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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
5章:クルースニク協会

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141/366

5:14『ピラミッド』

 ~本名:偽名~

アレクシア・バートリ:Joker(ジョーカー)

キリサメ・カイト:Gloomy(グルーミー)

イアン・アルフォード:Knight(ナイト)

クレア・レイヴィンズ:Virgin(バージン)


────────────────────


「ここが大聖堂か」

「おーおー、クソみたいな教育をしている割にご立派なこった」


 ミネルヴァに案内をされ、数分ほどで大聖堂に辿り着く。クルースニク協会よりも高い天井に、祭壇を照らす色鮮やかなステンドグラス。信者が座るであろう長椅子にはご丁寧に赤のクッションが敷かれていた。


「げっ、ここにもスマホが飾られてんのか……!」

「命よりも大事なもので、自分が救われるための唯一の希望。それがこの長方形の板。アイツら、イカれてるわよ」

「クスクスッ、んならあたしらの世界にもイカレ共がわんさかいるってことになるぜェ」


 大聖堂の天井や壁には様々な色のスマホが裏面で貼り付けられ、レンズらしき部分がこちらへ向けられている。キリサメはその光景に息を呑んだ。


「地下通路はどこにある?」

「あの祭壇の下ね。魔女はいつもあそこから出てくるの」


 私たちは祭壇の元まで歩み寄り、退かせるかを試すため軽く押してみた。だが石の床と固定されているようで動く気配が微塵もない。


「なぁ、本当にこの下にあるのか?」

「えぇそのはずよ。私たちはいつもここから出てくる姿を見ていたから」


 首を傾げるイアンにそう返答するミネルヴァ。私は大聖堂の周囲を見渡すと、入り口、長椅子、ステンドグラスの順に視線を移した。


(特定の条件下で開く仕掛けでもない、祭壇自体に仕掛けを動かした痕跡もない……となれば)


 私はとある仮説が浮かび、大聖堂の隅を歩き回りつつ、ミネルヴァに「おい」と声を掛ける。


「どうしたのよ?」

「お前は『出てくる姿を見た』と言っていたが……魔女がこの祭壇から地下通路へ下る姿は見たことあるのか?」

「そういえば、魔女がこの下に入っていく姿は見たことないわね」

「なら十中八九、仕掛けを動かせるのは下からだけ。どこかに別の入り口があるはずだろう」


 謀反人(むほんにん)を警戒しているのか、それとも地下通路を超えた先にある"ナニカ"を見られたくないのか。私は大聖堂の壁を触れながら、隠された入り口がないかを確認する。


(痕跡はない……ということは他の場所に入り口があるのか?)

「なんか分かったかァジョーカー?」

「ここには何もないことが分かった」


 大聖堂の壁を一周したがどこにも痕跡は無かった。ならば他の場所だろう。それこそ村の中央にあった砦から別の方角へ向かうしかない。


「んだよ、かったりぃ。ボス部屋まで変に遠回りさせるゲームは売れねぇんだぜェ、魔女様よォ」

「カイトくん、ボス部屋にゲームって?」

「あぁ気にしなくていいよ。俺たちの世界にそういう娯楽みたいなのがあるんだ」


 キリサメとクレアが会話する最中、メルは気怠そうに長椅子へ座ると天井を見上げた。ミネルヴァは必死に過去の記憶を辿ろうと腕を組んで上を向く。


「……待って、もしかしたら」

「んっ、どうしたんだ?」

「全員、天井を見上げて」

「上を見ろって、何でそんなこと──」

「いいから!」


 イアンは急かされるようにそう言われ、渋々天井を見上げた。私たちもミネルヴァに言われるがまま、何も無い天井を見上げてみれば、


「……! 祭壇が動いた……!」


 通路を塞いでいた祭壇が重々しい音を立てながら、ステンドグラス側にずれていく。私たちは地下通路の入り口まで早足で歩み寄った。


「思い出したわ。魔女が大聖堂へ現れる前、信者は全員『信じて仰げば』って天井を見上げるの」

「どういう原理で動いている? 人間の視線で作動する仕掛けだとでも?」

「クスクスッ、あぁそういうことかよ」


 メルは何かに気が付いたようでスマートフォンを取り出し、レンズらしき部分を私たちに見せつけてくる。


「ご立派な大聖堂をスマホで綺麗にデコレーションしてんのは、イカれ共の動きをこのカメラで監視するためみてぇだぜ」

「……なるほど。私たちの『天井を見上げる』という動作をそのカメラで認識し、祭壇が動く」

「んでもって、魔女様のご登場~……ってわけだ」


 私ですら初めて目にする仕掛けなのは、異世界とやらの技術を利用しているためだろう。異世界とやらの技術でどこまで可能なのか、どこからが不可能なのか。それを理解し適応するのは時間がかかりそうだ。 


