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27.何だかんだで仲良し三人

 シャロとフィオナが無事に冒険者登録を終えて戻って来ると、ルキがアッシュに抱き着き、アッシュがルキを撫でている場面に遭遇した。

 それに関してシャロは特に反応を示すことはなく、口を開いた。


「主様! ルキさん! 冒険者登録が終わりました!」


 シャロは自分のギルドカードをアッシュとルキに見えるように持ちながら言った。

 新品のギルドカードを持つシャロは何処となく誇らしげに見えて非常に微笑ましいものだった。


「あぁ、おかえり。無事に終わって何よりだ」


「おー、戻ったか。ってことは軽い依頼を受けないとな」


 言いながらアッシュはルキを撫でるのをやめ、ルキはアッシュから離れた。

 そこにシャロが平然と歩み寄る姿を入り口から見ていたフィオナが何とも言えない微妙な表情を浮かべながらおずおずと口を開いた。


「えーっと……アッシュさんとルキさんの距離感って、そんな感じでしたっけ……?」


「え? 主様とルキさんはいつもこうですよ? あ、いえ。というよりもルキさんがこうですね」


「あー……確かにルキさんが、ということであれば納得ですね……」


 普段からアッシュにべったりなルキの姿を思い出してフィオナは納得したようにそんな言葉を零した。

 そしてすぐにアッシュに目を向けて言葉を続けた。


「本当はアッシュさんにそういう趣味がー……って思ってましたけど、あれですね。アッシュさんの場合はそういう趣味云々ではなくて単純にルキさんに甘いってことでしょうか?」


「そうなんですよ! 主様はいっつもルキさんに甘いんですから!!」


 日常生活の中でアッシュが微妙にルキを甘やかす姿を思い出してシャロはぷんぷんと擬音が聞こえて来そうな怒り方をしていた。


「あー、はいはい。甘くて悪かったな」


「俺に対して甘いのは悪いことじゃないぞ! 俺に対してだけ甘いのは!!」


「だーめーでーすー!! 主様は自重してください! ルキさんはもっと自重してください!!」


「いや、でも……」


「でも、じゃありません!!」


 シャロに言われて頬を掻きながら目線を逸らすアッシュと、それくらい別に良いじゃん、とでも言いたげにシャロを見るルキ。


「むぅー……」


 そんな二人を見て頬を膨らませたシャロはとてとてとアッシュの前まで移動するとビシッとアッシュを指差して言った。


「主様! 復唱してください!!」


「ふ、復唱……?」


「ルキさんを甘やかさない!」


「え、あー……ルキを甘やかさない?」


「ルキさんにお肉ばかりあげない!」


「ルキに肉ばかりあげない」


 これは従わなければならない、と判断したアッシュがシャロの言葉を復唱するとシャロは満足げにうんうんと頷いてから今度はルキを見た。

 そして先ほどと同じようにビシッと指差してから口を開いた。


「次はルキさんです! 主様に甘えすぎない!」


「えー……アッシュに甘えすぎない程度にしっかり甘える!!」


「ちーがーいーまーすー!! 甘えすぎない!!」


「しっかり甘える! 今よりももっとな!!」


「むぅー!!」


 ルキはシャロの言葉を復唱するつもりはないようで、寧ろ今までよりもアッシュに甘える。と言った。それも胸を張って堂々と宣言するように、だ。

 そんなルキを見てシャロはまたも頬を膨らませて何かを言おうとした。ただそれよりも早くアッシュが動いた。


「自重しろっての」


 言いながらアッシュが軽くルキの頭に手刀を落とした。


「痛っ」


 本当に軽いそれを受けたルキは口では痛いと言いながらも特に気にした様子もなく自分の頭に落とされたアッシュの手を取ると自分の頬に当てて頬ずりをした。

 そんなルキは頬を緩ませて非常に嬉しそうにしていた。どうにも先ほど宣言したようにアッシュに甘えることにしたらしい。

 ただその場にいた全員にはその様子が子犬が飼い主の手にすり寄っているような、そんな光景に見えていた。それだけルキが嬉しそうにしていると言うべきか、ルキがアッシュに対して好意全開なせいなのか。

