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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
2章:アカデミー前期

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SideStory:シャノン・オークス

 ※この物語はDクラスの一般生徒、シャノン・オークス視点のものです。時系列はアレクシアたちが食屍鬼と交戦しているときです。

 


 少女は森林地帯を走る。何度も転び、何度も起き上がり、とにかく木々の隙間を縫うように走り抜けていた。


「何で、何で、何でッ!?」


 少女の名はShannon(シャノン) Oakes(オークス)

 年齢十五歳、ミディアム程度の黒髪を持つ少女。生まれは名家ではなく、一般的な家系の生まれ。出身地はEast(イースト) Thesis(テーゼ)。この町の名家を上げるのであれば、Plender(プレンダー)Newton(ニュートン)Izzard(イザード)の三家系だ。


「食屍鬼があんなに押し寄せてくるなんて聞いてない……!」


 他に少女の特徴を上げるとすれば、Dクラス内で訓練の分野において、三位の成績を獲得していること。後はDクラス内でもそれなりの人望があり、一班の班長を務められるほど、統率力が優れている点だ。


「逃げないと、逃げないと、逃げないと……!!」


 そんな少女が惨めに逃げ回っている理由は、一班のキャンプ地に大量の食屍鬼が現れたから。少女は班員と共に食屍鬼と戦ったが、"数"で押し負けた。その結果、班長である少女は班員を見捨て、ついには逃げ出したのだ。


(私は何も間違っていない……! 正しい、この判断が正しい! 全滅するぐらいなら、私一人で生き残ることが正解でしょ!!)


 助けを求める班員に見向きもせず、少女は我が身の大切さに自身を正当化させようとしていた。


「はぁっ……はぁっ……」


 息を切らし、草むらの陰に座り込む。震える膝を抱え、呼吸を何とか整えようと試みる。


「落ち着いて、落ち着いて私。今は状況把握が大切だから……」


 少女は自身の武装を確認する。やや刃が零れたルクスαに、四発の弾丸が込められたディスラプター零式。ホルスターに入れられた木の杭は残り四本。


(食屍鬼と下手に交戦はできない……。先生たちのキャンプ地まで、隠れながら進まないと……)


 食屍鬼の鳴き声や足音を耳にすれば、その場に隠れてやり過ごす。そして前進する。これを繰り返し、方角を見失わないように教師のいるキャンプ地まで歩を進めた。


「――て」

「それ――」 

(声……?)


 ある程度歩を進めれば、少女の耳に食屍鬼の鳴き声ではなく、ハッキリとした人の声が聞こえてきた。少女は声のする方向へと慎重に忍び寄り、草むらの隙間から覗き込む。


「ハローハロー! あのぉ、あれ? えっとぉ、五ノ罪のNina(ニーナ) Abel(アベル)お姉ちゃん?」

「一ノ罪、Stera(ステラ) Raines(レインズ)。こんなところで会うなんて奇遇ね」


 シャノン・オークスの目に映ったのは、赤髪を二つ結びにした黒色のワンピース姿の少女と、黒髪をツインテールにした清潔そうな女性。


「数年ぶりぶり! あれ? 数年って何年ぐらいだっけ? 三年、四年、五年? それに一年って三百六十五日? 三百六十五日が一年? んん?」

「最後に会ったのはアーネット家の人間と十戒を潰したあの日。詳しくは覚えてないわ」

(ま、まさかあの二人は……げ、原罪?)


 シャノンは息を呑んだ。座学で学んだ未知の存在が、視線の先に立っている事実。見つかれば殺される……とシャノンは草むらで息を潜める。


「あれれ? でもどうして、どうして五ノ罪のお姉ちゃんがここにいるの? せっかく、私がケルちゃんやオルちゃんを連れてきたのに。あっ、ケルちゃんとオルちゃんが好きな食べ物は――」

「私はAbel(アベル)家の人間を殺しに来ただけよ。あんたもRaines(レインズ)家の人間を殺すために、こんな薄汚い森へ来たんでしょう?」

「うん? ううん、そんな気もしたけど、そんな気もしなかったかも!」

「あっそ。正直、あんたが何をしようがどうでもいいわ」

(ここから、早く離れないと……)


