情へと変化させる。
「アイツら、どうやって逃げ出しやがった? もしかしたらだが、抜け道でもあったのかもしれねぇな。なんせあのエサ場の様子を一ヶ月以上も見てねぇし」
「……」
「ウェンディ、オマエは自分の部屋に帰ってろ。こんな時間まで起きていたら、"コイツ"が心配しちまう」
「……分かりました」
ウェンディが部屋を後にすると、ラミアは館全体の壁や床から太い蔓を剥き出しにさせ、大広間へと顔を出す。
「テメェら……」
「ザル警備だったわね?」
「テメェも生きてやがったのか」
「あら、残念だった?」
大広間で立っていたのはルクスαなどの武装を整えたサラとシビル。ラミアは大広間に巨大な花弁をいくつも咲かせ、その一つと融合する。
「良かったナァ!? ジュミョウが伸びてよぉ!! セイはよく噛みしめられたかぁ?! これからコロシテやるからよく噛みしめとけよォ!!」
人骨が埋め込まれた太い蔓での薙ぎ払い。シビルはその場で飛び上がり、サラはしゃがみ込み、リボルバー銃を連射した。
「テメェら、鉄砲アソビが通じると思ってんのかぁ?!!」
太い蔓による乱打。サラは機動力を活かしながら回避し続け、シビルは障害物を上手く利用して回避する。
「あぁイライラさせるじゃねぇかッ!? だったらこれでどうだぁ!? あぁッ!?!」
更に太い蔓の数を増やし、サラとシビルへ襲い掛からせた。二人は視線を一度だけ交わすと、ラミアの元まで全力で駆け出す。
「アホがぁ!! テメェらからワタシに近づく行為はなぁ!? 毒花を自ら触りに行くのと変わりねぇんだよぉ!!」
壁に生えた巨大な花弁から噴出する何千本もの毒針。サラとシビルはすぐに後方へと飛び退いて、広間の柱へと身を隠す。
「ギャハハ、ビビっちまったのかぁ!? お注射のハリはコワいでちゅかってかぁ!?! 気色わりぃんだよぉテメェらはぁ!!!」
太い蔓が二人の足元から飛び出せば、サラとシビルは広間の柱から再度ラミアがいる花弁まで全力で駆けていく。
「ナンドもナンドもぉ!! ワタシはテメェらみたいなメンドウなアホが嫌いなんだよぉ!!」
シビルが左手で剣を抜き、サラが右手で抜刀の構えを取る。ラミアは迎え撃とうと太い蔓で横払いと振り下ろしを繰り出した。
「……ハッ?」
しかしラミアへ近づく前に、二人は視界の外へとそれぞれ左右に逸れていく。これにはラミアも頬を引き攣りながら、
「ナニがしてぇんだぁ? テメェらはワタシとチキンレースでもしてぇのか?」
「……!!」
一向に自分の元へ斬りかかってこない二人に対し、怒りを露にしながら蔓による猛攻を始めた。サラは一瞬で迫りくる太い蔓の横払いをルクスαで受け止めたが、
「かはッ!?!」
「ギャハハ、ワンヒットぉ!!」
そのまま吹き飛ばされると、壁に勢いよく背を打ち付け、蔓によって四肢を拘束されてしまった。
「次はテメェだシニゾコナイの腕ナシやろぉ!!!」
残されたシビルは拘束されたサラを視認し、リボルバーの弾倉に弾丸を込め、ラミアに向かって全弾撃ち尽くす。
「ギャハハッ、だから効かねぇよぉ!! 腕ナシじゃなくて脳ナシの間違いだったかぁ!?!」
シビルは左手でルクスαを握り直し、蔓による猛攻を幾度も受け流しながら、サラの元まで徐々に近づこうとした。
「テメェじゃ助けられねぇよぉ!!」
「……ぐッ!?」
「ツーヒットォ!!」
壁から飛び出してきた蔓の殴打。シビルの頭部へと直撃し、狼狽えたところを足元に伸びてきた蔓によって拘束される。
「ギャハハッ、テメェらは後でジックリ殺してやるよぉ!! そこで残りのセイを実感しておくんだなぁ!?」
ラミアは汚い笑い声を上げながら、蔓による館内の捜索を始めようとした途端、
「楽しそうだな」
「……!」
女性の声が聞こえてきた。ラミアは大広間を見下ろすと、そこにはローブを深く被り、女性用の制服を着た人物が立っていた。
「あぁテメェか? もうあの神経毒から復帰したのかぁ?」
