5:20『vs 魔女』
~本名:偽名~
アレクシア・バートリ:Joker
キリサメ・カイト:Gloomy
イアン・アルフォード:Knight
クレア・レイヴィンズ:Virgin
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「おーおー、あたしの方から来てやったぜェ。イカちまった魔女様よォ?」
俺たちが王の間へ踏み込めば、魔女が三メートルはある大結晶の前で両膝を突きながら、手を合わせて祈りを捧げていた。メルは祈っている魔女へ、パニッシャーの銃口を向け、そう声を掛ける。
「何だよ、あの結晶?」
「クスクスッ、分かんねーのかァ色男ォ。ありゃあ魔女様のイヤリングだぜェ」
「あの大きさでイヤリングはあり得ないだろ……」
土台の上にスマホが並べられた王の間。中央にある大結晶はクリスタルのようにも見えるが、その内側には更に小さな結晶が詰まっていた。というか、そもそもどういう原理であの大結晶は浮かんでるのか。
「お主らが余の元へ辿り着いたか──異世界転生者よ」
祈りを止めると俺たちの方へ振り返る魔女。俺とメルを一人ずつじっくりと眺め、ゆったりとした振る舞いで立ち上がる。
「俺たちだけじゃない。お前も異世界転生者なんだろ?」
「ほぉ、余の事を話したのじゃな──奇跡の子よ」
「おいおい魔女様よォ? 奇跡の子はとっくに死んでるぜ、感電死でな」
「くかかッ、生意気な口を利くようになったのぉ。あの老い耄れが原因じゃな?」
両手に白い雷を纏わせ、バチバチッと音を鳴らす魔女。メルはパニッシャーの引き金に指をかけ、布で隠れた魔女の目元を睨みつけた。
「安心するがよい。奇跡の子を惑わせた老い耄れ共は、時機にこの世を去ることになるからのう」
「この世を去る? 何をするつもりなんだ?」
「お主らが余の元へ辿り着く前に、余の僕たちへこう命令したのじゃ。クルースニク協会の愚かな人間を血祭りに上げよ、とな」
「血祭り……!? メル、ジュリエットが……!」
ヴィクトリアは留守中。今のクルースニク協会にはジュリエットしかいない。もし信者たちが襲撃すれば、ジュリエットの命が狙われてしまう。俺はすぐにメルの方を向いたが、焦らず冷静にただニタニタと笑みを浮かべていた。
「焦んなよ色男ォ。ジュリエットはチビでアホですぐにプッツンするクソガキだが、ああ見えて図太いんだ。伊達にあのクソッたれな町で生きてきたわけじゃねェ」
「メル……」
「それに魔女様よォ? クソババアはその辺の獣より勘と嗅覚が鋭どくてなァ。妙なクソ共がマイホームに近づけば、すぐにリターンしてきやがる」
メルは小首を傾げながら発砲すると、魔女の背後にある大結晶へ銀の杭を突き刺す。
「つまりあんたの大切なイカれ共はァ、地獄行きの超特急に乗っちまったってことさ。もちろん片道切符でな」
「くかかッ、威勢と自信だけは天性の賜物じゃのう……メルよ」
魔女は両手を天に掲げると、白色の雷を周囲にバチバチッと走らせた。雷が流れたことで、飾られていたスマートフォンが一斉に起動する。
「しかしお主はまだ若い青葉。威勢と自信だけではこの世を生き残れぬと……余が教えてやろう」
もう一度周囲に白い雷が走れば、画面が何度か点滅し、内カメラでビデオ撮影が開始され、
「余の奇術──"青天の霹靂"でのう」
「来るぜ色男。気合いで避けなァ」
魔女の白い雷が地面を伝いながら、俺たちの方へ這いずってきた。メルは弾倉に入った分だけ銀の杭をすべて撃ち尽くし、西側から迂回する。
「俺もやるときはやらねぇとな……!」
西側から迂回した、ということは魔女の後方に回ろうとしているはず。俺は入り口の側にある棺の裏まで全力でダッシュし、迫りくる白い雷から逃げ惑う。
「どうした! 俺はこっちだぞ!」
アカデミーで猛練習した射撃訓練の実力を発揮するため、パニッシャーを両手で構えて、魔女に向かって数発撃ち込んだ。
「そのような杭で余の奇術を破れると思うたか?」
「なっ、マジかよ……!」
が、魔女は白い雷を操りながら銀の杭を受け止め、こちらに向かって撃ち出してきた。俺は棺の裏に身を隠すが、先ほどの雷がすぐ足元まで這いずってきたため、
「全力で右から回るしかないよな……!」
「くかかッ、小賢しい鼠じゃのう」
最も近いスマホの土台の陰まで飛び込んだ。銀の杭を奇跡的に外してくれた、と俺は胸を撫で下ろす。
「あんたは今からそのドブネズミ共に殺られるんだぜェ」
「……!」
パニッシャーの弾倉を補充したメルが大結晶の背後から、魔女の背中に向けて銀の杭を連射した。俺に気を取られていたことで、少しだけ魔女の反応が遅れる。
