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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
6章:無風の渓谷

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Recollection:ヒュドラの記憶

 ※この物語は九ノ眷属であるヒュドラとカルキノスの過去の物語です。



 自然界において身体の大きさは強さを意味する。巨体を持つ者は強き者と認識され、小さき身体を持つ者は弱き者として認識される。それが自然界と呼ばれるものだ。


「今日も安泰に過ごせる隠れ家を探さねばならぬな……」


 セッシャたち浮遊生物は自然界において最弱。強き者たちのエサになるため、この世に生まれてきた存在に過ぎない。生き抜くには酸素が十分な海域で、岩の陰で張り付きながら喰われないようにするのだ。


「ふむ、この辺りでよかろう」


 セッシャが生まれたのは大陸Eldorado(エルドラド)の東側に位置する──平穏(へいおん)海域(かいいき)と呼ばれる海。その名の通り、とても穏やかで豊かな心を持つ同士が住む海だった。


「今日も今日とて、孤独の道を歩んだか……」

 

 だが平穏の海域へ到来するのは暗黒時代。吸血鬼共がエルドラドを支配するために海域全体へ妙な薬を散布した。その影響でセッシャの故郷である平穏の海域に住む生物は皆形を変え、凶暴化してしまったのだ。


「弱き者にとって自然界は生き辛いな」


 セッシャは七転八倒の日々を送りながら、どうにか故郷から南西の方角にある聖霊(せいれい)の海域まで辿り着いた。いずれはセッシャのように聖霊の海域まで多くの生物たちがやってくる。


「しかし困った。薬や不届き者の脅威からここまで逃亡したまでは良かったが……セッシャの小さき身体では激しい海流を抜けられぬ」


 それまでには狭い海域まで避難をしたい。だが聖霊の海域の海流は激しく、循環するように同じ場所を何度も回転していた。この小さな身体では海流に背いて動くことは困難を極める。


「チェキッ! そこでぼそぼそと何言ってんだオマエ?」

「ならば岩陰で待ち伏せをし、強き者の身体に張り付くべきか? いや、身動きの取れない海流まで連れていかれれば、セッシャは餌になるだけ……」

「オォイ! オォオォオーーイッ!!」

「ぬッ、何奴!?」


 視界の狭まる夜をやり過ごそうと入り込んだ岩陰。進路を考えているセッシャの背後に現れたのは赤色の蟹だ。


「オイオイ? オマエ、この聖霊の海域でオイラのことを知らないなんてチェキってんじゃねェか?」

「……セッシャは新参者。先日、平穏の海域から遥々ここまで訪れたばかりだ」

「やっぱりな! オマエはチェキッてんぜい!」


 二本のハサミを意味もなく振り回しながら近づいてくる。セッシャは捕食される前に岩陰から逃げ出そうと背を向けた。

 

「オマエ、オイラにチェキって逃げんのか?」

「当然だ。セッシャは弱き者。逃げることが存命に繋がるのだ」

「チェキチェキ! 今までそうやって生きてきたのかよう?」

「自然界の食物連鎖を無視できぬ。それでは御免」


 煽られようともセッシャは逃亡の意志を曲げず、岩の陰から夜の海へと旅立つ。奇天烈な蟹は捕食しようと追いかけてはこない。 


「ぐぬッ、しくじった……!」


 セッシャは意志を貫いたことをすぐに後悔した。夜の海で鉢合わせしたのは大型の魚類。激しい海流に捕まったセッシャは、逆方向から向かってくる魚類の口に吸いこまれていく。


