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63.次の方針

 穏やかな雰囲気のアッシュとシルヴィアだったがそれをぶち壊す存在がついにやって来た。

 それが誰なのか。そんなことは言わなくてもわかるだろう。


「アーッシュ!! そろそろ休憩とか終わりにして進もうぜ! どうせこの先にあるはずの宿で一泊するんだろうけど、早めに行った方が良いだろ?」


 そう言いながらアッシュの背後から抱き着いたルキはシャロとアルトリウスの二人に貧民街(スラム)の話をしていた時のような様子はなく、いつも通りアッシュに全力で甘えようとしているようだった。

 とはいえ先ほどまでの様子を知らないアッシュとシルヴィアはその変化がわからず、いつもと変わらない姿。というようにしか思っていなかった。

 変わり身が早いなぁ、と思っているのはルキの後を追って歩いて来るシャロと、少し離れた場所で考え事をしながらこのやり取りを見ているアルトリウスの二人だけだった。


「確かにそれもそうだな。部屋が埋まる、ってことはないだろうけど念の為にな」


「そうそう! 部屋は……五部屋必要だよな」


「六部屋じゃないのか? それぞれ一部屋ずつ……まぁ、空いてれば、だけど」


「俺とアッシュで一部屋。チビが一部屋。壁女が一部屋。むっつり目隠れが一部屋。で、優男が一部屋。やっぱり五部屋だな!」


「そこで当然のようにアッシュと同じ部屋になろうとするのはどうかと思うんだけどなぁ……」


 この先にある宿での部屋割りについて二人で話を進めていたが、ルキがアッシュと同じ部屋にする気だということを聞いてシルヴィアが呆れたようにそう零した。

 だがそんなシルヴィアに追い打ちをかけるような言葉がかけられる。


「そういうことでしたら四部屋ですね。私と主様とルキさんで一部屋、で大丈夫ですからね」


「シャロまで!?」


 その言葉を聞いたシルヴィアは驚いたようにそう言ってからルキに追いついて会話に参加したシャロを見た。

 またルキは小さく舌打ちをして、アッシュはそんなルキに小さくため息を零していた。

 シャロはそんな二人には気づかず、シルヴィアに何かおかしいことを言いましたか、と言いたげに首を傾げてから口を開く。


「少し狭くなると思いますけど、私たち三人なら大丈夫ですよね?」


「いやー、俺とアッシュだけで限界だと思うぞ! ってことでチビは一人で寝ろよな!」


「大丈夫です。この間だって三人でもほとんど問題ありませんでしたからね」


「……俺はアッシュと二人きりが良いんだけどなぁ!」


「私は仲間外れは良くないと思いますよ!」


「ガルルルル……!!」


「むぅー……!!」


 お互いに一歩も引くつもりはないようで、自分の背後で唸り合う二人にアッシュは疲れたようにため息を零した。

 これはどうやって諫めようか。あちらを立てればこちらが立たず、ということでいっそのこと二人とも一人部屋にしてしまえば問題ないか。と考えていた。


「いや、やっぱり三人でも良しとするか! 今回は特別だからな、チビ!」


「え、え? は、はぁ……いきなり意見を変えたことに戸惑いはありますけど、とりあえず三人で一部屋、ということで良いですね!」


「おう! ってことでアッシュ、一人部屋とか取らなくて良いからな?」


 まるでアッシュの考えを見抜いたようなタイミングだったが、実際にアッシュが一人部屋を取ろうとしていたことを察したようだった。

 これは長い付き合いだからこそ出来たのか、それともルキがアッシュのことを大好き過ぎるから出来てしまったことなのか。それは誰にもわからない。


「はぁ……まぁ、別に良いけど……っていうか諦めたけど。あぁ、でもベッドの大きさによっては一人部屋になるからな」


「あー……いや、ベッドが小さいとしても俺とアッシュだけならいけるよな?」


「それだとシャロが仲間外れだって怒るだろ」


「怒りませんよ? ただ、そういうのは良くないですよね、って言いますけど」


「ってことで俺の言った通りで良いよな」


「ぐっ……ま、まぁ、仕方ねぇか……」


 非常に不承不承といった様子で仕方がない、と言ったルキだったが内心ではいざとなれば忍び込めば良いな。と考えていた。

 そんなルキの考えがわかっているのか、アッシュは小さくため息を零してから自身にがっつりと回されているルキの腕を解いた。

 ルキはとりあえずは良いか、と思っているのかすんなりとアッシュを解放した。さて、ではそこまでは良しとして。

 シルヴィアはそんなやり取りをしていたアッシュたちを何とも言えない表情で、僅かばかりの何かを疑うような色を滲ませた瞳で見ていた。


「……何だよ、その目は」


 アッシュはそうしたシルヴィアに気づいてそう声をかけた。


「いや……その、アッシュって、もしかしてそういう趣味の人なのかなぁ、って……」


「そういう趣味、か。つまり、何が、言いたいんだ?」


 そんなことはないよね? と言外に含めながら口にしたシルヴィアに対して何が言いたいのか言え。とアッシュが圧をかけながら言った。

 するとシルヴィアは非常に気まずそうにしながら一歩引いて口を開く。


「えっとね、小さな男の子とか、女の子が好きな人なのかなぁ、ってことなんだけど……」


「そんなわけないだろ……俺はルキとシャロにぐいぐい迫られて目が死ぬような人間だぞ」


「あ、あー……確かにそうだね……ごめん、変な勘違いしてた」


「いや……まぁ、何となくそう思われても仕方がないってのはわかってたから気にしなくて良いさ。それよりも……そこの脳内ピンクなクロエを現実に引き戻してから出発するか。充分に休めたはずだからな」


