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幕間 宵隠しの狐 中

 混沌とした状況から暫くして、アッシュはシャロについての説明などを白亜と桜花にし終えていた。

 色々と気になることがあったはずなのだが白亜と桜花はそれについて何も聞かず、アッシュにも色々事情はあるよな、と受け入れているようだった。

 そんな五人はカウンター席に座ったアッシュの右側にルキ、左側にシャロが座り、白亜はそんなルキの隣に。そして桜花はカウンターの中で飲み物などを用意


「なるほどな……お世話役、お世話役かぁ……」


「あぁ、家事はある程度任せてるけどルキより良くやってくれてるぞ」


「うぐっ……だ、だって料理とかアッシュに任せた方が旨いし、掃除は、まぁ、少しは出来るけど……!」


「あはは……でもお世話役としての役目を果たしているだけですからルキさんが気にする必要はないと思いますよ?」


「……ここでチビもこう言ってるし! とか言ったらそれこそダメな気がする……!」


 お世話役という肩書きを繰り返す白亜がシャロはちゃんと出来ているのか、ということを気にしていると思ったアッシュはそれに対して良くやってくれている。と返した。

 その際に比較として引き合いに出されたルキが何処となく気まずそうに言えばシャロがそのフォローをする。とはいえそれをそのまま良しとするべきではないのではないか、と考えたルキは自分ももっと家事に参加すべきか、と悩み始めた。

 そんなルキにアッシュは苦笑を漏らしてからその頭をがしがしと少しばかり乱暴に撫でる。


「焦らなくて大丈夫だ。色々と少しずつで良いから出来るようになっていこうな?」


「まぁ、アッシュがそういうならそうするかぁ……」


 普段であればコロッと機嫌が良くなるルキだったが今回はむむむ、と考えるばかりでどうやら本気で悩んでいるようだった。


「でもなぁ、最近料理の時とかアッシュの隣にチビがいて俺も料理とか覚えれば同じように出来る気がするし……」


「ルキくんは相変わらずアッシュくんと一緒にいるためなら努力を惜しみませんよね」


「そこがルキの可愛いところだよな!」


「うるせぇ!桜花も白亜も俺のことであれこれ言うのやめろよな!!」


 うがぁ! と吠えるルキは微妙に赤くなっていて、これは照れ隠しのようなものだ。ということが見て取れる。

 そんな三人から視線をシャロへと移してからアッシュはこう言った。


「どうだ、面白い場所だろ?」


「そう、ですね……ルキさんのいつもと違う様子が見られて、ちょっぴり面白いですね」


「あぁん!? 今何て言ったよチビ!!」


「ルキさんが照れている姿が見られるなんて、思ってもいませんでしたよ?」


「チィビィすぅけぇぇぇ!!!」


 悪戯っぽくそんなことを言ったシャロに対してルキは怒りを露わにし地の底から響くような声で吠えた。

 そしてそのままシャロに掴みかかろうとするルキだったが流石にそれは不味いとアッシュがそれよりも早く動いた。


「はいはい。ルキは少し落ち着こうな」


 掴みかかるために腰を浮かせたルキの腰へと手を回し、ひょいっと持ち上げるとそのまま自分の膝の上に乗せ、暴れないようにとしっかりと抱きとめる。

 この行動の真意は、自宅であれば問題はないとしても流石に外で暴れるのはあまり良くない。と考えてのことだった。それとルキが相手ならばこれで落ち着くというか大人しくはずだ、という考えもあった。


「え、あ、し、仕方ねぇなぁ! アッシュがそういうなら、まぁ、少しくらいは落ち着かないとな!」


 その考えは的中し、先ほどの怒りなど何処かへと消え去ったルキは言い訳のような言葉を口にしながら非常に上機嫌になっていた。

 そうして上機嫌になったルキはアッシュの膝の上で尻尾を左右にフリフリと揺らしていて、尻尾のモフモフ加減もあってアッシュはそれが少し擽ったかった。

 とはいえそれについて口にしてやめるように言ったとしてもこの尻尾による感情表現は意図してやっていることではないので言うだけ意味がない。ということもあって何も言わなかった。


