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勝負しました

マホガニーのテーブルに転がる二つの紅宝。


でかい!

原石並の大きさだけど、色といい輝きといい、カッティング済みに見える。しかも、深い赤。


「さあ、どっち?シビュラたるもの、物の真偽が分からなくちゃ!簡単よ?…間違っても、別に命に関わる訳じゃないし!」


いえいえ、ルビさん?

これおいくら万円?

いえいえ、億いくんじゃない?

大きいよ⁈とおーっても、大きいよ‼︎


「この勝負、放棄しても、間違っても、南はあんたに、あんたが無理なら東に、払って貰うわ。」


「そんな!理不尽です!」


一生かかっても払えません!公務員の生涯収入は、慎ましいんです!

東の人、知りません!誰も知らないのに、借金できませんて。


「ルビ。やり過ぎでしてよ。」

「賭け事は好きではありません。」

ほらー、瑠璃さんもアウルムさんも、こう言ってますし!


「本気でないと、測れないでしょ?このお嬢ちゃんが、まこと、東からのシビュラなら、こんなの簡単なはずよお。」


ニンマリと、ルビは改めて二つの貴石を蜜葉の前に置き直す。


「さ、どっち?」


右の石

左の石


どちらも、同等の輝きを放つ。

どちらも、そのカッティングならではの赤が複雑に絡む。

そして、どちらも、奥の奥まで赤が透き通って、無限に沈み込む。


(どっち?)

どっちがルビー?

どっちが、ガラスか人造?

うーん。


確率は2分の一。結構大きい。


ルビの瞳が光る。黒い瞳の奥に紅が走る。虹彩にルビーの反射が映ったかの様。

にた、と口角を上げて、艶のある唇が私を嗤う。


「……さあ。」


(……貴女の、み…)


えっ?


(貴女の右手の方、だ)


この声って、

……闇己さん?

あたまにダイレクトに囁く声は、間違いなくイケメンボイス。


(右だ。蜜葉。)


間違いない。闇己さんが頭の中に、いる?


「どうしたの、お嬢ちゃん、選んで♡」


ルビは変わらずニンマリしている。瑠璃さんとアウルムさんは、黙って石を見ている。


闇己さんの、声に、気づかれて、ない。


闇己さんは、無表情で私達を見ている。

 

……そ、ういう、事?


私は

覚悟を決めて、この賭けに乗ることにした。


「……当てたら、どうします?」

「何?」

「わたしが当てたら、宝石の分のお金をいただく事になるの?」

「……。」


ルビは少し目を見開いた後、更ににたあーっと怖い笑顔になった。

(ほむら)の家宝よ。金には代えられない価値がある。当てたら、あげるわ!」


「……価値…ねえ。」

私はこのネコちゃんを挑発したくなった。

「何よ」

「あなたは、お家からいただいた物でまかなう。私は現金で支払う。不利だわ。大体」

指を口元に当てて、くすっと嗤う。おお、昨日のサルみたいにできたわ。


「自分の出自を傘に来て、自分の腹は痛まない。何も持たない私と勝負なんて、巫女候補って、随分と」

さあ!蜜葉!

「……せこくて卑怯よね」


……気持ち、いいーっ!


ネコちゃん、真っ赤だ!

アウルムさんは、キョトンとした後、ぷっと吐き出した。

瑠璃嬢は、仏頂面。


ルビは怒りで震えながら、わめきだす。


「ほ、焔のっ!命、っをっ!」


「だあってぇー。私にとっては石より今日のお金。奨学金も返さなきゃだし、家も立て直すか借地にするか…。これ程の家宝、私みたいな未成年の貧乏小娘が持ち込んで、換金出来ると思います?私にとっては、現金を産まない宝なんて、ただの石ころより価値がない。」


しれっと言う私を睨んでる睨んでる。

ひとつ分かった。

この人達、一族に属する事のプライドが強い。その一族を背負うかの様に。自分に対しても、家に対しても、誇り高いのだ。


「……っ。分かったわ!あんたが正しく言い当てたら、石の分のお金をあげるわっ!」

よっしゃあ、言質とったー。


(蜜葉)

んじゃあ、闇己さん、当てますよー。

(蜜葉。右を)


私はうきうきと石を見つめた。

じんわりと指が温まってくる。

温まった指先が石を摘もうとして、


止まった。


「……。」


しんとした空気の中、私の右手は動きを止めた。

「―早くしなさいよ」


あ、れ?


す、と、窓に風が通った様に、何かが私の前の空気をめくった。


そう。空気の薄膜が剥がれるようにめくれて、消失した。

そして。


くす。

くすくすくす。

「何笑ってんのよ、早く!」


だって、ルビ。あー可笑しい。

「蜜葉さん、大丈夫ですか?」

「潔くお決めになって。」

アウルムさんと瑠璃嬢が、一方は不審な感じで、一方は下らないから早くという感じで、勧めてくる。


「決めました」

「どっち?」


私はにっこり、いい笑顔を見せつけた。


「どちらも、ルビーじゃありません。」

「「「…!」」」


「悪戯な人ですね、ルビさん」


私は二つの赤い石を摘んで、そのひとつを口元に運んだ。

「えっ⁈」


何を、という声は瑠璃嬢かな?


「これ、二つとも、イチゴです。」

「「「‼︎」」」


甘い果汁が口に広がる。

うわあ、美味しい。

あまおうかな?とちおとめ?


「目眩し……」

「ルビ、貴女」

ルビは、更に真っ赤になって、突っ立っている。


「南の能力、触る物を擬態させる技ですね。見事です。此処にいる皆が本物の貴石だと思いました。」


闇己さんが静かに、しかし苦い口調で呟く様に言った。

「そして、東の能力は、観察眼。まさしく真偽を見抜く力を蜜葉さんはお持ちだと証明なさいました。」


「私の勝ちで、良いですか?」

「い、いいわっ!認めない程、狭量じゃないわよ!払うわ!私の全財産の」

「あ、千円ですね」

「え?」

私はもう一つの石もどきイチゴを口に入れて、人差し指を突き出した。


「大きいあまおうですから、一個五百円。二個で千円ですね!」


ルビは、あんぐりと口を開けて、その後、ガタン!と椅子を蹴り、ズンズン音をたてて、南に去っていく。

呆然、と、見送った私達ではあったが、アウルムは

「結構な余興でした。蜜葉さん流石です。私も戻らせていただきます。」

と、また怜悧な無表情で私と闇己さんに会釈して、退出した。


「蜜葉さんお見事でした。お部屋にご昼食を整えさせてあります。」

「あ、はい。闇己さんは」

「私は午後、事務所に」

「そうですか。」



部屋に戻った私は、まず!

ガッツポーズ!


やったわ!

昨日の分のざまあができたわ!

私偉い!私偉い!



ぴょんぴょん私が居室で跳んでいる時、

コンサバトリーでは、瑠璃嬢が闇己を呼び止めていた。

「どうして嘘を?」















コンサバトリーはおうちに合体。オランジェリーは独立した温室。

方角と娘達の能力には関連があります。

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