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ЯeinCarnation  作者: 小桜 丸
4章:シメナ海峡

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4:22『vs スキュラB』


 キリサメは意外な人物に呆然としていれば彼は少しずつ歩み寄り、まともな言葉でこう声を掛けてきた。


「何やってんだこんなとこで?」

「……喋れるん、ですか?」

「あー、オレ様が気が狂っちまってたのは知ってる。だがまぁ、ぶっ飛ばされたときに頭をぶつけてな。運良く正気を取り戻せたのさ」

「ぶっ飛ばされた……そうか、アレクシアが!」

 

 キリサメはアレクシアが女の頭部に呑み込まれる寸前、船から何かを蔓で探し出し、陸まで投げ飛ばしていたことを思い出す。


「そんでガキんちょ、お前に聞きたいことがある」

「聞きたいことって……?」

「お前はよ──この世界の人間じゃねぇんだろ?」

「……! どうしてそれを!?」


 その反応を見て「やっぱりか」と鼻で笑い右手を差し伸べ、キリサメをその場に立ち上がらせる。 


「まずは自己紹介させてもらうぜ。俺はブラインド・ワークスマンだ……まぁ"こっちの世界"での話だけどな」

「こっちの世界では……?」

「ガキんちょの住んでいる世界での名前は──フライング・ダッチマンだ」

「フライング・ダッチマン!? どうしてこの世界に……!?」


 驚きの声を上げると彼は口元で「しーっ」と人差し指を立たせた。キリサメは周囲の様子を窺いながら両手で口を押さえる。


「積もる話だ。この辺を歩きながらでもいいだろ?」

「は、はい」


 先に続いている通路を並んで歩く。するとフライング・ダッチマンは銀の懐中時計を見つめながら、キリサメへ自身について語り始めた。


「俺様はな、こっちの世界に迷い込んだんだ」

「迷い込んだ……っていうのはどういうことですか?」

「ガキんちょもどうせ話は知ってんだろ? 俺様が神様の陰口ばっか言ってるから、幽霊船で永遠に海を徘徊してるって話をよ」

「はい、でもそれが本当の話だとは……」

「まぁそれが当然っちゃ当然だろうな。だが"千七百九十五年"、こんときまでは本当の話なんだぜ。向こうの世界でフライング・ダッチマンは確かに実在した」


 ダッチマンは銀の懐中時計の仕舞う。キリサメは周囲を警戒しつつも彼の話に耳を傾けた。

 

「だがこんときはこっちの世界でブラインド・ワークスマンが生まれた年でもあんだ。なぜなら俺様が迷い込んだ年だからな」

「あの、名前をどうして変えたんですか? それにどうやって迷い込んで……」

「俺様も迷い込んだきっかけは分からねぇ。けどよ、名前については俺が変えたわけじゃねぇんだ。いつの間にかそう呼ばれるようになっていた」

「名前が、変わっていた……?」


 ダッチマンの"転生"ではなく"迷い込んだ"という表現。気が付けば名前が変わっていた。キリサメは眉をひそめながら考える素振りを見せる。

 

「ガキんちょ、お前はこっちの世界が何年か知ってるか?」

「え? "二千二十年"ですよね?」

「ちげぇよ。俺様が聞いているのは"こっちの世界"の年だ」

「年……? そういえば、考えたこともなかったです」

「んなら俺様が教えてやるよ。こっちの世界の年はな──」


 ダッチマンはその場に立ち止まると、銀の懐中時計の裏面をキリサメへ見せつけた。


「──"五千五百五十五年"、ピッタリぞろ目の年なんだぜ」

「五千五百五十五年って……!? それ本当なんですか?!」


 その裏面に刻まれていたのは『五千五百五十五』という数字。キリサメは目を見開き、隣に立つダッチマンの顔を見上げる。


「大マジだ。この懐中時計は特別製でな。時計の針は何百年、何千年経とうが寸分の狂いも出ねぇ。裏面の数字は一年経てば、新たな数字を刻むってわけらしい。何百年か前に気づいたんだ」

「……? それじゃあ、あなたは百年以上も前からこの世界で──」

「そんでガキんちょ、今からの話が本題だ。その耳をかっぽじってよく聞けよ」


 ダッチマンは疑念を抱いたキリサメの両肩を掴み、身体の向きを強引に自身の方へと向かせた。


「まずガキんちょ、お前はどうやってこっちの世界へ迷い込んだ?」

「えっと、俺は神棚にある餅を喉に詰まらせて死んで……気が付いたらこの世界にいました」

「そうか、そんじゃあもう一つ聞かせてくれ。お前はよ、神はこのでけぇ世界に存在すると思うか?」

「あんま、そういうのは分かんないですね……」


 首を傾げたキリサメへ真剣な眼差しを送ると、彼は通路の天井を見上げる。


「俺様も宗教くせぇ話は嫌いだけどよ。こっちの世界に迷い込んだ原因は"神"が手を下してるんじゃねぇかって睨んでるんだ。今のガキんちょの話を聞いて、尚更そう思っちまった」

