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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
3章:アカデミー後期

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3:3『つまらない日』


 何週間ぶりかの座学を終えた私は、キリサメと共にシャーロットの研究室まで並んで歩いていた。わざわざ出向く目的は『スマホの充電』とやらをするためだ。


「なんか、久しぶりの割にフツーの座学だったな……」

「普通でいい。変に黙祷をさせられる方が気に障るだろう」


 久々の座学は至って普通だった。始まり方も終わり方も、実習訓練前と何も変わらない。ぽつんぽつんと空いている席に対して、アーサーは何の反応も示さなかった。


「気に障るってことは……アレクシアも亡くなった人には思うことがあるのか」

「気に障るのは無関係の人間へ私が黙祷させられることに対してだ」

「ははっ、やっぱりそうですよねぇ……」


 私の隣でキリサメが苦笑していれば、向かい側から大柄の男子生徒がずかずかと胸を張りながらこちらへと歩いてくる。


「よぉよぉ、アレクシアってのはおめぇか?」


 筋肉質の体型に橙色の短髪。ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべ、こちらの全身を舐め回すような視線を送ってきた。


「……知り合いなのか?」

「知らん。誰だお前は?」

「おれ様はアルフ・マクナイトだ」

「アルフ・マクナイト……あぁ、Cクラスで訓練の成績が三位の生徒か」

「おぉよく知ってんじゃねぇか。そんで、おめぇは総合成績トップのアレクシア・バートリで合ってんよなぁ?」

「間違っていないが、お前が私に何の用が──」


 そう返答した瞬間、アルフは私の顔面に向かって右拳のストレートを放つ。


「おいてめぇ!? 急に何をして──ごふッ!?!」

「おめぇは引っ込んでろよ」


 私が床に背を打ち付ければ、我に返ったキリサメが止めに入ろうとする。しかしアルフは右拳をキリサメの鳩尾へと打ち込み、私の上へと馬乗りになった。


「なぁ優等生さんよぉ? おれ様はどうしても信用できねぇんだ。おめぇが五百八十一期生の中で、最も強いってことがよぉ」

 

 そしてアルフは私の頬を強靭な両拳で何度も殴り続けると、胸倉を掴み上げて、厳つい顔を近づけてくる。


「メスの分際で、総合成績でトップを取るなんてありえねぇ。教師共相手に腰でも振ったのか? あぁ?」

「……」

「何とか言えよなぁ? 」


 目の前まで迫りくるアルフの顔。私はその横暴な顔を鼻で笑いながら、血唾を床に吐き捨てた。


「おめぇ、何を笑って……」

「生きることが──そんなにつまらないか?」

「あぁ?」

「生きることがつまらないのかと聞いている。その耳は飾りではないだろう」

 

 胸倉を掴むアルフの手を片手で押さえ、こちらを睨みつける瞳を覗き込み、私はそう問いかける。

 

「……何を言ってやがる?」

「自分が強者として認められないこのアカデミーが、そんなにつまらないのか? それとも……自分の思い通りにいかないこの世界がつまらないのか?」

「おめぇ、ワケの分からねぇことばかり言うんじゃ──」


 アルフは少しだけ動揺した素振りを見せると、やけになって振り上げていた拳で私の顔を殴ろうとしたのだが、


「それ、嘘だよね?」

「……ッ!」


 いつの間にか一人の生徒が中腰になって私とアルフの横顔を眺めていた。それに気が付いたアルフは振り下ろそうとしていた拳を止める。


「アルフ君、この子に図星を突かれちゃったでしょ? 動揺が顔に出てるよ?」

「だ、誰だよおめぇは……!」

「嘘をついたら駄目だよ。アルフ君の心が汚れるからね」


 長い白髪を持ち、黒色のマフラーを首に巻いた生徒。ぱっと見は女性だが、男子生徒の制服を着ていることから、恐らくは男性。


「あれ? アルフ君、もしかして僕のことを怖がってるの? 怖がってるのって『取り柄の強さで一番が取れなかった』から?」

「……!!」

「それとも『僕が君の心を読み取っている』から?」

「ふ、ふざけんじゃねぇ!! そもそもおれ様が怖がってるわけ──」

「あ、また嘘ついたでしょ? 今さっき嘘は駄目って言ったばかりなのに……」

「き、気持ちわりぃんだよッ……!! さっきから何なんだよおめぇは?!!」

 

