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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
3章:アカデミー後期

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3:15『餌場』


 黒幕を殺す──それしか生き残る方法はないと述べた私の意見に、シビルが「それしかないわね」と同意しながらも眉間にしわを寄せる。


「アレクシア・バートリ。その黒幕とやらはどこにいて、誰なのか見当がつくのかね?」

「場所は手帳に書かれていた地下室、黒幕はドレイク夫妻が拾ってきた"少女"とやらだ。手帳の日記を辿る限り、その少女とやらが館に来てから失踪事件が起きているからな」

「少女って、もしかしてレイモンドが書斎室で……」

「あぁ、私もこの部屋から出て行った後に見かけている。ただ現状の問題は……」


 私はシビルの側まで近づくと読んでいた手帳を受け取り、中のページをペラペラと大雑把に捲っていく。


「"地下室"へ続く階段がどこにあるのかだ」

「そうね。本館にはそんな階段無かったわ」 

「無論、中庭にもそのようなものは見つからなかった。そもそも外へ出られない時点でどうしようもないがね」

(……この手帳からは地下室と書斎室に繋がりがないことしか分からないな)


 手帳を閉じ、机の上に置いた。地下室の情報があまりにも少なすぎる。だからといって寄生型が徘徊している館の中を探し回るわけにもいかない。せめて目星ぐらいは付けるべきだろう。


「……少し落ち着きましょう。まだ時間はあるわ。本当に地下室への手がかりがなかったのか。もう一度ゆっくりと思い出すべきよ」

「それもそうね。今は冷静になるべきかも」


 シビルの意見に賛同したサラ。私たちは各々で地下室への情報が無かったのかを思い出すことにした。


(埒が明かないな。どれも憶測になる)


 私は様々な情報から地下室への手がかりを考察しようとしたが、所詮は確実性の薄いもの。どうしようもないと一度思考を止め、書庫で借りてきた『悲劇の王女』を読み進めることにする。


『この宮殿には悪魔が潜んでいる。その悪魔は国を治める立場になった者たちを、次々と呪い殺していく。だから両親やアメリーはその悪魔に殺された。それをアメリーから聞かされていたと。そして次は私の番であると』


 最後に読んだページは次女のクラリスが三女のヨハンナへすべてを話す場面。私はページを捲りながら、次の文章へと目を移す。


『ヨハンナは"それなのにどうして王女に"と尋ねれば、クラリスは"誰かが上に立たなければ、下の者は光を見失ってしまう"と答え、銀の十字架と一枚の紙をヨハンナに渡した』

(……民の為に命を捨てたか)

『"一週間後、他国から悪魔払いの神父様がここへ訪れるわ。アメリーが託してくれたこの十字架と、私が見つけた悪魔の弱点を必ず神父様に……"』


 私はずれていた眼帯の位置を元に戻し、次のページへと捲った。


『そして次の日、クラリスは話していた通り、自身のベッドで息を引き取っていた。一人だけ残された三女のヨハンナはいよいよ王女の座に君臨する。不可解な死を遂げ、残されたヨハンナは国民たちから"悲劇の王女"と呼ばれた』

(ここで題名の回収か)


 題名を物語の中で回収しない小説と、題名を物語の中で回収する小説が存在する。この本は後者のようだ。


『その日、王女となったヨハンナの夢に悪魔が現れた。悪魔はヨハンナに"オマエの家族を殺してきてやったがそろそろ飽きてきた。もしもお前が悪魔払いの神父を裏切るのなら、オレはオマエの命を助けてやる"。ヨハンナはその恐ろしい悪魔を前に、頷くことしかできなかった』

(……こいつが悪魔か)

『それから一週間後、クラリスから聞いていた通り、悪魔払いの神父がやってくる。ヨハンナはクラリスから託された十字架と悪魔の弱点を隠し持ったままにした』


 ヨハンナが抱いたのは死への恐怖と生への執着。恐ろしい悪魔には逆らえないと怯えているのだろう。


『その晩、神父は"悪魔はあなた様を狙っている。隠れていてください"とヨハンナに伝え、悪魔と死闘を繰り広げる。しかしあまりにも強大な力を持つ悪魔に、神父は追い詰められ──』