「どうして神様が原因だと……?」

「俺様は神の陰口をぶつぶつと懲りずに呟いていた。そんでガキんちょは神の供え物を食ってこっちに来ちまった。ちっと共通するもんがあると思わねぇか?」

「確かに、考えてみれば……!」 


 異世界へと連れて来られた二人に関係するのは"神"という言葉。思わず声を上げるキリサメを「まぁそう焦んな」とダッチマンが落ち着かせる。

 

「まだ神の仕業だと決まったわけじゃねぇ。こっから重要なのは俺様やガキんちょ以外に"こっちの世界へ迷い込んだ連中"の話を聞くことだ。もしそいつらの口から神に関係するような話が出たなら……俺様の仮説はより濃厚になるぜ」

「俺以外に向こうの世界の人とは会ったことはないんですか?」

「これっぽっちもねぇな。なんせ海から陸へ上がれた試しがねぇんだ。……だがよ、ガキんちょ? 俺様の勘ではな、向こうの世界とこっちの世界に関する真実は──ロストベアにあると思うぜ」

「ロストベアに……」


 ダッチマンはそうキリサメへ伝えると、神妙な面持ちとなり再び通路を歩き始めた。


「まぁその前にだ、まずはあのタコ女をどうにかしねぇとな。ガキんちょ、タコ女についてなんか知ってんじゃねぇのか?」

「いえ、俺の知っていたことと違いすぎて……何も知らない状態と変わりないっていうか……」

「ほぉ、そりゃあ色々と試す価値がありそうだな」


 顎に生えた白髭を弄りながら不敵な笑みを浮かべるダッチマン。そんな顔を見せられたキリサメは思わず苦笑してしまう。


「けど俺一人じゃ、何もできないんです。アレクシアたちがいないと、何の役にも立たなくて……」

「いいやガキんちょ、まだ諦めるのには早いぜ。お前の心臓はまだ動いてんだ。"一人でも戦える"ってことを、俺様と一緒にあのタコ女に見せつけてやれる」

「えっ、ダッチマンさんも戦ってくれるんですか……?」

「あったりめぇだろうが。俺様もあのタコ女には苦しめられてきたんだ。お前に長年の経験と知恵を貸して、何百倍にも仕返ししてやるぜ」


 ダッチマンが「協力する」と手を差し出し、左手で握手を交わすキリサメ。肌寒い洞窟を歩いてきたダッチマンの手はとても冷たい。


「それとだ、ガキんちょ」

「はい?」

「俺様のことは"キャプテン"と呼べ。"キャプテンダッチマン"ってな」


 悪戯心を芽生えさせたダッチマンに対して、キリサメは「分かりました」と笑みを浮かべ強く頷いた。 

 



────────────────────



 シーアネモネに埋もれた洞窟内。

 スキュラは美しく在り続けるために海水で身体を洗い流しながら、女の頭部に全身の汚れを舐めさせていた。

 

「……スキュラ」

「あら? まだ生きていたのね、アナタ」


 そんなスキュラの前に紐の先端を握りしめたキリサメが姿を見せる。その背後には腕組みをしたダッチマンも立っている。 


「心苦しいけどアナタは美しくないの。ワタクシと美しく在り続けられない」

「……」

「だからその辺の美しくないモノと戯れてはどう?」


 スキュラの言葉と同時にシーアネモネが一斉に動き出す。


「ガキんちょ、言われた通りにやれよ」

「……はい」


 しかしキリサメはその場から逃げ出さず、ダッチマンの声を耳にすると深呼吸をしてから口を開き、


「俺はお前の弱点を知っているぞ」

「フフッ、心臓でしょ? でも残念ね、アナタの仕入れた情報ではワタクシの美貌に痛みすらも与えられない」

「はっ、そうかよ。それなら──」


 持っていた紐の先端にマッチの火を近づけ、


「──"岩の中に隠してある心臓"を爆破させても大丈夫ってことだよな?」

「……!」

 