 シャノンは会話をしている原罪二人に背を向け、中腰で静かに移動を始めたが、


「えっ、どこに行くの?」

「――!!」


 制服の襟をステラに掴まれ、草むらから引きずり出された。シャノンは紅に染まった瞳で、二人に見下ろされる。


「私たちの話を盗み聞きしていたのはあんたね」

「あっ……あぁっ……」

「あれれ、あなたも私たちとお話したいの? あれ? お話しっていっぱいあるよね? 昔話とか思い出話とか武勇伝とか……どれがお話しになるんだろう?」


 怯え切った表情で二人を見上げるシャノン。尻餅をついたまま、身体の震えが収まらず、立ち上がることすらできない。ニーナ・アベルはシャノンの左膝を軽く踏みつける。


「ひッ、痛い痛い痛い――ッ!!!」


 左膝が潰されそうなほどの激痛が走り、シャノンはニーナの足を掴んで悲痛な声を上げた。ステラはその場にしゃがみ込み、踏まれたシャノンの左膝を首を傾げながら眺める。


「あれ、もしかしてイタイイタイしてるの? 私もイタイイタイしてもいい?」

「あんたはダメ。手加減を知らないから」

「アハハッ、そうだよね! それで、手加減って何?」

「私はあんたの左膝を、関節が壊れないギリギリの強さで踏んでいるわ。このままへし折られたくなかったら、私の質問に答えなさい」 

「はいっ……答えますっ……答えますからっ……!!」


 激痛に悶えながら、シャノンは何度も強く頷いた。するとニーナは、月の浮かぶ夜空を見上げ、最初にこんな問いを投げかける。


「アベル家の人間がどこにいるか教えなさい」

「アベル家のアイツはっ……Bクラスなのでっ……ここから北東の方角にいるはずですっ……!!」

「ふーん、北東ね」


 ニーナは視線を北東の方角へと一瞬だけ移し、すぐにシャノンへと戻した。


「次の質問よ。教師の中で最上位の階級は?」

「ぎ、銀の階級っ……!! 先生たちのキャンプ地にいるはずですっ……!!」

「そっ、銀の階級だったのね。それなら手間がかからなさそう――」


 瞬間、シャノンの側に何かが鈍い音を立てて落下する。土埃が立ち込め、シャノンは咳き込みながらも、その"何か"を視認し、


「――既に一人()ったから」

「ひッ……?!!」


 目を見開き、小さな悲鳴を上げた。落下してきたのは銀の十字架を首に掛けた――Aクラスの担任、ルーク・ブライアンの死体。


「面倒な人間だったわ。身体の関節をすべてへし折っても、まったく情報を吐かなかったのよ」 

(嘘でしょ……? ルーク先生はリンカーネーション内でも、銀の十字架として上位の強さだったはず……)


 指の関節から肩の関節まで、足の関節から股関節まで。あらゆる個所の関節をあらぬ方向へとへし折られた死体。最後に首の関節を外されたのか、首の皮が酷く捻じれている。その死体は糸の切れた"マリオネット"のようだ。


「銀の階級は精神的にタフな奴が多いのね。やっぱり精神的に脆い奴から、情報を聞き出した方が早かったわ」

「私、質問にはっ……答えましたっ……!! お願いですっ! 足をどけてくださいっ……!」

「いいわよ。どけてあげる」

「あ、ありがっ――」

「えいっ!」

 

 左膝からニーナが足を退けた瞬間、ステラがシャノンの右膝を軽くノックし、関節が逆方向へ捻じ曲がる。


「あぁあぁあああぁぁぁあッーー!?!!」

「……あんた、何してんのよ?」

「私のッ……私の右脚がぁ……ッ!!?」

「えっ? これが手加減だよね?」

「壊すのはマナー違反よ」


 惚けた顔をするステラに、ニーナは呆れた眼差しを送った。シャノンは折られた右膝を両手で押さえながら、土の上で暴れ回るようにして転がる。 


「どうして、どうして私がこんな目にぃ……ッ!!」

「あんたも運が悪いわね。頭が空っぽの馬鹿と出会って」

「どうして名家の奴らがのうのうと暮らしてっ……私が苦しまないといけないのよぉ……!?」

「……あんた、名家のことを嫌っているの?」

「嫌い、嫌い、嫌い、大嫌いッ!! あいつらが存在するからっ……私たちはっ……私たちはいつまで経ってもっ……認めてもらえないっ……!!」


 やけになったシャノンは、胸の内に秘めていた恨みを吐露し始める。


「特に、特にイザード家のバカ女だっ……!! 大した実力も知能もないくせに、名家だからって、調子に乗って……!!」


 シャノン・オークスはすべての名家を嫌っていたが、その中でも特にアリス・イザードを酷く嫌悪していた。訓練も座学も大したことないアリスが、名家生まれだからと優遇されていることに。

