The Beginning
宮下陸、16歳。通信高校生。成績はそこそこ。両親を早くに事故で亡くし、父の弟夫妻に引き取られる。趣味は読書に音楽、それからスマホのゲーム。家族思いで従兄妹で妹の愛莉を可愛がっている。
宮下陸という少年は、少し普通とは違うけれどそれでも普通の子どもだった。
それはテレビなどではよく聞く言葉で。
しかしほんの僅かな人だけが掛けられる言葉で。
そして俺の人生を大きく変えた言葉だった。
「兄さんと買い物に行きたい。」
俺を上目遣いで見上げる妹からそう言われて、断れる兄が居るのだろうか。否、きっとどこかに居るのだろうが、今ここにそんな兄は居なかった。
「うん、いいよ。」と答え、くしゃ、と愛莉の頭を撫でる傍ら、財布の中身を思い起こす。ふむ、大丈夫そうだ。心の中で安堵する。俺が全部奢ることを嫌がる妹が許容してくれる金額の上限分はある。
薄くメイクを仕上げ綺麗におしゃれをした妹に合わせて自分の服を選び、出掛ける準備を済ませた。
ふわふわと嬉しそうに笑う妹をエスコートして目的地に向かった。
到着した場所は若者で溢れかえっていた。お店が両側に並ぶ通りを歩いて行く。
人とぶつかったりはぐれたりしないように妹と手を繋いでいたからだろう。知らない人にはきっと仲の良いカップルに見えたらしい。一つのタピオカドリンクを二人で飲んでいたから尚更だ。
通行人の視線が刺さる感覚も、愛莉と居ればさして気になることではない。
若く可愛らしい女の子が並ぶコスメショップで愛莉に似合うリップをプレゼントし、違うお店でお揃いのパーカーを購入する。いい買い物が出来て、気分も上々。
途中クレープを食べて休憩しながらも着々と増える紙袋を持って次の店を探そうとしていたら、突然スーツの女性に話し掛けられた。
お互い一人でいれば異性から声を掛けられることもあるが、二人でいればそれもない。だから俺も愛莉も少し面食らって固まってしまった。
スーツの女性は「あの、すみません。」と一言断り、不躾に妹と俺の顔をじっくり観察する。固まる俺たちを一通り見詰めて満足したのか、少し笑みを浮かべ「あの、」と再び口を開いた。
「お二人は、芸能界に興味はありませんか?」