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43.第三王女と騎士

 ウルシュメルク王国の首都マアンナ。その王城の一室にて。

 金糸の髪に端正な顔立ち、凛とした立ち姿の青年とウルシュメルク王家の証とも言える白銀の髪に幼さが僅かに残るせいか美しいと言うよりも可愛らしいという印象を受ける顔立ちをした少女が向かい合うように椅子に座っていた。


「シルヴィア様。聖剣に選ばれ、勇者となられたこと。このアルトリウス・カレトヴルッフ、心よりお祝い申し上げます」


「ありがとう、アル。でもそこまで畏まらなくても良いんじゃないかな。今は僕と君だけだからね」


 深々と頭を下げるアルトリウスに対してシルヴィアは少しだけ不満そうに言った。


「それは、そうですが……」


「確かに僕は第三王女という立場があるよ。でもこうして周りに人がいないときは友人として接して欲しい。って言ったよね?」


「……わかったよ、シルヴィア。まったく、君は本当にそういうところは強情だからなぁ」


 自身の地位を理解していながら騎士であるアルトリウスに友人として接して欲しいと言うシルヴィアに対してアルトリウスは苦笑混じりにそう返した。

 すると不満そうだったシルヴィアが嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「ふふ……うん、アルとは長い付き合いになるんだ。少しくらい強情になっても大丈夫だってわかってるからね」


「そういうのは本当に他に人がいないときにして欲しいね」


「わかってるって。それで、アルは何度目になるかわからないお祝いの言葉を言うためだけに来たわけじゃないよね?」


 他愛のない言葉を交わしてから本題へと話を移した。

 シルヴィアの言うようにアルトリウスは既に聖剣に選ばれ勇者となったことに関して数回ほどお祝いの言葉を口にしていた。

 そのため微妙にうんざりだ、という思いを込めてシルヴィアがそう口にするとアルは少し困ったような表情を浮かべながら言葉を返した。


「あはは……シルヴィアはこれから聖都に向かわないといけない、っていうことはわかっているよね」


「うん、聖都の教会で聖女より祝福を受ける必要が、でしょ?」


「その通り。僕は今回シルヴィアと一緒に聖都に向かうことになってるんだ」


「んー……それは僕の護衛として?それとも今後の旅の仲間として?」


「今回は護衛として、だよ。現状は誰がシルヴィアの旅の仲間になるか、それに関してはちょっと難航してるみたいなんだ。だからとりあえずは王家からの信頼も篤いカレトヴルッフの人間を護衛に、っていう話になったんだ」


「そっか……そっかぁ。そういうことかぁ……」


 アルトリウスの言葉に困ったように苦笑を漏らしながらシルヴィアがそう言った。

 シルヴィアは勇者となったことで王国領内を旅し、勇者という存在を大々的に広めなければならない。それは民を安心させるためであったり、敵対国に対する抑止力であったり、王家の人間が勇者に選ばれたことを知らしめるためであったり。どうにも政治的な面で必要なことだった。

 言い換えてしまえばこれは第三王女であり勇者となったシルヴィアが行うべき公務、のようなものだ。


 そんな公務の供をするのは誰か。そうなると強かな貴族たちは自分の息のかかった者を、または縁者を推薦し、結果として推薦されている人間の数は非常に多くなっていた。

 だからこそ話し合いは遅々として進まず、今回は国王から信頼の篤いカレトヴルッフの人間を。という話が出たのだ。勿論そのことについて苦言を呈する貴族もいたが勅命とされれば何も言えなくなっていた。


「それじゃ、護衛をお願いね。とは言っても僕は守られるだけ、なんてつもりはないけどね?」


「わかってるよ。シルヴィアは聖剣に選ばれる前から王国騎士と遜色ないだけの腕前だったし、聖剣に選ばれてからは聖剣の祝福で更に強くなってる、だよね」


「うん。自分の頑張りだけで、とかそういうのじゃないからあんまり胸を張れるようなことじゃないんだけど……僕はこの力を使うなら、皆の為に使いたいと思っているよ」


「んー……こういう場合は何て言うのが正解なのかな。人のために、という想い流石だね。って言うべきかな。それとも……そういう想いは立派だけど、無理はしないで欲しい。って言うべきかな」


「あはは……どっちもで良いんじゃないかな。とはいえ僕は無理なんてしないから大丈夫だよ」


「それなら良いんだよ。でもシルヴィアはついつい無理をするような性格だからどうしてもなぁ……」


「ぅぐっ……それにはちょっと言い返せない自分がいるかな……」


 第三王女と王国騎士。というお互いの地位など気にせずに本当に友人として言葉を交わす二人の姿をもし他の貴族や王城内に務める人間が見れば驚愕し、アルトリウスを怒鳴りつける程度のことはしただろう。

 だがこの二人にとってはこれが普通のことであり、昔から二人だけならば友人として言葉を交わしてきていた。だからこその気安さとでも言えば良いのか。二人の間に流れる空気は非常に穏やかで、楽しげなものだった。


