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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
5章:クルースニク協会

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145/366

5:18『vs 魔女の壺』

 ~本名:偽名~

アレクシア・バートリ:Joker(ジョーカー)

キリサメ・カイト:Gloomy(グルーミー)

イアン・アルフォード:Knight(ナイト)

クレア・レイヴィンズ:Virgin(バージン)


────────────────────

 


「おいメル! 少しはペース落とせって……!」

「クスクスッ、んならあんたらは後で来なァ。あたしはお荷物を抱えて歩くなんざァ御免だぜェ」


 先頭を早足で歩くメルはイアンへそう言葉を返す。殺伐とした空気間だが、キリサメはミネルヴァに肩を貸しつつ、アレクシアのことを気に掛けていた。最後尾を歩くクレアはそんなキリサメに気が付く。


「もしかしてジョーカーのことが心配なの?」

「……まぁな、あいつはいつも無茶をするからさ」

「確かにジョーカーは無茶をするかもね。でもきっと大丈夫。ジョーカーは無茶をしても、絶対に負けないから」


 ハッキリ「ジョーカーは負けない」と断言するクレア。その自信に満ち溢れた顔にキリサメは静かに頷くと、階段の先を見つめた。


「中間地点までやっとリターンできた──あ?」

「やぁ、お前たちを待ってたよ」


 数分ほど掛けて長丁場の階段を登り切り、大回廊へ何とか戻ってくると、そこに待ち構えていたのは弟の不知火(シラヌイ)氷璃(ヒョウリ)。王の間を塞いでいた石の壁は跡形もなく消えている。


「このでっけぇピラミッドで迷子になってんのかァ? シラヌイの弟様よォ」

「違うな。僕は『ここを通ろうとするヤツがいたら殺せ』って命令されてるんだよ」

「おーおー、お勤めご苦労さん。他のクソ共にはちゃーんと伝えておくぜェ」


 澄ました顔で壁に背を付けるヒョウリの前を、メルが何食わぬ顔で通ろうとした瞬間、


「お前たちはここを通ろうとしなくても殺すつもりだけどね」

 

 ゆっくりとかざした右の手の平から無数のナイフが射出されたが、


「バーカ、あんたの企みなんざァお見通しだ」

「お前っ……!」


 メルは王の間へ続く階段の方へ前転し、飛び交うナイフを回避した。容易く先に進まれたことに動揺したヒョウリは、メルを行かせまいと再び手をかざす。


「そこをどいてッ!」

「っ……!」


 しかしメルへの攻撃を阻止しようとクレアが即座に距離を詰め、ノクスを斬り上げた。ヒョウリは体勢を崩したことでやや狼狽える。


「鴨共ォ、あたしは先に行かせてもらうぜェ。テンプレ相手にくたばんなよォ」

「おい、待てよメルッ!」


 手助けをされたメルは「ラッキーだ」と言わんばかりに、そのまま王の間に向かって駆けていく。イアンの呼び止めも意味をなさず、あっという間に姿を消してしまった。


「カイト、メルの後を追ってくれ!」

「は、はぁ? 何で俺が追うんだよ?」

「魔女をアイツ一人で倒すなんて無理だろ! 俺たちやジョーカーが追い付くまで、どうにか引き止めてくれ!」

「でも俺なんかが後を追っても止められるかどうか……」


 ミネルヴァを大回廊の隅へ避難させると、イアンはメルを止めるよう促す。キリサメはしばし考える素振りを見せていたが、


「メルは多分、心の中で何かを抱えてる」

「抱えてるって?」

「それは分かんねぇ。けど何となく分かるんだ。アイツのことは嫌いだけど、あんな嫌なヤツになったのは……過去に色々とあったからだって。だからさ、同じ異世界転生者(トリックスター)のお前がメルを止めてくれ!」

