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45.王女相手でも態度は変えず

 ついにと言うべきか、当然のようにと言うべきか。シルヴィアの護衛として聖都へと出立する日がやって来た。

 南門にて合流。ということになっていたのでアッシュとルキ、シャロの三人は日が昇るよりも前に南門でシルヴィアを待っていた。


「こんな朝早くから、ってどうなんだろうなー」


「聖都に向けて出立、ということでしたから……日が昇っている間は進んで、日が暮れる頃に休む。ということを考えているんだと思います。ただ、初日から張り切り過ぎても聖都に辿り着くまでに疲れそうですよね……」


「旅に慣れてないのに無茶をされても面倒なだけだよな……まぁ、俺たちはあくまでも護衛であって聖都までの旅路の手助けは依頼外だ。勝手に自爆するだけなら放っておくってのも選択肢としては考えておかないと」


「見捨てる、っていうよりも痛い目にあって学習しろ。ってことで良いのか?」


「そういうことだ。どうせ今後王国領内を旅しないといけないんだから必要な学習だな」


「んー……教えてあげる、ということでも良いような気も……」


「こういうのは痛い目に合えば嫌でも覚えるからそっちの方が手っ取り早いだろ」


 そんな好き勝手なことを言っているアッシュとルキを諫めるシャロだったが、アッシュはともかくとしてルキは言っても聞かないのでは? とも考えていた。

 だからこそ、そんなルキに対して不満そうに小さくため息を零すだけでそれ以上は何も言わなかった。


「あ、ところでアッシュ。フランチェスカの荷物は受け取ったのかよ」


「あぁ、それなら昨日のうちにハロルドから受け取ったぞ。流石に包みを開けて中を見るのはマナー違反だからやってないけど」


「流石に中を勝手に見るのは良くないですからね!」


「でも気になるよな。わざわざアッシュと俺を指名までして運ばせるんだろ? 怪しいよな」


「怪しくても依頼を受けた以上はどうしようもないだろ。というか、下手に詮索するとフランチェスカに目を付けられて面倒なことになる可能性もあるからな」


「あー……確かに、そうだな……」


 アッシュは諦めているようで、ルキも仕方がないことだと理解しているようではあった。それでもやはり気になる物は気になる、と言った様子だった。

 そんなルキの様子にアッシュは苦笑を漏らし、シャロはルキさんらしいなぁ、と話の内容とあまり関係ないことを考えていた。

 するとそんな三人に近づく人影が二つ。


「えっと……もしかして、君たちが護衛をしてくれる冒険者、とかじゃないよね……?」


 少女の声に反応して三人がそちらへと目を向けると、シルヴィアとアルトリウスの二人が立っていた。


「残念ながら俺たちが護衛の冒険者だ。俺たちみたいなのが護衛とか運がないな」


「じ、自分でそんなこと言うのはどうかと思うんだけどな……え、っと……とりあえず、本当に君たちが僕たちの護衛なんだね?」


「だからそう言ってんだろ。文句でもあんのかよ」


「いや、文句、というわけじゃないんだけど……」


 シルヴィアとアルトリウスは護衛の冒険者と聞いて屈強な男性を想像していた。

 しかしいざ合流してみればぱっと見で強そうには見えない青年とどう見ても子供が二人。そういう状態であればシルヴィアとアルトリウスが酷く戸惑ってしまうのも当然のことだった。


「そうか……そうか。文句がないならそれで良い」


 そんな二人の様子を見ながらアッシュは言葉を続けた。

 困惑しているからと言って落ち着くのを待っていては時間ばかりが経過してしまう、と考えたからだ。


「俺はアッシュ。わざわざ俺を御指名の依頼があったからどうしようもなくて受けただけの冒険者だ。まぁ、第三王女だろうと勇者だろうと俺には関係ないし、どうでも良いから扱いは悪いかもしれないけど精々我慢してくれ」


「ルキ。アッシュと同じで地位とか興味ねぇから扱いが悪くても文句言うなよ」


「シャロと申します。とりあえず主様とルキさんはこんな風に言っていますけど、何だかんだで面倒見は良い方たちですから安心してくださいね」


「シャロ、余計なことを言わない」


「余計なことじゃないですから大丈夫ですね!」


 アッシュが釘を刺すとシャロはニコリとしながらそう言い返した。

 少し前までのシャロからは想像も出来ないが確実にアッシュとルキに毒されてしまっていて、それを残念なこととするか、二人に慣れたのは良いことだとするのか。

 何にしてもそうして冷たい言葉を投げかけてくるアッシュとルキに対して気後れすることなく釘を刺すシャロの姿にシルヴィアとアルトリウスはぽかんとしていた。

 幼く可愛らしい少女であるシャロがアッシュとルキに対してはっきりとそんなことが言えると考えられなかったからだ。


「チビも言うようになってきたよな」


「あんなに素直だったシャロがなぁ……まぁ、俺たちのせいだけど」


 そんなシャロの成長というか何と言うか。そのことに関してアッシュとルキがしみじみと言葉を交わしているとシルヴィアが口を開いた。


「あ、えっと……な、仲が良いんだね! 小さい女の子に主様って呼ばれてるのはどういうことなのか僕としては不思議でならないんだけど……そこは聞かない方が良いのかな……?」


