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9.お買い物

 フィオナから報酬を受け取ってから冒険者ギルドを出たアッシュとルキはまだ日が暮れるまで時間があるということで買い物をして戻ることにした。

 買う物は主に食料品であり、それにルキを伴った場合どうなるのか。答えは非常に簡単なことだった。


「アッシュ! 買う物は当然肉だよな!」


「そうだな。でも他の物も買うからな」


「野菜とか果物とかいらねぇよな!」


「あぁ、そういえばそうだな。忘れるところだったけどルキのおかげで忘れないですんだな」


「藪蛇だった……!!」


 アッシュは本当は忘れることはないことを忘れるところだった、と言いながらルキを見る。するとルキはしまった、とで言うように眉を顰めた。

 それに小さく笑んで返してからアッシュは大通りとは違った活気を見せる商店通りへと足を踏み入れた。


 商店通りには冒険者御用達の鍛冶屋や武具屋などがある区画と、王都の住人や旅人が利用することの多い食料品や日用雑貨を取り扱う商店の多い区画に分かれていて、現在アッシュたちがいるのは後者だった。

 王都で生活しているのであれば必ず訪れるであろうこの商店通りにはどうにか自分の店で買い物をしてもらおうと道行く人々へと声をかける商人たちの姿が多く見られる。それこそが大通りとは違った活気の正体だ。


「さて、俺とルキだけじゃなくてイシュタリアとついでにシャロのことを考えると結構な量になるよな」


「四人分!? それ肉の取り分は減らねぇよな!?」


「減るかもなぁ」


「そんなの認められるかよ!!」


 アッシュの言葉を聞いたルキがガルルと唸りながらそう言った。

 それを聞き流しながらアッシュは普段利用している食料品店へと向かった。ルキもそれに続くのだが以上に不服そうに、というよりも不満を隠そうともしない様子だった。

 そんなルキに気づきながらも一切気にしていないようにアッシュは目的の食料品店へと入って行った。


「いらっしゃいませ」


 店長がアッシュとルキの姿を確認して一言だけそう言ってから、二人の様子を見ながらもそれ以上は何も言わないようにしていた。

 これには理由があり、アッシュとルキが買い物の最中に話しかけられることを煩わしいと思うタイプなのを察して必要最低限の会話のみに留めているのだ。

 そうした二人とは正反対のタイプであれば店主は積極的に話しかけているので人を見極めることが出来るめを持った店主だということがわかる。


「さて……野菜、果物、肉、パンとかその辺りを買うとして……」


 言いながらアッシュがぐるりと店内を見渡した。流石王都とでも言えば良いのか品揃えが豊富でこの商店であれば先ほどアッシュが挙げた物は全て揃えることが出来る。

 とはいえ専門に扱っている商店もあるのでそちらを利用することも当然のようにある。今回のように歩き回って買い物をするのが面倒な時、アッシュはこの商店を利用するようにしていた。


「肉は多め! 野菜と果物は少なめ!! それで良いよな!?」


「はいはい。それじゃいつも通りに買って帰るかー」


「いつも通りじゃなくて肉が多めだって言ってるだろ!!」


 どうにか自分の肉の取り分が減らないようにと考えているルキだったがやはりそれを流してからアッシュは淀みなく買い物を続けていく。

 先ほど言っていた物を手に取り、後をついて来るルキに手渡してから次の商品を手にする。これがいつもの買い物中の光景なのだが、ルキは律儀に受け経った商品を手に持ってアッシュの後に続いていた。

