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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
3章:アカデミー後期

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3:5『事例』


 シャーロットと交渉をした三日後。私は要求された通り、貴族の見世物となるための対人戦について、空き部屋にて召集を受けていた。


(何だ。誰もいないのか) 


 アーサーから召集場所を教えられ、空き部屋に訪れてはみたものの、まだ誰一人として集まってはいない。私は気だるさにより鉛のように重くなった身体を、近くに置かれた椅子へ腰かけ、休ませることにする。


「五分前集合か。大変熱心なことだ──アレクシア・バートリ」

「誰だお前は?」


 壁に飾られた時計を眺めていると、空き部屋に紫髪の男子生徒が姿を見せる。片手には分厚い本、顔には片眼鏡。いかにも"頭脳派"らしい容姿だ。


「私は"セバス・アーヴィン"という名だ。それ以上は何も言う必要はあるまい」


 セバス・アーヴィン。

 名家であるアーヴィン家の血を継ぐ人間。瞬間、私の脳裏にアーヴィン家の始祖と対面した記憶が蘇る。


『"お嬢ちゃん"、止めた方がいいすよ。あんた一人であの数の吸血鬼は相手できないと思う。……知らんけど』

『"怠慢男"、私に指図するつもりか?』

『指図というか、忠告なんすけど。……割とマジで』

『お前は忠告できる立場の人間ではないだろう』


 アーヴィン家の始祖は私のことを"お嬢ちゃん"と呼んでくる男。この男はまともに動くことが少ないうえ、だらだらとしているため、私は"怠慢男"と呼んでいた。


「まさかだとは思うが、お前がもう一人の被害者か?」

「不正解だ。私は対人戦に出場する二名の生徒に、説明をするためここへ訪れた」

「説明役か。なら私の相手は誰だ?」

「いずれ分かる」


 数分も経てば扉がゆっくりと開く。私は椅子に座りながら振り返り、その人物の姿を確認してみれば、


「ここで合ってる?」

「あぁ、間違いではないが……」


 前に早朝からティア・トレヴァーと話をしていた女子生徒だった。確か"サラ"と呼ばれていたはずだ。


「集合時刻を破る寸前だったな」

「破る寸前であって、破ってはいないでしょ?」

「致し方のない性格だ」


 不機嫌なセバスへ「遅刻していない」と主張したサラは、時計の時刻を顎で指し示し、私の隣に腰を下ろす。


「さて……今回対人戦に出場してもらうのはアレクシア・バートリ、そして"サラ・トレヴァー"の二名だ」

「アレクシア・バートリ……。あなたって総合成績で一位の生徒よね?」

「そうだな」

「ふーん、結局はあなたに決まったのね」


 納得するような反応を見せるサラ。私はその反応に眉をひそめる。


「結局はだと?」

「話は多少逸れるが、私が説明する。仮にアレクシア・バートリが出場しなかった時、この場にいるのはナタリア・レインズとなるはずだったのだが……」

「アイツ、私とは戦いたくないって辞退したのよ」

「辞退?」

「彼女の言い分は『私よりも弱い人とは戦いたくないです』というものだ」


 ナタリアからすればサラとは既に訓練の分野で、自分よりも下だと格付けされている。あの性格からするに強者と戦うことにこだわるため、当然のように断りを入れるだろう。


「なるほどな。そこで『ならば誰と戦いたいのか』と聞いた時に上がった名前が私だったのか」

「その通りよ。アイツはあなたと本気で戦うことを求めた。けど分かるでしょ? この対人戦は本気の殺し合いじゃないことぐらい」

「あぁ、あの女ではとてもじゃないが見世物にはならんな」

「だから私があなたの相手として選ばれたのよ」

「ナタリア・レインズは問題児。目的は貴族たちに披露すること。この過程から考察すれば、この組み合わせが妥当な判断だと私は結論付ける」


 手加減を知らない。空気が読めない。優先するは自分自身。この三拍子が揃う時点で、ナタリアが候補から外れてもいい。


「そういえばあなた、その片目はどうしたの?」

「それぐらい察しろ」

「……ご愁傷様」 

 