 アルフは私の胸倉から手を離すと、詰め寄ってくる白髪の生徒に右拳ですぐさま殴りかかった。


「……!?」


 しかし白髪の生徒はアルフの右拳を軽々と避け、空いている左手を掴みながら、無理やり自身と握手させた。


「僕の名前は"クライド・パーキンス"。気軽にクライドって呼んでくれていいよ」

「は、放せこの野郎!!」

「あっ……」


 アルフは即座に手を振り払うと、白髪の生徒から距離を取り、私たちへ背を向ける。 


「チッ、おめぇのせいで調子が狂った」

「うん。今のは嘘をついてないね」

「黙りやがれ! おめぇは気色がわりぃんだよ!!」

「うん。今のも嘘をついてな──」


 白髪の生徒がそう言いかけた瞬間、アルフは廊下の壁に勢いよく蹴りを入れ、どこかへ立ち去ってしまった。


「いってて……アレクシア、大丈夫だったか?」

「私の心配より、自分の心配をしろ」


 アルフがその場から立ち去れば、うずくまっていたキリサメが片腹を押さえながら立ち上がり、私の身を案じてくる。


「お前の方が滅多打ちにされてたし……。心配するに決まってんだろ」

「おー……彼は君のことを本当に心配してるみたいだよ?」

「……何なんだお前は?」


 先ほど自身のことをクライドと名乗った男子生徒は、私が起き上がる姿を眺めながら、「うんうん」と頷いて感心していた。


「僕はクライド・パーキンス。クライドって呼んでくれていいよ──"バートリ"さん」

「なぜ私の名前を?」

「同じクラスのレイヴィンズさんからよく話を聞いていたんだ。バートリさんが凄い人だってことや、孤児院仲間だってことをね」

「……アイツか」

「だからバートリーさんも僕のことを気軽に呼んで──」


 思い返してもみれば順位表を目にしたとき、クライド・パーキンスとクレア・レイヴィンズは同じBクラスだった。


「どうでもいい」


 私はクライドが差し伸べた右手を払いのけ、自らその場に立ち上がり、口元に付いた血を制服で拭う。


「私がお前をどう呼ぼうと私の勝手だ。それと……私を下の名前で呼ぶのはやめろ」

「え、どうして?」

「不機嫌になる。ただそれだけだ」

「んー……」


 クライドは何の疑問が生じたのか、ジリジリとこちらへ歩み寄り、鼻先が触れるギリギリまで顔を近づけてきた。その吐息からは妙に甘い匂いが漂ってくる。


「初めてかもねー。僕がこんなに心を読み取れないのって」

「……」

「君はもしかして"心が無かったり"する?」

「お前の趣味の悪い"覗き見"もその程度ということだ」


 私はそう吐き捨てると、クライドの横を通り過ぎ、シャーロットの研究室まで向かうことにした。その最中、私の脳裏にパーキンス家の始祖と対面した記憶が蘇る。


『……"悪党"、こちらと手を組まないのは"嫉妬"が原因か?』

『それはお前の方だろう"悪趣味"。"嫉妬"という感情を教えてやろうか?』

『惜しいことだが、君から学べることは何も無い』

『ならお前は一生私を越えられないままだ』


 パーキンス家の始祖は私のことを"悪党"と呼んでくる男。だから私は人の感情を学ぶために心を操るアイツを"悪趣味"と呼んでいた。 


「ちょ、ちょっと待てってアレクシア! 一応助けてもらったんだし、お礼ぐらいは……」

「いいよいいよ。バートリさんは感謝する気持ちはないみたいだからね」

「あいつ、本当に不器用っていうか、素直じゃないっていうか……」

「気にしなくていいよ」


 キリサメはその場で大きな溜息をつくと、クライドはキリサメの左肩を軽く叩く。


「えっと、クライド……だっけ? お前のおかげで助かったよ。今度また会った時に埋め合わせするわ」

「これぐらい大丈夫だよ。あっ、君は女の子からの印象がいいタイプだったり?」

「い、いや、アレクシアとはたまたま仲が良いだけで……」

「君は『女の子から好印象を貰いたいタイプ』だよね?」

「え? そ、そりゃあ、まぁ貰いたいけど……」

「僕は仲良くなる方法を知ってるよ。どう? 少しでも僕と話を──」

「キリサメ、行くぞ」

「わ、わりぃ! アイツ、機嫌悪そうだからさ! もう行くわ! 色々とあんがとな!」


 感謝の言葉を述べてから、私の後を追いかけてきた。クライドは黒色のマフラーを片手で掴み、私たちとは逆方向の方角へ歩き出す。


「おいアレクシア……! ちゃんと『ありがとう』のお礼ぐらいは言え──」

「あの生徒と長話するのは危険だ」

「は? 危険ってどういう……?

