17.仲良く入浴
BL注意。
ルキは普段はそうでもないのだが、今回のように情緒不安定になってしまうとネガティブな面が強く表に出てくることになる。
そのせいで酷く落ち込んだり、軽い幼児退行を起こしたり、感情を抑えきれなくて泣き出してしまう。ということがある。
今回は幼児退行を起こし、感情を抑えきれなくて泣き出してしまい、そして今は酷く落ち込んでいる。つまりはフルコースだ。
そんな状態のルキをどう言って落ち着かせるというかもしくは慰めるのかを考えてアッシュは背中を流す手を動かし始めた。
ルキは突然再開されたそれに戸惑いながらも顔を上げて少しだけ振り返り、アッシュを見た。
アッシュはそれに気づきながらも特に反応をすることなくルキの背中を流しながら口を開いた。
「ルキは俺の役に立ちたいって思ってるんだな?」
「え、あ、そうだけど……」
言葉を返しながらルキはまた前を向いて大人しく背中を流される。
「なら充分役に立ってるぞ」
「え?」
ルキは充分に役に立っている。そう言ったアッシュの真意が理解出来なかったからか、もしくはそう言われたこと自体に驚いたのか。ルキはそんな声を上げた。
「俺が昔に比べてまともな生き方をしてる理由って知ってるか?」
「いや、知らないけど……」
「俺一人なら暗殺だろうが強奪だろうがやってるだろうし、貧民街でも狩りはしてたかもしれない」
狩り、というのは貧民街で抵抗できない子供を甚振っている人間や、玩具にして遊んでいる人間を殺して身包みを剥がすことを指す。
考えるまでもなくろくでもない生き方どころの話ではない。アッシュがそんな生き方をしなくなったのはルキという存在が傍にいるからだった。
「でもルキが一緒だったからな。だからまっとうな生き方をしようって思ったんだ」
「どうして俺がいるからって……?」
「大切な人と一緒にいるんだ。まっとうな生き方をして欲しいし、自分も少しはまっとうな生き方をしてみようって思うもんだぞ」
そう言ってからアッシュはシャワーでルキの背中についた泡を流すとルキの頭を軽くぽんぽんと撫でた。
「ルキにしてみればピンとこないだろうけど……ありがとうな、ルキ。俺と一緒にいてくれて」
そう口にしたアッシュの表情はルキからは見ることが出来なかったが非常に優しく、穏やかなものだった。アッシュにとって普段は口にすることのない本心を、ルキを慰めるために、また言葉として伝える必要性を理解しているからこそルキへと伝えた。
そんなアッシュの表情を見ることは出来なかったルキだったが、アッシュの声の優しさと温かさに胸の奥から込み上げてくるような何かがあった。
「何だよ、それ……」
言葉だけならば呆れているようなことを口にしながらも、ルキの声は嬉しそうなものだった。
「ま、まぁ……アッシュがそう言うなら別に俺は何も言うことはないし、アッシュがそれで良いなら良いけどさっ」
というか、言葉を続けていると徐々に弾んだ声になり、力なく垂れさがっていた尻尾も少しだけ左右に振り始めていた。
そしてアッシュが撫でる手を止めるとルキは立ち上がりって振り返るとこう言った。
「次は俺がアッシュの背中を流すから交代な!」
「あぁ、そうだな。それなら頼んだ」
「おう! 任せてくれ!」
嬉しそうな、もしくは楽しそうな笑顔を浮かべるルキを見たアッシュは、これでもう大丈夫だな、と思っていた。
それと同時に残りの問題は今頃リビングの床で転がっている駄女神とシャロだな。と考えてまた目が死んでしまっていた。
そんなアッシュに気づいた様子のないルキは上機嫌でボディタオルを受け取るとアッシュの背後に回った。アッシュは死んだ目のままバスチェアへと腰を下ろした。
ルキははそれを確認してからアッシュがしたようにアッシュの背中を流し始めた。
「痛くねぇか?」
「あぁ、大丈夫だ。もう少しくらいなら強くても問題ないぞ」
「そっか。それならもう少しだけ強くするからな」