 どちらにしてもそんなルキを見てフィオナは、アッシュとルキの距離感に関して自分があれこれ考えるだけ意味がないのでは? と考えた。それとアッシュに妙な疑いをかけるのもやめておこう。とも。

 どう考えてもアッシュがどうこう、というのではなくルキが原因だから。と理解したからだ。


「あー……その、アッシュさんも大変なんですねー……」


 そして非常に同情するような言葉を零してアッシュを見た。言葉だけではなく、その瞳にも同情の色が浮かんでいた。

 それに気づいたアッシュは困ったような苦笑を漏らしてから口を開いた。


「まぁ、最近は更にな。ただ……ルキが楽しそうだから別に良いけどさ」


「あぁ、ルキさんがこうなったのはアッシュさんのせいだったと。あれですね、自業自得とか、そんな感じですね」


 アッシュの言葉を聞いてからフィオナは呆れたような表情で、呆れたような声でそう言った。

 そしてたった一日にも満たないこの時間でフィオナの中でアッシュの評価が変わり始めていた。

 それは、謎が多いがルキや自分への態度から悪い人間ではなく頼りになる青年だという評価が、ルキに対して非常に甘くシャロに対して微妙に甘く割とどうしようもない青年なのではないか、という評価に、だ。

 ただ子供に甘くなっているという姿は、子供を邪険に扱うよりも遥かに好意的なものとしてフィオナの目には映っていた。


「アッシュはこれで良いんだよ! 昔からずっと俺と一緒にいてくれて、温かい手も優しい匂いも俺にちょっと甘いのも何だかんだで俺のことを受け入れてくれるのも、ぜーんぶこれで良いんだ!!」


 そう言ったルキはほんの少しだけ過去に想いを馳せ、自分を受け入れてくれると言った際にはほんのりと頬を赤く染めていた。


「んんー? ちょっとルキさんのその反応は私としてはどういうことなのか気になりますねー」


「えっへへ……秘密だ、ひーみーつー! な! アッシュ?」


 頬を赤く染めたままフィオナに秘密だと返し、それからアッシュな名を口にしたルキの表情は幸せそうで、フィオナはそれを見て何かが胸の中にすとんと落ちたような気がした。

 そしてルキは頬ずりをしていたアッシュの手を両手でそっと包み込むようにして握った。


「そこで俺に振られるとフィオナが変な勘違いしそうなんだけどな!?」


 手を取られ頬ずりされても特に何か言うわけでもなく、仕方がないな、と受け入れていたアッシュだったが何かあったと匂わせる言い方をするルキに対して何処か焦った様子でそんなことを口にした。

 ルキの言葉は普段通りの様子で口にしたものであれば何ら問題はなかった。だがルキが普段しないようなほんのりと頬を赤く染める、ということをしたことによってその言葉の意味合いが変わってくる。

 だからこそアッシュは焦った様子を見せていたのだがフィオナはそれを見て小さく笑みを零していた。


「んー……主様とルキさんが仲良しさんなのは知ってますけど、そうやって二人だけの秘密がある、って言われるとどんなことなのか気になりますね……」


「シャロは知らなくても良い。というか、気にしなくて良い! ルキも変な誤解をされそうな言い方をするなよな!!」


「別に誤解させたくて言ってるわけじゃねぇよ。ちゃんと周りに牽制しとかないといけないからやってるんだしさ」


「わざとかよぉ!!」


 ルキの牽制という言葉の意味がわからなかったシャロは首を傾げ、アッシュはわざとやっていると理解して慟哭にも近い声を上げた。だがルキに取られている手を振り払ったりはしない辺り本当にルキには甘い。