「……あぁ、分かったよイアン!」


 イアンの説得にキリサメは強く頷いた。そしてお互いに笑みを浮かべると、王の間の階段まで全力で駆けていく。


「もう誰も進ませないよ!」

「きゃあっ!?」

 

 しかし王の間への階段を塞ごうと、ヒョウリの右の手の平から大岩がいくつも射出される。イアンは間に合わないと悟ると、隣を走ってるキリサメの左手を掴み、


「行ってこい、カイトぉおぉッ!!」

「うおぉおおぉおッ!?!」


 大岩によって完全に塞がれる前に、向こう側までカイトを力一杯に投げ飛ばした。


「くっ、僕としたことが……」

「はぁはぁッ、ギリギリセーフだったな……! 大丈夫かクレア!?」

「う、うん、ありがとう……」


 荒い呼吸を整えつつ、イアンはうつ伏せに倒れていたクレアの元まで駆け寄ると、右手を差し伸べる。そしてその場に立ち上がり、ヒョウリの方へ身体の向きを変えた。


「ま、いっか。あいつらは特別な奇術もないし、魔女と会ったところで雷に打たれて終わりだからね。お前たちをパパッと殺して、僕も後を追いかけることにするよ」


 余裕綽々な態度を取りながら右手をかざすヒョウリ。クレアとイアンはノクスを構えながら、静かに手の平を見つめた。


「……イアン、あの子の手は取り込むだけじゃなくて、吐き出すこともできるみたい」

「やっぱそうだよな。けど問題は"あの手に触れると喰われる"ってとこじゃないか?」 

「さっき少しだけ戦ってみたけど、お兄さんみたいに近接戦は得意じゃないみたいだよ。距離を取りながら戦えば大丈夫だと思う」

「オッケー! やってやろうぜ、クレア!」


 手の平から無数のナイフが射出された瞬間、地を力強く蹴って左右バラバラの方角へ一斉に走り出す。


「ちょこまかと動くな!」

 

 ヒョウリが最初に狙いを付けたのはクレア。無数のナイフが薙ぎ払われるように後を追いかけてくる。クレアはヒョウリを見つめながら大回廊の柱の裏へ身を隠した。


「そんな脆い柱に隠れても無駄だよ」

「今度は槍を……!?」

 

 ヒョウリは射出する武器をナイフではなく黄金の槍へと切り替え、隠れている柱ごと粉々に破壊する。クレアは柱から柱へと身を隠し、何とか耐えようと試みた。


「うおらぁあぁッ!!」

「……!」


 注意が逸れている隙に背後から斬りかかろうとするイアン。ヒョウリは右手でクレアを牽制しながら、左手をイアンの方角へすぐさまかざして触れようとした。 


「あぶねッ!?」

「ふん、運が良かったなお前」

 