「いやー、アッシュは相変わらずルキに甘いし、ルキは相変わらずちょろいよなぁ」


「はぁ? 別にちょろくねぇよ!」


「いや、充分ちょろいだろ。だってアッシュの膝の上に座っただけでコロッと上機嫌になるとかちょろすぎだろ。いやでも俺もアッシュの膝の上とかめっちゃ機嫌良くなるしというかむしろムラムラするしわからなくはないけどな!!」


「いや、それはねぇわ……」


 するりと先ほどまでルキが座っていたアッシュの隣の席へと腰かけ、自身の欲望に塗れた想いを口にする白亜。そしてそれを聞いたルキはドン引きしていた。ただアッシュはドン引きせず、まぁ、白亜ならこれくらいは言うよな。と考えていた。

 ついでに言えばシャロは何を言っているのか理解出来なかったようで困惑し、桜花はニコニコとしながらお盆に手をかけていた。


「だってよく考えてみろよ! アッシュの膝の上だろ? ぴったり引っ付いてるんだろ? 見方によってはこれ絶対に入って」


「はい、アウトですねー」


「セーフでも良いと思うんだ痛い!!」


 何かを口走ろうとした白亜にアウト判定を出した桜花が手にかけたお盆を目にも止まらぬ速さで白亜目掛けて投げるとそれは見事に白亜の頭部を撃ち抜いた。

 アッシュに抱き着いて深呼吸しながら匂いを嗅いでいた白亜を撃ち抜いたのもこのお盆であり、アッシュとルキにとってはいつもの光景、シャロにとっては何が起きたのかわからない状況となっていた。


「白亜の言いたいことは何となくわかったけど、その発想は普通出ないだろ……」


「まぁ、白亜だからな」


 げんなりした様子のルキに呆れたようにアッシュがそんな言葉を返していると、シャロがアッシュの袖をクイクイッと軽く引いた。

 どうかしたのかと思いながらアッシュがシャロを見ると、シャロは困ったような表情で疑問符を浮かべながらこう言った。


「えっと、白亜さんの言っていた言葉の意味がわからなくて……」


「シャロ、あれはわからなくて良い言葉だ。というか白亜の言葉の大半は意味がわからなくて良いし、わからないのが当然だからな?」


「で、でも主様とルキさん、それに桜花さんは理解していたような……」


「白亜とは付き合いが長いから何となくわかるんだよ。まぁ、言い換えればシャロも白亜たちと関わって行けば何となくわかるようになるってことなんだけど……俺としてはわからないままでいて欲しい気分だよ、本当に」


 セクハラ発言、変態発言の多い白亜の言っていることはシャロには理解して欲しくない、と思っているアッシュは少しだけ疲れたようにそう言った。

 そしてそれに畳みかけるように、もしくは援護をするようにルキが口を開く。


「チビは何を言ってるのかわからない、って言うけど俺だってわからないことの方が多いぞ。だいたい全部理解出来てるのってアッシュと桜花くらいじゃねぇのか? だからチビが気にするだけ意味ねぇぞ。どうせ理解出来るようになろうとしても時間ばっかりかかるんだし、適当に流しておけば良いんだよ」


