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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
5章:クルースニク協会

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144/366

5:17『vs 魔女の針』

 ~本名:偽名~

アレクシア・バートリ:Joker(ジョーカー)

キリサメ・カイト:Gloomy(グルーミー)

イアン・アルフォード:Knight(ナイト)

クレア・レイヴィンズ:Virgin(バージン)


────────────────────


「こんな場所で素振りか。意味もないのに精が出るな」

 

 階段の前にある広い部屋で二本の剣を振り回すケンジロウ。私はノクスを右手に握りしめ、淡々とそう述べながら姿を見せた。


「ははっ、やっと出てきたか。俺にビビって出て来られなかったんだろ? 戦ったらまた負けるもんなぁ? この最強の俺によ」

「正確にはお前ではなく"黒の騎士"に、だろう」

「……っ!」

 

 その一言が癪に障ったのか、ケンジロウの剣を握る手がやや(りき)んだ。私は周囲の壁を見渡しながら、ノクスを逆手持ちに切り替える。


「今まで何人殺してきた?」

「はぁ? そんな"どうでもいい"こと覚えてねぇよ」

「……女や子供には手を出したか?」

「聞かなくても分かんだろ。所詮モブなんてさ、主人公のおだて役として殺されるのが当然だと思わねぇか?」


 何食わぬ顔で答えるケンジロウ。私は静かに「どうだろうな」とだけ呟く。

 

「"自己暗示"をすれば、脳内に思い描いた人物になり切れる。それがお前の奇術(トリック)だと言っていたな?」

「あぁそうだ! 俺はどんなヤツにもなれる! 無双できる主人公にも、スキルで圧倒する主人公にも、何にでもなれる最強の奇術(トリック)……! 今からお前は、一匹のモブキャラとして俺に倒されんだよッ!!」


 ケンジロウは威勢よく叫び、左半身に二本の剣を寄せる構えを取りながら、勢いよく突進してきた。右手に握られた黒曜石の剣が一撃目、左手に握られた青銅の剣が二撃目として迫るが、


「うぐぉッ!?!」


 寸前で回避した後、ケンジロウの顎を後方へ回転しながら蹴り上げた。ケンジロウはそのまま体勢を崩し、その場に尻餅をつく。


「今だ。先に行け」

 

 隠れていたキリサメたちに視線を送ると、壁際を伝いながら階段へと向かう。キリサメとイアンが足を負傷したミネルヴァに肩を貸し、クレアとメルが先導をする。

 

「いかせるかッ──ぐふぉッ!?!」


 立ち上がろうとしたケンジロウの左頬を狙い、キリサメたちとは対称の位置まで蹴り飛ばした。ケンジロウの叫び声を聞いたキリサメがこちらへ視線を送ってくる。


「……分かっている」


 私はそれだけ伝えるとキリサメたちは階段を登り始め、その場から姿を消した。私は壁際で倒れているケンジロウに視線を移す。


「ちっ、他のモブキャラは氷璃に任せるしかねぇか」

「どうした? もう立てないのか?」

「てめぇ、俺のことをコケにしやがって!!」


 ケンジロウは立ち上がると、苛立ちながら右手の黒曜石の剣を肩の上で構えた。私はただ離れた場所でその構えを見据えるのみ。


「死ねぇえぇえッ!!」


 妙な音と共に赤色の光を灯した黒曜石の剣でこちらへ突きを放ってくる。伸びているように見えた。


「なるほど。確かに技を発動した後は隙が大きいな」

「ぐふぉあッ!?!」


 が、私は黒曜石の剣を半身で避けつつ、右脚の膝蹴りをケンジロウの腹部に打ち込んだ。痛みに悶えながらもケンジロウは後退りをする。


「このッ、やろぉおぉおぉッ!!」

 

 口元から涎を垂らしながらも右手の剣を左脇に寄せ、右、左、回転、斬り上げという四連撃を繰り出した。私はそれらを難なく回避した後、後方に回り込み、背中に肘打ちを食らわせる。


