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猟犬  作者: 次郎
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40.偽の首

この小説は、史実を基にした創作になります。


登場する人物、名称等も実在とはことなります。

 京についた三郎は、すぐさま、勘解由小路を目指して歩き始めた。

 応仁の乱で破壊され、それ以降も幾多の戦乱に巻き込まれた京は、長きにわたって荒廃しており、御所とその周辺以外は、無残な有様であった。

 しかし、信長の上洛後は復興の気運も高まり、その助力もあって、かつての華やかさを取り戻しつつあった。


 京は、上京と下京とに分かれており、その二つを室町通りが繋いでいた。勘解由小路はその近くにあり、周囲には、田畑が広がっている。

 その光景は、華やかな都という風情とは趣が異なっていて、何とものどかな京のはずれであった。


 勘解由小路には、普段はいないであろう数の人々が集まり、その中央にある獄門台を取り囲んでいる。

 もっとも、首は昨日から晒されているはずであり、今これを取り囲み、見物しているのは、三郎のように遠方からやってきた者達だろう。おそらく、昨日はこれ以上の、黒山の人だかりだったに違いない。

 獄門台には、二つの首が晒されていた。

 雑賀孫市と下間頼廉の首というのなら、晒したのは当然、織田方ということになるだろう。

 道々聞いた話によれば、首は京都所司代、村井貞勝の指示によって晒されいるとのことであったが、その首が、どういった経緯で京に持ち込まれたのかは、わからなかった。

 ひょっとしたら、当の村井貞勝も知らないのかもしれない。つまり、本物であろうと偽物であろうと、大坂にとって左右の将である二人を討ち取った、と喧伝することが、重要なのであろう。

 三郎は人々の間を縫い、ゆっくりと獄門台に近づいた。


(……やはり、そういうことか)


 三郎は、その二つの首を見て、納得した。

 その二つの首は、鳥居小四郎と、土山左門の首だったのである。

 鳥居小四郎の首の隣には、「雑賀の孫市」と書かれた捨札が立てられている。同じように、土山左門の方の捨札には、「下間刑部卿」と書かれてあった。

 二つの首は、同様に驚愕の表情を浮かべていた。


(つまり……孫市殿は、うまくやったということか)


 三郎は、本願寺勢の敗走中にやるべきことがあると言っていた、孫市の言葉を思い出した。

 土山左門は、おそらく織田勢の追撃に紛れて、始末したのだろう。

 石山本願寺にいたはずの鳥居小四郎は、どうやって殺したのかはわからない。

 しかし、孫市は、小四郎の屋敷の見取り図を作り、彼自身、その牢屋に潜入するほどに、小四郎の周辺を調べつくしていた。

 おそらく、いつでもやれるように、準備はしていたのだろう。

 それが今回、実行されたのは、織田勢に殺された形に偽装できるからではないだろうか。

 そういう意味では、今回の孫市の行動は、かつての一益に似ていた。この二人の鉄砲撃ちの思考は、どこか似通ったところがあるのかもしれない。

 一益は、味方に知られぬ内に、始末をつけた。

 孫市は、どうであろうか。もし知られれば何らかの処罰を受けるかもしれない。あの二人の背後に、堺の会合衆がいるとするなら、尚のこと、孫市の命も危ないのではないだろうか。

 三郎は、孫市の身を案ずる自らに苦笑しながら、勘解由小路を後にした。



 一益から休め、と言われていた三郎ではあったが、やはりすぐにでも天王寺砦に戻ろうと考えて、馬を休ませていた室町通りに戻って来た。

 しかし、すぐにあからさまな異変に気がつく。


(しまった……やられたな)


 木に括り付けていた綱は刃物で鋭くちぎられて、だらしなく垂れ下がっている。

 どうやら京の治安は、いまだ場所によって良くないようであった。

 その馬は一益が、長篠設楽原の、武田氏との合戦の折に、連れ帰った馬の内の一頭で、一益がもっとも気に入っている馬であった。

 甲斐の馬特有の黒色の馬で、駿馬であったため、今回使わせてもらっていたのである。

 三郎は取りあえず、急いで周囲を探索したが、盗人がその辺りを、馬を連れて悠然と歩いているわけがない。


(いや、参ったな。殿に何と言おうか)


 結局、その対応に苦慮した三郎は、一旦、寺の世話になって考えることにしたのである。

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