「これも弱き者として生まれた──定めか」


 食物連鎖とは何と残酷なものか。最期に思い返したところで、セッシャは決して満足できぬ人生だったと後悔するのみ。


「チェキィッ!」


 大型の魚類へ飛びかかったのは先ほど出会った赤い蟹。二本のハサミで魚類の目玉を挟み込んだ。


「チェキチェキッ、オイラの身体に掴まれい!」

何故(なにゆえ)、セッシャを助けに……」


 セッシャは赤い蟹の背中へと張り付き、果敢に魚類と戦う姿を間近で傍観する。この赤い蟹はセッシャとは違い、自分より身体の大きい者と交戦していた。


「チェキってばかりの生き方なんてつまんねぇだろう? こういう時こそチェキっとして戦えい!」 

「しかしセッシャのような弱き者が、敵うはず……」

「一度も立ち向かったことがないクセに、ドーシテそう決めつけられんだ?」

「……!」


 赤い蟹はセッシャの目の前で魚類のエラをハサミで引き千切り、息の根を止める。そして海の底に沈んだ魚類の亡骸の上に着地した。


「ヘイヘーイ、オイラをチェキろうなんて百万年早いんじゃねーか?」

「な、なんということだ……。自身より大きな身体を持つ者を、倒してしまったのか?」

「あったりめぇよう! かるーくチェキってやった!」


 今まで目にしてきた光景は強き者が弱き者を喰らう残酷な現実。食物連鎖に従い、なすすべなく喰われていく同士。セッシャにとって日常茶飯事だった。


「セッシャも、セッシャもこの強き者を討ち取ることは出来るのだろうか?」

「オウ?」

「セッシャも、食物連鎖に抗えるのだろうか?」

「チェキって逃げなければ、オイラのようになれると思うぜい!」


 しかし食物連鎖に抗い、強き者を捻り潰してしまう姿を目にするのは初めてだ。命の恩人とも呼べる赤い蟹の背中に張り付きながら、セッシャはそう問いかけてみた。

  

「セッシャを……キデンの弟子にしてくれ」

「オウオウ! ドーシテ、オイラのデシになりたいんだ?」

「セッシャもキデンのように強き者でありたい。そして弱き者が蹂躙される自然界に……終止符を打ちたいのだ」


 赤い蟹の雄姿に酷く心を打たれたセッシャは弟子入りを申し込んだ。逃亡を図るだけの己を変えるために、強き者だけが存命する自然界を変えるために。


「イイぜい! チェキって逃げんじゃねーぞ?」

「勿論だ。セッシャはもう逃げぬ」

「ソレじゃあ、今日からオマエは"オトート"分だ! オイラのことは"アニジャ"と呼べ!」

「承知。宜しく頼み申すぞ、アニジャ」


 師弟として、兄弟として契りを交わした。それ以降は苦難だった日々が苦楽へと変化する。


「ヨッシ、オトートよ! 今日からオマエの育成ケーカクを始めるぜい!」

「アニジャ、育成ケーカクとはどのような策なのだ?」

「オマエのちいせぇカラダを大きくする! マイニチ、チェキっと食べ続けろ!」

「承知した」


 最初はとにかく喰らい続けた。身の丈に合わない餌でも喰らい、身体の成長を促進させる日々。アニジャは毎日のようにセッシャの前へ多くの餌を運んだ。


「カラダも大分チェキってきた……ってことは、いよいよこの時がやってきたぜい!」

「アニジャ、まさかその時というのは……」

「狩りだ! チェキっと正面から捻ってやるだよう!」


 アニジャ程の大きさまで成長したセッシャが学んだのは海で生きる者たちの性質。アニジャは奇天烈な言動は多いものの、どんな強き者より博識だ。強き者たちの弱点。それらをセッシャへ事細かに教授した。


「オトートよ! オイラの武勇伝を聞きたいか?」

「是非とも聞かせてくれアニジャ」

「オイラはな、海の怪物クラーケンとやり合ったことがチェキっとあるんだぜい!」

「なんと……! あの恐ろしいクラーケンと一戦交えたのか!?」

「アイツも中々のチェキっぷりだった! ま、オイラのチェキっぷりには敵わなかったけどな!」


 海の怪物クラーケン。強き者たちを手当たり次第に喰らい尽くし、地上の人間すらも喰らったとされる恐ろしい怪物。討伐されたと小耳に挟んだが、まさかアニジャが討伐したのかと息を呑んだ。