顔が見えなくともラミアはその声だけで視線の先に立っている人物が、アレクシアだと気が付く。
「私が恋しかっただろう?」
「あぁワタシは恋しかったゼ? テメェをズタズタにヒキサイテやりてぇぐらいになぁ!!」
ラミアが最も危険視しているのはアレクシア。奇妙な力で弱点である炎を扱える。逆にアレクシアさえ殺してしまえば、後は流れ作業に過ぎないのだ。
「とっととシネぇッ!!」
出し惜しみはせず蔓による連撃を繰り出せば、アレクシアはリボルバー銃を発砲しながら、襲い掛かる蔓を次々と回避をする。
「どうしたんだぁ!?! 燃やせるもんならワタシを燃やしてみろよなぁ!?」
太い蔓による高速の薙ぎ払い。アレクシアはその場にしゃがみ込んで避けた後、ルクスαを鞘から抜いて、
「なら試してみるか?」
と一言だけ述べると、剣の矛先をラミアにカッコつけながら向けた。
「ギャハハッ!! ワタシはなぁ!? テメェの安っぽいホノオじゃ燃えねぇんだよぉ!?!」
「うん、嘘だな」
「あぁ?」
「いや、嘘をつくな。嘘をついてもいいことはない」
「ナンだテメェ? ワタシに説教か? いいゼぇ!! テメェのユイゴンはありがたくもねぇ説教ってことにしといてやるよぉ!!」
巨大な花弁の矛先がアレクシアへと向けられ、毒針が勢いよく噴出される。アレクシアは左右へぎこちない走りで移動しながら、毒針に被弾しないよう回避した。
「ギャハハッ!! 動きがおぼつかねぇな!? まだ神経毒が回ってんじゃねぇのかぁ!?! おねんねしてこいよぉ!!」
「それは永久に眠れということか?」
「あぁ!? テメェはアタマもおかしくなっちまったのかぁ!?」
数本の太い蔓が床や壁を這いずって迫りくる。アレクシアはリボルバー銃を一度だけ発砲すると、ラミアの元まで駆け出した。
「ほらワタシはここだゼぇ!? 燃やせるもんなら燃やしてみやがれぇ!!」
「やってやろう」
アレクシアはルクスαを構えながら地を蹴って飛び上がり、ラミアの顔へ斬りかかろうとした。
「やっぱりテメェは……」
「……っ」
「力だけのアホだったなぁ?!」
が、巨大な花弁の内側から先端に針が付いた触手が伸び、アレクシアの全身へと巻き付き、触手の針が顔へと向けられる。
「テメェはワタシが直々に飼い殺してやるゼぇ!! その力のショウタイと、肉体を隅々まで調べ尽くして、このワタシと"コイツ"のエイヨウにしてやるよぉ!!」
「……」
「ギャハハッ、何とか言えよなぁ!? さっきのツヨがりでもしてくれよぉ!! まさかビビっちまってできねぇのか──」
ラミアはアレクシアの顔を隠していた邪魔なローブを触手で剥ぎ取ったが、
「ダレだテメェは?!!」
「うん? 僕はクライド・パーキンス。気軽にクライドって呼んでくれて──」
「チィッ!!」
触手で拘束していた人物はアレクシア・バートリではなく、女性用の制服を着たクライド・パーキンス。ラミアはギョッとした表情を浮かべ、顔をクライドの目の前まで近づける。
「テメェ、こんなことをしてナニを企んでやが──」
クライドを問い詰めようとした途端、ラミアは館全体に違和感を覚えると辺りを見渡した。
「キィアアァアァアッ!?! アチィッ、アチィイィイィイッ!!!」
立ち込める灰色の煙と、全身が焼けるような痛み。ラミアは悲鳴を上げ、両手で頭を押さえながらジタバタと悶える。
「テメェッ、テメェらぁあぁ!!! この館に、火を点けやがったなぁ!?!」
「ラミア、今更気が付いたのかね?」
すると東館からセバス、西館からキリサメが姿を見せた。二人は拘束されているサラとシビルを救出するため、腰に携えたルクスαで太い蔓を斬り始める。
「テメェらかぁあぁあぁッ!!? テメェらが火を点けたのかぁぁ?!!」
「あぁそうだぜ。俺たちで部屋の暖炉から引火するように火を点けてきた」
「どうヤッタぁあぁあぁあッ!?! ヒダネになりそうなモノはアトカタもなくカタヅケ──」
「私が、手を貸しました」