「汚い手でそれに触れるでない!」
「──ッ!」
「メル!」
けれど白い雷をメルの頭上に落とし、壁際まで吹き飛ばす。俺は追い討ちされないよう、パニッシャーの狙いを魔女に定めた。
「くかかッ、足元を見なくても良いのか?」
「くっそッ、数が増えてんのかよ……!」
這いずり回る雷が徐々に増えていく。俺は何とかギリギリで隙間を掻い潜り、倒れているメルの元まで近寄ると「大丈夫か」と声を掛ける。
「ちッ、中々痺れるじゃねぇかァ……」
「おぉそうじゃった。お主はあの丈夫な小娘のように、余の雷を受けても動けるんじゃったな」
「バーカ、こっちはあんたと違って対策してんだよ」
制服の懐からチラッと見えたのは、ジュリエットの実験室で紹介された絶縁石。電気を吸収し、打ち消してくれる石。メルがすぐ復帰できた理由に納得をしつつ、二人で魔女を見据える。
(……どうして魔女は、最初みたいに雷を直接落とさないんだ?)
俺はふと気になった。魔女と初めて出会った時、俺たち全員に雷を直撃させている。さっきメルは同じような技を受けた。でも俺には地面に白い雷を伝わせるだけ。直接狙っては来ない。
(待てよ? もしかして、魔女が白い雷で直接狙える条件があって、その条件が──)
「ぼーっとすんな色男ォ。カルビみてぇに焼かれたいのかァ?」
「メル、俺にいい作戦がある!」
「あ? 作戦だァ?」
青天の霹靂を打破するための仮説。俺は組み立てた仮説とそれを利用した作戦をすぐさまメルへと伝える。
「おいおい色男ォ? その仮説が一ミリで間違ってりゃあ、あたしらは念仏唱える間もなくあの世行きだぜェ?」
「だ、だよな……。もっと他の作戦を──」
「けどおもしれぇじゃねぇか色男ォ。おもしれぇからあたしはやってやるぜ。あんたも覚悟決めてんだよな?」
「……あぁ当たり前だろ!」
俺はニタニタとした笑みを浮かべるメルに、自信に満ち溢れた顔で頷く。そして魔女を目標に、パニッシャーとノクスを二人で構えた。
「んじゃあ、行くぜ色男ォ」
「あぁ行こうぜ、メル!」
腕同士を軽くぶつけ合い、俺は西側の土台に飾られたスマホの場所まで、メルは東側のスマホの土台まで、地面を這いずり回る白い雷を避けながら、全速力で駆け抜ける。
「ほぉ、余の奇術を打ち破れる策でも思い付いたか」
俺とメルは各々の位置でスナップボムを一つ取り出し、土台の裏でピンを抜く。合図としてパニッシャーを天井に向けて発砲してから、巻き込まれないようその場から避難をした。
「一体何を企てて──うぐッ!?」
スマホの土台ごと吹き飛ばす爆発。俺たちは狼狽える魔女を挟み込む形で、ノクスを構えながら近づいていく。
「お主らっ! 王の間を汚しよって……ッ!」
体勢を整えた魔女。俺には白い雷を地面を這いずらせ、メルには右手をかざす。
「余がその程度で吹き飛ぶと思うたかッ!」
魔女は先にメルを吹き飛ばそうと、かざした右手を天に掲げて、頭上に白い雷を落とそうとした。
「なッ、雷が落ちぬじゃと……!?」
けどメルの頭上には落ちない。何故なら今のメルは"スマートフォンを持っていない"からだ。
「やっぱりな! 雷を直撃させるには、雷を寄せ付けるスマホを持ってないといけないんだろ!? お前の奇術はそれが弱点だッ!」
「小癪な異世界転生者! 余の奇術を見破ったか……!」
俺に直撃させられなかったのは、王の間へ向かう道中でスマホを置いてきたため。信者たちへスマホを持たせのも、奇術の弱点を補おうとしたからに違いない。
「こっから、本番だぁあぁッ!!」
「なぬッ、飛び込んでッ……!?」
その数秒の隙を見逃さず、俺は白い雷を纏った魔女を両手で触れる。
「ぐぅあぁあぁあぁあぁ……ッ!?」
「お主、余に触れて何を……!?」
白い雷が全身に流れようが、苦痛が染み渡ろうが、俺はその場で踏ん張った。魔女は「離れよ不届き者」と振り払おうとする。だけど俺は絶対に手を離さない。
「がッ、うッぐぅうぅ……ッ」
「やっと離れおったかッ!」
十秒程で耐えられなくなった俺は背中から倒れていく。でもそれで十分だ。何故なら俺の役目は──
「メルッ、やれぇえぇえぇッ!」
「余の雷が、消えたじゃと……?」
──魔女が纏っていた白い雷を打ち消すこと。魔女はすべてを悟ると、倒れていく俺の方を見つめた。
「まさかお主、余の雷をすべて吸収して……!」
俺は「その通りだ」とほくそ笑んでやる。魔女への道を俺が切り開き、後はメルが決めるだけ。
「小癪な鼠共め……ッ!」
(ナイフ……!?)