「さぁ先に進むわよ。そろそろさっきの騒ぎが広がっている頃だと思うから」


 ミネルヴァが先陣を切って地下通路を降りていく。順序はメル、キリサメ、イアン、クレア。そして私が最後尾になり、後に続けば地下通路の入り口を祭壇が勝手に塞いでしまった。


「あのさ、帰るときはどうするんだ?」

「クスクスッ、帰りのことなんざァ考えるのは野暮だぜ色男ォ? まずはあたしとのデートを楽しみなァ」

「お前とデートしてるつもりねぇよ……!」

「ねぇあなたたち、ちょっとは静かにできないの?」

 

 地下通路は雑な作りではなく、紫色のカーペットと茶色の壁紙で整えられている。更に『電気』とやらも利用しているようで、地下だというのに通路の視界は(すこぶ)る良好だった。


「聞きたいことがある」

「何よ?」

「魔女の壺と魔女の針について何か知っていることはあるか?」


 プローブという鷲の名称を持つ情報屋。確証はないが魔女には『魔女の壺』と『魔女の針』という手駒がいると言っていた。ミネルヴァが何か知っているのではないかとそう尋ねてみる。


「私が知っていることは、二つだけよ」

「二つでもいい。教えろ」

「……魔女の壺は奇妙な術を、魔女の針は奇妙な剣術を使うの」

「奇妙な術と奇妙な剣術だと?」

「えぇ、魔女の壺は触れた人間や触れた物を一瞬で消して……魔女の針は反逆者を奇妙な剣術で斬り捨てる」


 奇妙な術と奇妙な剣術。

 奇妙な剣術はともかく奇妙な術となれば、今まで始末してきた眷属共が脳裏を過る。どこかしらで眷属共が関与している可能性はなくもない。


「もう一つは──生粋の人間だということよ」

「人間? それは本当か?」

「間違いないわ。フードを深く被っていたから顔は見えなかったけど、歩き方も背丈も人間よ」

「吸血鬼共の可能性は?」

「ローブを着てはいたけど、魔女と一緒に村の外で陽の光を長時間浴びていたわ。苦しむ様子もなく、平然と」


 つまり魔女もその手駒も吸血鬼共の可能性は極めて低い。それらを踏まえれば、ストーカー卿が食屍鬼や吸血鬼共を改良したか。それとも私の範疇を超える存在か。


「なぁ、俺たちどんぐらい歩いたんだ?」

「えっとね、三分二十秒ぐらいだと思うよ」

「……それは合っているのか?」


 随分と的確に時間の経過を述べるクレア。疑念を抱いた私はクレアにそう聞いてみると静かに頷いた。


「体内時計っていうのかな。時間の感覚が私には何となく分かるんだ」

「そういやお前って、昔から集合時間に遅れたことなかったもんな。俺があの神父に怒られてるの、笑って見てたし」

「えっ、笑ってないよ……!?」

「いーや、笑ってたね! 寝坊した俺のことをジョーカーの隣で笑って──」

「笑っていようが笑ってなかろうがどうでもいい」


 どうでもいい会話を交わしていれば、前方に出口らしき光が見えてくる。その光は陽の光のようにも見えるがここは地下。電気とやらを利用した光だろう。


「そろそろ通路を抜けるわよ」


 地下通路を抜けた私たちの目に飛び込んできた景色。私は眉をひそめながらも、ゆっくりと端から端まで一望する。

  

「ここって……"砂漠"、だよな?」

「えぇ、私も知らなかったわ……。地下に、こんな場所があるなんて」


 森林に囲まれた村の地下にあるのは砂漠地帯。水の流れない()れ川に、砂を巻き上げる小さな竜巻。私たちを照らすのはギラギラとした太陽の光(・・・・)