 私は片目について深くは説明をせず、サラ自身に解釈をさせる。その様子を眺めながら、セバスは手に持っていた本のページとページの隙間から二枚の紙を取り出すと、私とサラへ一枚ずつ手渡す。


「話しが逸れた。軌道を修正し、当日について説明をさせてもらおう」

「ええ、お願い」

「実習訓練の対人戦とは少しルールが違う。まずは一本先取だったのが、三本先取に変更された」

「判定はどうなる?」

「そこに変更はない。武装は"模擬刀"とプラスチック球形弾の"銃"の二つ」

「……木刀じゃないのね?」

「詳細は不明だが、貴族は模擬刀をご所望なのかもしれない」


 渡された紙に記載された当日の流れを確認していると、とある文章に視線が止まった。 


「この『一本ごとに十分以上の時間を掛ける』というのは何だ?」

「"十分以内に決着を付けるな"ということだ。三十分以上はお前たちに対人戦を続けて欲しいのだろう」

「ほぼ八百長に近いわね」

「あくまでも目的は貴族を楽しませることか。つまらん見世物だ」


 真剣勝負ではなく、貴族たちを盛り上がらせるための対人戦。これではまるで貴族たちの玩具、愚にも付かぬ話だ。 


「おおよそは説明をした。疑問点があれば私に質問してくれ」

「私は……特にないわね」

「私もだ」

「ならばこれで解散だ。後はお前たちの健闘を祈ろう」


 セバスは説明役の責務を全うすると、早足で部屋から出て行ってしまう。あの男もまた、私たちのように面倒役を押し付けられた立場なのだろう。


「……アレクシア・バートリ」

「何だ?」

「私はあなたに負けないから」

「……八百長の対人戦に、勝敗を競うほどの価値はないだろう」

「知らないの? この対人戦を見に来るのは貴族たちだけじゃないわ。あの十戒たちや皇女様だって見に来るのよ」


 サラは椅子から立ち上がると、欣幸(きんこう)の至りだと言わんばかりに紙から私へ視線を移した。


「私にとってこの対人戦は、実力を披露できるチャンスにもなる。あなたに勝つことができれば、お姉ちゃんもきっと私のことを……」

「お前の姉はティア・トレヴァーなのか?」

「ええ、私のお姉ちゃんは十戒のティア・トレヴァーよ」

「数日前、朝方に口論をしていたな」

「……あなた、見ていたのね」 


 サラは私に盗み聞きされたことに対して不快感を露にする。しかし秘めている想いを抑えきれないのか、私に向けて淡々とこんな話を始めた。


「私はトレヴァー家の血を継いでいる。今すぐにでもお姉ちゃんのようになって、吸血鬼たちと戦わないといけないのに……」

「……」

「お姉ちゃんは、私を認めてくれない。アカデミーに入学する前から、私をリンカーネーションから遠ざけようとして……」

「遠ざける、か」

「だからこの対人戦は、私が戦えることを証明するいい機会なの。五百八十一期生を代表するあなたに勝てば、お姉ちゃんも私のことを認めてくれるはず」


 話だけ聞いていれば、サラ・トレヴァーはどうも生き急いでいるように見える。恐らくは名家としての重荷を抱えているのだろう。


『キャハハッ、またリリアンと会っちゃったね"自己顕示欲"!』

『私に何の用だ"虚言癖"。また下らん話でもしに来たのか?』

『バーカ! 脳みそミジンコ以下のお前が、ここでくたばってないか見物しに来ただけだしー!』

『勝手にしろ。私はお前の死に目など興味はないが』

 

 脳裏に過るのはトレヴァー家の始祖である"リリアン・トレヴァー"との会話。見栄を張るために嘘をつくことから、私はコイツを"虚言癖"と呼んでいた。そして向こうは私が目立ちたがり屋だと認識していることから"自己顕示欲"と呼んでいる。