しかし魔女は鋭利なナイフを取り出し、向かってくるメルを刺そうとする。俺は一瞬だけ「マズイ」と焦りの感情に支配されたが、
「魔女様よォ、やっぱ刃物の扱いは向いてねぇぜ」
「ぐぬッ……!?」
魔女の手を蹴り上げ、持っていたナイフを弾き飛ばす。その余裕そうな笑みは、いつも通りのメルだったが、
「あばよ──"お母さん"」
ノクスで魔女を斬り裂く瞬間だけ、母親を慕う娘の顔に見えた。魔女は肩から腰に掛けて斬り裂かれ、大結晶の前で仰向けに倒れる。
「おいおい、大丈夫かァ色男ォ?」
「もう絶縁石は使えないけど、何とか大丈夫だ……」
「こりゃあジュリエットちゃんが、"激おこプンプン丸"ってヤツになんぜェ」
「メル、それ死語だと思うぞ」
「あ? マジかよ」
差し出されたメルの手を掴み、真っ二つに割れた絶縁石をメルへと返した。俺たちは顔を見合わせてから、倒れた魔女の側まで歩み寄る。
「……素顔を見せなァ」
メルが魔女の顔を隠していた布を手で退かすと、そこには俺たちの同じ異世界転生者の女性。吐血しながらも俺たちを支配された瞳で見つめてきた。
「ごほッごほッ……余を、殺めようとするなどっ……とんだ愚か者じゃな、お主らはっ……」
「愚か者はあんたの方だぜ、魔女様よォ。こんな教団を作ってまで、あんたは何をしたかったんだァ?」
「くかかっ……すべては、シェセプ・アンク様の為ぞ」
「そのシェセプ・アンクって誰なんだ? 自分で考えた神様なのか?」
俺がそう尋ねると、魔女は震える右手で大結晶を指差す。
「シェセプ・アンク様は、実在するっ……。お主らを、今、そこで見ておるぞっ……」
「あ? んなでっけぇだけの石ころのどこから神様が見てんだァ?」
「くかかっ……見えぬのかっ、ほらっ、すぐそこまで迫っておるっ……」
そこで見ていると言われ、俺は大結晶の中にある小さな結晶をじっくり観察してみた。「どこかにいる」と魔女は言っているけど、見つめたところで反射した自分の顔が映るだけ。
「……ん、何だこの顔?」
じゃなかった。よく見ると自分以外の顔が映り込んでいる。その顔は男の顔のようで、ライオンの顔のようで、蛇の顔のようだった。よく目を凝らして何なのかを確認してみると、
『Enigmaを解明せよ』
「は?」
『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』『Enigmaを解明せよ』
壁画の謎を解き明かす時に刻まれていたあの一文が、あらゆる結晶から表示され、男の顔が至る所に浮き出てくる。
「な、なんだこれ……!? 何が起きてるんだ!?」
「色男、こいつァ……」
「くかかッ、神の怒りに触れた愚か者共よっ……裁きを、受けるがいいっ……」
結晶全体に映し出された若い男の顔が、咆哮するように口を開けば、大結晶は粉々に破裂する。そして『Enigmaを解明せよ』という蛍光色の文字が物質となり、周囲に飛び散った。
「──うぐぅあッ!?!」
俺の身体に文字が衝突し、壁際まで軽々と吹き飛ぶ。メルはすぐさまその場でノクスを構えて警戒したが、
「んなッ……!?」
「メ、メル……っ」
背中から蛍光色の文字が重く圧し掛かり、その場へひれ伏してしまう。何が起きたのか、とふと移した視線の先。砕け散った大結晶の位置に、四つ足のナニカが立っていた。
「──オレの縄張りを荒らした愚か者がいると聞いた。それは貴様たちか」
「何だよ、あいつ……?」
若い男の顔に、ライオンのような鬣。背中には白色の羽が生えている。その巨体は四メートルを超える大きさ。奇怪な化け物に、俺もメルも目を丸くした。
「シェセプ・アンク様っ……この者たちにっ、裁きをっ……」
「魔女、二名の人の子を相手にオレを呼び出すのは無礼に値する。よって貴様が先に処罰を受けよ」
