48.村の修道女
太陽が空に輝き、予定通りに途中の村へと五人はやって来ていた。
五人が進んだのは整備された街道を通る安全重視のルートであり、そのルート上には幾つもの町や村がある。今回はそのうちの一つに立ち寄り、休憩を取ることにしていた。
「んー……旅人をわざわざ歓迎する、っていう雰囲気じゃないね」
「だからと言って拒絶するわけでもない……」
「街道沿いの村だからな。旅人だって当然多いし、そうなれば一々構うこともないだろ。まぁ、何か厄介事を持ち込まないように、ってくらいには見られてるだろうけどな」
「人が沢山来るってことはそういう奴もいるってことだからなー。まぁ、逆に言えば問題さえ起こさなければ排斥もされない、ってことだから楽と言えば楽なんじゃねぇの?」
「そうですね……普通にしていれば良いだけですから難しいことじゃありませんね」
村人たちは五人を一瞥すると大した興味がないように視線を逸らしたことからどういうことなのか、とシルヴィアとアルトリウスが疑問符を浮かべていた。
だがアッシュとルキの言葉を聞いてなるほど、と納得し、更にシャロの言葉に内心で同意していた。
しかし、そんな三人とは違ってアッシュとルキはシルヴィアを見てため息を零していた。
「え? 何で僕の顔を見てため息なんて零したの? また二人で結託して僕の心を抉りたいの?」
「それも悪くないのかもしれないけどそういうことじゃない」
「そこは否定してよ!!」
「王都からそう離れてるわけじゃねーってことは顔が割れてる可能性があるだろ。だから壁女の存在そのものが厄介事になるかも、ってことだ」
「また壁って言ったね!?」
「とはいえ軽く休憩するくらいならたぶん大丈夫だろ。あぁ、そうだ。あんまり村人に絡むなよ」
「わーかってるって。チビと優男、それと壁女も気を付けろよな」
「アル! 二人が僕のこと無視して話を進めてるんだけど!!」
都合の悪いことは聞き流しているのか、単にそこまで相手をする必要はないと思っているのか、シルヴィアで遊んでいるのか。アッシュとルキはシルヴィアの言葉に一切反応を見せずにそう締めくくった。
そんな二人の姿に自分が何を言ってもダメだと悟ったシルヴィアはアルトリウスに助けを求めることにした。とはいえアルトリウスはアルトリウスで、この二人には自分が何かを言うよりもシャロに任せた方が良いような気がするな、と考えていた。
なのでアルトリウスはシルヴィアに困ったような苦笑を返してから助けを求めるようにシャロを見た。
「えーっと……主様、ルキさん。そういうのはメッ! ですよ?」
するとその意図を理解したシャロが何と言うべきか、少し考えてから主語の抜けた曖昧な言葉を口にした。
とはいえアッシュとルキには何が言いたいのかわかっていたので特に困惑することも疑問符を浮かべることもなく言葉を返す。
「そうだな、あんまりやり過ぎるのは良くないな」
「だな。大して楽しくもなかったし」
「私が言いたいのはそういうことじゃないですからね」
「っていうかやっぱりわざとやってたんだね!! そういうの本当に良くないよ!!」
「あー……いえ、これは気安く接することが出来ている、と考えれば少しは……」
「そうだとしても! 良くないの!!」
先ほどのやり取りはわざとであったと悪びれもせず白状したアッシュとルキにシャロは冷静にツッコミを入れ、シルヴィアはアッシュとルキに噛みついた。
そんな状況でアルトリウスが何とかフォローをしようとした。シルヴィアは確かに気安く接することが出来るのは良いことだと思うがやり方が良くないと言った。
それを聞いてアッシュとルキは思っていたよりもからかい甲斐があるな、と内心で考えていて、何となくそのことを察したシャロが小さくため息を零していた。
そうした和気藹々とじゃれ合っているように見えなくもない五人の下に近づいて行く人影が一つ。
気配に気づいたアッシュとルキが軽くそちらに目を向けると修道服に身を包んだ女性と目があった。
そのことに気づいたのかその人物は軽く会釈をしてからアッシュに向けてこう言った。
「初めまして、旅人さん」
その声に接近に気づいていなかった残りの三人もそちらへと目を向ける。
「あぁ、初めまして。それで、用件は?」
「ちょっとアッシュ! いきなり何を言ってるのかな!?」
「普通に挨拶をしてくれただけなのに用件は、何て聞くのはどうかと思うよ」
挨拶を返してすぐに用件を言え。と伝えるアッシュに苦言を呈したのはシルヴィアとアルトリウスの二人だった。
二人にしてみればただ挨拶をしてくれた、という相手に対してアッシュの態度はあまり良くない、と思えてしまったからだ。
するとそれに対してルキが呆れたようにこう言った。
「あのなぁ……これだけ騒いでるのに何事もなく普通に挨拶だけ、なわけねぇだろ。注意しに来たか、何か頼みごとがあるか、それくらいは想像がつくんじゃねぇのか?」
「あ……た、確かに騒ぎすぎてたかも……」
「そう、だね……それならそのことで苦情を言いに来たとしてもおかしくはないか……」
ルキの言葉に納得した二人がバツが悪そうにそう零すと女性はくすくすと小さく笑みを零しながらこう言った。