「あっ!!」

「……今度は何だ?」


 本を読んでいればクライドがまた何かを思い出したようで、制服の懐をごそごそと漁り始める。


「これ、ドレイク夫妻の部屋から持ってきたよ」

「……地図か?」

「うん、椅子の下に落ちてたんだ」


 クライドが取り出したのは折り畳まれた一枚の館内地図。私は全員の注目を集める中で机の上に館内地図を大きく広げた。


「地下への入り口……」

「ねぇ、もしかしてこれじゃない?」


 館内地図を調べていると、覗き見していたサラが東館の隅を指差す。そこには二階へ繋がっていないであろう階段のマークが描かれていた。


「あっ、そこが地下に続く階段だったんだ」

「あんた、ほんとに殴るわよ?」


 能天気なクライドをサラは苦笑しながら睨みつける。私は現在位置に指を置き、そこから地下へ続く階段までなぞっていく。


「……辿り着けそうか?」

「どうだろうな。東館へ向かうには、寄生型が大量にいる本館を必ず抜ける必要がある。全員で向かうのは無理だろう」


 セバスは私の返答を聞くと、左手に持っていた本を閉じ、私へこんな提案をしてきた。


「ならばアレクシア・バートリ。ここは二手に別れるのが無難だ」

「……分断する?」

「本館で寄生型を引き付ける囮役、その隙に東館の地下へと向かい黒幕を始末する役。この二種類で分けることが無難だと思うがね」

「なら私が独りで地下へ行くわ」


 その提案を耳にしたシビルが真っ先に手を挙げる。私は黙り込んだまま、シビルへと視線を向けた。


「……お言葉ですが、単独は危険かと?」

「最深部まで向かうなんて言ってないでしょ。罠を張られていたときの為よ。単独の方が被害も少ないから」

「道中で"殉職"された場合の考慮は?」

「おいセバス! そんなこと──」

「この方針は取り下げて、地下室へは近づかないこと。助けが来るのを信じてこの部屋で待つのよ。帰還が予定よりも遅れれば、本部もおかしいと思うはず」


 セバスの言葉にキリサメが声を上げるが、シビルは至って冷静にその後の行動を説明した。しかし信じて待つことなど、将来性を微塵も感じない行動だ。


「だ、だったらさ! 出口を塞いでいる蔓を燃やせばいいだろ? そうすれば館から脱出することもできるし……!」

「……燃やす、か」


 私はキリサメの提案を耳にするとマッチを一本取り出し、窓を塞いでいる蔓へ火を点けてから放り投げる。


「燃やせるのなら燃やしてみろ」

「……!」


 火の点いたマッチ棒が触れた瞬間、窓を塞いでいる太い蔓は吸い上げていた"水"を吐き出し、火をあっという間に消化してしまう。

 

「見て分かる通り、焦げ跡が付く程度だ。それにこの植物の再生能力は高い。何度試しても時間の無駄だろうな」

「……マジかよ」


 燃やしてどうにかなるのであれば、私は既に館へ火を放っている。それをしないのは二つの理由がある。一つは先ほども述べた通り、そもそも無駄な労力になるため。もう一つの理由は、館全体を燃やすことに成功したとして──私たちが火災で命を捨てることになるためだ。

 

「さぁ行きましょう。ここで時間を潰すのはもう終わりよ」

「……作戦はどうしますか?」

「私は一階から本館を通って東館に向かう。あなたたちは二階で寄生型の食屍鬼を引き付けて」

「……承知しました」


 セバスとシビルがこれからの行動について話し合っていると、まだキリサメが何か言い足りないのか私の側まで近づいてきた。


「アレクシア、ほんとにシビルさんを一人で行かせてもいいのかよ?」

「……あの女が決めたことだ。私が口出す必要もない」

「けどさ、もしものことがあったら──」

「口うるさい男だ。今は私たちのすべきことをするだけだろう」


 キリサメから視線を逸らした後、扉の前を塞いでいたベッドなどを退け、私たちは行動を開始する。


「これを渡しておく」

「これは、レイモンドの……?」

「寄生型は"火"が弱点だ。もしも地下室で遭遇したらこれで燃やせ」


 私は制服のポケットにしまっていたマッチを取り出し、シビルへと手渡す。


「本数は限られている。それがすべて無くなったら……どうするべきかお前にも分かるだろう?」

「……ええ、分かっているわよ」 


 シビルはマッチを懐にしまいながら、私と顔を見合わせて強く頷くと、階級の証である銀の十字架と銀の杭のホルスターをこちらに渡してきた。


「もし、私が戻って来なかったら──あなたがこの班を導きなさい」

「私に託すつもりか?」

「無責任なのは分かっている。でもあなたにしか頼めないのよ」

「……そうか」


 私は銀の十字架を首に掛け、代わりにシビルへ装着していた銅の杭のホルスターを渡す。

 

「それとグローリアに生きて帰れたら、この手紙をカミルさんに渡して欲しいのと……。アーサーには"あなたはそのままでいなさい"って伝えてほしいわ」

「……」

「それじゃあ、よろしく頼むわよ」


 一通の手紙と伝言を託し、本館に繋がる廊下を走っていくシビル。私は銀の杭のホルスターを右脚に付けると、部屋から出てくるキリサメたちと合流した。


「シビルさんは?」

「あの女は既に行動を開始している」

「……そっか」

「その顔はやめろ。癪に障る」


 私は暗い顔を浮かべているキリサメを一喝し、辺りを警戒しているサラ・トレヴァーへルクスαを渡す。


「お前がこれを使え」

「どうして私に渡すのよ? あなたが使えばいいじゃない」

「"私の次"に剣を上手く使えるのはお前だろう。それに私にはこのナイフがある」

「"私の次"って言葉、余分じゃない?」


 サラはルクスαを受け取ると、頬を引き攣りながらもすぐに装備した。


「アレクシア・バートリ、サラ・トレヴァー。君たち二人が先導したまえ」

「うん、僕はゆっくり後を付いていくからよろしくね」

「男なのにほんと頼りないわ。度胸で前に出れないの?」

「武器もないのに無茶言うなよ……」

 

