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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
5章:クルースニク協会

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139/366

5:12『メサヴィラ』

 ~本名:偽名~

アレクシア・バートリ:Joker(ジョーカー)

キリサメ・カイト:Gloomy(グルーミー)

イアン・アルフォード:Knight(ナイト)

クレア・レイヴィンズ:Virgin(バージン)


────────────────────


「つ、ついたわ。あれが信者たちの拠点よ」

「……あれは村か?」


 魔女の馬小屋の拠点は奥地にひっそりとある村だった。私たちは村の入り口から少し離れた場所で観察する。


「ええ、あの村の名前はMesaVilla(メサヴィラ)。私の故郷だった場所よ」

「故郷だと?」

「ある日、アイツらが村に押し寄せてきて……魔女の馬小屋を入信しろと脅迫してきたの。私たちはもちろん追い出そうとした、そしたら……」


 ミネルヴァはその場で両手で頭を抱えながら小刻みに肩を震わせた。


「村長が、村長が雷に打たれて、死んだのよ」

「……雷」

「アイツら『これは魔女の怒りだ』とか言い出したの。そんなの偶然だって他の村人が反対したら、また雷が……」

「本当に雷が落ちてきたのか?」

「本当よ! 私はこの目で見たの!」

 

 空から降り注ぐ落雷。

 抵抗しようとした村人は雷に打たれ殺された。私はミネルヴァからその話を聞き、情報集めをしていたあの日を思い出す。


『死因は"ショック死"だ。どいつの死体も全身が焦げている状態で、その辺に放置されてやがった』

『クスクスッ、過激なマジックショーでも見せられたのか?』

『……耳にした噂では"神雷(しんらい)による罰を受けた"と』


 (さそり)のフルカという刃物男の言葉。

 神雷(しんらい)により殺されたという話の信憑性が増した。となれば教祖とされる魔女は、十中八九ただの人間ではない。


「んじゃあ、魔女と面会しに行くか」

「待って! そのまま乗り込むつもり!?」

「安心しなァ。見つかろうが殺っちまえば万事解決だぜ」

「そういう問題じゃないわ! 魔女は祭壇の地下通路を超えた先にいるの! そんな乱暴なやり方で辿り着けない!」


 魔女の元まで強行突破をしようとするメルにミネルヴァはそう反発すると、自分が羽織っていた紫色のローブを見せつけた。


「このローブを着ればアイツらの目を誤魔化せるわ。……ちょっと待ってて」


 ミネルヴァは辺りを警戒しながら入り口付近にある小屋へ入り、人数分のローブを抱えて走ってくる。


「ほら、早く着なさい」

「協力するのはなぜだ?」

「あなたたちはあのイカれた集団を潰すんでしょ? 私はもう嫌なのよ! 故郷をあんなヤツらに好き放題されるのが……!」


 私たちは渡された紫色のローブを羽織ると深くフードを被り、自分たちの顔が外から見えないようにした。


「後、これは周りに見えるように持って」

「これってスマートフォン、だよな?」


 更にミネルヴァが渡してきたのはスマートフォン。ボタンを押しても反応しないことから充電切れとやらを起こしている。


「あたしらには必要ないぜェ。なぁ色男ォ?」

「あぁうん。俺とメルは自分のを持ってるからな」

「ということは、あなたたち二人は……異世界転生者(トリックスター)なの?」

「え? 俺たちの呼び名を知っているのか?」

「え、えぇ、知ってるわよ……」


 ミネルヴァはキリサメに歯切れの悪い返答をした。私は疑心を抱きつつも渡されたスマホをじっと見つめる。


「なぜこれを持つ必要がある?」

「これは神機(じんき)。アイツらにとって信者の証みたいなものよ。持っていれば疑われることはまずないわ」


 説明を受けた私たちはスマホが見える持ち方をし、ミネルヴァの後に続いて村の入り口を通り抜けていく。


(……スマホが貼り付けられているな)

 

