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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
3章:アカデミー後期

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3:19『vs ラミアA』

 私たちは左右で分断するように太い蔓を回避する。その破壊力は見た目よりも凄まじいもので、石の床は粉々に粉砕していた。


「こんな"でかぶつ"をどう倒せばいいのよ……!?」

「本体だ、本体を狙え!! あいつの弱点は花弁と融合したラミア本体だ!!」

「……とカイト・キリサメは述べているが?」

「どうして弱点を知っているのかは後で問いただすとして──」


 キリサメからラミアの弱点を耳にしたサラは、態勢を低くし抜刀の構えを取ると、地面を力強く蹴り、


「──今はあいつを殺すわ」


 その場から風の如く駆け出した。ラミアは迫りくるサラへ、蔓による鞭打ちを何度も繰り出すが、サラはそれらを器用に回避し続ける。


(今のうちに……あの女の武装を回収するか)


 サラに集中しているラミアの隙を突き、地下空洞の奥で座り込んでいるシビルの元まで駆け寄ると、ルクスαを拾い上げた。 


(……死んでいるだろうな)


 片腕の切断面から既に多量出血している。死んでいるか、もしくは気を失っているか。どちらにせよ、この女は"もう助からない"。


「どうしたの? ワタシを殺すんでしょ?」

「くッ、これ以上は近づけないわ……!!」


 苦戦を強いられているサラ。ラミア本体に近づけば近づくほど、蔓による鞭打ちは激しさを増す。機動力の高いサラでもすべてを回避するのは厳しいようだ。


「受け取れ」


 私はシビルのディスラプターαを拾い上げ、傍観しているセバスへ投げ渡す。


「私に援護射撃をしろというのかね? あの"生物"にこの鉛玉が通ずるとは思えないが」

「何もしないよりはマシだろう」


 そしてルクスαを鞘から抜き、ラミアの元まで全力で駆け出した。


「私に合わせろ」

「ほんと無茶言うわね」


 蔓の矛先がこちらへと向くのを確認すると、サラへ私と動きを合わるように要求する。私が東の方角から、サラが西の方角から挟み撃ちをする形で、本体のラミアまで近づこうと試みる。


「オマエたちには~♪ 近づけない~♪」

「主音から学び直せ」


 ラミアは私たちのことを舐めていた。呑気に歌いながらサラと私へ蔓で鞭を打つ。恐らく五割の力も出していないことだろう。


「どうするのよ……! 私たち、完全に弄ばれてるけど!?」

「死ぬ気で斬りかかれ」

「はぁ!?」

 

 私はサラへそう告げると、襲い掛かる蔓を剣で受け流しながら前進する。受け流す振動ですら、剣を持っていた手がやや痺れる。まともに受けてはならない破壊力だ。


「あなたが私に合わせなさいよ!」

「お前に合わせればヤツには一生近づけん」

「私を殺すつもり!?」

「ヤツはお前を殺すつもりだ」

 

 サラは必死になって叫びながら一歩ずつ前進した。私はある程度の距離までラミアに近づくと、その場から地を蹴って飛び上がる。


「オマエは死にたがり~? それとも脳ナシ~?」


 空中では身動きが取れまいと、ラミアは蔓を一斉に私の元まで迫らせてきた。しかし、ラミアの行動は私の狙い通りのものだ。


「ほんとあなたは無茶ばかり言うわね!!」

「ハッ?」

   

 真の狙いはサラへ襲い掛かる蔓をこちらへと集中させること。蔓による防衛が手薄になったタイミングで、サラは抜刀の構えのまま、ラミアの花弁まで一瞬で詰め寄った。


「ざんねん~♪ ざんね~ん♪」

「ッ……!!」


 花弁がすぐさま閉じたことで、サラの剣は花弁の表面へと接触する。瞬間、顔をしかめるサラ。それもそのはずで花弁の表面へ斬り込みは入らず、代わりにルクスαから鈍い音がしたからだ。

 

「これは"人骨"……!?」


 花弁の表面には人間の骨がいくつも埋め込まれていた。 人間の骨は鉄よりも固い。ルクスαに伝わる震動に、サラは少しだけ狼狽えてしまう。


「それじゃあ~♪ オマエはさようなら~♪」

「かはッ……!?!」


 狼狽えている間に、ラミアは太い蔓でサラへ鞭打ちを与えた。サラはそのまま石の床へと叩き落され、砂煙が上がるほどに背を強打する。


「サラ!!」

「ほんとっ……きつすぎっ……」


 キリサメが声を上げ、背を打ち受けたサラの元まで駆け寄った。蔓が迫る寸前、サラは剣で受け止める態勢を取ったらしい。その判断のおかげで一命は取り留めたが、仰向けのまま起き上がれずにいた。


