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68.件の場所へ

 魔族の物と思われる魔力が残留していた場所へとアッシュたちを案内するカルナは迷いのない足取りで大通りを進んでいた。

 アッシュたちもそれに続くが何処かで道を外れて浮浪者や孤児などがいるであろう路地裏やその更に奥に進むと考えていた。だがカルナは尚も大通りを進んでいて、道を外れる素振りを一切見せなかった。


「おい、赤チビ。何処に行くつもりだよ」


「魔力が残留していた場所だ」


「いや、だからそれ何処だよ、って聞いてるんだけど」


「ついて来ればわかる」


 ルキは何処なのか、と聞いても答えることはなくただついて来いというカルナに苛立ちながらもアッシュが何も言わずに歩いている。ということで大人しく歩くことにした。とはいえ苛立っていることに変わりはない。

 そんなルキの様子に気付いたアッシュが落ち着け、という意味を込めて頭をぽんぽんと撫でた。すると苛立った様子は消え去り、尻尾を左右に振るくらいに機嫌が良くなった。流石、アッシュに対しては非常にちょろい。

 またシャロはそうしたルキの様子を見てこんな時でも相変わらずだなぁ、と思っていた。それは魔族がいるかもしれないと不安になっていたシャロにとってはいつもと変わらない日常がそこにある、ということだった。

 それに気づいてからシャロの不安な気持ちが少し和らぎ、シャロは自然に小さく笑みを零していた。


「何だ、楽しそうだな。何か良いことでもあったか?」


「あ、いえ。何だか、いつも通りだなぁ、と思いまして……」


「何だよそれ」


 アッシュが問えば何処となく嬉しそうにいつも通りだと返したシャロ。そんなシャロにルキは呆れた様子で返し、アッシュの手を取るとしっかりと指を絡めた。俗に言う恋人繋ぎだ。


「こんなしっかり繋ぐ必要あるのか?」


「ある! アッシュは俺のだって見せつけないとな!!」


「誰にだよ」


「赤チビしかいねぇだろ」


 赤チビと呼ばれたカルナが振り返るとルキは得意げにアッシュと繋いだ手を見せた。


「……反対の手が空いているな」


「チビ! お前なら許すから反対の手を取れ!!」


「え、え?」


「アッシュ!」


「はぁ……ほら、シャロ」


 カルナが空いている手を狙っていると判断したルキはシャロなら許す、と言ってアッシュの手を取るように言った。だが突然のことでシャロが戸惑い動けないと察し今度はアッシュの名を呼ぶ。

 するとその意図を察したアッシュがこちらは普通にシャロの手を取った。


「え、あ、え?」


「良し!!」


「……まぁ、今回は良いとしよう。またいずれだな」


「いや、諦めろよ。それとアッシュのことも諦めろよ」


「アッシュのことを諦めるつもりはない。いずれはこの想いを成就させるつもりだ」


「なぁ、こいつと手を組むとかなしにしねぇか? こいつやっぱり敵でしかねぇぞ」


 グルル、と小さく唸るルキはカルナを警戒している、というよりも威嚇していた。

 この敵というのは命のやり取りをするような相手としての敵ではなく、アッシュを巡って争うことになる。という意味の敵だった。

 そのことを何となく理解しているアッシュは小さくため息を零し、それからこう言った。


「ダメだ。何かあった時にカルナがいた方が楽に対処出来るはずだからな」


「そうかもしれねぇけど……」


「ルキはカルナと一緒ってのは嫌かもしれないけど我慢してくれ」


「我慢してくれって……あ」


 我慢を強要された、と感じたのか不満たらたらの様子だったルキだが何かを思いついたように声を上げるとわざとらしくため息を零してから言葉を続けた。


「はぁぁぁ……ったく、今回は本当に、本っ当に仕方ねーから我慢してやるかー!」


 仕方なく、と言いながらも微妙ににやけているルキを見てアッシュとシャロは何か企んでいるな、と思った。

 それからルキが何かを言おうとしたが先手を打つようにシャロが少し呆れたようにこう言った。


「ルキさん、我慢するからご褒美を、とかそういうのは良くないと思いますよ?」


「うぐっ……な、何を言ってんのかわかんねぇなー! 俺はただ、我慢してる俺のことをアッシュが褒める意味を込めて何かしてくれるんじゃねぇかな、って思っただけだからそういうのじゃねぇんだけど!!」