ラミアが熱さに悶えながらもそう叫べば、東館からウェンディが姿を見せる。
「ウェ、ウェンディッ!? ナンで、ナンでオマエがそいつらにテを貸したんだぁ!?!」
「……」
そう、これはウェンディの部屋に集まっていた時間帯まで遡る。
────────────
「殺してくださいって……ラミアをか?」
「はい。私はもう、逃げることを止めました」
ウェンディから告げられた『ミアを殺してください』という言葉。それを耳にしたキリサメたちは全員で顔を見合わせる。
「その言葉、本気よね?」
「……本気です」
「うん、フローレンスさんは嘘はついてないよ」
「ウェンディ・フローレンス。私たちは頼まれなくとも、ラミアを殺さねばならないのだよ。そうしなければ、この館で生き残れないだろう」
溜息をつくセバス。ウェンディは返答の代わりに、首を左右に振りながらセバスの言葉を否定をする。
「ですが、今のままではミアには敵いません」
「……えぇ分かっているわよ。唯一対抗できるこのルクスαはもう光らないし、刃こぼれもしてる。この武装だと抵抗もできないわ」
「それにこの館はラミアの寄生植物に支配されてるしな。あいつが断然有利な環境で、俺たちがどう太刀打ちすればいいのか分かんねぇし……」
「大丈夫です」
山積みの課題を提示するサラたちへ、ウェンディは一言だけそう述べると、机の引き出しから銀の鍵を取り出す。
「武装なら──ここに」
「これって……!?」
「"変わった石油"も用意してあります」
ウェンディの部屋の隅にある倉庫らしき扉を銀の鍵で開けば、その先には数本のルクスαやディスラプター零式が置かれていた。武装だけに限らず、リンカーネーションの制服や石油のタンクなども用意されている。
「どうしてここに武装があるの? 私たちの武装は機密事項として扱われているはずよ。輸出は決められた地域にしか送らないはず。私の知る限りではドレイク家に輸出しているなんて聞いたことがないわ」
「……他の"使用人"が仕入れたんです。ミアを、ミアを倒すために。誰かがミアを倒してくれるように」
「他の使用人? そんな簡単に仕入れられるものじゃ……」
次にウェンディは机の一番下にある引き出しから青色の手帳を手に取ると、険しい表情を浮かべていたシビルへ手渡す。
「これは……」
「ミアの特徴や性質が書かれている手帳です」
「……これはあなたが書いたの?」
「いえ、私ではありません。他の"使用人"が命を懸けて……ミアに関して記録したものです」
そこには綺麗な字で事細かにミアに関する情報が記載されていた。受け取ったシビルは、側にいるセバスと共に手帳を読み進める。
「私に、私に、託してくれたものなんです……」
「託してくれた?」
「私が、救われるように……私の為に、命を、捨ててっ……」
サラがそう問いかければ、胸の前で自身の手を握りしめ、両肩を小刻みに震わせながら涙を流すウェンディ。
「でも私は、ミアが、怖くて、怖くてっ……。こんなに、託してくれたのにっ……。なにも、なにもできなくてっ……」
「ウェンディ……」
「殺されたみんなに、きっとうらまれてるっ……!! 私が、なにもできないからっ……!! どうしてお前なんかが、生き残ってるんだって……っ!!」
涙を流しながら嘆き続けるウェンディ。キリサメはサラと顔を見合わせていると、シビルが手帳から一通の手紙を見つけ、
「本当にそうかしら」
「えっ……?」
ウェンディへと渡した。手紙の宛名は"Wendy・Florence"。ウェンディは手紙の封を開き、便箋に書かれていたメッセージへ目を通す。
『ウェンディへ
この手紙を見ているってことは、ついに私とエリゼの秘密兵器が役立つときが来たのね。この手紙を読むまで長かった? それとも短かった? ううん、聞かなくてもウェンディは臆病だから読むまで長かったわよね。でもそれでいいの。とってもウェンディらしいから』
「こんな手紙が、入ってたなんて……」