 そうほくそ笑んだ。キリサメの言葉を耳にしたスキュラの顔から余裕が消え、険しい表情へと一変する。


「……何のことかしら?」

「誤魔化しても無駄だぜ。この導火線の先には爆薬が仕込んである。もし火を点けたらどうなるのか……お前なら分かるだろ?」

「フフッ、アナタは器用なのね」

「俺の友達にいるんだよ。こういうのを作れるやつがさ」


 アビゲイル・ニュートンが実習訓練で導火線と爆薬を作る姿。キリサメはその過程を見て覚えていたのだ。スキュラは這いずり回るシーアネモネを停止させ、キリサメを見下ろしながら微笑むと女の頭部を周囲へと漂わせた。

 

「アナタ、無駄に美しい知性を持つ人間なのね。すぐに殺すのには惜しいわ。どうしてワタクシの心臓が岩の中にあるのか、理由を聞かせてもらえる?」

「……」


 キリサメは気を抜かないように導火線の先端へマッチの火を近づけながら、スキュラを見上げこう説明をする。


「おかしいと思ったんだ」

「フフッ、おかしいって?」

「この洞窟に"陸"があることがだよ。お前やこのイソギンチャクが生きるために陸は必要ないだろ。なのに、ここへ訪れた人間が有利になるような"陸"がこの洞窟にはある。美しさにこだわるお前が手間のかかるようなことは絶対にしない」

「……」

 

 スキュラは女の頭部を撫でながら口を閉ざし、じっとキリサメを見下ろした。次にキリサメは女の頭部を指差す。


「もう一つおかしいと思ったのは途中で"そいつら"が襲い掛かってきたことだ。イソギンチャクの餌にするとか言っておいて、お前は"そいつら"をわざわざ向かわせた」

「……」

「そうさせたのはイソギンチャクが俺たちを喰い殺す間に、この通路の奥にある見られたくないものを隠すため。……そうだろ、スキュラ?」


 キリサメは通路まで逃げ込む際に、ナタリアが述べていた言葉をふと思い出した。


『その通路の奥から"変な音"も聞こえてくるので、逃げられるかは分かりませんけどねぇ』

(ナタリアが言っていた"変な音"。それは"心臓の鼓動"だったんだ)


 導火線を強く握りしめ確信するキリサメ。しかしスキュラはまったく動揺しない。


「フフッ、それが心臓だとは限らないでしょ? それに自分の弱みをこんな窮屈な場所に隠すと思う?」


 むしろ笑みを浮かべて否定をするスキュラ。その言葉に対してキリサメは畳み掛けるように話をこう続けた。


「いいや、お前はこの洞窟のどこかに心臓を隠さないといけない。心臓と本体が離れすぎると、カリブディスとの"生命力の共有"ができなくなるからな」 

「……!」

「この陸を用意したのも"別の誰か"に心臓を隠してもらうためだろ」


 先端に火を点けるとその場で手放すキリサメ。導火線は火花を散らしながら通路へと向かっていく。


「スキュラ、これでお前は終わりだ!」

「フフフッ……あぁ、やっぱりアナタは私の想定以上に──」


 ただ導火線の火花を見つめるスキュラは焦る様子も見せず、一度だけ微笑するとキリサメに向けて、

   

「──美しくないわ」


 冷たい眼差しを送りながらそう吐き捨て、シーアネモネの進行を再開させた。


「そう大当たりよ。アナタの長話の通り、ワタクシの心臓は岩の中に隠してある。けどね……アナタが汚らわしい虚言を述べていることなんて、最初から分かり切っていたの」


 女の頭部が海上から姿を見せれば口に咥えていたのは巨大な結晶。その奥にうっすらと映り込むのは"真っ青な心臓"。


「その導火線、ワタクシの心臓が隠された岩に繋がっていないでしょう? アナタはただの"羊飼いの少年"に過ぎないの」

「……」 

「ワタクシはアナタを泳がせていただけ。"みにくいアヒルの子"のように必死こいて泳いで……アナタの姿はとても滑稽だったわ。最期にワタクシの美しい心臓を目に焼き付け、醜く溶かされなさい」