 が、イアンは全身を駆け巡る悪寒(おかん)の感覚に、思わず横へ飛び退いて避難をする。


「そうか、分かったぞ。お前は右手だけしかナイフや槍を出せないんだな?」

「……!」

「左手で喰らって、右手で吐き出す。だから俺とクレアを同時に狙えなかったんだ」


 図星を突かれたヒョウリは勘のいいイアンに対して不快感を示し、右手から槍を射出するのを止めた。


「何でそんなすげぇ力を持ってるのに、俺たちと戦おうとするんだよ? 人間の敵は吸血鬼のはずだろ?」

「……僕はね、仲良くできると思ってるんだ」

「仲良くできるってどういう……?」

「そのままの意味だよ。僕はこの力で吸血鬼と人間、どちらも支配できる王様になる。だからお前たちみたいな人間に力を見せつける必要があるんだ」


 ヒョウリは真剣な表情で淡々とそう語る。冗談とは思えない声色と現実とかけ離れた理想に、思わずクレアは柱の裏で俯いたが、


「──いいじゃん」

「……えっ?」


 イアンは迷わずヒョウリの意見を肯定した。クレアは意外な反応に小さな声を上げ、柱の影から顔を覗かせる。


「吸血鬼と人間は分かり合えるって話。俺もそう信じたいよ。分かり合えれば、俺たちは戦うことなんてないんだしさ」

「でしょ? だから僕は間違ってなんか──」 

「いいや、お前のやり方は間違ってる。支配しようとしている時点で、お互いに分かり合えてない状態だろ。一方的に支配して、仲良くなれるわけがない」

「……っ! うるさいッ!」


 迷わず肯定したかと思えば、間違っている部分を的確に否定するイアン。ヒョウリは反論できず、しかめっ面を浮かべ、右手をイアンの方へかざそうとする。

 

「クレア、今だ……!」

「なっ、いつの間に……!?」


 しかし注意がイアンに向いている隙に、ノクスを逆手持ちに構えたクレアが詰め寄ってきた。ヒョウリは喰らい付こうと左手を伸ばし、

 

「お前は邪魔だよ!」

「ぐッうぅ……ッ!?」

「クレアッ!」


 胸元へと手の平が触れる。暴食の手はクレアの肉体を粒子へと変え、少しずつ吸収を始めた。イアンは助けようとノクスで斬りかかる。


「僕は間違ってなんかいない! 僕は知っているんだ! 沢山の種族を仲間にして、慕われるような主人公を……!」

「くっそぉ……ッ!!」


 右手から吐き出したのは無数の銅の剣。イアンは近距離では捌き切れず、切り傷を負いながらも岩の影へ後退してしまう。


「その主人公は支配するために邪魔者を消していた! だから僕だって支配者になるために、皆に慕われるために、お前たちをここで殺すんだッ!」

「違うッ、殺しても、ぐッあぁ……! 解決、しないよ……ッ!」


 クレアは粒子として吸収されていく肉体に鞭を打ちながら、ヒョウリの左手首を力強く掴み、腹の底から声を出す。


「あなたが憧れていた"その人"はッ、本当にそんな人だったの!? 理想の為に、支配の為に、誰かを殺すことで解決するような……そんな人だったの!?」 

「……!」

「もしあなたがッ、本当に、そんな人になろうとしているのなら──」


 そして身体をやや痙攣させてゆっくりと顔を上げれば、

 

「──私はあなたに、負けたくないッ!!」

「うッわあぁああぁッ!?!」

 

 瞳の色が真っ赤に染まると同時にヒョウリの左手首の関節を捻じ曲げた。暴食の手は機能しなくなったのか、クレアの肉体の粒子化はピタリと止まる。


「イアン、右手を……!」

「あぁ任せろ!」


 力を使い果たしたクレアはその場に片膝をつくと、イアンは岩の陰から飛び出し、ヒョウリに向かって全力疾走する。


「来るなぁ! 僕に近寄るんじゃない!」

   

