挨拶しました
ううむ。
今回もイケメンが書けない。
というより情報量が多くて長い!
ごめんなさい。
翌日。
明るい部屋の一角。
2メートルは離れた間隔で椅子に座る私と三人娘である。
闇己さんは、私の横に立って、ご紹介します、と、口火を切った。
「北の一族から、黒金 瑠璃嬢。」
す、と、彼女は仏頂面で立つ。
宜しくお願いします、と立って頭を下げたが、スルーされた。
さらっさらの艶ツヤな、いわゆるカラスの濡れ羽色。絶好調な高飛車ぷりで、ふん、と声が聞こえそうな表情だが、メイクはナチュラルだ。年相応に見える。昨夜と違って。
服は、やっぱり黒だがフリフリレースがスカートにいっぱい付いていて、トップスがシンプルな分、ボリューム満点だ。胸は羨ましくも主張して、ウエストがしっかり細いから、ゴージャスなロリって感じ?
胸には名前に合わせたのか、ラピスラズリのペンダントをつけている。
「名前で呼ぶ事は許します。
我が黒金は、北でも最古の家。他の方々とは格が違いますが。」
そうですか。
他のお二人が、ぴくっとなりましたが。
三人はそんな馴れ合ってる訳ではないのね。みんなボスザルを狙ってるのね。
昨夜はわからなかったけど、この植物園みたいな部屋は、それぞれの住まいの中央に位置している。大きな五角形の部屋で、桁違いのコンサバトリー(西洋の住まいと一体化した温室みたいなお部屋)って感じ。
真ん中の大樹は、苔むした幹といい、陽光に光る葉といい、やはり本物のようだわ。
周りの植物もそうだけど、ちょっとしか土が見えない。どうやって育ってるんだ?エレベーターの稼働時間から考えても、このビルかなりの高さだよね。
ちい!と、小鳥の鳴き声が響く。
朝と言っても、もう日が高い。ドームのガラスから太陽が輝く。
……あのガラス、強度高いよね。それであの透度。おいくら万円だろおー。
何も反応しないでぼーっとそんな事考えている私の様子に、無視されたと思ったのか、更にふん!と言った不機嫌な顔で黒金瑠璃嬢はソファに背を預けた。
昨日は、クイン退場の後、さっさとそれぞれの住まいに去っていった三人だったので、改めて巫女候補の紹介の場を闇己さんが取り持ったのだ。
住まい。
五角形のそれぞれの辺に、東西南北の区画がある。残る一辺は、玄関に通じる区画らしい。
私にあてがわれた東は、私の寝室と居室と、ダイニングと台所、サンルームと、そして
メイドさんの居室がある。
メイドさん!
私付きなんだと!
何処の貴族だ!朝目が覚めたら、ノックの後、宜しいですかお嬢様、と女性が入ってきて、
お召し物はこにらに
ご朝食はどちらで
と、甲斐甲斐しくお世話して下さいました。
あれよあれよと、私はサンルームで紅茶とクロワッサンと、とろっとろのオムレツを頂きましたよ。
特売の6枚入り食パンではなくて!ドラッグストアの棚入れバイトの後、売れ残ったパンじゃなくて!
……ある意味、贅沢という拷問が昨日から続いている。庶民の貧乏学生には罪な空間と食事だ。
と、思ってたら、闇己さんがやってきた。
(ああ、春色のワンピース。姉上と同じで清楚なものもお似合いですね。)
おはようの挨拶の前に、闇己さんは上機嫌で甘い声。
叔父様。貴方はシスコンです。
そんなフィルターかかったお世辞はいいんです。
(本日はお食事の後、皆さんに改めてご紹介しましょう。その前にそれぞれの方についてご承知おき頂きたく伺いました。
情報は戦力です。)
そうですね。
あのサル達が、徒党を組んでいじめてきたら、ちょっとウザいから。
これでも記憶力と観察力はいいんです。とっとと、巫女だかシビュラだかになってもらって、此処を出なくては。その間は、少しでも居心地良くやり過ごさなくては!