 村の入り口に立てられた看板。おびただしいほどのスマートフォンが釘で打ち付けられていた。その光景を目の当たりにしたキリサメは息を呑む。


「今から村の"スクランブル交差点(こうさてん)"と呼ばれる聖域を通り抜けるわ」

「スクランブル交差点?」


 私たちが立ち止まったのは村の中央の位置。砦のような建造物によって村が東西南北で隔離されている。キリサメが小首を傾げるとミネルヴァはスマートフォンを取り出した。


「いい? 通り抜けるときは"俯きながらその神機を弄る動作"をするのよ。そうしないと規範を破ることになるから」

「クスクスッ、あぁそうかい。このイカれた集団のクソッたれな思想が見えてきたぜェ」

「メル、俺も何となくだけど分かってきたよ」


 ミネルヴァは取り出したスマホを四本の指で背面を押さえ、親指で画面の箇所を何度もタッチやスライドをし始める。


「喋っては駄目よ。他所を向いても駄目。ただその神機に集中しなさい。聖域を通り抜けるまでひたすら触り続けるの」


 私たちはミネルヴァに頷くと、見よう見まねでその動作を模倣し、スクランブル交差点と呼ばれる聖域へ足を踏み入れた。


(……何なんだ、ここは?)


 レンガなどといった石ではない硬い地面。その上に一定間隔で敷かれた太い白線。スマホの黒い画面に反射して見える天井には、赤・黄・青という丸型の光が灯る機械が描かれた壁画。


(あの男から見せてもらった写真とやらに似た光景。この聖域は別の世界を再現しているのか?)


 過去に見せられた写真には同じような地面、同じような機械が写り込んでいた。すれ違う信者たちと肩が何度かぶつかり合いながらも、どうにか聖域を抜ける。


「……もう大丈夫よ、顔を上げて」


 ミネルヴァの声を共に顔を上げれば、視線の先にクルースニク協会の倍の大きさを持つ教会がそびえ立っていた。本来であれば十字架が付けられている箇所には例の如く"スマートフォン"。


「教会に入ったら"聖装(せいそう)"に着替える必要があるわ」

聖装(せいそう)とは何だ?」

「見れば分かるわよ」


 紫色のローブを羽織った信者と何人かすれ違いながら教会内部へ立ち入る。屋敷か洋館を改築したのか、まずは大広間が私たちを迎え入れた。


「こっちの部屋よ」


 左方の窓から村の様子を眺めつつ西の廊下を歩き、すぐ右手にある扉。その扉の向こうへ足を踏み入れると、更衣室らしき部屋が目に入る。


「これが聖装と呼ばれる衣服か?」

「ええ、教会の外ではこのローブを、教会の中ではここにある聖装に着替えないといけないの」

 

 更衣室に並べられた数多の聖装。その見た目から神秘的なものは感じさせない。異国から輸入したかのような衣服。


「おい嘘だろ? これって……!」

「あぁそうだなァ色男ォ。こいつァ──あたしらの世界のもんだぜェ」


 キリサメは我が目を疑うように辺りの衣服を漁り、メルは気味が悪いと表情をしかめる。並べられた衣服をじっくりと観察してみれば、キリサメやメルが着ている"制服"とやらに似ているものあった。

 

「あなたたち二人はローブを脱ぐだけでいいけど……そこの三人は聖装に着替えなさい。どの服でもいいわ」

「ミネルヴァさん、どうしてスマホとか俺たちの世界の服が──」

「アイツらが入ってこないうちに、早く着替えて……!」


 ミネルヴァはキリサメの言葉を遮りながら、私たち三人を急かす。私は仕方がなく、偶々目に入った一枚の黒を基調とした衣服を手に取る。


「クスクスッ、ジョーカー様よォ? これがお似合いだぜェ」


 メルが私にそう提案してきた聖装。上の服はフリルが付き、身体のラインが出るもの。下は短い丈のスカートだった。私は何とも思わなかったが、キリサメはその聖装に頬を引き攣る。


