試されました
軽ーい断罪もの書いていて、こちらがお留守でした。もしかして、断罪ものからこちらを読んでくださる方がいらしたら嬉しいな
「東の宮を創る……」
昨日から情報満載で、整理がつかない私に新たな情報。
波瑠さんは、ニコニコととっても大事なことを説明する。
「お嬢様が今いらっしゃる東のお住まいはまだ初期設定です。ここを東の巫女様にふさわしい宮になさるのはお嬢様のお力でないと。」
初期設定。ゲ、ゲームでコイン貯めたり課金してインテリア揃えたり買ったりする、あれみたいな?
「こちらに来ていただけますか」
波瑠さんに手を取られて、私たちは東の住居の奥に向かった。
廊下の奥。
扉が一つ。
観音開きの重厚な扉を波瑠さんは真鍮の鍵で開ける。
「お嬢様。私の背から離れずに」
ひゅうううう
と、扉が動く毎に空圧が変わる音。
え。
えええっ!
開いた扉の前に立つ私と波瑠さんの奥は
闇
黒で黒を染めたような闇。
なのに無ではない、みっしりとした闇の空間。
それが果てもなく続く空間。
「び、ビルですよね!」
何で、ビルの中にこんな空間!
「いいえ。ここは東の宮になるべき場所。他の誰も創造できない、蜜葉様だけの空間です。」
オカルトだ!
SFだ!
だって、どう考えても、ビルのスペースを逸脱してますよ、ここ!
「古来より巫女様が出現されると、その宮を創生される空が生まれます。それをご準備なさるのが闇妃様。ですので、今回
、蜜葉様の空はここに。空をどのように彩り、どのように機能させるかは巫女様に委ねられます。東の巫女様として、思いのままお造り下さいませ。」
え、と。
取り敢えず基本的な事を確認しよう。
「――創る、とは?」
「私の幻視をご覧になりましたね。私では、私以外存在しない空間しか作れません。ですが、お力のある方は、実体として視るものを在るものになさいます。」
再び波瑠さんは、菜の花畑を作り上げた。一面の菜の花。風にそよぐ菜の花。その中央に私たちが立つ。
「ほら」
波瑠さんは花を一つ積んで私に差し出す。
けど。
「……」
黄色い可愛い花房は私が触れる事を拒んで消える。
「私では、実体化できません。この幻視はあくまでも映像。そして接触した方にしか体験できない。東の中でも、私はそれほど力のない人間ではございません。ですが、清一様を筆頭に倉家の方々は、多数に視せる事ができました。そして、実体化させるお力は、巫女様のみ。」
「え、と。じゃ、それが出来ないと巫女ではないと。」
巫女じゃない!
誓って普通の子!
「蜜葉様は巫女でいらっしゃいます」
いえいえ!
そんなイリュージョンできませんって!
錬金術も超えてるじゃん。人様に幻見せて、それを実物にするって?
「一度お戻り下さい。こちらの鍵は後ほどお渡しします。」
再び波瑠さんに腕を取られて、私は闇の空間を後にする。
サンルームには、二つの湯飲みと大福が三つ残ってる。
「蜜葉様」
ん?
「こちらの塩大福、美味しゅうございましたね」
「うん。父が好きだったな」
「そうでございましたか。それでイメージがしっかりなさっていらしたのですね」
「はい?」
「……私、お茶はご用意しましたが、塩大福は実はこちらの皿に乗せておりません」
「は?」
「お店の名前と塩大福、とだけ」
「はい?」
「僭越ながら幻視させていただきました」
え?でも
「はい。蜜葉様も私もいただきました。さっぱりとした餡子と塩豆がよい塩梅で」
「へ?」
なに?何?
波瑠さんはニッコリと
「私の幻視を実体化させたのは、蜜葉様、貴女でございます」
はあ?
……あーっ、疲れた。
も、大概の事には驚かないと思ってたけど、どんどん出てくる未知との遭遇に、神経が疲れ果てた。
あの後、波瑠さんは全く空っぽの皿を取り出して
「はい、大福」
と言った。そしたら見えたよね、大福が一個。
それを持とうとしたら、菜の花同様ふっと消えて。また、皿の上に見えているのに。
蜜葉様、見つめて下さいませ
そう言われたので、じっと見た。
もう一度お手を
そう言われたので、持ってみた。
「……ある」
「ですよね。これが蜜葉様のお力です」
いやいや!
よくできたテーブルマジックとしか!
なんか知らんけど、特別な存在にしたい思惑が詰まっている気が!
とにかく。
東の皆さんは、私を巫女にしたい。
波瑠さんは、そのためにここに居る。
叔父様、闇己さんは、私を護りたい。
(そのくせ、さっき嘘ついたけど。いやいや、彼も騙されたマジックだったのかも)
闇妃はとんでもないお金持ちで高層ビルの最上階フロアに私を含めて4人の女の子を住まわせている。
女の子はみんななんらかのマジックが使える。
「はあ」
何か疲れてしまい、私はうつらうつら寝てしまった。
寝た事に気がついたのは、ノックの音がしたから。
「はい」
「お嬢様。北の宮からお知らせが」
時計を見ると、あら、3時。お昼寝しちゃったのね。
「北?」
「瑠璃様からです。」
あー、あの黒髪たかびーお嬢様。
「お茶にお招きしたいとの言伝です」
「それって、必ずですか?」
「お出になられた方が宜しいかと。」
めんどくさいなあー。
(はい。蜜葉お嬢様は、全く自覚していらっしゃいません。お部屋の調度も私の幻視を実体化なさったと言うのに。)
(そこは東の空気が満ちているからね。やりやすかったのだろうけれど、しかし)
(はい。お見込になられた事に間違いはございません。あの方は)
巫女様です。
無自覚。