「長話をしてもらったところ残念だが……」

「……?」

「私はお前の求める勝利の意味に興味がない」

「は、はぁ?!」


 私は椅子から立ち上がり、声を荒げたサラと向かい合う。例えこの女が名家の重荷を抱えていようが、姉に認めてもらおうとしようが、私には関係のないことだ。


「だから──勝敗などどうでもいい」

「……!」

「お前が勝ちたいのなら勝てばいい」

「……」

「勝つのは簡単だ。私を倒すだけ。たったそれだけでお前の求めた勝利と、周囲の人間からの承認を手に入れられる」


 私は態度を示し、サラの真横を通り過ぎる最中、


「ただお前が懸念すべきは──」


 すぐ隣で歩みを止めると、


「──その安易な考えだ」


 そう呟きながら、空き部屋を後にした。



────────────


 

 昧爽(まいそう)の時刻、立ち込める朝靄(あさもや)。貴族たちが対人戦を見物するために集う予定の会場で、ヘレン・アーネットはたった一人で会場の下見をしていた。


「やっぱりここにいたか」

「カミル。今日は目覚めが早いな」

「俺だってこんな時間に起きたくねぇよ。だが急に部下から伝達が来たもんでな。それをお前に報告しに来たんだ」

「ほう、内容は?」


 カミル・ブレインは手に持っていた報告書を見ながら、ヘレンに向けてこう読み上げる。


「"ドレイク家"の夫妻が容態を崩した。当日、グローリアの会場には来れないとのことだ」

「容態を崩した……。それは大変だな」

「この連絡と共に、ドレイク家から"派遣要請"も届いた」

「派遣要請?」

「館の住人が消える──"失踪事件"が起きているらしい」

「失踪事件……」


 ヘレンはカミルから報告書を受け取ると、一文一文をじっくりと眺めながら、表情を険しくさせていく。


「ちなみだが、ドレイク家の人間は食屍鬼か吸血鬼の仕業だと主張している」

「……」

「だがまぁ、ドレイク家からはいい評判は聞かねぇ。まだ分からんが、失踪という名の"家出"じゃねぇか? T機関から銅の階級を数人派遣させれば解決する気もするが……」

「どうだろうか。ここは暇な私が一度顔を出した方が──」

「馬鹿言うな。お前はドレイク家の人間に嫌われてるだろうが。館にも入れてもらえないぞ」

「しかしだな……」

「皇女、お前は大人しくしてろ。前のような"いざこざ"をまた起こすつもりか?」


 カミルはヘレンから報告書を奪い返し、制服の懐に仕舞う。


「カミル、私はあの一件が間違っていたとは一度も思ったことがない。今でも正しかったと自信を持って言える」

「あぁ、お前は間違っていなかっただろうな。だが"やり方"が間違っていた。流石に一人で突っ走りすぎだ。せめて俺と足並みを合わせろ」

「……すまない」


 ヘレンが苦笑交じりに謝罪の言葉を述べる姿。それを目にしたカミルは、重い溜息をついて、会場から立ち去ろうと出口まで歩を進める。


「あぁ忘れていたことがある。ここには書いてねぇが、武器庫から"武装の一部"が消えたらしいぜ」

「消えた?」

「しかも一ヶ月以上も前にだ。管理書に書かれた数と実際の数が合わないらしい。俺は"不法な輸出"だと睨んでいるが……この件もこっちで洗っておく」

「ありがとう」

 

 ヘレンは感謝の言葉を述べ、あることを思い出し、カミルへこう呼びかける。


「カミルも見に来るんだろう?」

「……貴族たちのお遊びのことか?」

「そうだ、数日後に控えた対人戦。アレクシア・バートリとサラ・トレヴァーが出場する」

「トレヴァー家の人間と、後はアイツか。」

「アレクシア・バートリが扱うであろう逆手持ちの剣術と剣技。カミルの目でブレイン家のものなのか見極めて欲しい」

「……気が乗ったらな」


 カミルがそう返答し会場を後にすれば、会場に差し込んだ朝日の光が、ヘレンを僅かに照らしていた。


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