 ここでルキにとって必要のない商品を勝手に戻さない辺りルキは良い子だ、とアッシュに称されるだけのことはある。


「くそぉ……どうにか、どうにかして取り分が減らないようにしないと……!」


 いや、ただ単純にどうにかして取り分が減らないようにしたい。と考えているせいでそちらにまで意識が向いていないだけなのかもしれなかった。

 そんなルキの姿を見てからアッシュはルキには悟られないように小さく笑みを零してから氷の魔石によって冷蔵されている食肉を普段よりも多く手に取った。


「まぁ、これくらいで良いだろ。さっさと会計を済ませるぞ」


「そうだ! 勝手に肉を多めに取れば……!」


「そういうのは俺に聞かれないようにしろよな……」


 ルキの思い付きに対してため息を零しながら返し、アッシュは店主の待つ会計所まで進んだ。


「会計を頼む。いつも通り、こっちの分もな」


「ええ、わかりました。少々お待ちください」


「あぁ!? もう会計始めんのかよ!?」


 アッシュにとってはいつも通りに必要な物を選んで会計に進んだだけなのだが、ルキにとっては考え事をしてそれを実行しようとする前だったのでそんな声を上げてしまった

 だがそれを聞いてもアッシュは何も返さず、店主もまたいつものことだ。とでも思っているのか淡々と商品の確認をしていた。


「えー……占めて一万八千オースですね」


「大銀貨一枚と中銀貨一枚、それから小銀貨三枚。これで良いよな」


「えぇ、結構ですよ」


 この世界での通貨は共通の物が使用されていて、金貨、銀貨、銅貨。それぞれが大中小の三存在し、上から百万、五十万、十万、一万、五千、千、百、十、一オース。となっている。一応更にその上に白金貨と呼ばれる硬貨も存在するがまず出回ることのない硬貨なので説明は不要だろう。

 とりあえず、そうして硬貨を店主に渡したアッシュは買った商品を玩具箱(トイボックス)へと収めるとくるりと踵を返してルキの肩に手を置いた。


「ほら、買う物は買ったから帰るぞ」


「うぅ~……俺の肉……」


「ったく……冗談だよ、冗談。別に取り分が減るとか、そういうことはないから安心しろって」


「え?」


「考え事に没頭するもの良いけど、ちゃんと周りを見れば俺が普段よりも多く買ってることくらいわかったはずなんだけどな?」


 アッシュは取り分云々の話をした際にルキをからかうために減るかもしれないと伝えたのだが、ルキはそれを本気で言われていると思い込んでいた。

 だからこそこうしてアッシュにネタばらしをされたルキはぽかんと口を開けて呆けた後に、からかわれたことに気づいて徐々に顔を赤くさせながらアッシュへと噛みついた。


「は、はぁ!? そういうのはちゃんと言わないとダメだろ!?」


「言わなくてもわかるもんだと思ってたからなぁ」


「何だよその言い方! 絶対にからかうためだけに言ったってやつだな!!」


 ルキの様子に笑みを零しながら言葉を返し、アッシュはルキを伴って商店を出て行った。

 そんな二人の背へと向けて店主は何も言わずにただ頭を一つ下げて見送った。



 必要な物を買ってから自宅へと戻る道中。アッシュとルキを遠巻きにしてひそひそと何かを話している住人たちの姿があった。

 アッシュは自身のことをショタコンのクソ変態野郎だと話をしているのだろうな、と思っていた。

 事実として周りの住人達はそのようなことを話しているのでアッシュとしては頭が痛くなってしまう。


「……ルキのせいだからな」


「つまり、悪い虫が近寄らなくなる。ってことだよな!」


 そう言ったルキは輝かんばかりの笑みを浮かべていた。

 ルキとしてはアッシュに悪い虫がつくのは許せないと思っていて、更にはそのせいでアッシュが自分に構ってくれない、自分を見てくれないという状況などあり得ないとも考えている。

 だからこそ、そうしたことを口にいたのだがアッシュはそれに対してため息混じりにこう返した。


「その変なポジティブ思考はドブにでも投げ捨てとけ。それと俺に近寄るような悪い虫なんていないだろ」


「わかってねぇよなぁ……とりあえずアッシュは、自分の顔の良さってのを理解した方が良いと思うぞ!たまーにアッシュの顔を見てキャーキャー言ってる奴らとかいるしな」


 顔が良い、ということを口にしたルキはうんうんと一人で数回頷いていた。

 そんなルキを見てアッシュは少しだけ考えてからこう返した。


「この顔が良いってことくらいはのはわかってるさ」


「その言葉だけ聞くとすっげぇナルシストっぽいよな」


「事実は事実として認識するべきだろ」


 イシュタリアが太鼓判を押すような造形をしているので顔が良い、と言っても問題はないはずだ。そう思っての言葉だったが確かに聞きようによってはナルシスト発言のように聞こえても仕方がないものだった。そのことに気づいて言い方には気を付けなければならないな、とアッシュは内心で反省をする。


