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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
5章:クルースニク協会

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5:2『メル』

 あの女の後を追いかけていれば、私たちは酒場から離れた廃墟に辿り着く。キリサメは息を切らしていたが、クレアとイアンは既に辺りを警戒しながら、私たちの前に立つあの女を見据えていた。


「クスクスッ……あー、面白かったぜ。レイヴの旦那、獅子の癖して鴨に玉蹴られてやんの」

「……?」


 私たちの前で思い出し笑いをする奇妙な女。どこかおかしな様子にイアンとクレアは顔を見合わせる。


「気に入ったよ。特にそこのあんた」


 奇妙な女はその場で振り返るとボブカットの黒髪を揺らしながら、私のことを気に食わない顔で指差した。


「レイヴの旦那は獅子だ。フツーの鴨なら小便漏らしちまう。なのにあんたはあのでけェ玉袋に一発叩き込んで──クスクスッ、あぁおもしろい」

「……誰だお前は?」

「あたしはMel(メル)だ。あまーい"蜂蜜(はちみつ)"って意味だぜ。この街について知りたかったら、二階まで上がってこい」


 メルと名乗った女は二階への階段を登っていく。私たちは疑心暗鬼になりながらも二階へと顔を出すことにした。


「まぁ立ってるのもなんだ。テキトーな場所に座りなァ」


 二階は貧相なもので、窓の側にいくつかの椅子が置かれているだけ。メルは壊れかけた椅子に両足を広げて座っていた。キリサメたちは椅子に座ったが、私は近くの壁へ背を付けた。


「クルースニクはルールはねぇしフリーダムな街だ。あたしからすりゃあ、どんなクソ野郎でも暮らせる街だと思ってる。けどなァ、そんなクソッたれ共でもお勉強した方がいいこともあるぜ」

「何を学べと?」

「ほぉら、アレにご注目」


 メルが窓の外を指差す。その先には落ちているパンを拾い上げる男。私たちはその男を眺めていると、メルは鼻で嘲笑う。


「この街は弱肉強食の世界だ。そんでもって格を区別するための名称がある」

「名称か」

「あのパンを拾った男みてぇなのが山羊(やぎ)。クソッたれ共の争いに首を突っ込まず、自然の恵みだけでのうのうと生きている"アホ"だ」


 説明をした後、次に指を差したのは裏路地でナイフを磨いている男。


「あのお粗末な刃を磨いてんのが(さそり)。欲しいものは殺してすべて奪うような"快楽殺人犯"」

 

 次に指を差すのは先ほど私たちを取り囲み、狼共と呼ばれていた集団。


「あそこで群れてる男共は(おおかみ)。一匹や複数の獲物を集団で喰い漁ろうとする"イキリ集団"」


 そう吐き捨てながら指先を動かした先はみすぼらしい恰好をした女から金貨を受け取る男。


「陰気臭せぇヤツらは(わし)。クソみてぇな連中の情報をクソみてぇな連中に売りさばく"盗聴野郎"」


 最後に指を差したのは露出の激しい衣服を着た女性。大柄な男を誘うようにして身体を擦りつけている。


「痴女みてぇな女共が(つる)。自分の身体を売り物にして男共にアンアン腰を振る"ビッチ共"」

「こ、腰を振るって……」 

「そんで今まさに腰を振りかけているあの男が獅子(しし)。マフィア染みた一味を作って偉い顔をしている"大間抜け"」


 頬を赤らめるクレアをお構いなしに、メルは窓の外へ向けていた指の方角を私たちへ向ける。


「最後に(かも)だ」

「俺たちが……?」

「ロザリアの"犬小屋"から逃げてきた最底辺の弱者。狼、獅子、蠍にとっちゃあ最高のエサだ。あたしにとってもな」


 イアンはメルの返答を聞いて険しい顔をした。どうやら(かも)は蔑称として扱われており、犬小屋というのはグローリアのことを指しているらしい。


「お前も私たちを餌にするつもりか?」

「取って食いやしないさ。摘まみ食いはするかもしれないけどな、クスクスッ」

「つ、摘まみ食いって……」


 不気味に笑うメルにキリサメは頬を引き攣る。 


「んで、あんたら名前は?」

「あ、あぁ、俺の名前はキリサ──」

「待ちなァ色男(いろおとこ)。この街の良さはフリーダムだぜ。名乗りは便所の落書き程度で十分だと思わねぇか?」

「は、はぁ? 便所の落書きってどういうことだよ?」


 メルは懐から葉巻を取り出し口に咥えると、見たこともない金属製の小道具で火を点けた。マッチとは程遠い形をしている。

 

「律儀に便所に本名書くやつァ、"ご丁寧なアホ野郎"だ。この街で生きていくんなら、落書き程度の名前で十分だぜ」

「……つまり偽名を使えということか?」

「ご名答ォー! あんたにはでっけぇ花丸をくれてやる」


 メルは小馬鹿にするように私へニヤニヤとした笑みを浮かべ、葉巻の煙を勢いよく吐き出した。


「偽名を考えろって。すぐに名前なんて思いつかないし……」

Virgin(バージン)

「えっ?」

「クスクスッ、即興で考えてやったあんたにピッタシな偽名だ。このクソみたいな街で気長にランウェイできるぜ」

 