 シーアネモネが少しずつ近づいてくる。そんな最中でキリサメは俯いてしまった。


「……あぁそうかよ、でも良かったぜ──」


 そんなキリサメは小刻みに何度か頷きながら鼻で嘲笑い、


「──お前が"見せたがり"でな」


 両手で構えた銃で巨大な結晶へ弾丸を何発も撃ち込んだ。しかし弾丸は巨大な結晶の硬度によって弾かれる。


「そんなオモチャで破壊できないわよ?」

「違う、これは破壊するための発砲じゃない」


 シーアネモネの触手が四方八方から迫りくる瞬間、通路の奥から二人の影が飛び出すと漂う触手を一掃する。


「この銃声は……作戦決行の合図だ」


 一人は周囲のシーアネモネを二刀流で次々と薙ぎ倒し、一人は片手に握りしめた銃で頭部の眼球を撃ち抜いた。


「なるほどなるほどぉ! あのクソみたいに汚いのが心臓ですかぁ……!」

「探す手間が省けたな」

「アナタたち……」


 血みどろになったナタリア・レインズ、そして右腕をだらっとぶら下げたクリス・オリヴァー。二人がキリサメの前方でスキュラの前へ立ち塞がった。


「あんなに美しい場面で死に損なったなんて……」

「違うなお前さん。"死に損なった"じゃなくて"生き長らえた"……だ」

「はいはい、私も言いましたよねぇ? 『負けることを考えて勝負を挑むバカがどこにいるのか』と」


 今から一時間前。キリサメはダッチマンに連れられるがまま通路を歩み続け、小さな空洞へと顔を出してみれば、


『ナタリア、クリス!』

『カイト! 良かった、生きていたか!』

『おやおやぁ、お前も生きていたんですねぇ』


 生き延びていた二人と合流していた。クリスは現状の説明としてキリサメへ、ナタリアが途中で合流し女の頭部を滅多切りにして追い払った……と述べる。


『一芝居打つだって……?』

『あぁ、俺の欠点は戦えないこと。でもそれは逆に利点でもある。これを利用してスキュラを嵌めるんだ』

『はいはい、戦えないことは利点になりませんよぉ?』

『いや、スキュラは必ず俺の前では気を抜く。俺が戦えないことを知っているからな。そこで心臓の位置を俺が探るんだ』

『どうやって探るつもりだ?』


 そしてキリサメは二人にダッチマンと共に考えた作戦をそう伝えた。


『嘘と本当のことを混ぜて話せばいい。心臓は岩の中にあるのを本当に知っていて……けど位置を知っているのは真っ赤な嘘。俺が本当のことを口に出せば、スキュラも少しは警戒するはずだ』

『そういうことか……』

『それで俺と話をしている間に、スキュラは必ず保身のために自分の心臓を傍へ置こうとする。もっと気を抜けば、俺に堂々と心臓を見せつけて……』


 派遣任務で行動を共にしたクライド・パーキンス。キリサメはその振る舞い方を参考に"嘘と真実を混ぜた会話"をすることにした。こうして作戦内容と合図を伝え、現在の実行まで移す。


『この世界で生き残れるのは──己の利点を理解しそれを活かせる者だけですよ』

(……あの言葉の意味は、こういうことだろ)


 ティアの言葉を思い返していると、背後で控えていたダッチマンが横に立つ。 


「ガキんちょ、ここから本番だぜ。あのタコ女を倒すにはまだ役者が足りねぇ。呑み込まれたお嬢ちゃんを取り戻す必要がある」

「問題は生きているかどうか、ですよね」

「いいや、あのお嬢ちゃんはしっかりと生きているぜ。分からねぇだろうがタコ女の胃袋で取り込まれねぇように必死に抗ってる」


 ダッチマンはキリサメの左肩に手を置くと、スキュラの触手と本体の繋ぎ目に指を差した。


「ガキんちょ、構えろ」

「……」

「お嬢ちゃんはあの位置だ。俺が支えてやるからしっかりと狙えよ」


 促されるままに銃を構えたキリサメ。ダッチマンは銃を握りしめるキリサメの手に、自身の手を添えながら銃を構えさせ照準を明確にさせ、


「──今だ撃て、ガキんちょ!」


 触手と本体の繋ぎ目に何発か撃ち込み、目印として傷痕を残した。


「……カイト?」

「俺が撃った箇所にアレクシアがいる! そこを全員で攻撃するんだ!」

「なるほどなるほどぉ! ですが敗北者のアレクシア・バートリさんに興味は──」  

「お前さん、あそこはスキュラの弱点だぞ」

「ではではぶっ潰す価値はありますねぇ!」 


 そんな嘘に騙され駆け出すナタリアは地を蹴って陸から飛び上がると、最も近い女の頭部へ片脚で蹴りを放つ。そして片手に持った剣を頭部の頬へ突き刺しながら、スキュラの目線までよじ登った。


「あぁそうだったの」

「はい?」

「魔女のような赤い瞳に、猛獣のように荒い気性……アナタはレインズ家の人間ね」

「そうですかそうですかぁ! どうでもいい話なのでお前をぶっ殺しますね!」


 そして頭部の頬へ突き刺していた剣を引き抜くと、触手の上を全速力で駆け回る。その道中、女の頭部がナタリアに噛みつこうとするが、クリスの撃ち出した弾丸が頭部の眼球を潰した。ナタリアは難なく目印である傷痕の目前まで迫り、