「確かにそれはそうなんだけど。まぁ、俺としてはアッシュの全部が好きなんだけどさ」


「そうか……そうか。そいつはどうも」


「信じてないな! 本当に、本っっっ当に! 俺はアッシュの全部が大好きなんだからな!!」


「わかったって」


 立ち止まってアッシュの正面に回り込み、ルキはアッシュのことが大好きだと言った。

 それも腕を大きく広げて、まるでこれくらい!と子供が必死に伝えようとしているような、そんな姿にアッシュは微笑ましさを覚えた。

 それなのにアッシュが適当に流しているのには理由があり、信じていないとかどうでも良いとかそういうことではない。単純に周囲の視線が痛くなってきたからだ。もうこの話は終わりにして欲しいというのがアッシュの本音だった。


「むぅー……!!」


「そう不満そうにするなって。あー、ほら、ルキが俺を好きだって言うのは昔からだからな。言われるまでもないってことだ」


 その言葉ですら周りの視線が痛くなるだけだったので、もはや何を言っても視線が痛くなるのだな、とアッシュは考えるのと同時に軽い現実逃避の意味を込めてルキの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 微妙に目が死んでいるような、死んでいないような。きっとそれはアッシュの心境を表しているのだろう。


「うぉっ……へへっ、そうだよな! 昔から好きだって言ってるもんな!!」


 突然のことでルキは一瞬怯んだが、すぐに嬉しそうに耳をピコピコと動かし、尻尾を左右に揺らし始めた。


「あぁ、だからその話は終わりにしてさっさと帰ろうな?」


「おう!」


 そうしたことをしながらもアッシュは、子供を丸め込んで思い通りに動かしているようで非常に悪い大人になった気分がするな、と思ってしまった。だがすぐにとりあえずは気にしないようにしておこう。とも考えた。

 というよりも視線がグサグサと刺さるこの場からさっさと離脱したいので子供を丸め込むくらいはしても許されるとアッシュは思いたかった。


「それじゃさっさと帰ろうぜ!」


 そう言ってからルキは軽い現実逃避をしていたアッシュの手を取ると意気揚々と歩き始めた。

 急なことではあったがそれはいつものことだ。と思うアッシュではあったがすぐに何かに気づいたようにバッと周囲を見渡した。

 するとそこには一気にざわつく空気と自身に突き刺さる視線。それから先ほどよりも活発なひそひそ話をアッシュは感じることとなった。


「……ルキ、ちょっと手を放そうか」


「嫌だ」


「あれだ、周囲の目が痛くなってるから、な?」


「いーやーだ!」


 ルキが大好きだと言っていたことと、手を繋いで歩いているという状態ではこの状態が続いてしまう。そう考えてアッシュは手を放すように、と言った。

 だがルキとしてはこうしてアッシュと手を繋いで歩いていれば悪い虫が寄り付かなくなるはずだ、と考えているのでアッシュの手を放す気は一切なかった。

 それどころか周囲に見せつけるように繋いだ手を見えやすいように上げてからルキは口を開いた。


「だいたいこんなのはいつものことだろ?」


「それはそうだけど! このタイミングで言うなよな!?」


「こんなタイミングだからだろ! 見せつけないとな!!」


「見せつける必要ないだろうが! 本当にお前は……!!」


 わざとそうした行動を取っているルキに対して苦い顔をするアッシュだったが力づくで手を振り払おうとはしていなかった。

 その理由としては、無理やり手を振り払おうとしてもルキが放すわけがないとわかっていることと、もし振り払うことが出来たとしてもルキが拗ねてしまうので後々面倒になる。というものがあった。

 ルキが拗ねてしまうと機嫌を直すまでべったべたに甘えてくるのをアッシュは大人しく受け入れるしかない。それ自体は構わないのだが、そうなった場合にはそれなりに時間を要してしまうのでそれを避けたいとアッシュは考えていた。


「あぁ、もう! こうなったらさっさと帰るぞ!」


「おう! 一緒に俺たちの家に帰ろうな!!」


 俺たちの家、という言葉に周囲が更にざわつくのをアッシュは感じていたがそれに気づかないフリをしてルキの手を引く形で帰路につくことにした。

ある程度の物が揃う商店……スーパーマーケットのような、そんな商店ということで。

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