宣言したようにルキは先ほどよりも力を入れてアッシュの背中を流す。
とはいえ戦闘時のような力を入れているわけではないのでアッシュにとっては心地良い、といえるくらいの力の入れ加減だった。
そのためかアッシュの死んでいた目に生気が戻り、穏やかな表情へと変わっていた。当然ルキにその様子は見えないのだが、何処となくアッシュの雰囲気がいつもよりも和らいでいることはわかっていた。
ルキにとってはアッシュが自分の全てであるために、アッシュのその反応はとても嬉しく思えるものだった。だからこそ頬をだらしなく緩ませるルキであったが、ふと目の前にあるものに目を惹かれた。
「……ルキ? 手が止まったけどどうかしたのか?」
「え、あ、いや! な、何でもないぞ!」
手を止めたことを訝しんだアッシュに声をかけられたルキは慌てたようにそう返してから止まっていた手を動かし始めた。
そんなルキに内心で首を傾げながらもアッシュは気にしないことにし、反対にルキは先ほどからある一点に目が釘付けになっていた。
そしてシャワーでアッシュの背中についた泡を流したルキが口を開く。
「なぁ、アッシュ」
「どうした?」
「えっと……俺って狼だよな?」
「ん、あぁ、そうだけど」
突然自分が狼、もとい狼人であることを確認し始めたルキに対してアッシュは今度こそ首を傾げながらもそう答えた。
「だよな! ってことは……その、無防備に首筋とか見えると、こう……ガブッといきたくなっても仕方ないわけで……」
「……は?」
「ごめん! ちょっとだけ我慢してくれよ!」
言うが早いかルキはルキ曰く無防備な首筋へと噛みついた。
「痛っ!?」
狼人は人よりも発達した犬歯を持っていることもあり、ルキが本気で噛みついたわけではなくともその犬歯が当たれば当然痛い。
「いきなり何を……っ!」
確かに狼であれば無防備な首筋に噛みつきたいとか思うのかもしれない。とは考えつつもいきなりのことでアッシュが抗議の声を上げて振り返ろうとするとそれよりも先にルキが手を打つこととなった。
具体的に言えばアッシュの体へと腕を回してしっかりと抱き締める形でアッシュの動きを止めた。
「ルキ!?」
突然のことでアッシュはそんな声を上げてしまう。
もしこれが普段のように衣服を身に纏っているのであればそんなことはなかったはずだった。
だが今はお互いに何も身に纏わず、互いに肌と肌が触れ合う形になってしまっている。
子供特有の高い体温と、柔らかく滑らかなルキの素肌の感触。それと鼻孔を擽るルキの何処となく甘い匂いにその手の趣味はないアッシュと言えども少しだけ鼓動が早くなる。
またルキもアッシュと互いに素肌で密着している状況に鼓動が早くなる。そしてアッシュの首筋に噛みついていることもあって普段以上に強いアッシュの匂いのせいか、ルキの頭の中に靄がかかったようにくらくらとし始めていた。
そのためルキは正気を失ったように、もしくは理性が溶けてしまったように、自身の欲求を満たすために行動することとなった。
「る、ルキ。その、とりあえず離れないか?」
普段ではあり得ない状態にアッシュは変にルキを意識してしまう前に離れるのが得策だと判断しそう提案した。
だが今のルキにはそんな言葉は届かず、更に密着するようにすり寄ると甘噛みをするようにアッシュの首筋に犬歯を立てた。
「ふっ……ん……は、ぁ……」
夢中になってアッシュの首筋を甘噛みし続けるルキからは時折声が漏れる。何処となく甘ったるいその声にアッシュの動きが固まるように止まった。
その間もルキの甘噛みは止まることなく、そんなルキを意識しないようにする。ということはアッシュには出来なかった。というよりもこんな状態であれば誰だって意識してしまう。
「っ……ぁ……」
それをルキはただじゃれているだけだ。内心でそう自分に言い聞かせるようにして意識を逸らそうとしたアッシュからも僅かに声が漏れる。