「次は~次は~♪ オマエの番~♪」

「チッ……」


 私は舌打ちすると、今度はこちらへ襲い掛かる蔓を次々とルクスαで弾き返す。鞭打ちの一撃一撃があまりにも重い。転生者と吸血鬼が混合したこの肉体でも、長くは捌き切れないだろう。


「……ッ!」


 蔓と蔓の間を通りながら私の傍を横切る弾丸。サラを叩き落とし、余裕な表情を浮かべているラミアの右頬を掠め、少女の頬に血が伝わる。


「……外したな。ここから狙うにはやや左寄りか」


 ラミアに傷をつけたのは後方でリボルバー銃を構えたセバス。私とサラが前線で戦っている最中、ラミア本体を狙える機会を窺っていたようだ。


「……」


 ラミアは左頬から伝わる血を手で拭き取り、じっと手に付着した血痕を見つめる。私は襲い掛かる蔓が大人しくなったため、すぐにラミアから距離を取った。


「よく狙えたな」

「簡単だとも。この明るさに距離を把握しやすい空間。オリヴァー家の者には劣るが、計算をすれば私でもそれとなく当てられる距離だ」

「うん、凄いね。嘘もついてないし」


 片眼鏡を付け直し、呆然とするラミアを見上げるセバス。何もしていないクライドはただ褒めるのみ。


「よくもぉおぉッ!!」

「しかしラミアは憤りを隠せないようだがね」

「よくもよくもよくも、この子の身体に──」


 大きく揺れる地下空洞。へばり付いていた蔓が一斉に動き出し、蔓の至る個所から無数の人骨が浮き出てくる。


「──キズをつけたなぁあぁッ!!?」


 蔓は先ほどよりも数倍の数。更に蔓からは人骨が浮き出ており、鞭打ちによる破壊力は増している。ルクスαのモース硬度は人骨の一つ上である"六"。まともに剣で何度も受け止めれば、いつかは折れてしまう。

 

「まだ戦えるか?」

「ええ、私はまだ戦え──うぐッ!?」

「無理すんな!! まともに歩くこともできないんだろ!?」

(……後退させるしかないか)

 

 サラはキリサメに支えられながら立つことで精一杯。私はサラからルクスαを受け取ると、クライドへ投げ渡し、前線へと無理やり連れてくる。


「お前が代わりに前へ出ろ」

「あれ? どうして僕なの?」

「訓練の分野。お前のクラス順位は二位だった。それなりに動けるはずだ」

「うん、それは嘘じゃないけど僕は前に出たく──」

「来るぞ」


 蔓による横払い。私は後方へと飛び退き、クライドはその場でしゃがみ込んで回避した。


「うん、危なかったね」

「私のことを見ている場合か」


 ラミアは無数の蔓で私とクライドを狙い、乱打を繰り返す。一秒刻みに次々と襲い掛かる蔓を避けることで手一杯。こちらから仕掛ける暇もなかった。


「この子を傷つけたオマエたちは、もうオトモダチにはなれない!! ここで殺してやるッ!!!」

(……埒が明かない)

 

 こうなればただの消耗戦。私たちの体力が切れるか、それとも向こうの体力が切れるか。だが人外のラミアには体力の概念などないだろう。つまりこの状況は私たちが圧倒的に不利。  


「うん、危ないね。これからどうするの?」

「……このまま前進できるか?」

「ううん、前に進んだらあれに当たっちゃうから」


 この蔓の猛攻を回避しながら、ラミア本体へ損傷を与えなければならない。五人分の武装があれば上手く陣営は組めるが、揃っているのは二人分の武装のみ。


「おい」


 私は後方へサラを支えているキリサメへ声を掛ける。


「ヤツの弱点は本体だけか?」

「いや、"火"も弱点だ! 寄生花と同じように"火"を極端に嫌うはず……!」

「そうか」


 隠し通していた"血涙の力"を使うしかない。私は左目に付けた眼帯へ指先を触れると、クライドへ視線を送る。


「ラミアの気を引けるか?」

「うん、できるよ」

「……荷が重い問いに対して、随分と軽い返事をするんだな」

「うん、だってできるからね」

「ならやってみろ」

 