「ふふ……苦情だなんてとんでもありません。皆さんとても楽しそうで、羨ましいくらいでしたよ」
「そ、そう、ですか……楽しそうに見えましたか……」
とても楽しそうだった、と言われたシルヴィアは何と返すべきかと悩みながらもとりあえずそう返していた。シルヴィアにとっては自分がからかわれている姿を楽しそうだったと言われて反論すべきなのか、羨ましいと言われるほどなら仲が良さそうに見えたと判断して喜ぶべきか、非常に微妙なところだった。
とはいえ素直にそれを口にしても困惑させてしまうだけだ、と判断しての精一杯の気遣いとしての言葉は何とも曖昧な表情を伴ってしまう。
そんなシルヴィアを見てアッシュとルキは内心で爆笑し、シャロは心配そうにシルヴィアを見て、アルトリウスはそうなってしまう理由がわかるからこそ苦笑を浮かべていた。
「はいはい。それで、用件は?」
「あ、申し訳ありません……貴方たちはこれから何処へ向かうのか、と思いまして……」
「僕たち? えっと、聖都に向かっている最中ですけど……」
「聖都に、ですか。それでしたら丁度良かったかもしれません。少しお話があるのですが、お昼ごはんはどうする予定でしたか?」
聖都に向かう最中だ、という言葉にその女性は嬉しそうにそう言ってから昼食の予定を尋ねた。
「え? えっと……一応、この近くで食べられる場所があればそこで食べようかなぁ、って……」
「それでしたら教会でご一緒にどうですか? 豪勢な食事、というものではありませんが……こちらで用意させていただきます」
シルヴィアが答えると女性はそう言って教会へと招待する。
これが純粋な好意から、ということであれば断る理由はないのだが、いくらシルヴィアでも聖都に向かうという言葉に丁度良かった、と言われてしまえば何かあると気づく。
だからこそシルヴィアはどうするべきかとアッシュを見た。こういう場合の判断は自分がするよりもアッシュに任せた方が良いと判断したからだ。
「……まぁ、どっちでも良いんじゃないか? 判断は任せる」
しかしアッシュは少しだけ考えてからシルヴィアに判断を任せると言った。
これはどういう判断を下したとしても問題ない。と考えた結果だった。いや、何かあったとしても自分とルキであれば一切問題なく解決出来る、と考えての結果、というべきか。
「え、そう? それじゃ……折角だからお言葉に甘えようかな。みんなもそれで良いよね?」
「うん、僕はそれで良いと思うよ」
「はい、大丈夫ですよ。ですよね?」
「まぁ……別に良いけど」
「満場一致ってことで良いだろ」
「よし! それじゃ、案内をよろしくね」
「はい、わかりました。ではこちらにどうぞ」
全員の意見が一致した、ということでシルヴィアが案内を頼むと女性はそう言ってから五人の先導を始める。
そして少し歩いてから女性が口を開いた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はミザリー。ミザリー・ミシュエル。しがない修道女です」
「あ、僕はシルヴィア。これでも」
「これでも俺たちのリーダーだ。まぁ、リーダーを始めたばかりでまだまだ頼りないけどな」
「そうだったのですか……その、貴方がリーダーなのかと……」
「だから言っただろ?まだまだ頼りない、ってな」
シルヴィアがこれでも勇者、もしくは第三王女、という言葉を続けようとしていたがそれに気づいたアッシュが強引に言葉の続きを奪い、冗談交じりにそう口にしていた。
「なるほど……では貴方が指導中、ということなのですね」
「まぁ、そんなところだ。それと俺の名前はアッシュ、そっちの顔が良いのがアルトリウス、エルフの子供がシャロ、狼人の子供がルキ」
事実とは異なることだったので適当にはぐらかしながらアッシュは順番に名前を口にした。
その際に軽い特徴を口にしていたのでミザリーはアッシュが名前を口にする度にそちらに視線を向けて顔と名前を一致させているようだった。
それを見て雑な紹介だったがどうやら問題ないようだ、とアッシュは考えていた。
「シルヴィアさん、アッシュさん、アルトリウスさん、シャロさん、ルキさん、ですね。よろしくお願いします」
ミザリーはそれぞれの名前を口にしてから五人よりも数歩前に出てからくるりと向き直るとそう言ってから頭を下げた。
「うん、よろしくね!」
「よろしく、ミザリー」
「よろしくお願いしますね、ミザリーさん」
「あー、はいはい。まぁ、適当になー」
「よろしくするかどうかは用件次第だな」
シルヴィア、アルトリウス、シャロの三人は素直にその言葉に返すがルキとアッシュだけは軽く流しながらそう言った。
「こういう時は素直によろしくって返すべきだと思うよ」
「そうか……そうか? それよりもさっさと教会で用件が聞きたいと思うのは俺だけか?」
「うん、きっとアッシュだけ……あ、ルキもか。アッシュとルキだけじゃないかな?」
そんな言葉を交わすアッシュとシルヴィアを見てミザリーはくすりと笑みを零してからまた先導を再開した。
聖都までとかサクサク進めたいけど微妙に進められない悲しさというか技量不足というか。




