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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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少年の勇気に感心した裸の王様が内緒でご褒美をくれた話

作者: ばろん・で・さぼん

あの奇妙なパレードを見たつぎの朝、少年はいつもよりちょっぴりおそく目をさましました。


おとうさんもおかあさんも、パレードを見に行くために仕事を休んだうめあわせをするためか、もう出かけてしまったようです。


少年もいつもどおり市場の手伝いをしにいくために着がえていると、表のドアをたたく音が聞こえました。


扉を開けると、そこには昨日のパレードで見た覚えのある騎士が、きれいな色の液体が入ったガラスの瓶をささげ持って立っていました。


王様がとてもすばらしい魔法の服を着てお通りになられるから拍手かっさいで出迎えるようにと、パレードがはじまる前に街のみんなに知らせにきた騎士です。


少年が不思議に思っていると、その騎士は、遠い昔から王様の家に伝わる、飲めば誰でもたいへんかしこくなり、まわりのみんなも自分のいうことをかならず聞いてくれるようになる秘密の「いげんをたもつくすり」を王様が少年のためにくだされたので届けに来た、と告げました。


───


昨日のパレードの前に聞いた話では、王様の新しい服はよその国から来た偉い魔術師たちが何日もかけて特別な魔術をかけながら糸で布を織るところから作ったすごくお金のかかった品だということでした。


色も模様もこの上なく美しいものだけど、その服には「かしこく」「ただしく」「きよらかな」人にしか見ることのできないふしぎな魔法がかかっているので、「すくいようのないばか」と「むのう」と「かんつうしゃ」や「ねとりでできた子」には見えないと騎士が説明したことを、少年は覚えていました。


「むのう」というのは、できないことをできると思いこんで失敗ばかりしてめいわくをかけることだ、と少年は聞いたことがありました。


「かんつうしゃ」とか「ねとり」というのは何がつきぬけたり、ねばついたりするのか聞いてみようとしたのですが、なぜかおとうさんはむずかしい顔をしはじめ、おかあさんもそんな話はまだ早いとかんかんになったので、結局よくわかりませんでした。


それはともかく、少年は、王様にとってさえすごくお金がかかったという魔法の服がどんなにすばらしいものなのかとても楽しみにしながら、街の人々と一緒に王様のパレードを今か今かと道ばたでまち続けていたのですが、ようやく見えてきたパレードの馬車に乗っていた王様は何も服を着てきていなかったのでがっかりして、思わず


「でも王様、はだかだね」


と周りの人に聞こえるような声で言ってしまったのです。


───


その少年の一言をきっかけに、それまでは王様の魔法の服をほめちぎっていた大人たちがしだいにざわつきはじめ、さすがに少年のように大声を上げてしまう人こそいませんでしたが、


「はだかだ…」


「やっぱり…」


「ほらみろ俺は最初っから…」


と、少年の立っていた場所を中心にささやき声が広がり、いつの間にか拍手かっさいは鳴り止んでしまったのでした。


王様は、街のひとびとが「すくいようのないばか」や「むのう」や「かんつうしゃ」や「ねとりでできた子」ばかりなことに腹を立てすぎて体のぐあいが悪くなったせいか、顔が真っ赤になり、馬車の内側に倒れこんで人々から姿が見えなくなってしまいました。


しかしすぐに、いっしょに乗っていたおきさき様と王子様と大臣とが三人で力を合わせて王様の体をがっちりと助け起こし、街の人々がざわめく中を、すばらしい魔法の服を着ているという王様を乗せたパレードの馬車はゆるゆると通り過ぎていきました。


───


でも、あのときの王様は何かとても怒っているように見えたのになぜ、はだかだと言ってしまった少年にごほうびをくださることになったのでしょうか?


少年の家にやって来た騎士が言うには、この薬は普通は王様にしか使えないたいへん貴重なものだけれども、勇気を持って正しいと思ったことを言えるかしこい子供へのごほうびに、王様が他の人たちにはないしょでくださったので、わざわざとどけにきてくれたそうです。


少年は王様からの思わぬ贈り物にちょっとだけおどろいた顔をしましたが、ていねいにお礼を言って「いげんをたもつくすり」を受け取りました。


───


騎士の馬が立てるひづめの音が遠ざかったあと、少年は台所に行ってガラスの瓶の栓を開けてみました。瓶の口近くを手であおいでみると、何かの花のようなとてもいいにおいがして、いかにもおいしそうです。


少年はきのう見聞きしたことをできる限りくわしく思い出そうとしながら、瓶を手にしてしばらく何やら考え込んでいましたが、やがて口の端を少しだけ上げて、こうつぶやきました。


「王様これ、自分では飲んでないよね」


───


少年は裏口の戸を開けると顔を出してあたりを見回し、だれにも見られていないことをたしかめてから、瓶の中身を道ばたのどぶにすべて流してしまいました。


そして汲み置きの水とかまどの灰でごしごしと手を洗い、朝食のパンをかじると、からっぽになったガラスの瓶を持って市場に出かけました。


───


「えらい人から、いい匂いのするふしぎな薬をもらったのを飲んでみたら、頭の中にすてきな考えがどんどん浮かんでくるようになって、周りのみんなも僕のいうことをすぐ聞いてくれるようになったんだ」


少年は、旅人に、宿屋のあるじに、酒場のおねえさんにと、何か珍しいものに心当たりがあるような人を探しては、からっぽになったガラスの瓶を見せて、すばらしい贈り物をもらった話をして回りました。


「もらった薬はもう空っぽになっちゃったけど、こんなにいいものがあるなら、手にはいるならはいるぶんだけ、もっとたくさんほしいんだ。最後に薬のききめが切れる前におとうさんとおかあさんにたのんでみたら、お金ならどれだけでも出すって言ってくれたから、手に入るお店がわかったら教えてね」


少年は市場の手伝いがひまになるたびに、からっぽになったガラスの瓶を持ち歩いて薬のおかわりが買えないかあちこちで聞いてまわったので、お昼の鐘が鳴るころには、飲めばかしこくなり、人をいいなりにさせる力をあたえるというふしぎな薬のうわさでもちきりでした。


手に入れば大もうけだと信じる人もいれば、どうせあの服と同じだろうとうたがう人もいましたが、その話を知らない人は市場には一人としていないほどに広がっていました。


ほんとうは、おとうさんもおかあさんも、どれだけでもお金を出すと言ってくれるどころか、顔さえもきのうの晩に寝る前に見たっきり、会ってもいないのですがね。


───


その晩、王様のお城の奥深くにある部屋。


パレードで見せた新しい魔法の服を人々がどう思っているか探れ、といいつけられた騎士は、ふしぎな薬でかしこくなった少年がこの薬がもっとほしいと市場で買い集めようとしているという噂を耳にしました、と王様への報告を終え、新しい魔法の服をもう一度ほめたたえてその場を立ち去りました。


ひとりきりになった王様は、壁にかかっていた絵を取りはずし、その裏にかくされていた戸棚を開いて、中に並んでいたきれいな色の液体が入ったガラスの瓶を取り出しました。


そして次の日の朝おそく、いつまでたっても寝室から出てこない王様を起こしに来た付き人が目にしたのは、床に倒れたまま事切れた王様の変わりはてた姿でした。


部屋には何かの花のようなとてもいいにおいがただよい、王様のかたわらには、空っぽになったガラスの瓶が四本ころがっていました。


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