「ここが弱点なんですよねぇ?」

「アナタ、何をして……!」 

「なるほどなるほどぉ、これはクソほど硬いですねぇ……!」


 傷痕へ二本の剣を突き刺すと奥へ奥へとねじ込ませていく。スキュラは女の頭部で一斉にナタリアを引き剥がそうとする。


「あ、いいこと思いつきましたよぉ」

 

 背後から迫る女の頭部を回避しながら後方へと飛び退くと、頭に生えた髪の上で何度もブーツの底を擦らせてから全力で駆け出し、


「ではでは──これならどうでしょうか?」


 片方の剣の柄頭(つかがしら)に向けて両脚で蹴りを放ち、一本を体内へと更にねじ込んだ。しかしナタリアは女の頭部に頭突きをされ、陸まで吹き飛ばされてしまう。


「クリスさん、あそこにもう一本刺さってるんですよねぇ?」

「だりぃことを要求するんだな、お前さんは」


 その最中、何かを期待しているナタリアにそう返答したクリスは、瞳を一瞬だけ青色に輝かせると、


「だがお前さんの期待に応えてやるよ」


 剣の柄頭へ弾倉に入った弾丸を次々と的中させ、


「十二発か」 


 最後の一発を撃ち込み、スキュラの体内まで剣をねじ込ませた。スキュラは剣が体内へ突き刺されようが、痛みすらも感じていない。


「何をしても無駄よ。あの子はもうワタクシの一部となっているのだから、助け出すことなんてできないわ」

「お前さん、勘違いしているな」


 クリスは片膝を付くと脹脛(ふくらはぎ)太腿(ふともも)の間にディスラプターαを挟み、弾倉を入れ替えながらスキュラを見上げる。


「俺たちはもう助け出せた。そうだろ、カイト?」

「あぁ! これでアレクシアは──」


 スキュラの体内から聞こえてくるのは肉を引き千切る音。その音は少しずつ体外を目指しながら近づき始め、


「──自分の手で活路を開ける!」


 女性の顔が取り込まれた皮を突き破り、スキュラの臓物を撒き散らせば、左手に剣を握りしめた人物が陸へと華麗に着地する。


「アレクシア……!」


 その人物は右肩を欠損させ胃液塗れのアレクシア・バートリ。


「げほっげほっ……とんだ災難だ……」

「アナタ、どうして取り込まれず生きて……!?」


 アレクシアは驚きの声を上げるスキュラへ、蔓を何重にも巻きつけ止血を施した欠損した右肩を見せつける。


「分からないのか」

「フフッ、そういうこと。全身をその植物で覆ってワタクシの中で耐えていたのね」

「違うな。貴様が単に消化不良を起こしているだけだ」

 

 剣に付着した胃液を振り払うとアレクシアは、左目を覆っていた黒色の眼帯を外し、紅の瞳でスキュラへ鋭い視線を向けた。キリサメとクリスはナタリアの方へ視線を移し、


「ナタリア!」

「これはお前さんにやる」

「おやおやぁ、これで五体満足ですねぇ!」


 自身が腰に提げていた剣をナタリアへ投げ渡す。ナタリアは剣を鞘から引き抜いて、両手で構えた。

 

「フフッ……あぁそう、そうなのね! ここはワタクシの美しい姿を披露する晴れ舞台! いいわ、いいわよ! お披露目といきましょうか!」


 スキュラは口元に手を添えて高笑いすると、心臓が埋め込まれた巨大な結晶を女の頭部がそのまま丸呑みする。


「なるほどなるほどぉ、クソみたいに気色悪いですねぇ!」


 心臓を取り込めばスキュラの全身に青白い筋が走り、埋め込まれた女の顔が苦しみから逃れようと一斉に皮の上でモゾモゾと動く。海上からは巨大な女の頭部が数体も顔を出す。


「ガキんちょ、こっからは退けねぇ戦いになるぜ」

「はい、分かってます」

「……?」


 ダッチマンへ返事をするキリサメ。アレクシアはその返事を耳にし、怪訝そうな面持ちでキリサメへ視線を送る。


「さぁ、ワタクシの美しい姿をその目に焼き付け──」


 そして瞳孔を開いたスキュラの顔を見上げた全員が、その場で戦闘態勢に入れば、


「──この海に沈みなさい」


 水飛沫と共に女の頭部を一斉に飛びかからせた。 


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