「む、むぅ……そういうものなのでしょうか……」


「そういうもんなんだよ。な、アッシュ?」


「シャロにはまだわからないかもしれないけど、そういうものだって割り切らないといけないこともあるからなぁ……白亜のことがまさにそうだと思った方が良いな」


「な、るほど……?」


 アッシュとルキが畳みかけてくる言葉にぐるぐると目を回しながらシャロは納得しているような、納得していないような言葉を返した。

 もはや洗脳染みたことをしているがアッシュとルキにとっては白亜の言葉を理解される方が後々面倒なことになるような気がしていたのでこの行動も仕方のないことだった。


 アッシュとルキがシャロを洗脳している間に白亜が蘇り、桜花が新しい飲み物を用意していた。

 そして蘇った白亜は不満そうに口を開く。


「別にちょっとくらい良いと思うのになぁ……ほら、生アッシュがいるんだぞ? ならセクハラくらい許してくれても良いじゃん!」


「良くねぇよ! アッシュにセクハラとかしてんじゃねぇよ!!」


「本当ならセクハラどころじゃなくて一晩しっぽりとイキたいくらいなんだけどなぁ! 男相手とかあり得ねぇとか思ってたけどアッシュが相手ならむしろどんとこいって感じなんだけどなぁ!! 一晩しっぽりどころか毎日でも俺は大歓迎なんだけどなぁ!!」


 とんでもないことを言い始めた白亜にルキは絶句し、シャロはぐるぐると目を回したまま聞き流し、アッシュは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「……桜花、今のはセーフなのか?」


 もしこれでアウトならお盆が白亜の頭部を撃ち抜くはずなのに何も起こらないことでアッシュが裁定の結果を確認すると桜花はにっこりと笑顔を浮かべてこう言った。


「大丈夫ですよ、アッシュくんなら大丈夫って話し合いで決まりましたからね!」


「何が大丈夫なのか知らないけど何を話し合ってるんだよ!!」


「大事なことですからね! 大丈夫ですよ、アッシュくんは浮気に入りません!! まぁ、他の子だったら絶対に許しませんけど」


 絶対に許さない、と口にした瞬間にアッシュは周囲の温度がスンッと急激に下がったような気がした。


「と、いうわけで……アッシュくんが全力で拒絶しない限りはセーフ、ってことにしてるんですよ。とはいえ流石に度が過ぎてるかな? って思ったらお盆が飛んじゃいますけどね」


 と、思ったがそれは気のせいだったようで桜花はまたニコニコと笑顔を浮かべていて、全く温度は下がっていなかった。

 とはいえアッシュは桜花が嫉妬深く、こうして自分なら大丈夫という結論を出したのが信じられなかった。というか信じたくなかった。


「そうそう! アッシュはセーフ! アッシュは合法! だから一切問題がないんだよ!!」


「はぁ!? アッシュに手を出すって考えてる時点で問題大ありだろうが!!」


「ならアッシュから手を出してもらえば良いんだな!? アッシュ! 見た目はこんな絶世の美少年だけどアッシュよりは年上だから合法だぞ!! しかもアッシュに手を出されたらこっちも全力で相手するから気後れとかする必要もないし、お互い満足するまで何度でもイケるってお得だと思うだろ?」


「あー、うん、はいはい、そうだな、頭痛いな、本当に頭痛い……」


 番犬よろしく吠えるルキの言葉を歪曲して捉えた白亜の言葉にアッシュはげんなりしながら投げやりに言葉を返した。

 ここまで白亜が言葉を重ねるとシャロは既に疑問符を浮かべ続けるしかなく、桜花は少し考えてからうんうんと頷きながらセーフの判定を出していた。


 これはいつものことだが白亜と桜花はアッシュとルキを振り回す言動も多い。

 またアッシュとルキは白亜と桜花の二人に昔から世話になっていることもあって実のところ頭が上がらないことが多々ある。

 だからこそあんな言動をしている白亜に対してルキは酷く噛みつくことが出来ず、アッシュもげんなりしたり頭を痛めたりする程度で怒るようなことがないのだ。

 そして何よりも四人ともそれぞれのことを身内だと認識していることもあって対応が非常に甘いものになっていたりする。

 そんな四人の中にシャロが新しく入ることになるがアッシュとルキはさておき、白亜と桜花はアッシュ連れであり、更には非常に良い子だと何となくわかっている。

 なのできっと何ら問題なく白亜と桜花はシャロのことを受け入れるだろう。

上中下の三話構成となっています。たぶん、三話で終わるはず。はず!

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