 

 だからこそシャノンは暴発事件が起きたとき、アカデミーに誤った情報を流したのだ。『アリス・イザードが他の生徒に怪我をさせた』と。  


「あっ! イザード家って、"ノエルくん"の家系だね! あれ、"ノエルちゃん"だったっけ?」

「あのガキのことなんて、どうでもいいわ」

「ん、ん、んー? 何か思い出せそうなんだけどぉ……!」


 忘れている記憶を甦らせようと、ステラは大木に何度も頭を打ち付ける。


「アハハ、そうだったそうだった! 私は何年か前にこの森で、生き残っていた人間を吸血鬼にしてあげたんだった! えっとぉ、確かBlaze(ブレイズ)家で、名前はぁ、忘れちゃった! あっ、もうそいつは死んでるんだった!」

「そうね、あいつは調子に乗りすぎたわ。……というよりも、何でその話題を出したのよ?」

「この子、この子、吸血鬼にしてあげたら?」

「何で私が?」

「面白そうだから!」  

 

 ニーナは土の上で呻き声を上げているシャノンを見下ろした。二人を他所にステラは頭を打ち付けた大木を「環境破壊!」と叫びながら右手で殴り、跡形もなく粉砕する。 


「……やめておくわ」

「あれれ? どうしてどうして?」

「私には"頭の冴える眷属"がいるからよ。それに爵位の低い吸血鬼を、あんたみたいにむやみやたらに増やす趣味はないの」

「アハハッ! そうだったね! それで、眷属って何?」

「あんたが飼ってる"犬二匹"よ」

「あっ! ケルちゃんとオルちゃんは眷属って呼ばれてるんだ!」


 二人は別れの挨拶もせず、ニーナは北東の方角へ歩き出し、ステラは南東の方角へとそれぞれ歩き出す。


「仕方ないから、あんたは見逃してあげる」

「私もあなたにイタイイタイしちゃったから、ここでバイバイするね! あれ? バイバイってサヨウナラって意味? それってこの場所から? それともこの世から――」 


 ニーナは無言で、ステラは独り言を呟きながら、シャノンの前から去っていった。


「た、助かった……?」


 一人残されたシャノンは、折れ曲がった右脚を引きずりながら、四つん這いで教師のキャンプ地まで移動を始める。

 

「は、はははっ! 原罪に見逃して貰えるなんて……! 私は、私は神様に見守られているんだ!」


 身体に伝わる痛みを乾いた笑い声に変え、地面を這って進んだ。


『お母さん、お父さん。私は絶対に十戒の一人になってみせるから』

『ええ、シャノンならきっとなれるわ。お母さん、応援しているからね』

『お前は俺の自慢の娘だ! 名家なんかに負けず、アカデミーでオークス家の名を轟かせてこい!』


 仮試験ではほぼ満点の点数を叩き出した。本試験では金の十字架を獲得し、推薦枠を奪い取った。様々な光景が過る中、シャノン・オークスはアカデミーへ入学する前、両親と交わした最後の会話を思い出す。


『任せて! アーネット家に仕えるのはオークス家が一番相応しいってことを――私が証明してみせる!』 


 アカデミーで優秀な成績を取り続け、皆の注目を浴びる。オークス家の名を知ってもらう。教師、十戒、皇女様にオークス家を認めてもらう。シャノンはその一心で努力してきた。 


『お姉ちゃんが私の為に、Drake(ドレイク)家の館で頑張ってる……! こんなところで、くよくよしてられない!』


 挫けそうになった時、彼女はいつも姉の事を思い出していた。学費を稼ぐために貴族の館で使用人として務め、遠い場所から自分のことを応援してくれていると。だからこそ何度も立ちあがれた。


(私は誇りあるオークス家の人間っ……! オークス家は名家よりも優秀な人間を派遣できるっ……! それを証明するために私がオークス家の――架け橋となるんだっ……!)


 ふと掠れた声が聞こえた。シャノンは動かせない右脚を引きずり、四つん這いで声のする方角へと顔を覗かせる。 


「アリス・イザードと……化け犬……!?」


 シャノンの視界に映った光景は、巨大な犬の片足に押さえつけられているアリス・イザード。


「ふ、ふふふっ……ざまぁみろ……」


 助けることなど頭になかった。むしろシャノンは、アリスがどう殺されるかを拝もうとしていたのだ。


「お前は無能なんだよっ……名家の権威だけに縋るしかないっ……私よりも落ちこぼれで、生きていても死んでいても変わらないっ――」


 まさにアリスが燃やされようとした瞬間、何者かが巨大な犬の目玉を撃ち抜く。


「前が見えん、兄弟」

「我も見えん、兄弟」

「何も見えん、兄弟」

(誰がっ……誰が無能なアイツを助けて……!!?)