 私は大きく左回りに迂回をするため走り出す。クライドはこちらへのんびり手を振りながら、ルクスαを鞘から抜いた。


「ラミアさーん?」

「ハッ?」

「少し僕とお話ししないー?」 

「どうしてオマエなんかと!!」

「その子、ラミアさんにとって大切な子なんだよね? でもラミアさんがしていることって、本当にその子が望んでいるのかな?」

「オマエ、急に何を話して……」


 剣で斬りかかるのかと思えば、ラミアへ突然言葉を投げかける。クライドの問いかけは明らかにラミアまで届いていた。


「うん、ドレイク夫妻からの愛は本物だったのかな? 変なお花を寄生させて愛を注がれても、それは本物の愛とは言えないし、"その子の生前"と何も変わらないと思うよー」

「オマエ、どうしてこの子の過去を知っているッ!?」

「うん? その子とは生前、仲が良かったんでしょ? でも"死んじゃった"から、ラミアさんはその子のことを想ってこんなに──」

「黙れぇえぇぇえッ!!」


 ラミアはその一言によって怒りを露にすると、クライドへ蔓による鞭打ちを集中砲火する。私はその隙に巨大な花弁のすぐ真下まで到達し、


「黙るのは貴様の方だ」

「キィアッ!!?」


 獄炎を纏わせた六発の弾丸をラミアの顔面に撃ち込んだ。両手で顔を押さえながら、苦しみ悶えるラミア。私は地を蹴って跳躍すると、


「燃えろ」

「キィアァアァアァアッ!!?」


 全身を獄炎で包み込むようにして剣をラミアの胸に突き刺した。燃え盛る獄炎の熱さに悲鳴を上げる。そのまま胸元へ深々と突き刺し、花弁ごと灰にしようとしたのだが、


「ナニしやがるんだ"テメェ"ッ!!」

「──!!」


 ラミアの本体は獄炎に包まれながらも、人骨の埋まった太い蔓を振るい、私に直撃させて吹き飛ばす。刺さっていた剣は真っ二つに折れ、私は石の床へ背を何度も打ち付け、受け身も取れないまま壁へと衝突した。


(……化け物め)


 血唾を吐き捨て、何とか立ち上がる。右腕はあらぬ方向へ折れ曲り、あばら骨にヒビ。蔓による一撃でこの状態。もう二度目は食らえない。


「テメェ、その力は何だ!? 加護じゃねぇだろ!?!」


 今まで少女を演じていたようで、ついに荒々しい本性を現した。やはり寄生型のように少女に肉体のどこかに、"本体の寄生花"がいるのだろう。


「……バートリ卿とやらの力だ」

「ダレだそいつはぁ!? ふざけてんのかぁ!?!」 

(……記憶ごと抹消されているのか?)


 実習訓練にてケルベロス述べていた"他の眷属は洗脳されている"という言葉。どうやらバートリ卿の記憶自体が消されているか、封印されているようだ。


「カワイイ我が子にとんでもないことしてくれたなぁ?!! ワタシはもうキレちまったよぉ!!」

「地盤が、上昇しているだと……?」

「ぐっ、今度は何をするつもりよ……!?」


 大きく揺れる地下空洞。天井が崩れ始め、床が徐々に上昇していく。セバスたちは片膝を付き、私は折れたルクスαを地面に突き刺し身体を支える。


「さぁ、ここがテメェらの墓場だぜぇ!!」

「ここって……館の広間だよな?」

「あり得ない。構造上、このようなことをすれば館など容易く崩壊を……」


 床が上昇し切れば、私たちは館の大広間にいた。しかし地下空洞よりも狭いはずの大広間は、地下空洞と同じ大きさ。更に巨大な花弁も館の四方八方に生え始める。


「この館はワタシと"コイツ"の"居場所"なんだよぉ! どんだけ暴れても、どんだけバカしても関係ねぇ!! ワタシがここにいる限りなぁ!!」


 ラミアは寄生植物で館の形を保ちながらも好きなように変化させられるよう、隅々まで改造し尽くした。つまり私たちが立っている場所は── 


「さぁ鬼ごっこの始まりだぁ!! ほら逃げろ逃げろぉ!!」


 ──ラミアの体内と変わりない。



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