「そーいや、オトートよ。そのヘンな喋り方は何だよう?」

「セッシャはエルドラドに住む人間の影響を受けているのだ。この口調もセッシャという己を表す言葉も……すべてエルドラドの人間を模倣している」

「なんでチェキっと真似してんだ?」

「浮遊生物は一万と種類が多い。セッシャは他の者と一括りにされたくないと、人間の言葉を模倣し、個性を出してみたのだ」


 セッシャが平穏の海域に住んでいた頃の話だ。海辺を彷徨っていた時、船に乗った人間が何度か通り過ぎ、言葉を交わす際に『セッシャ』と自称していた。


「チェキチェキ! オトートよ、実はオイラもニンゲンの言葉を真似してんだぜい!」

「そうなのかアニジャ?」

「オイラの故郷は慈愛(じあい)の海域。近くにあるWeisheit(ヴァイスハイト)ってとこに住んでるニンゲンをチェキってんだぜい!」


 セッシャたちが住処にしている聖霊の海域と対称の位置にあるのが慈愛の海域。Weisheit(ヴァイスハイト)という名は聞いたこともないが、恐らくは大陸名なのだろう。

 

「ではアニジャ、そのチェキっているという言葉はどのような意味が……?」

「知りたいかオトートよ?」

「勿論だアニジャ。無知なセッシャに教えてくれ」

「それはな……オイラも知らねぇぜい!」

 

 アニジャ曰く『チェキ』という言葉はそれっぽくなるように使っているだけらしい。真の意味を知る者はヴァイスハイトと呼ばれる大陸に住む人間のみとも述べていた。


「さぁオトートよ、ジュンビはチェキっと整ってるか?」

「勿論だアニジャ! ついにこの時がやってきたのだな?」

「そうだぜいオトートよ! 激しい海流を乗り越え、オイラたちが求めていたアンソクの海へ旅立つ時だ!」


 セッシャは訓練の日々を乗り越え、聖霊の海域から更に北西の方角へアニジャと共に向かう。激しい海流が原因となり、湧いて出てきた様々な強き者たちへ旅の道中で幾度も逆寄せした。


「ヘイヘーイ、オイラたちに敵うはずねぇだろうよ! なぁ、オトートよ?」

「当然だアニジャ! セッシャたちはこの海で食物連鎖に反逆する存在。易々と捕食されぬぞ!」


 アニジャを優に超える大きな身体。半透明で再生力の高い皮。魚類など容易く押し潰せるほどの圧力。気が付けばセッシャは見違える姿となっていた。


「見ろオトートよ! ここがオイラたちの求めていた──アンソクの海だ!」

「ついに、ついにセッシャたちは辿り着いたのだなアニジャア!」

「そうだぜいオトートよ!」


 過去のセッシャでは乗り越えられなかった長旅の末、辿り着いたのは大陸同士に挟まれた名も無き海域。故郷を思い出してしまうほどに、豊かで平穏なる海だった。


「オトートよ、なんかチェキっとデカすぎじゃあねぇか?」

「……? そう見えるかアニジャ?」

「ま、オイラの気のせいかもしれねぇ! それにデカくなればなるほど強くなって、チェキれるから気にすることでもねぇか!」


 セッシャの身体は月日が経つごとにその大きさが増していた。凶暴な(サメ)とほぼ同格の身体へと成長を遂げ、エサの量も増えていくばかり。


「オイ、見るんだオトートよ! 久々の人間だぜい!」

「人間……」

「……? オウオウ、ドーシタんだオトートよ?」

「す、すまぬアニジャ……。やや意識が揺らいでしまった」


 奇天烈な変化はもう一つ起きた。それは人間を目にする度に意識が揺らぎ、僅かな怒りが込み上げるのだ。セッシャにとって理屈も理由も不明瞭。己が己ではない感覚に襲われた。