と、いう訳で、瑠璃嬢。
えと、17歳。音楽専科の高校三年生。身長は155。ピアニスト志望。黒金家は北を代表する名門で、聴覚に特徴を持つ人材が時折出現すると言う。彼女もそうで、絶対音感と、微細な周波数の聴き分けが出来るらしい。
それが何に良いのかさっぱり分からないけど。
音楽家には必要な資質だよね。
「此方は、西から選ばれた、城 アウルム嬢。」
すっと立った彼女は軽く会釈をしたのち、高身長ゆえか私の目を見下ろす形で向き合った。
「宜しく。
貴女の母上は西の惣領、闇己様の姉君と聞きました。……西は血縁を重んじます。証拠が無いとは言え、闇己様とクインに敬意を表して貴女を迎えましょう」
「……宜しくお願いします」
あんまり敬意は感じないけど、瑠璃嬢よりは譲歩した態度という訳ですね。
城 アウルム。18歳。
見かけと名前から分かる様に、北欧のクォーターだそうだ。珍しいストロベリーブロンドに整った怜悧な容姿。今日は髪を片方で結んで胸元に垂らしている。乳白色のドレスは光沢があって、彼女によく映える。オパールのペンダントとお揃いだ。
挨拶はお終い、と、ばかりに、すっと彼女は腰をおろす。
ふわり
と、花の香りが漂う。
彼女は調香師の卵と聞いた。成る程。
巫女、と担がれても、それぞれ人生や生活があるって事にちょっとホッとする。
…私も、この奇妙な軟禁状態が終わったら、日常に戻れる、と言う望みはありそうだ。
「そして、焔紅宝嬢」
ピョンと立ち上がる茶髪の女の子。
「お気楽にしてて?どうせシビュラは私。此処はとても住みごごちがいいわよおー。邪魔しなけりゃ、私がシビュラになっても貴女を排除するようなマネはしないわ、もちろん瑠璃もアウルムも、ね。」
「それはどうも」
今のは、瑠璃嬢へのマウント返しだよね。昨夜は甘ったれた猫ちゃんみたいだったけど、ハキハキ喋れるんじゃん。
紅宝…ルビ嬢は私と同じ19歳。<南の一族>は、離島に多く住み、他の一族より少人数。彼女は島で隔離された環境で育ったらしい。島の文化はどうあれ、ルビ嬢は最新の教育と最高の文化に触れてきたらしい。昨年より銀座の画廊で腰掛け勤務。一族がオーナーの画廊に居るとの事。
成る程。一年前から巫女選抜に備えたという訳だ。高校卒業認定試験も芸大入試も軽々とクリアしたと闇己さんの情報だ。見かけよりクレバーらしい。
「以上がシビュラ候補の方々です。因みに私、闇己は西の惣領ですが、こちらでは4名の後見として、お守りいたします。蜜葉嬢はまだ覚醒されておりませんので、その為のお世話役を勤める事は昨夜申し上げた通りです。」
「それは、東に肩入れするという事になります。闇己様。」
アウルムがアイスブルーの目を闇己に向ける。
「覚醒なさるまで、東の方々に代わり、見守る事は後見人の役目かと。
皆様とは、赤子と成人ほどの違いがあります。それでは皆様も面白くないでしょ?―お力を持てばこの手を離しましょう。それこそが公平では?」
「いいんじゃない?」
テーブルの苺を摘んで、ルビ嬢がひらひらと手を振る。
「闇己はシビュラ宣託の後見人ですもの。最終的にはシビュラになれば、彼は全面的にシビュラの為に尽くすわ、そうよね、闇己。」
「ルビ。惣領に呼び捨ては!」
「いいじゃん。此処では後見人よ?私達の為に居る人だもーん。」
アウルムの窘めをしれっとスルーしてルビは指にもう一つ苺を摘む。
「宜しくてよ。後見人様。…張り合いが無いのもつまらないわ。」
ありがとうございます、と、闇己さんが一礼すると、
でも、さー、
と、ルビ嬢がワザとらしい声を張る。
「資質くらいは見せてくれないとね。蜜葉だっけ?」
「……はい?」
ルビ嬢はいつの間にか、二つの石を机に置いた。
苺かと思った。
だって、大きな、ルビー?
「この二つの石。どちらかが本物。もう一つはフェイク。さあ」
え?
「どっち?間違えたら、そうね、石と同じ額を頂くわ」
転生ものじゃないのに、だんだんそれっぽくなっていくのは何故だろう。