 私とサラが先頭を走り、本館二階の入り口前まで向かう。道中は運が良いことに寄生型はいない。


「……着いたわね」

「暗くてよく見えないが、あの動いている者共が寄生型とやらか?」

「あぁ、下手に近づいたら死ぬぞ」

  

 やはり広間に寄生型が集合している。一階に数匹、二階に数匹。数を合わせれば十匹は優に超えるだろう。


「合図はどう送るのよ?」

「ルクスαの光だ。一階まで合図を送れ」

「なるほど、分かったわ」


 ルクスαは持ち手の温度により紫色に光り出す。それを利用して一階まで合図を送れば、


「シビルさんの方も光ったぞ」


 それに反応するようにして、西館から本館へ繋がる入り口でルクスαの紫色の光が見えた。私たちはシビルの準備が整ったことを汲み取り、


「扉を背にしながら、私とコイツが寄生型を引き付けて時間を稼ぐ。お前たちはこの扉をすぐに塞げるように、障害物を用意しておけ」

「うん、分かったよ」


 行動を伝えた後、私は本館へと勢いよく飛び込み、すぐそばにいる寄生型へ一度だけ発砲した。


「クカッ、クカカカカカッ!!!」

「カカカカッ!!」


 本館で這いずり回る寄生型が一斉にこちらへと注目する。私はシビルの方へ視線を一瞬だけ向けると、ナイフを構えた。


「こいつが寄生型!?」

「あぁ、距離を保ちながら交戦しろ」

「向こうは全然距離を取らせてくれなさそうだけど……!!」


 二階へと獲物を求めて接近してくる寄生型たち。私とサラは斬りつけたり、蹴り飛ばしたりと、こちらへ近づけさせないよう交戦する。


「やっぱり、こいつ、あれだ……」

「観戦しているのか? 随分と余裕そうだな」


 ふと背後へ視線を向ければ、キリサメが棒立ちしながら私たちを眺めていた。私は苦言を呈し、冷たい眼差しを送り返すと、


「アレクシア、そいつらの首を切れ!!」


 私たちに向けて声を張り上げた。


「首?」

「首の声帯に"寄生花(きせいばな)"がいるはずだ!! そいつを殺せば、動かなくなる!!」 

「……って言ってるけど!? あいつ、頭がおかしくなったんじゃない!?」

「いや、元からあの調子だ」

 

 ケルベロスと遭遇したときと同じ表情。私は適当なことを抜かしていないと気が付き、側まで近づいてきた寄生型の首をナイフで縦に斬り裂く。

 

「グカカッ」

「これか」


 首の声帯に潜んでいたのは、真っ赤な花弁を持つ寄生花。私はソイツを左手で握り潰しながら、強引に引っこ抜く。


「クギャアァアァッ!!?」


 すると肉体ではなく、寄生花が苦しみに悶える悲鳴を上げた。


「なるほど。この奇妙な鳴き声はコイツだったのか」


 私は悲鳴を上げている寄生花を真っ二つに斬り裂いてトドメを刺すと、肉体は仰向けに倒れながら、少しずつ腐り果てていく。

 

「こうやって殺せ」

「花を(むし)るなんて心が病みそうよ」

「花占いと変わらん」

「……あなた、ロマンの欠片も無いのね」


 サラはルクスαで寄生型の頭部と身体を切断し、声帯の部分に張り付いた寄生花を縦に斬り裂く。私はシビルが東館へ辿り着いているのを視線で確認すると、一歩だけ後方へ退いた。


「下がるぞ」

「どうして? 弱点が分かったのなら、このままやり切れるわよ」

「あれを見ろ」


 腐り果てていく寄生型の死体を、包み込むように床から太い蔓が飛び出す。


「何をして……?」

「蘇生だ」


 しばらく経ち太い蔓が床の下へと帰っていくと、蘇生された身体をグネグネと動かす寄生型がいた。


「この館はヤツらの"餌場"だ。このまま殺し続けても埒が明かない」

「それもそうね。一旦退きましょう」


 私とサラが本館から西館へ続く扉まで下がると、セバスたちが運んできたベッドや棚などを一斉に扉の前へと運ぶ。寄生型は扉を叩き壊そうとガンガンッと激しい音を立てていた。


「それで、この後はどうするのかね?」

「部屋まで戻るぞ。あの女を待つ」


 私たちは目標である囮役の行動を終えたため、寄生型が集合してくる前に部屋へと帰還することにした。


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