「オトートよ、やっぱチェキっとデカくなりすぎじゃね?」

「アニジャ……。セッシャも常々そう考えていたところだ」

「チェキチェキ! 最近は一日の狩りを抑えてるけどよ、チェキっと大丈夫なのか?」

「……心配かけてすまぬアニジャ。セッシャは問題ない」


 もはやセッシャの図体は(クジラ)すらも優に超え、人間たちに見つからずに過ごすだけで精一杯。エサも膨大な量が必要となり、腹を満たすためには多くの犠牲が伴うのだ。


『腹が減っただろう。我慢せず、全てを喰らい尽くせばいい』

「喰らうわけには、いかぬ……。セッシャは、セッシャは弱き者の味方となるのだ」

『海の同士を喰らいたくなければ、地上に存在するいいエサを紹介してやろう』

「おのれ、一体何を言って……」

『人間だ。地上を我が物顔で支配し、食物連鎖の頂点。セッシャとキデンの敵だ』


 飢餓の状態で語り掛けてくるもう一人のセッシャ。その一言一言が人間への怒りや憎しみ、セッシャの食欲を込み上げさせようとする。


「人間を、人間を……喰らい尽くすぅうぅッ!!」


 抑制する方法などは模索したところで無駄な苦労。セッシャはついに自我が保てなくなり、海の底から月明かりが照らす浜辺へと顔を出してしまった。


「オトートよ、この先はチェキっとでも行かせねぇぜい」

「アニ……ジャア……ッ! セッシャから、離れてくれ……ッ!!」

「チェキチェキッ、オマエはオイラのオトートだ! チェキッと止めてやんのがアニキの役目だぜい!」


 暴走するセッシャの前にアニジャが立ち塞がる。前まで大きく感じていた身体は、今のセッシャにはとても小さく見える。


「……オイラたちは海で生まれ、海で生きてきた。なのに地上のニンゲンに手を出すなんてのは──」

「駄目、だ……アニジャ……ッ! セッシャは、アニジャと一戦を交えたくは……ッ!!」

「──チェキッてもチェキれねぇことだ!」

「止せ、止せアニジャアァアァーーッ!」


 しかしその雄姿はセッシャにとってまだ大きく見えた。オトートで不甲斐ないセッシャを止めようと飛びかかってきた。


「……」

「──アニジャ?」

「……」

「アニジャ、アニジャアッ!!?」


 意識が飛んだ瞬間、セッシャの足元で仰向けに転がるアニジャ。呼び掛けても起き上がる気配がない。


「あぁッ……あ"ぁあ"ぁあ"ぁぁあ"ァーーッ!!」

 

 アニジャを殺めた。弱き者を守ると誓い、強くなろうとした己が、その弱き者を殺めた。保とうとしていた自我が、そこですべて憎しみと食欲に変わってしまう。


「喰らうぞ、喰らってやるぞ不届き者共めッ! 全てを、全てを喰らい尽くし──セッシャが食物連鎖の頂点に立ってみせようッ!!」


 セッシャは半透明な巨体を暴れさせ砂煙を巻き上げた。そして人間が住む町へと突き進もうとした時、


「──哀しいわ」


 ローブを羽織った青髪の女性が砂煙の中に立つ。フードから垣間見える紅の瞳には慈悲が満ち、セッシャを儚げな表情で見上げていた。


「ワタクシが予想していた通り……彼は薬の効力を抑え込めなかったみたいです」

「そうみたいね。ありがとうスキュラ、事前に報告してくれて」

「いえ、ワタクシは使命を果たそうとしただけで……」


 上半身は人間の女性を、下半身は烏賊(イカ)のように触手が生えたもの。奇天烈な姿を持ったスキュラという名の人物が青髪の女性の隣に立った。


「全てッ、全て喰らい尽くすぅうぅッ!!」


 食欲を満たそうとセッシャは半透明な肉体から触手を二人へ伸ばす。しかしスキュラは下半身の触手を即座に動かし、

 

「ねぇアナタ──」

「ぐぬぉッ!?!」


 セッシャの触手を軽々と弾き飛ばした。そして下半身の触手を右腕で触れながら、


「──どこの誰を喰らおうとしてるのか、分かってる?」

「……ッ!」


 自我を失ったセッシャを視線だけで狼狽えさせる。間違いなくこのスキュラという人物は、この広い海で強き捕食者として生き続けていた。それほどまでに凄まじい視線。


「スキュラよ、我らの出る幕はあるか?」

「ないわ。この程度ならワタクシ一人で十分よ」

「ふざけんな! ワタシたちをこんなとこまで呼んどいて、何もさせねぇつもりかぁ!?」

「オレはエニグマを解明するためにここまで赴いた。全て解決してくれても構わない」

 

