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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
3章:アカデミー後期

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3:12『ダレか』

 あれから十八時の三十分前を象徴する鐘が盛大に鳴ったが、結局アルフ・マクナイトは十八時まで応接間へ姿を見せることはなかった。


「宿泊する部屋は淑女の方々があちらの一部屋です。紳士の方々はこちらの二部屋でお願いします」


 シビルとレイモンドは二人で東館へとアルフを探しに向かい、残された私たちはウェンディによって宿泊する客室のある西館まで案内される。

 

「俺たちはどうすんだ? アルフがいないから、誰か独りで部屋に泊まらないといけないけど……」

「うん、僕は誰かと一緒がいいな」

「ならば私がこの部屋を一人で貸し切るとしよう。お前たちは二人でその部屋を使いたまえ」

 

 そして私とサラは一部屋、キリサメとクライドで一部屋、そしてセバスが一部屋という部屋割りとなった。


「十九時半に夕食の時間となります。時間になりましたら、本館一階の食堂までよろしくお願いします」

 

 ウェンディは私たちへそれだけ伝えると、本館の方まで歩いていく。その後ろ姿を見送り、各々宿泊する部屋を物色するため、一度解散することにした。


「ふーん、それなりにしっかりとしてるのね」

「調べた限りでは一階から二階まで客室はすべて同じ構成だ」

「そういえば、あなたは西館担当だったっけ?」

「あぁ、何も見つからなかったがな」


 客室に入るとサラはベッドの上で仰向けに寝転がる。私は書庫で借りた本を机に置き、椅子へと腰を下ろした。


「中庭はどうなんだ? 何か手がかりは見つかったのか?」

「いいえ特には何も。アイツと花園を散歩しただけよ」

「そうか」

「ただ……」

「何だ?」

「……何でもないわ」


 サラが何かを言いかけ、すぐに口を閉ざす。私はサラの表情から"まだ話すべきではない"と考えていることを汲み取り、机に置かれた書庫の本に視線を向ける。


「おーい! ちょっといいかー?」


 扉の向こうから聞こえたのはノック音とキリサメの声。サラはベッドから上半身だけ起こし「何か用?」と返事をする。


「セバスが夕食終わったら全員で情報交換がしたいってさ!」

「それ今言う必要ある?」

「今言っときたいんだとよ!」

「分かった。覚えておくわ」

 

 キリサメが私たちの部屋の前から立ち去れば、サラはベッドの上で左向きに寝転がり、欠伸をしながら私の顔を見つめてきた。


「……眠いのか?」

「ええ、今にでもぐっすり眠れそうなほどにね」

「お前がいつも集合時間にギリギリなのは……寝ているからか?」

「そうよ。私は"体質的"に長時間睡眠が必要だから」

「体質的に?」

「私がっていうか、トレヴァー家にはロングスリーパーが多いの。理由は分からないけど、多分遺伝か何かよ」


 瞼を何度も閉じかけ、欠伸を繰り返すサラ。私は溜息をついて、アカデミーの書庫で借りてきた『悲劇の王女』という題の本を開く。


「寝たいのなら勝手に寝ろ」

「一緒にいてくれるのね?」

「読書をするのにこの部屋が最適なだけだ」

「そっ、じゃあ遠慮なく……」


 目を瞑るサラ。ほんの数秒で静かに寝息を立てながら深い眠りにつく。私はその寝息を聞きながら、途中まで読み進めていた部分に再度目を通した。

 

『まずは長女のアメリーが王女の座に君臨する。彼女は国民たちがより豊かに過ごせるよう国の体制を一から整え、宮殿の改築を行った』

(そういえば、この姉妹の両親は死んでいたな……)

『一時期は平穏が続くかと思われたが、すぐにアメリーの容態が悪化する。彼女は不治の病に犯されてしまったのだ。医師も手を付けられず、アメリーは次女のクラリスに十字架を託すと、静かに息を引き取ってしまった』


 長女の死因は不治の病。こうも悲劇が続くとは流石に思えない。何か裏でもあるのだろうか。


『長女のアメリーの意志を継ぎ、次女のクラリスが王女となる。彼女は他国との交流を積極的に行い、自国との信頼関係を築き上げた。しかしクラリスが他国へ出掛けることが多くなり、ヨハンナは言葉も交わせないことを寂しく思っていた』

(……次はクラリスの番か)

『そんなある日、次女クラリスは"大事な話があるの"とヨハンナを自室に呼び出す』

「おーい! そろそろ夕食の時間だぞー!」

『"よく聞いてヨハンナ、私は明日には死んでしまう"。クラリスにそう言われたヨハンナは"どういうことなの?"と尋ねると、クラリスはすべてを話し始めた』

「おーい? 寝てんのかー?」

「……騒がしいヤツだ」


 静寂を引き裂くようなキリサメの声。私は溜息をつきながら時計の針を見ると、既に十九時を過ぎている。開いていたページをパタンッと閉じ、本を片手に椅子から立ち上がると、ベッドで眠っているサラの身体を揺さぶった。

 