 私は言葉の意味をすぐに悟ると壁に背を付けながら溜息をつく。キリサメやイアンも何となく察していたが、クレアだけは何のことか分からず、私たちとメルを交互に見た。


「その名前ってどういう意味なの?」

「"処女"」

「あ、あ、あなたっ! な、なに、なに言ってっ……!?!」

「あんた、まだその穴を使わせたことねぇんだろ? 顔と目を見りゃあ、その辺の山羊(やぎ)でも分かる」


 メルが言葉の意味を伝えると、顔を真っ赤にしながら勢いよく立ち上がるクレア。隣に座っていたイアンは片手で顔を押さえ、キリサメは窓の外にわざとらしく視線を逸らす。


「んで、正義感に溢れたあんたはKnight(ナイト)。そこの陰気臭い色男はGloomy(グルーミー)ってのはどうだい?」

「カッコいいし、俺はナイトでいいぜ」

「俺もいいけどさ。名前自体がもはや悪口だろ……」

「私はぜんっぜん良くないからね!? もっと違う名前にして!」

「んならあんたは自分で考えな。そのご立派な御頭(おつむ)で」


 否定するクレアにそう吐き捨てたメルはその場に立ち上がると私の側まで歩み寄る。今までこの女が座っていた椅子は前脚(まえあし)が折り曲げられ、いつの間にか破壊されていた。


「あんたは……」

「……」


 メルは私の瞳を覗き込めば覗き込むほど真顔に変わっていく。ニヤニヤとさせていた不敵な笑みは完全に消え失せている。


「……その目、このクソみてぇな街を見慣れてんな」

「何故そう思う?」

「あたしには隠せねぇよ。そいつの目を見りゃあ、腐りきった性根(しょうね)が嫌でも分かっちまう。あんたが既に──こっち側(・・・・)の人間ってこともな」

 

 壁に右手を付けながら顔を近づけてくるメルは、キリサメたちに聞こえないよう、私の耳元でそう囁いてきた。 


「けどあんたには腐りきった性根もありゃあ、イキがいい性根もある。ゲームにもよるが当たりにもなれば外れともなる。そんなあんたをトランプで例えるならァ……Joker(ジョーカー)

「……ジョーカー」

「イイ名前だろ? あんたにお似合いだぜ、ジョーカーさん」


 最後の『ジョーカー』という偽名の部分だけわざとらしく強調し、キリサメたちの方へ振り向く。


「あんたら、クルースニク協会にツラ出したいんだろ? 連れてってやるよ」

「どうしてそれを知ってるの……?」

「クスクスッ、天性の勘みたいなもんだぜ」

  

 天性の勘。

 私たちの目的地を知っている理由としては不十分。何かしら企んでいるだろうと私たちは警戒しながらも、メルの後に続いて廃墟から外へ赴いた。


「私たちに手を貸すのは何故だ?」

「あたしがそういう気分だっただけさ」

「信用ならん言葉だな」


 無法地帯となったクルースニクを歩いているが、最初のように狼や獅子から絡まれることがない。むしろメルを避けるように山羊たちが中央の道を開けていた。


「メル、お前って権力のある獅子なのか?」

「あたしが獅子だったらその辺の山羊共を、手当たり次第にあの世へ送ってるだろうぜ」


 キリサメの問いに返答したメルは落ちていた空き瓶を拾うと、パンを抱えていた男の後頭部に向けて、


「こんな感じでなァ」

「ぐぎゃぁッ!?!」

「ちょっと、あなた何をして……?!」


 躊躇なく振り下ろす。

 うつ伏せに倒れるのは山羊の男。クレアはすぐさま駆け寄るとその身を案じたが、メルは落としたパンを拾い上げると(かじ)りつく。


「チッ、クソみてぇに湿ってやがる」

「待てよ!」


 そのまま道を突き進もうとするメルの肩をイアンが掴んだ。


「あ? その手を放しな」

「いいや、放さない! 酒場での乱闘は仕方なかったけどな、この人はただ歩いていただけで傷つける必要はなかっただろ!?」


 メルは歩みを止めるとイアンの方へ振り向き、ニヤリとした笑みを浮かべる。


「おやおや騎士様(・・・)、人助けに精が出ることで。頭ん中のネバーランドは未だご健在のようですね?」

「……っ! お前、馬鹿にしてるのか!?」


 挑発に乗ったイアンが掴みかかろうとすれば、メルは押さえるように両肩へ手を置いた。そして死んだ瞳でイアンを見透かす。


「この街じゃあ、あんたが振りかざす正義はゴミ屑同然だ。人助けはエサの鴨共がすることに過ぎねぇ」

「そんなことは……!」

「んなら、そこで這いつくばっている山羊を見てみなぁ」


 メルが顎で示す先は山羊の男は介抱をしているクレア。


「きゃあっ……?!」


 瞬間、山羊の男はクレアのスカートの中に左手を滑り込ませ、細い右腕を力強く引っ張った。


「お、お前……イ、イイ女だなぁ……! 俺に、俺に気でもあんのかぁ?」

「い、いやっ! 放してっ!」

「やめろぉッ!!」

 

 イアンがクレアに掴みかかっていた山羊の男を突き飛ばす。メルはその光景を目の当たりにすると鼻で嘲笑う。


「クスクスッ、イイ子にしてなぁ。じゃないと怖い怖い"ブギーマン"に喰われちまうぜ」

 

 メルは齧ったパンを地面に落とすと面影を残さないよう何度も踏み潰した。イアンはクレアを立ち上がらせると無言でメルを睨みつける。 


「二人とも、俺もあいつの方がおかしいとは思うけどさ。今は落ち着いていこう」

「カイト……」

「情に振り回され過ぎだ。あの女が何をしようと変にもめ事を起こすな」

「アレクシアが、そう言うなら……」


 納得がいかないクレアとイアン。

 対してキリサメはメルが山羊の男を殴っても、クレアが襲われてもやけに冷静だった。私が何度も厳しく接してきたせいだろうか。


「さぁ、おしゃぶり咥えてついてきなベイビーたち。クルースニク協会はすぐそこだ」


 気に食わない文言(もんごん)

 私たちは黙ってこの女の後ろに立ち、クルースニク協会に向けて再度出発した。


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