 そんな三人を見るフィオナは一人で納得するように小さく息を吐いてから口を開いた。


「はいはい。仲が良いのは素敵なことですけど、依頼のことを忘れていませんか?」


 そう言いながらフィオナは手に持っていた資料を三人に見えるようにしてからひらひらと軽く振った。


「シャロさんが初めて受けるなら丁度良いかな、と思ってこちらで見繕った依頼です。確認をしていただけますか?」


 フィオナは三人に、というよりもアッシュにその資料を渡しながら言う。

 するとルキがアッシュの手をそっと放し、アッシュは小さくため息を零しながらその資料を受け取った。


「そいつはどうも。で、依頼は……巡回?」


「はい、巡回の依頼です。ゴブリンの件もありますから簡単な依頼として巡回してもらって、ゴブリンなどを目撃した場合は討伐の依頼を出す、という形になってるんですよ」


「あぁ、なるほど……監視をするための人員だけじゃなくて冒険者も駆り出してるのか」


「えぇ、それにあくまでも巡回ですから大した負担にならない、ということで他の依頼のついでに、ってことで受けてくれる方も多いですからね」


 巡回の依頼、というのは決められた場所を訪れて何も異常がないかを確認するものであり、確かに他の依頼と同時に受けることが可能となっているような、本当に簡単な依頼なのだ。

 だからこそシャロが受けるにしても全く問題がない、ということになる。


「それにもしゴブリンの群れを見つけたとしてもアッシュさんとルキさんがいれば問題なく対処出来ますよね?」


「あったり前だろ! ゴブリン程度に後れを取るわけねぇよ!」


「慢心はやめておけよ、ルキ」


「これは慢心じゃなくて余裕っていうんだよ!」


 そう胸を張って答えるルキにアッシュは小さなため息を零してからシャロを見た。


「シャロ、巡回の依頼で良いよな?」


「はい! と、言っても私は何をしたら良いのかよくわかっていないので後で教えてくださいね?」


「あぁ、勿論だ。とりあえず巡回のリーダーはシャロに任せて俺とルキは何かあった場合に手を貸す、ってくらいで良いだろ」


「わ、私がリーダーですか!?」


 巡回の依頼を受けることは決まったが、そのリーダーにはシャロを。という話をアッシュがするとシャロが驚いたように声を上げた。

 確かに急にリーダーになれ、と言われればそうなってしまっても仕方がない。しかもアッシュとルキのように冒険者として遥かに先輩である二人がいるのだから。

 そんなシャロに苦笑を漏らしたアッシュが口を開こうとすると、それよりも早くフィオナが口を開いた。


「シャロさん、こうした簡単な任務であれば経験を積むために普段はリーダーなどをしない冒険者にリーダーを任せる。というのは良くあることですよ」


「そ、そう、ですか?」


「はい。それにアッシュさんとルキさんならフォローもちゃんとしてくれるはずですから安心してください」


「な、なるほど……確かにそうですね……」


 フィオナの言葉を聞いてシャロは納得したように一つ二つ頷いてからアッシュとルキを見る。


「えっと、主様、それにルキさん。その、よろしくお願いしますね?」


「あぁ、任せてくれ」


「チビのフォローくらいちゃんとやってやるから安心しろよな」


「ありがとうございます! でもそれはそれとしてルキさんはいい加減私のことをチビ呼ばわりしないでください!!」


「だーかーらー! チビはチビなんだから仕方ねぇだろ!!」


「あー、もうほら、そういうのはやめろって……お前たちはまだまだ子供なんだから……」


 そうして三人で言葉を交わしながらやいのやいのと言っている姿を見ながらフィオナは依頼のための手続きを進めていく。

 そんなフィオナは呆れたように小さく息を吐いていたが、その表情は何処か温かく、子供を見守る大人のような目をしていた。

フィオナの方が年上って言ったら……信じます?まぁ、年上なんですけど。

前世込みなら当然アッシュの方が年上なんですけどねぇ。

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