「このままだと負けるぞ」

「なめんなッ、なめんなよッ!! 俺を、俺を誰だと思ってやがるッ!?!」


 ケンジロウはその場から飛び上がると、石の壁を蜘蛛のように駆け回りこちらの様子を窺う。ご乱心なのか、向けられる視線には殺意しか込められていない。


「この技ならどうだぁあぁあッ!?」


 背後から左からの垂直斬り、右からの垂直斬り、最後に中央へ垂直斬りを繰り出す。私は中央の一撃だけノクスで受け止め、


「お前は叫ばないと戦えないのか?」

「ぐおぁはッ!?」


 空いている手で制服の胸元を掴み、地面に叩きつけた。


「このぉッ!!」

「二度目は通じん」


 瞬間、予備動作無しの回転蹴りを放ってくる。私は事前に蹴りを予測し、一歩だけ後退していたことで、ケンジロウの右足は空回りした。


「つまらん男だな」

「はぁッはぁッ……! だ、だったら、最強の技を見せてやるよぉッ!!」


 蹴りの反動で立ち上がり、二本の剣を白光させるケンジロウ。私は逆手持ちにしたノクスの刃をケンジロウへ向ける。


「これがッ、黒の騎士のッ、最強の技だぁああぁあぁッ!!」


 最強の技と称し、"発動した"のは二刀流による十六連撃。二本の剣から星屑のように白い光が飛び散り、目に留まらぬ速度で斬りかかってくる。


「死ねッ、死ねッ、死ねぇえぇーーッ!!」

「なるほど。これが"あの場面"に出てきた剣技か」


 私は冷静に、淡々と、十六連撃とやらをすべて受け流す。そして技の発動時間が切れたと同時に、ゆっくり一呼吸置くと、


「もういい」

「げッほぁ……ッ!?」

 

 左拳でケンジロウの顔面を加減無しで殴打する。鼻血を出しながら顔を押さえ、その場に狼狽えているのを見逃さず、次々と殴打や蹴りを的確に打ち込んでいく。


「ざ、ざせるかッ──」

「無駄だ」

「ぐおぉあッ!?」


 二本の剣を交差させ私の蹴りを受け止めようとしたが、ノクスで交差させていた二本の剣を弾き、最後に前蹴りを鳩尾へ叩き込んだ。ケンジロウは体勢を崩し、再び尻餅をついた。


「ま、まだッ、まだ最強の技が残っでる……!!」

「ほぉそうか。見せてみろ」

「これでもッ、ぐらえぇええぇえーーッ!!」


 二本の剣を青色に発光させ、こちらに斬りかかってくる。交差させながら剣で斬り上げ、身体をよじらせての回転斬り、合計すると二十七連撃。先ほどのおおよそ二倍。


「ぐそッぐそッぐッそぉおぉッ──ぐッはぁッ!?!」


 私は一撃ずつ最善の処理をし、最後の二十七連撃目に合わせて、宙で身体を回転させながら、ケンジロウを蹴り飛ばす。 


「今のが二刀流の最強技とやらか。やはり奇妙な剣術だな」

「な、何でッ……最強の技を、避けれるんだよッ……?!」

「黒の騎士に関連する本をすべて読んだ」

「全部、読んだ、だってッ……!?」


 私はキリサメのスマホに保存された黒の騎士に関連する本を十五分で速読した。特に細かく目を通したのは黒の騎士が試用していた技、スキルとやら。


「最初は手こずったが、今の私に"スキル"とやらは通じない。すべて予習済みだ」

「ふざけッんなッ!! 黒の騎士の二刀流は、ラノベを読んだだけでどうにかなるもんじゃねーよッ!!」

「確かにスキルとやらの仕組みは到底理解しがたいものばかりだった。だがお前は一つ勘違いをしている」


 尻餅をついたケンジロウ。私はノクスの矛先を突き付け、鼻で嘲笑う。


「お前は黒の騎士ではない。奇術という(まやかし)に溺れただけの愚か者だ」

「……は?」

「自己暗示という力を使う前の言動はすべて素人同然。黒の騎士を模倣するスキルとやらはマシな部類だが……本物との完成度は雲泥の差だ」

「ははっ、バカかよお前! 俺以外に本物なんて見た事ねぇだろ! なのに何でんなことが分かんだ──ヒィッ?!」


 ケンジロウはこちらを馬鹿にしてきたため、私は突き付けていたノクスの矛先を眼球の目前まで迫らせる。ケンジロウは小さな悲鳴を上げ、すぐさま目を瞑った。  


「戦う理由も死を恐れない度胸も、お前にはないだろう。黒の騎士は守るべきものを守ろうと戦っていた。スキルとやらもむやみに使用せず、自らの頭で考えて戦いを挑む。お前は黒の騎士を最強だのと持ち上げていたが……」


 ケンジロウの眼球からノクスの矛先を少しずつ引き離し、その場に落ちている黒曜石の剣と青銅の剣を見つめる。 


「私は"あの男"が悩んでばかりの情けない男に見えた。……だが、だからこそ"英雄"と呼ばれているのだろうな。所詮、お前は哀れな偽物に過ぎん」

「……ッ」


 冷めた眼差しを向ければ、ケンジロウは歯軋りをしながら二本の剣を拾い上げた。


「偽物じゃねぇッ、俺が、俺こそが黒の騎士だッ!! 奇術の力で、黒の騎士になれたんだよッ!!」

「お前に勝算はない。投降しろ」

「するわけねぇだろうがッ! 黒の騎士は負けねぇッ!! 俺の最強の奇術はッ、こんなところで負けねぇんだよッ!!」


 二刀流でスキル発動の構えを取ると、こちらを睨みつけるケンジロウ。しかし私は構えを取ることなく、むしろノクスを懐に仕舞った。 

 