「大して変わりませんからねそれ」


「ぐぬぬ……!!」


 完全に図星を指されたルキは唸りながら助けを求めるようにアッシュを見た。

 この助け、というのはアッシュから我慢してもらうんだから何かご褒美くらい用意する。という旨のことを言ってくれ、という意味での助けだ。

 それを長い付き合いで察してしまったアッシュはため息を零した。


「わかったわかった。ご褒美な、ご褒美。無理のない程度に、常識的なことなら別に良いぞ」


「よっしゃぁ!!」


 アッシュが何処となく投げやりに言うとルキは空いている手をグッと握って天に突き出しながら本当に嬉しそうに歓声を上げた。

 そんなルキを見ながらアッシュはシャロを見て口を開く。


「あぁ、シャロも何かご褒美が、って言うならそれでも良いぞ。ルキだけだとずるいって言われそうだからな」


「い、言いませんよ!? あ、でも何かご褒美があるというのなら、それはそれとして有難くその機会を活かしたいと思いますけど!」


「無理ない常識的なことにしろよ?」


「はい!」


 いつも通りと言えばいつも通りのやり取りを経て、機嫌を直したルキと嬉しそうなシャロに挟まれたアッシュは疲れたように小さくため息を零した。

 それからカルナの視線が自分に向けられていることを察してカルナを見た。


「何だ?」


「俺たちは互いに協力し合う立場だ」


「それがどうかしたのか?」


「ならば何らかの報酬を支払う、というのが必要かもしれないな。あぁ、互いにまだ信用しているわけではないなら、そうした契約というのも良いかもしれない」


「……何が言いたいんだ?」


 突然のことで何が言いたいのか理解出来なかったアッシュが胡乱げにカルナを見ながらそう言うとカルナはそんなアッシュの態度など一切気にした様子もなくこう返した。


「今回の問題が解決したなら……そうだな、太陽神より授かった武具を一つ贈ろう」


「は?」


「俺としては扱うことのない物だがアッシュには意味のある物だろう」


「いや、何を言ってるんだ?」


「その対価としてアッシュからも何か貰おうか。対等な取引として」


「太陽神からの武具とか何で釣り合わせろってんだよ、無理だろ」


 突然の申し出ということもあってアッシュは戸惑いながら、というよりも頬を引き攣らせながら言葉を返した。

 どうしていきなり太陽神の武具などという異様な物を報酬にすると言っているのか、とアッシュは内心でドン引きしていた。


「そうか、無理か……ではこちらから何か指定させてもらおう。何、そう高価な物を要求する気はない。それで手を打とう」


「おい、勝手に話を進めるな」


「そうと決まれば早急に事態の収拾に臨むべきだな。魔族の魔力と思しきもの場所はもうすぐ着く。アッシュはその目で確認して欲しい」


「そうかそうか、お前もそういうタイプか。もう勝手にしろって言っておくけど、お前が満足しそうなものはないからな」


「問題ない」


 顔を顰めながらアッシュが言えばカルナはそう返して小さく口元に笑みを浮かべていた。


「……何か、嫌な予感がするんだけど」


「私もカルナさんが何か企んでいるような気がします……」


「俺もだ。とはいえ……太陽神の武具か……」


 何を要求されるのかわからないが、太陽神の武具というのは非常に興味が惹かれる。

 本来であれば神の武具というのは手に入るわけがない代物だ。それが手に入る、となればアッシュといえども微妙に心が躍ってしまう。とはいえ手に入れてしまえば扱いが面倒だからとイシュタリアに押し付ける可能性も充分にあるのだが。


「アッシュのことだから手に入れてすぐに押し付けるだろ」


「かもな」


 そのことがわかっているルキが呆れたように言えばアッシュは軽い調子で返し、シャロはその言葉の意味を何となく理解し、苦笑を漏らしていた。

 そんな多くの言葉を交わさずとも何を考えているのか通じている様子を少しだけ振り返り肩越しに見ていたカルナがまずはそういった関係にならなければならないか、と考えていた。



 あれから少し歩き、四人は魔力が残留していた場所へと辿り着いた。

 そこは道を外れた裏路地などではなく、本当に大通りを真っ直ぐ進んだ場所。聖都の中央。王国領で最も大きな教会へと辿り着いていた。


「赤チビ、本当にここなのか?」


「あぁ、この中だ」


「教会の中に魔族と思しき魔力が……それって、大丈夫なのですか……?」


「大丈夫じゃないだろ……いや、確かに結界の中央が基点になるのはわかるけど……教会の本部に魔族が潜り込んでる可能性があるとか、最悪だな」


 カルナは平然としているがアッシュとルキは厄介事過ぎると顔を顰め、シャロは頬を引き攣らせていた。

 とはいえこんな話を他人に聞かれては更に面倒なことになるとアッシュたちは考え、そしてとりあえずは本当にその魔力が魔族のものなのか確認することにした。


「はぁ……何にしても視てみないとどうしようもないな……どの辺りだ? カルナがそう判断出来たってことは一般の人間が入れる場所なんだよな?」


「あぁ、中に入ればすぐにわかるはずだ」


 そう言いながらカルナは先導するように教会の中へと入って行った。アッシュたちは教会に入るにあたってそれぞれ手を離し、カルナに続いて教会の中に足を踏み入れた。

 流石聖都の教会というべきか、その中は豪奢にして荘厳。煌びやかな装飾やシャンデリア、色鮮やかなステンドグラス、そしてイシュタリアの石像が奥に鎮座し、祈りを捧げる多くの信徒を見下ろしていた。


「す、すごいですね……こんなに広くて豪華な教会は初めて見ました……」


「……趣味悪すぎんだろ」


「これは本部の権威の表れ、というものが関わっているのかもしれないな。だが今はそれよりも……」


 そこで言葉を切ったカルナはアッシュを見て、周囲を見渡していたルキとシャロもそれに釣られてアッシュを見上げた。

 するとアッシュは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべてからこう言った。


「……教会内を禍々しい魔力が埋め尽くしている状態ってのは、魔力が残留していた、って言葉で表していいもんじゃないと思うぞ」


 その言葉にカルナは自分で残留と言っていたのに同意するように頷いた。

 またルキとシャロはアッシュの言葉を受けて瞳に魔力を巡らせながら周囲を見渡した。そして驚愕の表情を浮かべた。


「なっ……マジかよ……!!」


「嘘……こんなことって……!」


 そして二人はそう零し、ルキは警戒しながらアッシュに背を預け、シャロは怯えの色を浮かべながらアッシュにしがみついていた。


「まずはこれからどうするか話し合うべきだ。この場で話すよりは外で話した方が良いだろう」


「あぁ、そうだな。ルキ、シャロ、出るぞ」


「……おう、わかった」


「は、はい……」


 そうした言葉を交わしてから四人は礼拝の為に入ってくる人々と入れ替わりに教会の外へと足を向けた。

 現状が思ったよりも厄介なことになっていると理解したアッシュたちの表情は先ほどよりも幾らか険しいものへと変わっていて、これからどうするべきか考えているようだった。

不穏というよりも状況だけ見ると明らかにヤバい感じですよね。

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