ウェンディは頬を伝わる涙を拭いながらも、次の便箋へと目を移した。
『ウェンディ、辛い想いをさせて本当にごめんなさい』
「──!!」
『私やエリゼのこと、嫌いになっちゃったでしょ? だって先に逝ってしまったもの。今もきっと怒ってるわよね。勝手に託して、私一人だけ残して死ぬなんてって……』
「そんな、嫌うなんて……」
ポツリと呟きながらウェンディは唇を震わせ、最後の便箋へとゆっくり視線を動かす。
『でもね、私とエリゼはいつまでもあなたのことを愛しているわ。先に逝っても、私とエリゼはいつも空の上から見守ってる。だから、その、良かったら……私とエリゼを嫌わないであげて』
「……!」
『……あいつにギャフンと言わせなさいよ、絶対に負けないで。それと元気でね──バイバイ。あなたの親友 Debora・Tierneyより』
「あ……あぁあっ……」
ウェンディはガクンッと両膝を床に突くと情けない声を上げた。手に持っていた便箋はいくつかの涙の粒で濡れていく。
「こんなに、私を想ってくれてっ……」
「……ウェンディ」
キリサメは床に両膝を突けたウェンディの前でしゃがみ込み、小さな頭へ優しく手を置いた。
「よく──頑張ったな」
「えっ……?」
そしてウェンディへ温かい言葉を投げかけた。
「ウェンディはすげぇよ。まだ子供なのに、ずっとミアに怯えて、ずっと罪悪感に苛まれて、ずっと独りで戦ってきたんだろ?」
「……っ」
「もう我慢しなくてもいいんだ。さぁ存分に泣け!」
「……」
「大丈夫だって! 恥ずかしいけどさ、俺もこの歳で泣き叫んだことがあって──」
「ぐすっ……う、うぁあぁああぁっ……!!」
キリサメの胸元で使用人から本来の少女の顔に戻ると泣き叫ぶウェンディ。
「……心配すんな。俺たちがラミアを倒す」
キリサメはウェンディを優しく抱き寄せると、シビルの方へ視線を送った。
「シビルさん、その手帳を見せてもらえますか?」
「ええ、構わないわよ」
シビルから手帳を受け取ったキリサメはページを捲りながら「やっぱりか」と何かを確信する。
「いい作戦がある」
「作戦?」
「あぁ、この石油を使ってな」
作戦。キリサメはそう伝えると、真剣な眼差しをセバスへと向けた。
「セバス、お前の頭脳と知識が必要だ。協力してくれ」
「……よかろう。その提案とやらを聞かせてみろ、カイト・キリサメ」
「あぁ、俺が思いついたのは──」
────────────
「この館に寄生した植物は、お前の肉体と連携している! だったらこの館ごと燃やしちまえば殺せはしなくても、焼けるような痛みは感じるんだろ!?」
「テメェ、ナンデそれをシッテんだ!?」
キリサメが考えた作戦は、ドレイク夫妻の洋館でミアにバレないよう火事を起こすこと。この作戦を実行するのに必要な役割は"火種を起こす役"と"ミアを引き付ける役"。
「テメェら、そういうコトかぁ!! ワタシの前に出てくんのが、チキンどもばっかだったのはっ……ゼンブ時間稼ぎだったのかよぉおぉッ!!!」
「ラミア。お前は抜かっていたようだな。銃声を合図に、"始まり"と"限界"を伝えていたことに気が付かないとは」
ミアの引き付け役は交戦を開始する合図で銃声を鳴らし、限界まで近づけばもう一度だけ銃声を鳴らすという状況伝達を行っていた。サラとシビルが限界を迎え、銃声を鳴らした時点で、クライドは本館の隅で控えていたのだ。
この伝達方法は実習訓練でアレクシアが考案したものをキリサメは引用していた。
「けれど私たちが順番に姿を見せれば怪しまれるわ。それを防ぐために偽アレクシアを投入したのよ」
「テメェらッ……これもイトてきにッ!?!」
「うん、僕から目が離せなかったでしょ?」
クライドがアレクシアに変装したのはラミアの注意を引くため。アレクシアは危険視されている。それを逆手に取り、セバスとキリサメは黙々と火種を撒いていたのだ。
「しかし早々に火が回れば勘付かれる。すべての部屋がほぼ同時に火が回るよう細工をするのは苦労した」