「最後の忠告だ。投降しろ」

「するわけッ──」


 私の言葉を聞かず、高速でこちらまで距離を詰め、


「ねぇだろうがぁあぁあッ!!」

「そうか」


 身体を回転させて二本の剣で乱舞のように斬りかかる。私はその場で俯くと小さな溜息をつき、


「"貴様"は──もう終わりだ」

「いでッ、いでででッ!!」


 迫りくる両手首を掴み、反対側へと力技で捻る。痛みに悶えたケンジロウは二本の剣を手離し、地面へと落とした。


「うッぼぉあぁッ!!」


 頭突きを顔面へと放ち、三歩ほど後退させてから、落ちていた二本の剣をゆっくりと拾い上げる。脳裏を過ぎったのはケンジロウと戦う前に交わしたキリサメとの会話。


『なぁジョーカー。ケンジロウを、殺すんだよな?』

『あぁ、あの男を生かしておく理由はない』

『もしさ、もし余裕があったら、降参するよう言ってくれたりとか……』

『……何を考えている?』

『あいつは確かにヤバいやつだけど、もし降参して俺たちの仲間になってくれたら……心強いだろ? それに俺と同じ異世界転生者(トリックスター)だしさ』

 

 キリサメはどうにか仲間に引き入れられないか、と恐る恐る提案してきた。私はあまり同意はしたくなかったが、


『ほら、お前も俺も異世界転生者について情報が欲しいだろ?』

『投降するよう忠告はするが、忠告を無視すれば始末する。……それでいいな?』

『……あぁ、それでいいよ。お前に無理もさせられないしさ』


 条件を付けて同意をした。しかしキリサメなりの救いの手をケンジロウは容易く振り払ったのだ。


「貴様には黒の騎士との模擬戦を体験させてもらった」


 私は拾い上げた二本の剣を構え、突進の体勢へと切り替える。


「お、お前ッ!! な、何をする気だよ……!?」

「客観的に見たことないだろう。黒の騎士の二刀流とやらを。最期に見せてやる」

「お、俺は主人公だッ! 殺すなんて、お前にできないッ!! モブキャラのお前なんかに、俺を殺す権利なんてぇッ!!」


 煩わしい言葉を私は無視すると、その場で地を蹴ってケンジロウの側まで接近する。そして剣を振る寸前、瞳の奥を覗き込み、


「そんな権利など知らん」

「や、やめッ──」


 右手の黒曜石の剣を斬り上げ、左手の青銅の剣で更に斬り上げる。ケンジロウの衣服、皮膚、筋肉、臓器までをも刃が斬り裂いていく。周囲に真っ赤な血が飛び散った。


「あ"ぁあ"ぁあ"あ"ぁあ"ぁあ"ぁッ!?!」


 血塗れになって仰向けに倒れるケンジロウ。痛みに悶え、身体を震わせながら悲鳴を上げる。


「スキルとやらを吸血鬼共相手に利用しようと、しばらく貴様を泳がせてはみたが……再現は厳しいか」

「ひッひぃッ!! 血がッ、血が出てッ……ごほッごほッ、だ、助けでぐれ……ッ!!」

「あぁ伝え忘れていた。貴様の奇術には欠点がある」


 私に助けを求めようと手を伸ばすケンジロウを眺めながら、思い出したように続けてこう説明をした。


「貴様は自己暗示の効力を存分に発揮できていなかった。私が貴様の顎に蹴りを入れ、頭部を蹴り飛ばした時から」

「いだいッ、いだいいだいッ!! だすげでッ、だすげでぐれぇえぇッ!!」

「容易く手に入れた力は容易く使う。露見したリスクを考えずにな」


 自己暗示は思考回路で自分自身にそう思い込ませる。ならば頭部に損傷を与えるとどうなるかと試してみれば、最初に交戦した時より動きが鈍くなった。しかしこの男はまるで気付かず、私へ斬りかかってきたのだ。


「それでも貴様の奇術は厄介な力だったが──」

「だすけでッ、だすけでぐれ……ッ!!」


 私は振り下ろした黒曜石の剣でケンジロウの口の中を貫き、


「ごッぼぉあッ──」

「──吸血鬼共には劣るな」


 ケンジロウへトドメを刺した。煩わしい叫び声も収まり、ジタバタと暴れさせていた身体もぐったりと止まる。


「この剣は利用させてもらう」


 辺りが静寂に包まれるとケンジロウの死体へ背を向け、二本の剣を持って、キリサメたちの後を追いかけることにした。階段を早足で登る最中、ふとキリサメとの会話が脳内に過る。


『もしさ、お前と本物の黒の騎士が戦ったら……どっちが勝つんだ?』

『善戦すれば相討ちまでは持っていく。だが前提として"この男"は私と戦おうとしないだろうな』

『え? 何でそう思うんだよ?』

『"この男"は初対面の女との距離感がおかしい。出会えばまず間違いなく、私と友好関係を築こうとするだろう』

『あー……それはハーレム系の宿命なのかもなぁ……』


 黒の騎士とは相まみえたくはない。そんなどうでもいいことを考えながら、私は二本の剣を手に階段を駆け上がった。 


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