僅かなそれは密着しているルキにははっきりと聞こえ、ルキに残っていた本当に微かな理性を溶かし、本能と欲望に支配されることになってしまった。
軽く犬歯を立てて甘噛みをするだけだったルキは本能と欲求のままにより強く犬歯を突き立て、首筋の薄い皮膚を突き破った。
「痛……っ」
そんなことをされたのだから当然痛みはある。それによってこれは強制的に引き剥がすしかない。そう考えたアッシュがルキを引き剥がすために動こうとする。
しかしその直後ルキが小さな舌で傷口から溢れる血を舐め取った。その瞬間、痛みではなく甘く痺れるような感覚が傷口から首筋、首筋から脳髄へと伝わった。
「んっ、く……!」
一度だけではなく、溢れてくる血を一滴たりとも零さないようにとルキの舌が傷口に触れる度にぞくりと脳髄まで響くその感覚は酷く抗いがたい快楽とも言えるものであり、ルキを引き剥がそうとしたアッシュの動きを止めるには充分すぎた。
更に言えば普段から弟のように思っているルキとこのような状況になっていること、同性のそれもまだ幼い少年が自身の首筋に顔を埋めて若干の痛みは伴うが愛撫にも似たことを行っていること、そしてそれに胸を高鳴らせて享受してしまっていること。それらが合わさった背徳感がらしくもなくアッシュを昂らせていた。
「は、ぁ……んっ、ぷはっ……あむっ……」
ルキはそんなアッシュを煽るようにその行為を続け、すり寄るようにしていた体を何度も何度もアッシュへぐいぐいと押し付けるようになっていた。
その動きはより密着しようとしている、というよりもアッシュの背中にツンッと尖り硬くなった両胸にある薄桃色の突起を押し付けるためのものだった。
ルキは既に正常な思考など出来ておらず、自分自身が気持ち良くなるための行為を無意識で行っている。
「ちゅっ……んむ、あっひゅ……」
それによってルキが漏らす声は甘く、嬌声にも似ていた。そんな声で名前を呼ばれたアッシュは後ほんの少しで理性が焼き切れるような状態になっていた。
だがアッシュはそんな状態で強く瞳を閉じると自身の脳へと魔力を巡らせた。その瞬間、先ほどまでの昂りは一気に沈静化し、冷静になったアッシュは今度こそルキの頭に手を当てて引き剥がすと身を翻すとルキの両肩に手を置いて口を開いた。
「ルキ、落ち着け!!」
引き剥がされたルキは蕩けた瞳でルキを見つめ、しだれかかるようにしてアッシュに抱き着くと今度は正面から先ほどまで噛みついていた首筋へと再度口を付けた。
それを許すと無理やり冷静になったのにまた同じことの繰り返しになってしまうと思ったアッシュは自身と同じようにルキも強制的に冷静にさせることにした。
抱き着いて来たルキを抱き締めてルキがしたのと同じようにルキの首筋へと噛みつき、犬歯を突き立てて皮膚を突き破る。
「んんっ……!!」
するとルキはビクビクと小さく痙攣を起こした。だがアッシュはお構いなしに噛みついた傷口から魔力を流し込む。
そうして小さく痙攣するルキと魔力を流し込み続けるアッシュはお互いに抱き合ったままの状態で数秒経過する頃にはルキの痙攣は止まり、アッシュもルキの首筋から口を離した。その際に魔力を込めながら傷口を軽く舐めて傷を塞いでいた。
「ん、はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ルキ、落ち着いたか?」
落ち着いたかと問うアッシュだったがルキは蕩け切った表情でアッシュに抱き着いたままただ喘ぐように呼吸を繰り返すだけだった。
無理やりルキの脳に魔力を巡らせて思考をクリアにし落ち着かせたアッシュだったが、ルキの様子を見て本当に落ち着くまでは時間がかかりそうだと思った。
そして少しでも早くルキが落ち着くように、ということを考えてルキの背中を優しく撫で始めた。
ルキが小さく痙攣を起こした理由とか、明言は出来ないので察してください。