「事情がある。あんまり詮索ばかりすると嫌われるぞ」


「うぐっ……そ、そう言われると、何も聞けなくなるんだけどなぁ……」


 やはりと言うべきか。シャロがアッシュのことを主様と呼んでいることを不思議そうに、もしくは懐疑的な目で見ていたのだがアッシュに詮索するな、と少し迂遠に伝えた。

 すると気まずそうにシルヴィアは言葉を返して助けを求めるようにアルトリウスを見た。


「あー……その、冒険者である君にとっては大したことではないのかもしれないけど、シルヴィア様はそういった言葉のやり取りというか、そういうのにはあまり慣れていないんだ」


「だろうな。とはいえ依頼にはそういったことに関して気を遣うように、とか書いてなかったから知ったことじゃない。というよりも、旅を続けないといけないならこれくらい慣れろ。俺よりも遥かにろくでもない人間なんて腐るほどいるんだからな」


「それを言うなら王城内にもろくでもない奴とかいるだろ。いや、貴族自体がろくでもない奴ばっかりだろうけど」


「ルキさん、そういうのって偏見って言うんですよ?」


「偏見もあるけど、事実でもあると思うんだよなぁ」


 王族と貴族である自分たちを前にしても大して気にした様子もなく好き勝手言っているアッシュとルキに、こんな人間もいるのか、と衝撃を受けるシルヴィアとアルトリウスだった。

 だがそんなことは関係ないとばかりにアッシュが口を開く。


「ルキ、そのくらいにしておけ。それよりも自己紹介くらいしてくれても良いんじゃないか?」


「あ、ご、ごめん! えっと、僕はシルヴィア。シルヴィア・シャルマス・リマト・ウルシュメルク。よろしくね!」


「僕はアルトリウス・カレトヴルッフ。その、カレトヴルッフ家、と言えばわかるとは思うんだけど……」


 カレトヴルッフの名は王都に住んでいる人間であれば、王家から最も信頼の篤い騎士として一度は聞いたことがある名前だった。


「カレトヴルッフって言えば龍殺しだっけ?」


「龍殺し?」


「過去に龍を殺した云々、って話は王都だと有名なんだよ」


「ルキさん、それは説明になってませんよ?」


「俺だって詳しく聞いたことがあるわけじゃねぇからな。あ、でもアッシュならもしかしたら知ってるかも」


「カレトヴルッフの話は聞いてる。まぁ、王家から一番信頼の篤い騎士の家系だからこうして駆り出されたんだろうさ」


 カレトヴルッフの名前を聞いてもやはり気にした様子のないアッシュとルキ、それと知らないようだったシャロの様子にアルトリウスは苦笑を漏らし、こんなことは初めてだ、と考えていた。

 幼い頃からカレトヴルッフの人間、という目で見られ、時に嫉妬から悪意のある目を向けられ、時に自分に取り入って貴族としての地位をより高めようとするものがいたり、アルトリウスにとってはカレトヴルッフの名は非常に厄介なものだった。

 勿論誇りもあった。だがまだ年若いアルトリウスにとっては負担になることの方が遥かに多かった。


 そんなカレトヴルッフの名を聞いてもこの三人にとっては少し名の知れた家名、という程度のことでしかないのだと何となく理解して、少しだけアルトリウスは嬉しく思えていた。

 この三人はきっと自分のことをカレトヴルッフの人間としてではなく、ただのアルトリウスとして接してくれるのではないか、と考えたからだ。

 また自分に対してもそうだがシルヴィアに関しても態度を変えないようなので、可能であれば護衛の間だけでもシルヴィアをただのシルヴィアとして仲良くして欲しいな、とも考えていた。


「ウルシュメルクは言わずもがなだ。だから特に何も言う必要はないな」


「そうですね……何と言っても王家の方ですからね……」


「まぁ、王家の人間だからって関係ないけどな! 護衛は依頼だからちゃんとするけど、世話とかする気はねぇし!」


「今後は護衛なしで仲間と旅をするんだ。色々と自分で出来るようにならないと、だな」


「でもちゃんと出来るように教える、ということはするんですよね?」


「気が向けば、な」


 三人で言葉を交わしている姿を眺めながらアルトリウスが隣に立つシルヴィアへと小声で話かけた。


「彼らは王族だとか貴族だとか、そういうことは気にしないみたいだね?」


「うん……ちょっと面喰っちゃったけど、僕としてはそっちの方が有難い、かな」


「そうだと思った。もしかすると……彼らは君の欲しがっていた、地位に拘らない君を個人として見てくれる友人になるかもしれないね……」


「ふふ……それはアルもじゃないかな?」


「うん、シルヴィアと一緒でね」


 生まれ持っての地位、というものがある二人にとって何の気兼ねもなく話が出来る友人。というのは非常に稀有なものだった。

 そんな存在に、もしかしたらこの三人がなってくれるのかもしれない。シルヴィアとアルトリウスの二人は同じようなことを考えていたようで、互いに小さく笑った。

 そして今のところ自分たちに興味がないようなアッシュとルキ、それから二人とは違って友好的なシャロもっと仲良くなるにはどうしたら良いのか、とも考えていた。

王女や貴族が相手でも態度を変えない系主人公。

貧民街(スラム)出身系主人公なのでそういうの気にしないというか、へりくだる気は一切ないというか。

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