「まぁ、何にしても僕は護衛として一緒に聖都に向かうことになった。っていうことを伝えておこうと思ってたんだ」


「そっか。わかったよ。まぁ、僕としても知らない誰かよりも気分が楽だから助かったよ」


「シルヴィアがそう思っているなら陛下の判断は正しかった、っていうことだね」


「うん、流石父上だよ」


 そんな言葉を交わして二人でくすくすと笑い合う。

 だがすぐにアルトリウスはスッと真剣な表情へと変わり、こう言った。


「シルヴィア。聖都にいると良いね」


「……うん、見つかると良いなぁ……」


 誰を、という主語はなかった。だが二人には誰のことかわかっていて、二人とも本心から見つかると良いのに。と思っていた。

 二人が誰のことを言っているのか。それはこの場にいる二人以外にはわからないことだが、その様子を見る限りとても大事な存在のようだった。



 王城内でシルヴィアとアルトリウスがそんな話をしている頃。

 アッシュとルキ、そしてシャロの三人はストレンジにてハロルドからとある話をされていた。


「その依頼マジかよ……」


「俄かには信じがたいけど……まぁ、クレスが関わってるならわからないこともないか……」


「そうなのよねー、クレスから騎士団長に話が流れて地位だ何だってことにこだわる貴族よりも傭兵として冒険者を使う方が面倒事は少ないって判断されたらしいのよ。どうすれば騎士団長なんて立場の人間がそういう考えになるのかちょっと意味がわからないけど」


 三人はどうしてこうなったんだ、とため息を零していた。

 本来はそういった事柄をおいそれと冒険者に、というよりも王家に関わりの深い組織以外に回すものではない。そのことがわかっている三人だからこそ零すため息も大きかった。


「本当にな。よりにもよって何で冒険者、しかも俺なんだよって言いたい気分だ」


「だよなー。っていうかあの行き遅れチビはアッシュが王族嫌いだって知ってるはずだよな?」


「アッシュは昔からそうよね……本来関わることがないからあまり気にならなかったけど、今回の依頼はやめておいた方が良いんじゃないかしら?」


「とはいえ……指名されたからな……」


「わざわざ指名するってことは前の三下とかその辺りのことを話してるってことだろ? 面倒なのに目をつけられたって感じかもなぁ」


「まぁ、確かにそうかもしれないわね……私としてはあまりお勧めできないけど、目を付けられた以上は少しくらいは協力する必要があるわよねぇ……」


 そう言ってまた三人はため息を零した。それだけ本来は受けたくない、受けさせるべきではない、と考えていながらも不承不承受けるしかない状況なのだ。


「あ、あのー……」


 そんな三人を見ていたシャロがおずおずと口を開いた。


「本当に、勇者様を護衛して欲しいという依頼が主様とルキさんに来ているんですか?」


 本来であればシャロの前でするような話ではない事柄なのだが、イシュタリアから様々な話を聞いているシャロはアッシュたちがこうしてハロルドを経由して依頼を受けていることを知っていた。

 他にもイシュタリアが一方的に必要だと判断した情報も教えているのだがそれはさておき。


「信じられない気持ちはわかるわ。でも本当に来てるのよ……困ったことにね……」


 シャロの言葉に疲れた様子でハロルドは言葉を返す。


「で、でも、そういうことなら光栄なことだ、とか思うんじゃ……」


「そうねぇ……普通ならそうかもしれないけどアッシュとルキは違うのよ」


「え?」


 ハロルドの言葉がどういうことなのかわからず、シャロはアッシュとルキを見た。

 アッシュは何処か苛立った様子で頭をがりがりと掻き、ルキは心底どうでも良さそうにしていた。


「昔から王族は嫌いなんだ。まぁ、厳密に言えばウルシュメルクだけなんだけど。理由は……まぁ、貧民街(スラム)の出身だってことを考えれば何となく察しがつくだろ」


「俺はなー、王族とか関わりねぇし、アッシュがいればそれで良いから興味がねぇんだよなー」


「私も元々王国の出身じゃないから……まぁ、偉い人よねぇ、ってくらいにしか思ってないわね」


「ハロルドさんは予想外でしたけど、確かに主様とルキさんは考えてみればそうですよね……」


 三人の言葉を聞いて、言われてみれば、というようにシャロは苦笑混じりにそう言った。

 そしてアッシュを見てから言葉を続ける。


「それで、その……主様はその護衛の任務を受けて聖都に向かうんですよね?」


「不本意だけどな。とりあえずシャロは」


「私もついて行きます!」


「残って、って……聖都だぞ? しかもお荷物抱えてだと時間もかかる」


 ここで言うお荷物、というのはアッシュにとってシルヴィアのことだ。だがシャロはそうは受け取らなかった。


「むぅー……確かに私はまだ子供で、旅になるとお荷物になるかもしれませんけど……」


「あ、いや、シャロのことじゃなくて第三王女のことを言ってたんだけどな」


「でも私だって一人で王都の近くまで来たんです! 旅くらい出来ますからね!!」


「って、聞いてないなこれ……」


 頬を膨らませ、拗ねたように言うシャロに対してアッシュは小さくため息を零した。

 だが、確かに一人で揺らぎの森までやってきた、ということはそれなりに旅をすることは出来るのだろうな、とも考えていた。


「んー……私としてはシャロは留守番の方が良いと思うのよね……」


 そんなことを知らないハロルドはシャロは留守番派だった。

 ルキのように非常に強く、また狼人(ウェアウルフ)ということもあって強靭な肉体を持っている。ということであれば違ったかもしれない。

 しかし、シャロは幼く華奢な体つきをしているのでハロルドは王都から聖都までの旅は出来ない、もしくは出来たとしても非常に負担がかかってしまう、と考えていた。それは至極当然の考えだった。

 そしてハロルドは根の善良さもあって子供に無理な負担をかけることを良しとはしない。

 シャロを連れて行くならば一応ハロルドを納得させてからでなければ、後々面倒なことになりそうだな。とアッシュはどう言えばハロルドが納得するだろうかと頭を悩ませ始めた。

第三章の舞台は聖都の予定。というか聖都に行ってドンパチやろうぜ! って感じです。

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