暖炉から部屋へと火が回るタイミング。一斉に蔓へ引火するタイミング。セバスは緻密な計算と燃焼しやすい材質などの知識で、キリサメの作戦を成功へと導いた。
「その過程は成り立ち、お前が苦しむという結果が表れている。これは成功と言えるだろう」
セバスとキリサメはシビルとサラを太い蔓の拘束から解放し、館の出口である両扉の前に立つ。
「そんでこっからは──」
キリサメはシビルから事前に預かっていたマッチの箱を懐から手に持ち、床から露出している一本の太い蔓へと歩み寄る。
「──お前が燃える番だぜ」
「ナッ……!?」
そしてマッチ箱に残された最後の一本に火を点け、太い蔓へと落とすとラミアの肉体に向かって火が駆け巡る。
「キィアアァアァアッ!!! アチィ、アチィィイィイィッ!!?」
「わぁお!」
「よく頑張ったわね」
ラミアは触手で拘束していたクライドを投げ飛ばしたため、シビルが急いで落下地点で受け止めた。花弁ごと燃え盛るラミアは必死に水で消化しようと試みるが、火が消えることは無い。
「ナ、ナニをしやがったァアァ!?!」
「お前の身体にこれを塗っていたんだよ」
キリサメが視線を向ければ、シビルやサラがルクスαをラミアへ見せつける。
「テ、テメェ、アブラをッ……!!!」
そう、剣には石油が塗られていた。シビルとサラは時間を稼いでいる間、ひたすらにラミア本体へ繋がる太い蔓へと石油を塗りたくっていたのだ。
「クソォッ!! ナンデ、ナンデ、水でショウカできねぇんだッ!?!」
「お前は知らないだろうが、その石油は"ガソリン"っていうんだ! 水だけじゃ簡単には消火できないぜ!!」
石油の正体は"ガソリン"。ガソリンを水で消火しようとすれば炎が周囲に飛び散り、逆効果となってしまう。つまり太い蔓から水が噴き出せば噴き出すほど、更に炎上していくことになる。
「テメェらだけはぁあぁッ!! テメェらだけはユルさねぇええぇッ!!!」
「くっ……予定よりも元気が有り余ってるじゃない!」
太い蔓で大広間の壁や床を何度も叩きつけながら暴れ狂うラミア。キリサメはウェンディの手を握りしめ、出口の両扉まで連れてくる。
「よし! 地下室まで避難するぞ!」
「ねぇ、本当にこれであいつを倒せるの!?」
「あぁ倒せる! 俺はこうやってラミアが焼け死ぬ物語を知って──」
「テメェらだけはニガさねェエェエ!!!」
一本の太い蔓が出口の両扉に向けて振り下ろされると、サラたちは東館側へと追いやられ、キリサメはたった一人だけ大広間の中央へと残されてしまった。
「カイト!」
「俺は大丈夫だ! 早く地下室へ逃げろ!」
声を上げるサラにキリサメは地下室へ避難するように促す。しかしサラは「違う!」と否定をし、
「違うわ、上よ!」
「……!!」
上を見るように声を張り上げた。キリサメの目前まで迫りくる人骨の埋められた太い蔓。キリサメは声も出せないまま、思わず目を瞑ったが、
「──耳障りな奇声だ」
微かに聞こえてくるアレクシアの声と共に、太い蔓が真っ二つに斬り捨てられる。キリサメとサラは東館の入り口にいるクライドへ、口をぽかんとさせたまま視線を向けた。
「あんた、今声真似を……?」
「うん? 僕は何も言ってないけど?」
「は? じゃあ今のは……」
食堂から飛び出す人影。暴れ狂う蔓に次々と飛び乗りながら、苦しみ悶えるラミアの巨大な花弁の上で着地する。
「黙れ」
「ムグッ!?」
「アレクシア!」
人影の正体は本物のアレクシア・バートリ。左目に付けていた黒色の眼帯を外し、瞳を紅色に染めていた。
「デ、デメェッ!! イギでやがッ……!!?」
「私の言葉が聞こえなかったのか? 私は貴様に"黙れ"と命令したんだ」
「ウグォッ!?!」
アレクシアは両頬を潰す勢いでラミアの口元を折れていない左手で押さえ込み、
「──"インフェルノ"」
"蒼色の獄炎"でラミアの身体を一瞬にして包み込んだ。