「ここは地下のはずだ。なぜ風が吹き、太陽が空に浮かんでいる?」

「分からない、けど……。この砂漠を作り出したのはきっと魔女よ。そうとしか考えられないわ」

「……おい、方位磁石を見せろ」

「お、おう」


 キリサメから方位磁石を受け取って方角を確認してから、空に浮かぶ太陽を見上げる。浮かぶのは北の方角、確認し終えると銀のコンパスを返した。


「……あのさ、どうして方角なんて確認したんだ?」

「念のためだ」


 私たちは砂漠地帯を突き進む。一歩を踏みしめる度に足が砂に沈むうえ、蜃気楼(しんきろう)が見えるほど気温が上昇している。キリサメたちはあまりの猛暑に額から汗を流す。


「あちぃ、あっちぃぜェ。おいミネルヴァ様よォ、魔女はどこにいんだァ?」

「多分、こっちに……」

「まさかだとは思うが……正確な位置を知らないのか?」


 ミネルヴァは足を止める。行く宛もなく広大な砂漠地帯を進むのは自殺行為。私は考えも無しに歩き出したミネルヴァに溜息をつく。


「引き返すぞ」

「おいおいジョーカー様よォ。帰んなら巻ける尻尾付けてからにしなァ」

「準備も無しにこの砂漠地帯を歩くのは愚策だ。死にたいのなら独りで行け」


 私は呆れるメルにそう吐き捨て後方を振り返った。


「……そういうことか」


 踏みしめたはずの自分たちの足跡が消えている。地下通路の入り口も見える位置に立っているはず。しかし後方を一望してもまったく視界に映らなかった。


「罠に嵌められた」

「ジョーカー、罠って?」

「この砂漠地帯は侵入者を迷わせる仕組みだ。通路に戻るまでの帰り道が塞がれた」

「あれ、ほんとだ!? あんまり歩いてないのにどうして……」


 奇妙な光景に辺りをキョロキョロとするクレア。私は足元の砂を一握り掬い上げ、先ほどまで歩を進めていた方角を見つめ、キリサメに手を差し出す。


「……方位磁石を見せろ」

「あ、あぁ!」


 銀のコンパスを受け取ると北の方角を確認する。北を指し示すのは私たちの後方。空に浮かぶのは太陽。どうやら今まで南に向かって歩いていたらしい。


「逆の方角を進む」

「おーおー、何か策でもあんのかジョーカー?」

「私たちが砂漠地帯を進み始めたときは北の方角だった。それが今は南に切り替わっている。単に方角が逆になったと考えて行動するだけだ」

「どうして北を目指すのよ?」

「根拠はない。この行動が正しいかどうかも知らん。だが動かなければ正しいかどうかも分からんままだろう」


 北の方角を砂に足を取られながら突き進む。銀のコンパスを確認していれば、北を指し示していた方角の針がゆっくりと左に動いていく。


「北に進み続けるぞ」

「ねぇ、このまま進んでも大丈夫なの?」

「知らん」


 ひたすらに切り替わる北の方角へ進み続ける。すると前方の視界に四角錐形の建造物が見えてきた。


「おい、あそこに水があるぞ。少し休憩しないか?」


 東の方角に見えてきたのはオアシス。砂漠地帯を歩き続けていたことで、喉を乾かせていたキリサメはそちらへ身体の向きを変える。


「寄り道はしない」

「何でだよ? 少しぐらいは……」

「ここは侵入者を迷わせるために作られた砂漠地帯だ。そんな場所にわざわざオアシスという居場所を魔女共が用意すると思うか?」

「確かに、そう考えたら……」

「水分なんざァイカれ共から奪えばいい。とっととこのクソみたいな場所を抜けちまおうぜ」


 歩を進めれば進めるほど、四角錐形の建造物がハッキリと見えてきた。それは石や煉瓦(レンガ)で積み重ねられた"ピラミッド"と呼ばれるもの。


「ピラミッド? 地下にどうしてこんなものが……」

「クスクスッ、魔女は変わった趣味をお持ちのようだぜェ」


 ピラミッドには正面の入り口が分かりやすく作られている。私は銀のコンパスをキリサメへ返した。


「なぁ、何で北に進んだら抜けられたんだ?」

「『信じて仰げば』という言葉通りに動いて祭壇が動いた。この砂漠地帯も言葉通りに動く必要があるのなら、空を見上げる必要がある。見上げて目に入るのはあの太陽で、浮かぶ方角は"北"だ」

「あー、なるほどな! そういうことか!」


 辿り着いた理由に納得したキリサメ。私たちは魔所の元へ向かうためにピラミッドの内部へと侵入することにした。

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