「お、お待ちください! 余は、余は、我が主の為に──うぐッ!!」
蛍光色の文字が倒れていた魔女を持ち上げ、壁に向かって諸共突進する。魔女は負傷した身体を壁に衝突させると、落下の際に後頭部を岩の瓦礫に打った。
「次は貴様だ。哀れな小娘よ」
「くそッ! メル、今助け──ぐぉッ!?」
メルを助けようと走り出したが、あの文字がどこからか飛んできて、俺を壁に押さえつける。奇怪な化け物は黄金の雷を口元に溜め込み、
「ちッ、動けねぇ……!」
「Enigmaを抱え、暗闇に落ちるがいい」
放たれた黄金の雷。メルは目を瞑り、俺も思わずその場で目を瞑ったが、
「くッ、うぅううぅッ!?」
メルの前に魔女が現れ、白色の雷をぶつけて押さえ込んだ。力を込めているのか、傷口から血が溢れ出る。
「魔女、何であたしを助け──」
理解が追い付かないメルがそう問おうとしたが、ゆっくりと振り返った魔女の顔を目にし、言葉を止めてしまう。
「──お母さん?」
何かに支配されていた瞳は、娘を見つめる母親の瞳へと変わっていた。メルは呆気にとられた様子でポツリと呟く。
「……紗知、ごめんね」
「お母さん、元に戻って──」
「う"ッ、くッあ"ぁあ"ぁ……ッ」
「お母さんッ!!」
白い雷が黄金の雷に浸食され始める。神崎七瀬はメルを守ろうと必死に踏ん張るが、衣服が焼き焦げ、腕に黄金の雷が纏わりついていく。それでもメルに向ける顔は、娘に向ける優しい笑顔。
「もういい、もういいからそこをどいてくれッ! 頼むッ、そこをどけぇッ!!」
「貧乏だったから、紗知の、欲しい物も買ってあげられなかったっ……。私のせいで、沢山苦しい思いもさせて、沢山悲しい思いもさせた。本当に、本当にごめんね」
メルは動かせない身体をよじらせながら、神崎七瀬へ右手を伸ばす。けど指先すらも届かない。
「金なんていらない! 欲しい物もない! 私は、私はあんたが……お母さんがいてくれるだけで幸せだった!! 私こそ、私の方こそ、あんたに何もしてやれねぇ!! だからまだ、まだ逝くなぁッ!!」
初めて感情を曝け出したメル。自分の娘の声に母親の神崎七瀬は少し戸惑うと、白色の雷を最大出力まで上げた。メルは流血するほど唇を噛みしめ、叫びながら右手を母親へ必死に伸ばす。
「ごめんね、私は今の自分を長く保つことができない。頭が割れそうなぐらい、ずっと声が聞こえてくるの。もうすぐ、あなたの嫌いなお母さんに、また戻ってしまう」
「そんなの気にすんなよッ! 何度イカれちまおうが、何度だってあんたを元に戻してやるッ! だから私を、私をもう……ッ」
「だから最期ぐらいは──あなたが好きだったお母さんでいさせて」
「独りにするなぁぁああぁあッ!!」
雷同士が最大出力で衝突し合い、バチンッと弾け飛ぶ。メルの目の前には判別できないほど焼き焦げた遺体。口を開けたまま、メルは震える右手を伸ばす。
「あ、あぁ──」
上空からゆらゆらと舞い降りてきた一枚の焦げた写真。そこに映っていたのは幼少期のメルと、母親の神崎七瀬が桜の前で幸せそうに過ごす姿。
「あ"ッあ"ぁあ"ぁあ"ぁあ"ぁあ"ぁーーッ!!」
もう母親には届かない右手と心からの叫び。俺はその悲惨な光景を目の当たりにし、身体を押さえつけている蛍光色の文字を引き剥がそうとする。
「魔女はオレの手中に収めたはずだったが、真なる自我を絶てなかったか。不可思議なものだ。この世のEnigmaがまた一つ増えた」
「謎、謎だって!? だったら俺がてめぇに教えてやるッ! 家族の絆はな、絶ちたくても絶てねぇんだよッ! 裁きを下そうが洗脳しようが、てめぇは家族の絆は絶てないッ! それが家族で、繋がりで、親子なんだよぉッ!!」
「フン、理解し難いEnigmaだ」