「メル、それは"地雷系女子"が着るやつだろ……」

「地雷系女子? 触れると爆発するのか?」

「んー、まぁ触れるっていうか、接触するとあんまいいことないっていうか……」 

「地雷系だけじゃないぜェ。量産型系、ピープス系、韓国系とより取り見取りときた。ジョーカー、好きなのを選びなァ」

「何で絶妙なのを着させようとしてんだよ!?」

  

 どうやらメルは面白半分で私に提案している。ならば聞く道理はないと最初に手に取った聖装を選ぶことにした。


「私はこれでいい」

「あぁ俺もその"パーカー"と"スニーカー"でいいと思うよ」

「これらはパーカーとスニーカーというのか」

「クスクスッ、しかもそのパーカー。そりゃあ"ぬこぬこパーカー"だぜ、ジョーカー様よォ。猫のマスコットが描かれてんだろ?」

「ぬこぬこパーカー。ふざけた名前だ」


 私が選んだのは黒のスニーカーとやらに、黒色の『ぬこぬこパーカー』と呼ばれる服。メルによれば猫のマスコットがモチーフになったらしい。


「決めたらその"箱の中"で着替えなさい」 

「おーおー、律儀に"簡易更衣室"まで用意してんのか。イカれ共はあたしらの世界に順応してやがるぜェ」


 人間一人分が入れる箱に足を踏み入れ、取り付けのカーテンを閉める。私はワンピース型の服を脱いで『ぬこぬこパーカー』とやらを着た。サイズが大きいのか、妙にぶかぶかだ。


「これでいいな」

「あぁそういや忘れていたぜ。ジョーカー、フードを被ってみなァ」

 

 スニーカーを履きながら言われた通りにフードを被る。するとメルはニタニタと頬を一段と緩めた。キリサメは「あー」と言いにくそうに背後にある鏡を指差す。


「……何だこの余分な布は?」

「一応猫がモチーフだからさ。フードに猫耳がついてるんだ」


 振り返って箱に備え付けられた鏡を確認すれば、フードには猫の耳を象る布が二枚。どんな感性を持ってして、フードに猫の耳を付けようなどと考えたのだろうか。


「にゃーにゃー鳴くんじゃねぇぞ、子猫ちゃんよォ」

「二度と被らん」


 私は二度とフードを被らないことを心に誓う。他の箱へと視線を移せば、ここに来るまで一言も喋ることのなかったイアンとクレアも、それぞれ聖装へと着替えていた。 


「おー! 二人とも似合ってるよ!」

「そ、そーか?」


 イアンは白のジャケットに、紺色のシャツ、そして薄い紺の長ズボン。履いている靴は革靴だろうか。


「あんまり、自信はないけどね……」

「いやいや、全然自信持ってもいいって!」


 クレアは肩を出した黒の服、意図的にぶかぶかとさせた小麦色の長いズボン、白のヒール。キリサメは先ほどの件から暗い顔の二人をどうにか盛り上げようと褒め称えた。

 

「クスクスッ、着替えたところでどろどろとした血の臭いは消え──」

「少しはその口を閉じたらどうだ」


 私はメルの余計な一言を遮る。メルは一瞬だけ真顔になると再度ニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「おいおいジョーカー、あたしにご乱心かァ?」

「お前は不必要な言葉が多い。魔女の馬小屋のおべんちゃら(・・・・・・)よりな」

「気に食わなきゃあ黙らせればいいんだぜ──あんたの薄汚れたその手でな」

「私は"自慢げに汚れた手を掲げる"どこかの誰かとは違う」


 私はメルと睨み合う。

 その最中、ミネルヴァが更衣室の扉に手を掛ける音が耳に入ると、


「聖装に着替えたのなら早く行きましょう。森にある死体に気付かれるのも時間の問題よ」 

 

 お互いに視線を逸らし、魔女の元まで再び向かうことにした。

 

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