「起きろ。食事の時間だ」

「ふあぁ……まだ眠いわよぉ……」

「知らん。部屋に置いていくぞ」

「私はそれでも構わ──きゃあッ!?!」


 サラの身体をベッドの上で転がして床へと落としてから、私は客室の扉の隙間から向こう側にいるキリサメへ顔を出す。


「な、なんか悲鳴が聞こえたけど?」

「あいつがベッドから落ちただけだ」

「……お前が落としただろ」

「知らんな」


 客室から廊下へと一歩踏み出せば、後方からとてつもない剣幕でサラが私に迫り、胸倉を片手で掴み上げてきた。


「あなたねぇ? 私は寝起きが相当悪いって知ってる?」

「知らん」

「知らないなら一発ぶん殴られても文句ないわよね?」

「私はベッドから落とされてもギャーギャー喚かん」

「は? 私のことを馬鹿にしてるの?」

「まぁまぁ落ち着けって! ほら、早く食堂に行こうぜ! クライドとセバスは先に行っちゃったしさ! 仲良くしよう仲良く!」


 キリサメは私とサラの仲介をしながら、背中を押して無理やり本館まで歩かせる。食堂に到着するまで不機嫌なサラを他所に、私は窓の外に広がる暗闇を眺めていた。


「サラ・トレヴァー、また寝ていたのか?」

「あなたには関係ないでしょ」


 薄暗い食堂。中央にある縦に長机は白いテーブルクロスに覆われ、大人数でも食事ができるよう食器が並べられている。セバスとクライドは既に食堂の席につき、私たちのことを待ちわびているようだった。


「なるほど、関係ないか。ならばその跳ねているアホ毛は整えなくても良いのだね」

「……!?」

「うん、ほんとだね。ぴょーんって跳ねてるよぴょーんって」


 サラは頭全体を両手で押さえ、跳ねている髪を必死に整える。私は食堂を物色している途中で、シビルとレイモンドの姿が見えない事に気が付く。


「あの二人は?」

「先ほど二階の客室まで案内されていた。時期に顔を出すだろう」

「……使用人はどこにいる?」

「その扉の先だと思うがね。この食堂から厨房へと続く通路のはずだ」


 セバスが示したのは私の前にある木製の扉。大した装飾が施されていないことから、使用人の為の通路だと理解する。


「アレクシア、どこに行くんだよ?」

「厨房だ。あの使用人と話がしたい」


 キリサメに行き先を伝えると、木製の扉を通り、厨房へ繋がる通路を突き進む。廊下に敷かれていたレッドカーペットや飾られていた花瓶などはない。料理を運ぶためだけに作られた通路らしい。


(ここが厨房か)


 やはり食堂と同様に薄暗い。私は吸血鬼の血が流れていることもあり、多少なりとも夜目は利く。だがそれでも暗いと感じるほどだ。


「──で──します」

(……?)

「──は──して──です」


 聞こえてきたのはウェンディの声。何者かと並べられた食膳の前で会話をしている。シビルやレイモンドなのかと考えたが、客室まで案内されていたとセバスから聞いている。


(……)


 ならばウェンディと会話する人物は誰なのか。それを探るために気配と足音を消し、近くの食器棚へと背を付け、ウェンディが視線を向けている方を細目で見据える。


(……この角度からでは見えないな)


 角度が悪いためウェンディの向こう側に立つ人物がよく見えない。私はもう少しだけ身体を出し、その人物の全身を目にするが、


(誰もいないだと……?)


 ウェンディの視線の先には人影一つすらなかった。私は目を凝らして何度も確認するが、やはりそこには誰もいない。そしてウェンディはまるで"何者かに教えてもらった"かのようにして、こちらへと視線を移し、


「だ、誰ですか?!」


 大声でそう呼びかけてきた。私は渋々食器棚から姿を見せる。


「あなたは……」

「お喋りは楽しかったか?」

「……どうしてここへ?」

「聞きたいことがあった。だがお前に聞くことが、たった今もう一つ増えた」

 

 私はウェンディの側まで歩み寄ると、先ほどまでそこにいたであろう何者かの立ち位置を確認した。しかし痕跡一つ残っていない。


「誰と会話していた?」

「……そ、その本、わ、私も読んだことあります」

「あの男が腰を抜かした子供の幽霊とやらか?」

「お、王女が、頑張る話ですよね。私、その本が大好きで……」


 ウェンディはこちらの問いには一切答えず、関係性のない話題ばかりを口にする。私は「ならば」と厨房に置かれたナイフを手に取り、


「ひッ……!!?」


 ウェンディの首元へ刃を近づけた。瞬間、私へ向けられる何者かの視線が殺気立つ。衣服越しに肌を貫くような殺気だ。


「"貴様ら"、私はそろそろ茶番に飽きてきた」

「あ、あぁっ……」

「次は私を失踪させてみろ。もし朝方までにそれができなかったら──この使用人を殺す」

「な、なんてことをして……」

 

 私は殺気を向ける何者かにそう宣言をし、ナイフを手に持っていた本の間に挟む。


「お前が隠そうとするのなら、私は強引にコイツらを炙り出すだけだ」 

「ど、どうなっても……知りませんからね……」


 ウェンディはキャスター付きのワゴンに乗せた食事を使用人の通路を使い、食堂まで早足で運んでいく。その場に一人残された私は、野菜や肉などに熱を通すために利用する調理場まで移動する。


(やはり『薪を切らしている』という話は嘘だったか)


 薪を入れる暖炉も客室と同じく新品同様だった。一ヶ月以上も使用された痕跡が残っていない。


(……戻るか)


 壁時計を確認すれば、十七時半まで数分。私は待たせると文句を言われると考え、食堂まで戻ることにした。

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