「あ、うん……でも脳内ピンクって……」


「間違ってねぇと思うけどなー」


 アッシュはとりあえずシルヴィアがもしかしたら、と考えたことを否定してからそろそろ出発することを提案した。

 それから妄想の世界に逃げ込んでいるクロエを現実に引きずり出さなければならない、とアッシュはクロエの下へと歩み寄った。


「ほら、現実に戻って来い」


 そう言ってアッシュはクロエの頭に手を乗せるとその頭をぐわんぐわんと回した。

 すると強制的に妄想の世界から現実の世界へと引きずり出されたクロエが戸惑いに満ちた声を漏らした。


「え、あ、ふ、ふええぇぇぇ……?」


「情けねぇ声出すなよなー。それよりも充分休んだはずだからそろそろ出発するぞー」


「こ、こんなことされたら情けない声の一つも出ますよ!?」


「そいつは悪かったな。それよりも宿まで向かわないといけないから出発するぞ?」


「え、あ、え? あ、はい! わ、わかりました!」


 色々と言いたいことはあるがアッシュが強制的に話を進めてしまうのでそれに流され、クロエは慌てたように返事をした。

 それを聞いてアッシュは今度はシルヴィアを見る。


「シルヴィアも良いよな?」


「うん、良いよ。アルもたぶん大丈夫だと思うから、すぐに出発出来るんじゃないかな?」


「そうか。シャロも大丈夫だよな?」


「はい、大丈夫ですよ」


 こうしてアルトリウス以外の全員が出発しても大丈夫だとしていて、アッシュはよし、と一つ頷くとアルトリウスへと声をかけた。


「アルトリウス、出発出来るか?」


「あ、あぁ……大丈夫だよ。とりあえず宿を目指す、ってことで良いんだよね?」


「そうだ。少し早めに宿を取って休む。っていうのが良さそうだと思ってな」


「あはは……僕はまだマシだとしてもシルヴィア様とクロエのためにはそうした方が良いかもしれないね……」


 少し早めに、という言葉を聞いたアルトリウスは苦笑を浮かべながらそう返した。


「そういうことだ。それから部屋が取れるかどうかわからないから早めに動きたい、ってのもあるんだけどな」


「確かに、他に利用する人がいる可能性だってあるからね……よし、それなら出発しようか」


「だな。それじゃ、出発するから遅れるなよ。あと、歩くのが厳しいようだったら無理せずに言うんだぞ?」


 最後の言葉が誰に向けられたものなのか、それがわかっているシルヴィアとクロエは頷いて返すとそれを見てアッシュはわかってるならそれで良い。というように一つ頷いた。

 そしてアッシュが宿のある方角へと歩き始めると、その後ろにルキたちが続いてはルキ始めた。



 その後、アッシュたちは無事に宿に辿り着き、余っていた四部屋を取ることが出来た。

 また四部屋しか残っていない、という話をされた際にはルキが本当に嬉しそうにガッツポーズをし、シャロも控えめなガッツポーズをし、アッシュがため息を零す場面があった。


「えっと……どうしてルキとシャロはそんなに喜んでいるのかな……?」


「四部屋ということは相部屋になりますね。どういう分け方にしましょうか……?」


 それを見てアルトリウスは疑問符を浮かべ、クロエは相部屋になるのならどういう部屋割りにしようか、と考えていた。

 するとそれを見てシルヴィアが苦笑を浮かべながらこう言った。


「えっとね……ルキとシャロはアッシュと同じ部屋が良いみたいで、四部屋しか取れないなら同じ部屋になれる、って喜んでるんだ」


「あぁ……そういうことか……アッシュも大変だね」


 アッシュに対するルキの迫り方というか甘え方や、褒めてもらおうとしたり甘えようとするシャロのことを少しとはいえ見ていたアルトリウスは僅かに同情の籠る声でそう言った。


「うん……でも前にも三人で一緒のベッドで寝たことがあるみたいだったから、アッシュもそこまで抵抗したりはしないみたいだったね」


「そうなのかい? あー、でも、アッシュは二人には甘いようだから抵抗しないのも納得かな?」


「だよね。まぁ、抵抗って言い方も少しおかしいかもしれないけど……ルキって凄いグイグイ押してるからね……」


「それは……そう、だね……ルキは本当に凄いと思うよ……」


 昼食時のルキの姿を思い浮かべながら二人は何処となく言葉を濁しながらそう言った。

 また二人がそんな会話をしている一方でルキとシャロはこれは相部屋にするしかない! ということを言って周囲の人の視線を集め、アッシュの目が死ぬ。という出来事があったがある意味ではいつも通りとも言えるので割愛する。


 そして二人はそういえばクロエが静かだな。と思いながらクロエを見ると、当の本人は両手で頬を押さえ、真っ赤になりながら淡淡していた。

 どうやら三人で寝たことがある。という言葉を聞いて良からぬ妄想を繰り広げているようで、それに気づいたシルヴィアとアルトリウスは小さくため息を零し、確かにこんなに頻繁に妄想の世界へ、となるならミザリーが言うのも納得だ。と考えていた。

 それと同時にクロエを現実に引き戻す、というのはもしかすると結構な回数になるのでは? と少しばかり辟易としていた。

次回はベッドでロリショタに挟まれる主人公が出るらしいです。らしいです!

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