 シャノンの中では巨大な犬が喋ったという驚きよりも、アリスを助けた人物への怒りが上回った。


「えっ……あっ……」

(アレクシア・バートリ……!?)


 シャノンの目に入った人物は――アレクシア・バートリ。総合成績トップへ君臨し、名家出身の人間と繋がりを持つ女子生徒。シャノンにとって、アレクシアは憧れの存在だった。

 

『あなた、総合成績トップを取れるなんてすごいね!』

『誰だお前は?』

『あぁごめんごめん! 私はシャノン・オークス! ほら、Dクラス内の訓練分野で三位だったでしょ?』

『そうだったか』


 アレクシアは名家出身の人間ではない。シャノンはそんな一般的な家系の人間が、名家たちを越えて、余裕綽々でトップに君臨する姿に憧れていたのだ。


『私、あなたとは仲良くできそうだなぁ』

『何故そう思う?』

『あなたも名家には負けたくない口でしょ。私も実はそうだから』

『……お前は名家を敵視しているのか』

『当たり前でしょ。それに実際、名家も大したことないと思わない? このクラスの名家は特に』


 シャノンはアレクシアが同類だと思い込み、座学終わりに声を掛けていた。そしてあわよくば、アカデミー内で側近として付き添い、周囲にオークス家の名を売ろうとしていたのだ。

 

『そうか。私は名家にも順位にも――お前にも興味がない』

『へっ?』

『忠告をしておく。お前のような上っ面だけ(・・・・・)の人間を何百人と目にしたが……死ぬときは惨めに、ひっそりと死ぬ』

『は、はぁ!? 上っ面だけってどういう――』

『それはお前自身が一番理解しているはずだ』


 しかしアレクシアはシャノンを拒んだ。結果として班も、名家で固められた六班に所属することになった。


「えっ、あっ、えっ……?」

「……生きていたか」


 手を差し伸べられたアリスが立ち上がると、アレクシアは視線を感じ取り、シャノンが潜む草むらを見る。


(助けを求めないと――)


 そう考え、声を上げようとした途端、


「んぐっ!?!」

「ウゥ……ウゥッ……」


 背後から忍び寄ってきた、一匹の食屍鬼に首を絞められた。血の涙を流しながら、怪力で首を絞め上げようとする。 


(じゃ、まをするなッ……!)


 鞘からルクスαを抜こうと試みるが、別の場所から現れた一匹の食屍鬼が、シャノンの片腕を怪力で引っ張り、失敗してしまう。


「かはっ……はっ……」


 気が付いてもらう方法は音を立てること。シャノンはリボルバー銃を握り、残り少ない四発の弾丸を連射した。


(どう……してッ……!?!)


 アレクシアは気が付かない。そもそも銃声すら鳴っていない。シャノンの顔は絶望に満ち、近くの草むらを大きく揺らした。 


(気づいて気づいて気づいて気づいてぇッ……!!)

「……方角は向こうだ。走るぞ」


 しかしアレクシアはアリスの腕を引いて、走り去ってしまう。その後を巨大な犬が追いかけ、その場に残されたのはシャノンのみ。


「ひぐッ……?!!」


 食屍鬼に引っ張られていた片腕が肩から千切れ、血が噴き出す。シャノンは吐血し、涙をボロボロと頬に伝わせ、額を地面につけた。


(どうして、私じゃ、ないの……?)


 選ばれたのは自分ではなく――無能なアリス。その事実を突きつけられ、心臓の鼓動が減速を始めた。


『お父さん、お母さん! 私、ついに十戒に選ばれたよ!』

『凄いわねぇ! シャノン!』

『流石だ! 俺はとても誇らしいぞ!』


 最初に過るのは理想。一般家系の自分が十戒に抜粋され、この時代に革新をもたらす夢のような光景。


『忠告をしておく。お前のような上っ面だけの人間を何百人と目にしたが――』


 意識が途絶える瞬間に過るのは走馬灯。その内容は子供の頃の記憶や楽しい思い出などではなく、


『――死ぬときは惨めに、ひっそりと死ぬ』


 アレクシアに告げられた一言だけだった。



『SideStory : Shannon Oakes』 END



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