「あぁてめぇには一生分からねぇだろうな──五ノ眷属、スフィンクスッ!!」
俺は怒り狂いながら奇怪な化け物の正体を叫んだ。こいつは図星のようでしばらく沈黙をする。
「オレたち眷属の天敵となる異世界転生者が存在すると噂で聞いた。それは貴様のことだな」
「あぁそうだ! てめぇのこともよく知っているぞ!」
「不可思議な話だ。しかし同士は既に数匹敗北している。疑う余地もないか。……貴様はこの世のEnigmaに沈んでもらおう」
「やってみろよッ!! そんな弱っちい雷で俺は殺せねぇぞぉッ!!」
次なる標的をメルではなく、俺に仕向けるため挑発をした。スフィンクスは前脚で雷を溜め始める。
「愚者よ。貴様自身の感情を恨むがいい」
食らえば間違いなく死ぬ。絶縁石があったとしても、到底耐えられない。かといって身動きも取れないとなれば──このまま死を待つだけ。
「……お前しか、お前しかいないんだよッ!!」
身動きが取れても勝てる気がしない。けど俺は知っている。このスフィンクスに勝てる人物。危機的この状況を塗り替えてくれる人物を。俺は独り言のようにその場で叫ぶ。
「このゴミ野郎を倒して、メルの母親の仇を取れるのはお前だけだ!! なぁそうだろ!? だから、だから早く来てくれッ!!」
「思考回路が狂ったか。まぁいいEnigmaの海に沈め」
「アレクシアぁあぁあああぁッ!!」
スフィンクスが溜め込んだ黄金の雷が放とうとした瞬間、
「──聞こえている」
「ヌグォッ?!」
王の間の入り口から二本の剣が投擲され、スフィンクスの両目に一本ずつ突き刺さる。前脚で目元を押さえるスフィンクス。俺はすぐに入口の方へ顔を動かすと、
「この距離で叫ぶな」
「ははっ、やっぱりお前はすげぇよ……」
「……何の話だ?」
アレクシアが王の間を見渡しつつ、状況把握しながら姿を現した。後続のイアンは俺を見つけると、すぐに駆け寄ってくる。
「おい大丈夫かよ! 怪我はしてないか!?」
「あ、あぁ、ありがとうイアン! 俺は大丈夫だ! それよりもメルの方を!」
イアンは俺の身体を押さえていた蛍光色の文字を斬り捨てる。俺は解放されたばかりの身体でメルの元へ走った。
「カイトくん、メルに何があったの……?」
「……それは」
圧し掛かっていた文字を既にクレアが退かしており、メルは焼き焦げた遺体の傍で意気消沈している。声を掛けようにも言葉が浮かばない。
「……なるほど。やはりこの女は魔女と関わりがあったか」
「……」
近づいてきたアレクシアはメルと魔女の関係性をすぐに悟り、両目を押さえているスフィンクスを見上げた。
「お前たちは下がれ」
スフィンクスは二本の剣を引き抜くと投げ返す。アレクシアは飛んできた剣の持ち手を掴み、流れるように二刀流の構えを取った。
「特にこの女を下がらせろ。巻き込まれるぞ」
「わ、分かった!」
俺はメルを強引に立ち上がらせ入り口まで後退させる。その最中、迫りくる蛍光色の文字をアレクシアが次々と叩き切り、援護をしてくれた。
「よくも俺の目を潰してくれたな、愚か者」
「盲目の貴様には必要ないだろう」
その言葉が気に障ったようで周囲を飛び交う蛍光色の文字が、スフィンクスの前で整列をする。
「オレの名は五ノ眷属Sphinx。貴様らはこの世のEnigmaと共に沈んでもらう」
すると整列した蛍光色の文字が周囲に散らばり『Enigmaを解明せよ』という文が全く違うものへ変化を始めた。
「……私はこの場で起きた悲劇をどうも思わん。だが今、貴様の顔を見ると──」
アレクシアはそう言いながら、メルの母親だった焼死体を横目で見た。普段通りの眼差しと表情。ただいつもと違うのは、
「──虫唾が走るな」
スフィンクスの顔を見上げながら、"不快な気分"を露にしていることだ。




