透明人間になる方法
昔観たSF映画は面白かった。
蠅男、狼男、透明人間…
五郎は誰にでもある程度の、妄想癖のある少年だ。
スコォーン!カッ…コォーン!
深夜のR246。
愛機のスズキが闇を疾走する。
「俺っち最高!俺っち最速ゥ―!」
妄想癖のある少年は暴走癖のある青年に成長していた。
「次っ!次のアールっ!200で抜けちまうからようっ!」
聞こえるはずもない声を併走して走る康夫に投げ、一瞬で飛び込んでくるカーブとメーターを同時に見る。
ガバァッ!
膝をアスファルト擦れ擦れまで張り出し、マシンを倒し込む!
百メートルほど残されていた康夫の視界にスズキの赤いテールランプが水平線を描く!
水平線が疾風の如く左に延びていくのを確認した康夫はブレーキレバーを握る。
「五郎…?五郎?」
「五郎ォ―ッ!」
制限速度で曲がれば何の問題のないそのカーブを囲っていたはずのガードレールが大破していた。
震える足でサイドスタンドを下ろし、大きく開いたレールの裂け目を虚ろに見つめる康夫…
「生きてるぜぇ!俺っち最速ゥ―!」
病室の天井と認識した五郎が身体の部位に意識を集中する。
「腕…動く。足…動く。首…手…。」
「俺っち最速ゥ―!」
病室のベッドから足を一本一本下ろし、立ち上がる。
瞬間、看護師が慌てて入って来た。
真っ白だ。
看護師のユニフォームのそれではなく、顔が。
「ははぁ!そんな驚くなよ看護婦さん!俺っち無敵だからよぅ!」
看護師は五郎に目もくれず、機械に走り寄った。
ピ――――――…
水平線を描くグラフの画面…
枕元にある機械、焼け焦げたヘルメット。
居るはずのない俺がベッドに横たわっている…
「看護婦さん…俺は…ここだよ…」
「俺はここなのに…」
「そうか…見えなくなったのか…」
なんて簡単なんだと五郎は思った。