 巨体を持つ三つ首の犬。眼球のない低い背丈の少女。獅子の顔を持つ人型。新たに姿を見せた人物たちもまた、難解な容姿を持っていた。


「バトちゃん、あいつを止めるのか?」

「ええ、私たちで彼を止めた後……あなたの力が必要になるわ」

「分かった! バトちゃんと……みんなも頑張れ!」

「何で一瞬躊躇ったんだてめぇ!?」


 自我を失ったセッシャと一戦を交えようとする奇天烈な者たち。その中に一般的な人間が混じっていた。奇妙な衣服を身に纏う以外は、言動も町の人間と変わらない。


「邪魔を、邪魔をするぬぁあぁあぁあーーッ!!」

「あなたの哀しみを、私は分かってあげられる。だから全てを吐き出してもいいの──」


 憎しみと欲求だけを込めた雄叫びを、腹の底から吐き出したセッシャが最期に目にしたのは、


「──血涙」


 バートリ卿が血の涙を頬に伝わせる顔だった。



―――————————————



「まずはその身体を制御できるようになること。それを第一の目標しなさい」

「しかしスキュラ殿。セッシャは元浮遊生物。このような身体に慣れるのは難しい──」

「分かった?」

「しょ、承知した……」


 暴走していたセッシャはバートリ卿たちに止められ、目を覚ませば(サメ)程の大きさに戻っていた。スキュラ殿の話によれば平穏の海域に散布された薬と、その薬に浸食されたエサを食べ続けたため、セッシャはあのような状態となってしまったらしい。


「アナタはその辺でうろうろしてなさい。どうせ何もできないし」

「チェキチェキッ! オイラはクラーケンとチェキれるぐらい強いんだぜい?」

「そのクラーケンって怪物、私だけど?」

「チェッキィ!?! オマエがクラーケンなのかよ?!」


 スキュラ殿の使命は海で人間の命を救うことだと教えられた。セッシャについて以前から監視しており、いつ暴走してもいいように備えていたとも。


「良かったやんスキュラ! 可愛らしい後輩ができて!」

「全然良くないわ。御守りをさせられてワタクシは不快」

「とか言っちゃってー! Hydra(ヒュドラ)Karkinos(カルキノス)の世話をするのが楽しいくせに!」

「……烏賊(イカ)の触手って、吸盤の吸引力が凄いのよ。人間の皮膚をビリビリ引き剥がすほどに──」

「よし、ヒュドラにカルキノス! 遺書を書く練習してくるからまた後でな!」

 

 奇妙な衣服をまとったこの人物はセッシャにHydra(ヒュドラ)と、アニジャへKarkinos(カルキノス)と名付けた。正確な名称としては九ノ眷属だと伝えられている。


『セッシャを、なぜ生かす……?』

『あなたは弱き者を守ろうとしていたもの。ストーカー卿が蒔いた薬のせいで向かう方角が少しずれてしまっただけよ。これからは私と共に弱き者たちを守りましょう』


 バートリ殿はセッシャを殺めずにやり直す機会を与えてくれた。セッシャの手で殺めてしまったアニジャに命を与えてくれた。だからこそセッシャはバートリ殿に恩を返すためここにいる。


「アニジャ」

「ドーシタんだオトートよ?」

「セッシャは、この姿で弱き者を守れるのだろうか」

「……オマエがチェキらなきゃ守れるぜい! 逃げずに、立ち向かえばな!」


 セッシャの名は九ノ眷属ヒュドラ。敬うアニジャの名は九ノ眷属カルキノス。


「そうだなアニジャ。セッシャは何があっても立ち向かってみせるぞ」


 海に平穏をもたらし、弱き者たちを守る──強き者だ。



 Recollection : Hydra&Karkinos_END

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