マウンティングされました
ごめんなさい。嘘つきました。
イケメン出るまで描ききれませんでした。
次かなあ。
カードキーを差し込むと重い扉が音もなく開き、そのの向こう側は
ひえーっ!
―――植物園??
よく見ると、無機質な柱や床に様々な植物が絡みつき花をつけ密集し、混乱する事なく彩りよく位置づいていて。
照明が何処にあるのか分からないけれど、柔らかい光がそこかしこの草花や木々に濃淡を付けている。
そして
広々ーと植物に彩られたスペースの中央に!
な、なんでか、大樹が青々と茂っていて!
(ここっ、たしか高層ビルの!最上階だよね!)
見上げると、5階はぶち抜いた高さがある。その中央には、ドーム型のガラス天井があり、煌々と月が輝いて、大樹の葉をうっすら照らす。
そして、
樹の幹に籐で編んだ椅子がポツンとあって、スポットが当てられているかのように、くっきりと浮き出ている。
そこに、例のおば…クインが足を組んで座っていた。
今度は深いスリットの豊潤な身体に貼りつくドレスをお召しだ。
やはり赤、というより深紅。
鮮血の色。
そして、そのクインの膝元に、腰を下ろして寛ぐ三人の美少女。それぞれタイプの違う美少女達が侍っていて。
き、れーい……
一人は
クインのドレスの裾を触りながら、悪戯な表情をしている。
クルクルした茶色のショートヘアと大きな目。ぽっと赤らんだ頰が不釣り合いな色香を醸す。なんか猫みたい。
もう一人は
その猫ちゃんの隣、クインの正面で膝を立てて座っている。じっとこちらを睨んだお顔は端正だけど冷たくて。珍しい赤金茶の髪と通った鼻筋や白い肌が、ロシアの血を感じさせる。
最後の一人は、その左。
クインの様に長いストレートヘアと真っ赤な口紅。ポッキュポンの熟れた身体つきもあって、クインの妹の様だわ。
その三名とも、漆黒のドレス。それぞれ形や素材は違うけれど、私と同じブラックドレスだ。
ふふ。
クインが此方を観て微笑んだ。
「……ゴミも綺麗になるものね。え、と」
「蜜葉様です」
「そう。蜜葉。真偽は兎も角、兄上の一人娘。ようこそ私の」
ニッコリとクインはしどけなく頬杖をついて上半身を傾ける。
水蜜桃の胸元が色っぽいなあ。
「ニードゥスに。」
ニードゥス?
小首を傾げる私を観て、美少女達が口を開いた。
「クインさまぁ。この地味っぽい子が姪っ子らしいって言うんですかぁ?」
……猫ちゃん?
「……先程から、気配のかけらも感じませんけど。」
……白系ロシア?
「ふ。東の出だと伺ったから、どれ程の能力者かと思えば。……お人違いでは。」
……チビ*クイン?
ほう。
これが世に言うマウンティングって奴ですね!
挨拶もなしに、ディスってるんですけど。別に苛立ちもしませんが。
しかし
何度も、姪候補ーって言われてるけど、私は倉清一の娘なんだけどなあ。なんちゃらって一族も女王も巫女も、どーでもいいけど、そこをつつかれるのは気持ちの良いもんじゃないなあ。
「蜜葉。……今夜から此方で過ごしなさい。」
三人と私の様子を斜交いに眺めて、ニタリ、とクインが口角を上げる。
血が滴るような唇。
うん。
この人が叔母さんでない方がいいかも。それにしても
「……巫女候補としてですか?」
「闇己の話は通っているのね。
此処には此方の三名の候補も住わっています。このニードゥスの東西南北の部屋にね。どう?三人とも巫女に相応しい容貌でしょ?それでも、誰か一人が真の巫女。選ばれるまでは此処でその知らせを待たなくてはならない。……蜜葉は東。」
「あのっ!お部屋をいただけることは有り難いのですが」
私は、ようやく発言できる機会を得て、想いをまくし立てた。
「私にも矜恃があります。資産は無くとも両親には人様に迷惑をかけないようにとしつけられました。お…闇己さんのご親切でこちらへ参りましたが、この話私にも拒否権があるかと!……よく分からない制度に巻き込まれるのは不本意です!わ、私は自分の力で生きて行きたいんです!お、お部屋を貸して頂くわけには参りません!」
「蜜葉さん」
切ない様な美しい叔父様はいまは置いとく!
「闇己さん!わたし、今からでも、ネカフェ行きます!明日は早くからバイトなんです!」
「貴女に苦労はかけられません」
この状況が負担でしょお!
両親が逃げ出した懸案なんでしょお!
「……馬鹿馬鹿しいわね。」
クインは小さな欠伸を一つ。
「蜜葉。」
「はいっ!」
「女一人で生きていく矜恃があるのなら、此処でお見せ。どちらにしても、見つかってしまったのだから、何処で過ごそうとあんたの両親の業からは逃れられない。」
「でもっ!そ、そうです、両親がトンズラしたってことは、私では無いんじゃ無いですか?」
「そんな事知った事じゃ無いわよ」
真紅の美は、すっと立ち上がると、
「いい事?
あんたが兄達の様に否定しても、今回の巫女宣託は絶対なの。天地がひっくり返ろうと月が落ちてこようと。この為にどれ程の金と人が使われていると?」
「……」
真紅の絹が翻り、白い指が天を指し示す。
「中ぐらいの国家が一日で消滅するくらいの事。私にはその価値がある。その前で、あんたのプライドなんて宇宙のチリより価値がない。寧ろ」
「私共の目から離れては、家を失うどころではない。そういう事なのです、蜜葉様。」
女王から言葉を継いだ闇己さんが、続ける。
「今回は延焼は逃れました。犠牲者も出なかった。貴女を蔑ろにしたい輩にとって、人命など何の価値もないのです。」
延焼。
え、もしあの火事が大きければ
おばちゃんの家も、おばちゃんもひょっとしたら。
深夜の火事。
犠牲が出ても、私が逃げ遅れても、おかしくない火災。
え。
そうか。
財産をなくしたのじゃなくて、
命拾いしたって、事?
そ、ういうこと。……
今更になって小刻みに震える私に、
女王は、少し柔らかな声色で
「此処に居なさい。……次の次の新月に、巫女の確定があります」
「………。」
黙り込んだ私に、美少女達が口を挟む。
「えー、偽者と暮らすのねー」
「化けの皮を剥がされて泣きを見るのが落ちなのにね」
「逃げた方が賢明なのは確か。言いつのりたい気持ちはお察しよね。」
むか。
むかむか。
「分かりました。父と母が放棄した責務の分、今回は承服いたします。今回は」
ちっ。
負けず嫌いが顔を出してしまった。
女王は、是、という短い反応の後、小さな欠伸をした。
「…私は、棺に戻るわ。後は闇己。」
「承知していますよ。どうぞ」
闇己さんが恭しい礼を取り、三人のマウント猿達も淑女の礼を取る中、おばさん=クインは大樹の幹の影に歩を進めると、ふっと消えてしまった。
ふえー、イリュージョンだあ、と、場違いな感想を持つ私に闇己さんがニッコリする。
「さ。蜜葉さん。此処では私が貴女の後見です。貴女をお守りいたしますね。」
「はあ。」
本当クインの有無で、この人表情が変わるなあ、と、現状を把握できるキャパを超えてしまった私の前頭葉は、現実放棄していた。
綺麗な女の子より、男が書きたいなあ。