 痛みに悶えていたヒョウリは右手でイアンにあらゆる武器を吐き出した。ナイフ、銅の剣、金属の槍、金の斧、様々な刃が飛び交う中でイアンは立ち止まらない。


「どけぇえぇえッ!!」

「な、何だよ、その力はぁッ!?!」


 イアンの前方に薄っすらと浮かび上がる光の盾。吐き出された武器たちを次々と弾き返し、二人の距離を縮めていく。


「うおらぁああぁッ!!」

「ごふ……ッ!?」


 そのままヒョウリの腹部へ頭突きをし、その場に転倒させると右手首を地面へ押さえ込んだ。そして息を荒げながら、ノクスの刀身を首元へ突きつける。 


「や、やめてくれ! い、命だけは──」

「はぁはぁっ、殺すわけないだろ」

「……え?」


 命乞いをしていたヒョウリは、その一言にキョトンとした表情を浮かべた。イアンは大きく深呼吸をすると、無邪気な笑みを見せる。


「もう心に決めたんだ。人間は絶対に殺さないって。それが間違っていても、俺たちはそう決めた。……だろ、クレア?」

「うん。私たちは、私たちが正しいと思ったことをするから」


 押さえ込んでいたヒョウリを解放し、イアンはクレアの容態を案じ始めた。警戒心ゼロの二人に、ヒョウリは上半身だけ起こして「おい!」と声を掛ける。


「ア、アホだろ、お前たち……! 僕をここで解放したら、後ろから攻撃するかもしれないぞ!?」

「いーや、お前はしないね」 

「何でそう言い切れるんだよ?!」

「さっき『吸血鬼と人間は仲良くできる』って言っただろ? お前の目、本気だった。そういう奴ってさ、自分が間違っていたって気が付けると思うんだ。絶対に変われるよ、お前なら」


 イアンの温かい言葉にヒョウリは項垂れる。すると足を引きずりながら、ミネルヴァが三人の元へ近寄ってきた。 


「……吸血鬼と人間は分かり合える。昔、あなたと同じようにそう信じていた人がいたわ」

「えっ?」

「その人は吸血鬼なのに……誰よりも哀しみに敏感で、人間の私たちを救ってくれた。村が食屍鬼に襲われたときも、必ず助けてくれたの。その度に村の人たちへ何度もこう言っていたわ。『人間と吸血鬼が共存する世界にしたい』って」


 ミネルヴァはヒョウリの傍へ座り込むと、制服の汚れを手で払う。


「私たちも最初は拒んでいたけど、その人が連れてきた吸血鬼は……恐ろしいあの吸血鬼だとは思えなかった。牙が生えて、瞳が赤くて、少し肌が白いだけの人間よ」

「……人間」

「力があれば人は動かせる。でも力では人の心を動かせない。人の心を動かすのはいつでも"言葉"だけなの。その人はそれを知っていたわ」


 奇術と呼ばれる力を宿した右手を静かに見つめる。ヒョウリはミネルヴァの言葉に心を動かされ、自分自身の過ちを少しずつ理解し始めた。

  

「あなたはまだやり直せる。力による支配じゃなくて、言葉で周りの心を動かすのよ。いつの日か『吸血鬼と人間が共存できる世界』にするため」

「……僕の言葉で、人の心を動かし──」

「何をしている?」


 声を掛けてきたのはイアンたちの後を追いかけてきたアレクシア。両手に握られた青銅の剣と黒曜石の剣は血に染められている。


「……なるほど。もう終わっているのか」

「アレクシア、無事だったんだな!」

「あぁ片は付いた」


 状況を把握するとアレクシアは王の間へ続く階段を見上げた。ヒョウリは両手に握られたケンジロウの剣をじっと見つめる。


「兄者の、剣? どうして、お前が持って……?」

「貴様の兄は死んだ」

「はっ……?」

「正確には私が始末したと言うべきか」


 澄ました顔でそう告げるアレクシア。ヒョウリは真っ青な顔でゆっくりと立ち上がり、一歩ずつアレクシアへ近づいていく。


「何で、殺したの……?」

「二度の忠告を無視したからだ」

「こ、殺さなくても、良かったよね……?」

「村の人間を殺した貴様が何を言っている?」


 平然としているアレクシアに対し、怒りが込み上げたヒョウリは、右拳を震わせながら歯軋りの音を立てる。 


「兄者を、よくも兄者を殺してくれたなッ!?!」 

「おい何してんだよ!? 止まれ、ヒョウリ!」


 そして右の手の平をアレクシアへと向けて、その場から駆け出した。無数のナイフが射出されるが、アレクシアはすべて二本の剣で叩き落とす。


「お前を許さないッ、絶対に許さないッ!!」

「そうか」

「待って! やめて、アレクシアッ!」


 真っ直ぐ向かってくるヒョウリに向けられたのは殺意。勘付いたクレアは思わず声を上げるが、


「失せろ」


 静止するはずもなく、ヒョウリに向けて二本の剣を一斉に振り下ろし──。



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