「そのままの意味だ。あの男と話してもいいことがない」

「待て待て! そりゃあさ、ちょっとはおかしいところもあるかもしれないけど……。普通に会話もできるし、あのアルフってやつも追い払ってくれ──げふっ!?」


 必死にクライドのことを庇おうとするキリサメ。私はスマートフォンとやらが入ってるであろう胸ポケット辺りを右手で強く叩いた。


「それのことを知られたらどうする?」

「それって、スマホのことか?」

「あの男はお前から情報を抜き取ろうとしていた」

「情報? 一体何の?」

「私とそのスマホの情報だ」

 

 クライドは私の心理を読み取ることを諦めた途端、キリサメにその矛先を向けていた。露骨すぎる対象の切り替え。まるで詮索する方向性を改めるかのようなもの。


「……私はあの男に心は読み取らせないが、お前はどうなんだ?」

「ま、まぁ、すげぇ言い当てられたけど……」

「他人と話をするな、その口を塞げ、言葉を慎め」

「俺はお前の犬かよ……」


 キリサメは両肩を一瞬だけがっくりと落とすと何か対策を閃いたようで「そうだ!」と言いながら、私の方へ自信満々な顔を向けてくる。


「どうすれば心理戦に強くなれるか教えてくれよ!」 

「はぁ……お前ほど単純な男が強くなれると思うか?」

「分かんないだろ? 俺にも心を読み解く才能とかあるかもしれな──」

「お前にその才能はない」

「どこまでも厳しい性格だなお前は!!?」

 

 声を荒げるキリサメ。私は「仕方のない男だ」とぼそっと呟き、その場で足を止めると、


「お前には──"気になった異性"がいる」

「へ……?」


 キリサメの顔を見上げながら、そんな言葉を投げかけた。


「その異性は、このアカデミーにいる」

「は、はぁ!?」

「初めて会った時から気に掛けていたが、中々声を掛けられないまま、時間が過ぎている」

「ちょ、ちょっと待てよおい!?!」 

「そしてその異性の名前は──」

「待て待て待てぇえぇッ!!」


 キリサメは慌てふためき、私の口を手で塞ぐ。図星を突かれているようで、顔は真っ赤だ。


「な、なんでお前がそのこと知ってんだよ!?!」

「"ウォーム・リーディング"」

「ウォーム・リーディング……?」

「一定の情報を得ている状態で"コールド・リーディング"することだ」

「コ、コールド・リーディング……?」

「"事前の準備無しで心を読み解く"テクニック。あの男はこの手法を使っていた」

 

 理解できていないキリサメに私は渋々こう説明する。


「"気になった異性がいる"という言葉に、好意を抱いているという意味は含まれていない。だがお前は"好意"の意味だと捉えただろう?」 

「そ、そういえば……」

「それに初めて会った時から気に掛けていた……というのは当たり前。最初に気になった異性がいると言っているのだからな」

「あ、そうか……!!」

「気になったままでいる、というのも声を掛けられないからこその状態……となれば、時間は過ぎているだろう」


 明確な言葉を使わず、広い意味で捉えられる言葉を使う。そうすれば勝手に相手がボロを出していく。これがコールド・リーディング。


「覚えておけ。読み解くものは心ではなく、相手の『顔・衣服・表情・匂い・口調』それらすべてを読み解くことを」

「じゃ、じゃあ占い師とか霊媒師とかってインチキだったんじゃ……」

「何を指しているかは知らんが、お前のことを最も知る者はお前自身だ。読み解かれたときは、自身がボロを出していると反省しろ」

「は、はい……わ、分かりました……」

 

 あのクライドという男はまだ未熟だった。そう独白しながらも、私は隣で息を呑んでいる単純な男を引き連れて、研究室に向かうことにした。



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